第104話 巨大獣撃破
俺達は声で歩調を合わせながら前へ前へと進む。
声を出すことでフロア中の怪物が前に出て来るので一石二鳥だ。
新怪物の触手は前衛の警備班が弾き、飛び掛かりは中衛の俺、松野、ヒカルが弾き返す。
「ファランクスだったな」
「なにが? うわっっと」
ヒカルが怪物を押し退けながら言う。
「この陣形の名前。古代人もまさか高層ビルの中で使われると知ったら驚くだろうな」
「世界がこんなになってる方が驚きだろうがよ」
松野は言いながら怪物を押し退けるどころか床に叩きつける。
やはりこいつは俺やヒカルよりもずっとパワーがあるな。
目の前に5体6体と固まった怪物の群れをスミレとミドリが突いて散らす。
二人はさすがに調達班をやっていただけあって、怪物を突くのに戸惑いはない。
ミドリは震えながら必死にやっている感じだが、スミレはなんだか恍惚と……いやもう直球で発情したような表情だ。
「女が攻撃役ってのはどうなんだ。とどめもさせねえ」
「とどめなんか要らない。計画通りこのまま窓から……行くぞ」
俺達は息を吸い込んで動きを止めた。
「突っ込め!」
そして松野の号令で猛チャージをかける。
新怪物に激突、中衛の俺達も前に思い切り体重をかけて跳ね飛ばし、そのまま窓枠に叩きつける。
まだ終わりではない。
窓枠に挟み込むようにして新怪物に反撃の隙を与えないよう盾で連打する。
血飛沫が飛び、骨なのか殻なのかが砕ける音が響く。
「押し上げろ!」
新怪物の動きが鈍ったところで盾を使って持ち上げるように新怪物を窓から放り落とす。
1体2体3体4体……。
「5体」
松野が触手を振り上げた個体の顔面に盾を叩きつけ、前蹴りで落とす。
「6体、これで最後」
俺は噛みつこうとした怪物の攻撃を軽く避け、後頭部を掴むようにして窓から放りなげる。
全員が驚きの目でこちらを見る。
ちゃんと事前にやり方教えただろう。
さてフロアの怪物は一掃したが目の前には巨大な象が健在だから一息ついている暇はない。
「伏せろ!!」
象の鼻腕が振るわれ、窓を枠ごと吹き飛ばす。
俺は床に伏せながら発煙筒のレバーを抜いて外に放り投げた。
「第二段階開始だ」
第一段階はこのフロアの一掃、これは達成した。
第二段階は象の撃退。
とはいえ鼻腕の一撃を受ければ俺達は一撃で全滅してしまう。
奴にマークされながらではやり合うことはできない。
そこで発煙筒の合図で久岡や他の者が攻撃の届かない上層階から象に落下物で攻撃を加える。
もちろんサイズから考えてその程度はダメージにはならない。
だが赤外線に反応する象は多人数で攻撃してくる上層階の連中に激しく反応する。
そして奴の目が逸れた隙に同じ目線にいる俺達が的確な攻撃を加えて撃退する。
スミレが引きずってきた荷物を取り出す。
中身は液体入りの空き瓶……要は火炎瓶だ。
「追い詰められた奴の定番だよな。扱いには注意してくれ。暴発したら多分助からないと思う」
表でネットを使えるので助かった。
でも親や紬に見つかったら心配されるので履歴は消しておかないと。
そこでようやく屋上からバラバラと机や椅子など重量のあるものが降ってくる。
俺達が窓の下に身を潜めると象は上に向けて鼻腕を伸ばして『パオン』と――人の絶叫だなこれ。
「ひっ」
悲鳴をあげかけたミドリの口を塞ぐ。
奴の目は完全に俺達から上に向いた。もう少しだ。
更に上からの投擲が続き、重量物に続いてガラクタからゴミ、果ては黄ばんだ下着までが降り注ぐ。
