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第102話 新怪物 7月1日【裏】

 アラモの非常階段は所々破壊されてぶつ切りとなっている。

古参住民同士が行き来する層、新参層と隔離層、それ以下の放棄階で完全に分断されているのだ。

セキュリティの為だとは分かっているが今はそれが実に鬱陶しい。


 俺は非常階段を駆け下り、分断されている箇所では怪物が絶対に登れない縄梯子を使って次の階層へと降りていく。


 怪物が侵入したと思われる四階の上、五階には既に久岡と警備班のチームが到着していた。


 人数は久岡を入れて6人、全員が上半身をアメフトのようなプロテクターで固めており、頭にはフルフェイスのヘルメットを被っている。

なるほどこれなら怪物に噛まれる危険はぐっと減る。


 更に半透明の盾まで持っていて、外の生存者の装備とは段違いどころか、調達班よりもずっと良い装備だ。こっちに貸してくれればもっと犠牲は減るだろうに。


 そして武器はお馴染みのバールのようなものと金属バット。

実際、この二つ以上に街で簡単に調達できつつ威力のあるものってないんだよな。


「いいか俺達の役目は4階の偵察だ。怪物が居たら排除、ただし正面にはあのデカブツが張り付いているから気をつけろ! 陣形は――が先頭――が左右警戒、俺は最後尾で状況を把握分析する。いいな!」


 久岡達は象の体当たりで停止したエレベーターではなく非常階段で4階へと降りていく。


 見つかると面倒なので俺は物陰に隠れ、久岡達が降りてから少し待ってこっそりと後に続いた。


 こんな面倒な真似をしているのは無線で叫んでいた『ただのゾンビじゃない』が気になるからだ。

住処の下に正体不明の敵がいるならその正体と能力を確かめないことの方が危険だ。


 幸いこっそり動いている俺に対して重装備の久岡達はガチャガチャとうるさいので、敵はまず向こうに食いつくだろう。


 ただのゾンビだったら久岡達に任せて逃げよう。

もし三脚だったらこれも逃げて久岡の冥福を祈る。完璧だ。


「おい、この部屋から音がするぞ」

「窓を破られた場所だな……いるぞ。3つ数えて突入だ」

「3,2,1……ゴー!」


 扉が蹴り開けられ、警備班と久岡が突入していく。


「やっぱりいやがった!」

「ぶっ殺せ! 噛まれるなよ!」


 続いて何かを床に倒す音と、激しい殴打音。

どうやらただのゾンビだったようだと帰ろうとしたところで事態が動く。


 耳の奥で警戒音が鳴り響く。これはダメなやつだ。


「おい奥にもう一匹いるぞ。アイツも潰し……な、なんだアイツ!」


 警備班の声に焦りが見え始め、怒号が悲鳴に変わる。


「速い、ゾンビの速さじゃない! と、跳んだ!? 下がれ! 下がれーー!!」


 一番に戻って来たのは久岡で続いて警備班が続々と逃げ戻って来る。


 そして最後の一人も無事戻ったと思ったが、その肩を腐りかけた手が掴む。


「やめろコイツ! 離せ! クソっ!!」


 肩を掴まれた男はバールでガツガツと殴りつけるが怪物は離れない。

そしてその顔が恐怖に歪んだ瞬間、ヘルメットに尖った何かが突き刺さる。


 『なにか』はヘルメットのシールド部分を貫き、ヘルメットを貫通して後頭部から飛び出ていた。


 警備班の男はひゅーと長い息を吐きながら全身を痙攣させて倒れ込み、床にドス黒い血が広がっていく。確認するまでもなく即死だ。


 扉からゆっくり現れたそれはぱっと見ただの怪物……つまりゾンビに見えた。

人型の外見と170cm程度の体格、そして傷付き腐敗したように見える外皮だ。


 だが良く見るとその異質さがはっきり分かる。

まず片腕が異様に長い……というよりも腕ではない。

長さ2mほどもある腕は普通の半分ほどの太さで関節はなく触手のように自在にうねり、先端に手はなく細まってアイスピックのような凶悪な形になっている。


 そしてもう一つの違いは下半身だ。

通常の怪物と比べてはっきりと太い。


 その強靭な下半身が僅かに沈みこみ、跳んだ。

高さは天井近くまで、距離にして3mを一足で飛び掛かる。

 

