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第109話 正体 7月4日【裏】

「俺はあんなのにはならねえ。大丈夫、噛まれてもねえ、殴られたようなもんだ大丈夫に決まってる」


「熱も出てないんだから平気さ。こんな大怪我、もしそうなるなら一晩でなっちまうはず……」


 ブツブツ言っていたのは松野とヒデキだ。 

男の呟きで覚醒するのはかなり悪い部類の目覚めだよな。


 俺が体を起こすと二人はバネ仕掛けのように反応する。


「おはよう」


 返って来たのは舌打ちと溜息だった。


「お前よくそんなぐっすり寝れるよな」


 少し考えて、2人は怪物になるんじゃないかと不安で寝られなかったのかと理解する。

閉じられた窓から漏れる太陽の具合からして既に昼前『裏』の時間では15時間は寝たようだ。


 俺の近くではミドリとスミレが眠っている。

女性達はぐっすり寝ていると言うのに。


「お前がゴソゴソやって疲れさせたからだろうが! 丸聞こえなんだよ!」


 俺も極度の疲労と緊張で普通じゃなかったとしておこう。

付けたっけ……付けたよな。


「それはおいて」


 俺は立ち上がり、ストレッチをしながら全身をチェックする。


「きたねえ! ドロドロの見せんじゃねえ!」

「でっけぇ……」


 異常だらけ痛いところだらけだ。

それでも動くことはできる。時間経過で回復できるだろう。


 しかしタワーは俺の体よりもずっと深刻だ。

設備の損傷、医療物資の消費、怪我人死人による人手の減少……だが何よりまずいのは人心の乱れだ。


 外にさえ出なければ絶対安全だったはずのタワー内部への被害。

問題がありながらも市長と久岡によって成立していた秩序の崩壊。


「波乱になるな」


 俺は風里姉からのメモをもう一度確認する。

忠告はあったが今はまだ脱出の時ではない。

少なくともゾンビの跋扈する外の世界よりここは安全なはずだ。


 そこでミドリとスミレが体を起こす。

ミドリはピンクのパンツだけの姿、スミレはタイツだけだ。


「ピンクとタイツ……」


 一応こっちでも今日は今日、良いことがあればいいが。



 部屋の外から怒鳴り声が聞こえる。

俺は一応部屋に落ちていた棒を持って外に出る。


「隔離規定違反だぞ」


 松野が言ったが俺は小さく笑う。


「もう機能してないだろ」


 外に出ると案の定、怪我をして隔離されていた者達が外に出て警備隊ともみ合いになっている。


「1人死んだんだぞ! アレになってじゃない普通に怪我で死んだんだ!!」

「これだけの人数を2日も隔離して1人もなってないんだ! さっさと傷の手当てをさせろ!」


「外に出るな! 隔離規定に違反した者は怪物として扱うことに……」


「おう、やってみろよ!! だいたいお前らがだらしないから……妹は頭を食いちぎられたんだ!」

「たいだい久岡だって怪我人の血に触れたら隔離対象だろ! どの部屋にもいないがどこにいるんだ!」


「やめろ! 今1人でも怪物が出たら全滅……おいエレベーターを動かすな!」


「市長に直談判だ! 自衛隊の人もいるんだろ。救出はいつになるか聞き出してやる!」 


 俺は松野に向けて手を広げ、そのまま他の怪我人と警備隊の間をすり抜けて上層階に向かう。


 風里姉から怪物にはならないと教えられていたし、もしなるならどの道収拾不能だ。

少しでもアオイの近くに居なければならない。


 エレベーターが開くとそこには先客の風里姉が居た。

彼女は俺に続いて乗り込もうとする松野を無視して扉を閉める。


「「……」」


 数秒の嫌な沈黙の後、いきなり足をかけられた。


 俺は手すりを掴んで耐える。

すると今度は顔面に掌底が来たので屈んで躱す、そして最後に来た膝蹴りを両手をクロスさせて受ける。

体が宙に浮くもなんとか壁に激突することだけは避けられた。 


「一応は動ける状態で出て来たか」

「……今ので動けなくなりそうなんですけど」


 両手で受けたのに衝撃が腹まで通ったんだが。

もし起き抜けの固い体のまま、油断していたらどうなっていたことか。


「どこへいく?」