その挑発に怒ったわけでもないだろうが、象は先ほどよりも激しく反応して再び鼻腕を伸ばした。
「今だ!」
俺達は一斉に窓から顔を出し、火炎瓶を投げつける。
熱には敏感なのだろう。
象の顔が燃えながら飛来する瓶に向けられるがもう遅い。
「よく見るとちゃんと目あったんだな」
まるで巨人がブリッジしているような形状の『象』。
逆さについた顔には歪ながら人の面影を残した目があり、はっきりと目があう。
次の瞬間、8つ投げられた火炎瓶の7つが命中、しかも3つは象の顔面にクリーンヒットした。
瓶が割れて中身のガソリンが猛烈な勢いで燃え上がる。
だが象は叫び声こそあげたものの、表皮が分厚いのか感覚が鈍いのか、燃え上がったまま俺達の方を睨みつけ、鼻腕を大きく振り上げた。
ここまで覚悟の上、あのサイズがただの火炎瓶数個で終わるとは思っていない。
「うおっ!」
眺めていた警備班の男が思わず後ずさる。
突然炎の色が変わり、今までの数倍の明るさで燃え上がったからだ。
「あれただのガソリンじゃねえだろ。錆びた手すりだの一円玉だの削ってたとおもったが」
「……テルミット」
松野とスミレが喜びと驚きの入り混じった表情で言う。
試すなんてできないのでネットで見ただけの知識だったが上手くいったようだ。
「あのサイズをガソリンだけでなんとかできるか自信がなくて」
松野がドン引きした目で見てくる。
「お前本当に元中学生か? 怪しい活動とかしてなかっただろうな?」
元チンピラの松野に言われたくない。
こんな会話ができるのも象が戦闘能力を失ったとはっきりとわかるからだ。
猛烈な火勢に耐えかねてのたうち、周囲の車や電柱に激突しながら転がり回って逃げていく。
「よしこれで第二段階達成。次は周囲のビルに可燃物を置いて奴が戻ってきても……危ない!」
のたうち回っていた象が大きく体をよじる。
その拍子に象の体からなにかが千切れ飛び、窓から飛び込んできた。
目の前に2個、頭の上を飛び越えて後方に2個、他の階にも複数個。
「え?」
俺が視線を動かすと破片がゆっくりと立ち上がる。
「……は?」
理解は追い付かないが体は勝手に動き、飛び退いて触手を避ける。
だが体も動かなかった警備班の一人は口内から後頭部までを貫かれて絶命する。
象の上に乗っていた新怪物が飛んで来た?
違う、奴の上には確かに何もいなかった。
「新怪物は象の体を登って来たんじゃない」
驚きを消して見たものだけを分析する。
象が体をよじった瞬間、奴の体を覆う腫瘍のような組織が破れて中から新怪物が飛び出したのだ。
「象から生まれて来ていた」
独語しながら走り、呆然としているスミレの襟を掴んで放り投げる。
強引に投げたせいで服が引き裂け、ブラも壊れて片乳が飛び出してしまったが構っていられない。
「前と後ろは駄目、逃げ込める場所は――」
ミドリの腕を掴んで引き寄せた時、鈍い音と軽い衝撃と共に鮮血が飛び散った。
【裏】
主人公 双見誉
拠点 両河ニューアラモレジデンス『アラモタワー』 調達班
環境 出入口損壊 配管通電異常 巨大怪物撃退
3F4F5F6F7F8F9F10F11F12~怪物侵入
人間関係
仲間
アオイ「シェルター」タイコ「撤退」ミドリ#26「--」ヒデキ「パニック」スミレ#19「パニック」
中立
松野「パニック」横須「シェルター」木船「撤退」
敵対
久岡「逃走」風里姉「不明」黒羽「冷血漢?」
所持
拳銃+弾x13発 小型無線機
備蓄
食料60日以上 水??? 電池バッテリー???
経験値 198+X