「ひいっ!」


 狙われた警備班の男は防犯用の盾を構えて防御する。

新怪物――仮にそう呼ぼう――は盾に張り付き、警備班の男もろともに床に倒れ込む。


 これはもう死んだと思ったが、警備班は盾を横に投げつつ上手く転がり出ることに成功した。


「た、助かった……」

「バカ窓を見ろ!」


 俺が思わず叫び、男は振り返って窓を見たが手遅れだった。


 窓が砕け散り、飛び込んで来た新怪物が男の脳天に噛みつく。

髪と頭骨、脳がヘルメットごと食い千切られる音、そして凄まじい絶叫。


 男は眼球を左右別方向にグルグルと回しながら倒れ込む。

久岡と警備班の残り3人そして俺が小さく呻きながら後ずさる。


「お前、なんのつもりでここに……」

「そんなこと言っている場合じゃない。外を見ろ」


 警備班2人を易々と屠った新怪物達はタワーにめり込んだ『象』の背中を歩き、窓からフロア内に次々と入り込んでくる。


「こ、こいつら一体なんなんだ!?」

「知るわけない。だが……よくよく見ると人間の形してないな」


 外見のシルエットが人っぽいだけで腕は言わずもがな、頭は異様に小さく10頭身以上ありそうだ。


 そこで警戒していたのとは別方向の窓が割れ、飛び込んで来た新怪物が腕を振り上げる。


「触手が来る!」


 叫ぶと同時に俺は地面に転がり、久岡はせり出している配管スペースに体を隠す。

そして警備班の男二人はその場で盾を構えた。


 短い悲鳴と同時に鮮血が飛び散る。


「盾が……」

 