「アオイの傍に。準備がありますから」


 目的階に到着すると風里姉も一緒に降りて来る。

彼女の指示でビルのあらゆる場所にはバリケードが作られ、窓も補強されている。


「それは籠城の? それとも脱出の?」

「ノーコメント」


 俺はドアをノックするとトテトテと可愛らしい足音がしてアオイが扉を開いてくれた。

そして俺の胸にスポンと飛び込み、顔を擦りつける。


「ふ、愛らしいな」


 俺はアオイを背中に隠しつつ風里姉から距離を取る。


「あっ誉君。隔離は……もう意味がないみたいだね」


 次いでタイコさんとも軽くハグをする。


「ほう。なかなか良い体をしている」


 風里姉の目の色が変わったのでタイコさんも背中に隠す。



 そこで僅かに足元が揺れた気がした。

一瞬また象が来たのかと思ったが、それにしては弱い。


 これは衝撃ではなく轟音だと気づき、先日の戦いが割れた窓から外を見た。


「あれは……?」


 通りのずっと先で粉塵が立ち上っているのが見える。


「あそこは別のタワーだよ。ホテル玉彩だったかな」


 タイコさんが教えてくれると同時に、風里姉の差し出した双眼鏡を手に取る。

ついでに頬にキスをされ、アオイが俺と風里姉の間に割って入ろうとしてくれるが、それどころではない。

 

「あれは。三脚……いや違う、前に見た腹からも手の生えたやばい奴だ」


 3m近い怪物がタワー周囲の人間を文字通り引き裂いていた。

首を飛ばす、腹を抉るなんてモノじゃない、


 太い両腕で老人の頭を掴み潰しながら腹から生えた腕が胸から股間までの臓物を全て引きずり出す。


 絶叫する女性の両肩を掴み、まるで薄紙のように肩から腰まで引き千切る。


「ど、どうなってるの?」

「見るなアオイ」


 双眼鏡でなければ見えない距離で幸いだった。


 タワーの外に居た者はたちまち殺し尽くされ、異形は次にタワー本体に狙いを定めたようだ。


「さすがにホテルの壁をぶち抜けるほどではないはずだが」

「ああ、出入口をせめて5階に作っていれば大事なかったな」


 あのタワーの出入り口は3階部分に作られており、ゴンドラで登るようになっていたようだ。


 異形は両腕で2度3度と壁を殴りつけた後、腹の腕でゴンドラの滑車を掴み、よじ登ってしまう。


 かすかな悲鳴が何十倍にも増幅されて聞こえるようだ。


 男、女性、老人、時折、まだ中学生ぐらいと思われる子供の残骸が飛び散っていく。


「ここから狙うのは……」

「1.5kmはある。当たらんことはないが変異体の急所を撃ち抜くのは不可能だ」


 変異体か、もう知っているのを隠す気もないらしい。


 俺は凄まじい殺戮をただ見ることしかできなかったが、そこでようやくタワー側の反撃が始まった。


 可燃物をかけられたのか変異体が燃え上がり上階からはブロックのようなものも投げられる。

変異体は僅かに怯むもすぐに反撃に転じ、逞しい男の腕を安いプラモデルのように引き抜くも、突如転がるように地面に落ちた。ズームしてみると顔面に数本の長いパイプのようなものが突き刺さっている。


「落としたぞ!」

「なかなか統率がとれているようだ」


 変異体はふらつきながら立ち上がるも、絶え間なく降り注ぐ可燃物やブロックが頭部に当たる度によろめき、ふらふらと後退していく。


 なんとか撃退完了かと思ったところで、次の異変だ。

タワーに向けて数十体の怪物がふらふらと歩いてくる。

これだけの乱闘をしたのだから当たり前なのだが、怪我をした変異体はなんと怪物共に襲いかかった。


 怪物共は傷付いた変異体を取り囲んで噛みついているようだが、遠目にも分厚そうな外皮を元人間の顎で食い破ることはできない。


 逆に腐った体はその太い腕で易々と引き裂かれ、人の頭よりも大きく開いた口で咀嚼される。


「食ってる」

「あぁ、あれだけの量が居れば十分だろうな」


 変異体はバラバラにした怪物を一方的に引き裂き食らっていく。

知能のないゾンビ共は逃げることなどせず、最後の一体が潰されるまで、ただただ分厚い外皮に歯を立てていた。


 ゾンビを全て捕食したところで変異体に変化が起こる。

 