 新怪物の触手は盾を軽々と貫通して一人の喉を貫き、もう一人の下顎をえぐり取っていた。


 俺と久岡は顔を見合わせ、同時に非常階段に向けて駆けだす。


 新怪物は窓から次々と入って来る上に跳躍できるほど俊敏となればフロア内を逃げ回るのは不可能だ。

更に奴らの触手は強靭な素材のヘルメットや盾すら貫通するのだから、フロアに散らばる机やロッカーを盾にすることもできない。


「つまり逃げるしかない!」


 非常階段まであと少し。


「どけ!!」


 久岡に体をぶつけられる。

標準的な体格の俺と久岡の体格差は歴然で、俺はバランスを崩して床を転がる。


「お、おい後ろ!」


 久岡の後ろを走る警備班の生き残りが指す方向を見ると、新怪物が俺を狙って腕を振りかぶっていた。

一本道の廊下に倒れ込んでいるから回避は不可能だ。


「クソったれ!!」


 怪物と久岡に2対8の割合で罵倒をぶつけながら、俺は息を吸い込んで新怪物の触手を見据える。


 まず新怪物の重心が後ろに動く。

続いて太い足が踏みしめられ、腕が前に振られる。

触手がしなりながら俺の顔面目掛けて凄まじい速度で向かって来る。


 俺は音がするほど歯を食いしばりバールを下から上へ振り抜く。


 ガキンと金属同士を叩きつけた音がした。

同時に利き腕の感触がなくなり、全身を衝撃が駆け抜ける。


 新怪物の触手が天井に突き刺さるのが見えた。


「いってぇ……」


 右手の感覚がなくなるほど痺れ、良く見ればバールもひん曲がっている。

なんて硬さと破壊力だ。だが怯んでいる暇はない。


 俺は空ぶった触手を引き戻そうとする新怪物に向けて飛び込む。

噛みつこうと口を開いた怪物にバールを噛ませ、両端を持ったまま引っ張り込んで足をかける。


「落ちろバケモノ」


 そのまま新怪物を背負うようにして窓の外に投げ飛ばす。

新怪物は投げられながら触手を伸ばすも見当違いの方向に外れ、頭から地面に落ちて湿った音を立てた。


『やった』と心の中で叫ぶ暇もなく悪寒を感じて振り返る。

もう一体の新怪物がこちらに向けて腕を振りかぶっていた。

距離は1mもない。


 これは終わったかもと思いつつ、最後まであがいてやると床に飛び込む。

すると触手は狙いを外し、俺の顔面すれすれに着弾してフロアの絨毯を引き裂いた。


 俺は身を翻して逃げるが、新怪物は跳躍しながら更に迫り腕を振りかぶる。

ゾンビと違って動きが速いので振り切れない。


 苦し紛れに体を捻った俺の耳横を触手が通り抜け、フロアの壁を破壊する。


「ん?」


 今のは正直ダメだと思った。


 俺は逃げる脚を緩め、新怪物の再攻撃を待って身を屈める。

頭上を触手が通過していく。


「……なるほど」

 

 俺は怪物の四発目を待って悠々と躱し、落ちていた盾の破片を怪物の顔面に投げつけた。

そして怪物が飛び退いた隙に一気に非常階段まで走り抜ける。


 屋外の非常階段に出るなり怒号が耳に飛び込んでくる。


「なにをチンタラ昇ってやがるんだ! さっさとしないと奴らが来るだろうが!! 俺が先に行くからどけ!」


「逃げる時に足を捻ったんですよ! それに先に登れと言ったのは久岡さんじゃ……や、やめてくれ! そんなに押したら……うわっ!」


 ずるっと嫌な音が聞こえ、一秒後に警備班の制服が俺の視界を上から下に通り抜ける。

――つまり下へと落ちていったのだ。


 絶叫と共に落下した男は不幸なことに地面に叩きつけられなかった。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!」 


 哀れな男はマンション周囲の装飾されたフェンスに腹から突き刺さったのだ。

落ちた場所が4階と低かったうえ、頭や心臓など重要な場所が潰れなかったので即死できないまま絶叫し続けている。


 言うまでもなく周囲からは怪物が湧き出して、ちょうど手の届く位置に刺さった男に群がり、口と手で千切り取っていく。


「い、今のは事故だ。いやアイツが勝手に手を滑らせたんだ」

「そうですか」

 

 俺は目を泳がせながらデカい声で言う久岡へ適当な返事をする。


「そんなことより奴らをどうにかしないといかん。奴らだけでもとんでもなく厄介な上にデカブツがめり込んでる限りいくらでも入ってくるぞ! そもそもお前ら調達班からあんな化け物の存在は聞いていない! 情報さえあれば――」


 早口言葉のようにまくし立てる久岡に適当な相槌を打ちつつ、俺は今後のことを考える。

新怪物の出自は全く不明だが、ともかく奴らと象を同時に撃退しないといけない。


 また綱渡りになりそうだ。



【裏】

主人公 双見誉 

拠点 両河ニューアラモレジデンス『アラモタワー』 調達班 

環境 出入口損壊 巨大怪物攻撃 配管通電異常 

   3F4F外敵により占拠  警備班半壊

人間関係

仲間

アオイ「守るべき者」タイコ「療養中」ミドリ#26「出撃準備」ヒデキ「出撃準備」スミレ#19「出撃準備」

中立

松野「出撃準備」横須「市長」木船「避難」


敵対

久岡「警備班長 強度動揺」風里姉「不明」黒羽「冷血漢?」


所持

拳銃+弾x13発 小型無線機


備蓄

食料60日以上 水??? 電池バッテリー???

経験値 198+X



久しぶりの更新です!

次回更新は来週半ば予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お待ちしておりました
[良い点] お待ちしておりました。 [気になる点] 誉はコツを掴んだようですね。 某リッカ○は歩くと気づかないとか みたいに隙がありそう。 そして、久岡にこの場で言わないのは、、、(ニチャ
[良い点] 急に怪物のレベル上がったな笑 [気になる点] アオイとかまずくね?こんな化け物いたら
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