 空に向けて嘶き――いや苦悶の叫びをあげたかと思うと、まるで体内に空気でも吹き込まれているようにボコボコと肥大化していく。


 前のめりに倒れたかと思うとブリッジをするように仰向けに反り返った。

太い両手は反対向きで地面につき、握り込んだ拳の形状のまま前足へと変化する。


 三脚のうちの一本は性器の位置にめり込んで消え、残る二本は膨張しながら後ろ脚となる。


 腹についていた腕はせり上がり、血飛沫を撒き散らしながら苦悶の声をあげる顔まで移動して鼻の位置で止まった。


 俺は双眼鏡を風里姉に返して額を押さえる。


「【象】だ」

「あぁ。餌を食って成長したな」


 俺はアオイを正面から抱き締めながら、もう一度投げ渡された双眼鏡を悪態を吐きながら覗く。


 もう見るまでもなかった。

再びタワーに迫った変異体……象は三階の高さにあるゴンドラを易々と破壊し、四階五階から物を投げ落としていた者達を窓枠ごと鼻腕で叩き潰す。同時に鱗のように零れ落ちる新怪物が背中からタワーに次々と侵入していく。


「どうやら各階ごとの閉鎖はできなかったようだな」


 風里姉が無情に呟く。


 タワー内部のあらゆる場所で火災が発生し、やがて怪物に追われたのか10階以上の高層階の窓を破って人間が次々と飛びりていく。戦いは30分ほど続き……やがて完全に静かになった。


 象は落ちて潰れた人間を貪るような仕草を見せた後、ゆっくりとタワーを離れて行く。


「あれはなんだ?」


 俺は風里姉に厳しい口調で聞く。


「見ての通りだ。お前らは象と――」


 重ねてきく。


「あれはただの怪物じゃない。ゾンビの方は呪いか病気か祟りか知らないけれど、三脚とアイツらは別物だ。ただ発生したものじゃない。攻撃意志をもった兵器だ」


 風里姉が真顔になる。

よくぞ辿り着いたとでもいいたげだ。


「その通り」


 遂に風里が認めた。

彼女の役職から考えて『表』では鼻で笑う陰謀論が現実になったということか。


「但し」


 風里姉が外に目をやる。


「三脚と変異体までだ。それ以降【象】と【塊】は全くの想定外だった」 


「待て」


 俺は詰め寄る。

象は結構、今も見たし死闘を繰り広げたのだからその存在は認めている。

もう一つ何か言わなかったか?


 地獄のように新都中に溢れていたゾンビ共が明らかに減っているのは何故か。


「あぁこんなところに。風里さんバリケードの件で――」


 見るからに憔悴した横須市長が俺達を見つけてやってくる。


 同時に窓の外から咆哮が聞こえた。

窓ガラスがビリビリと震え、割れた部分は欠けて散らばっていく。


「バリケードは次に象が来ても十分対処できるように考えてある。その上で脱出の準備をしろと言ったのはどうあっても防げぬ奴が来るからだ」


【裏】

主人公 双見誉 小疲労

拠点 両河ニューアラモレジデンス『アラモタワー』 

環境 給水不安定 給電停止 死傷者多数 低層階破損 バリケード構築


人間関係

仲間

アオイ「保護1」タイコ「保護2」ミドリ#27「保護3負傷」ヒデキ「軽傷」スミレ#20「保護4負傷」

中立

松野「肩負傷」横須「市長 籠城」木船「離脱準備」


敵対

久岡「脱臼+指骨折」風里姉「開示」黒羽「ーー」


所持

拳銃+弾x1発 小型無線機 ??


備蓄

食料数か月分 水1カ月 電池バッテリー5日分

経験値 202+X

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[一言] よし、周回終わった! いいよ、いつでもやっちゃって!
[一言] 何度も最初から読み返してます 続きも楽しみに待ってます!
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