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第101話 象 7月1日【裏】

 普段はエレベーターで立ち入り禁止となっている物資倉庫階である23階にあがる。


「おい。ここの階は市長か久岡さんの許可が無ければ――」

「警報が聞こえなかったのか、それどころじゃない!」


 扉が開くなり迫るプロテクターをつけた見張りを無視して飛び込む。

モノを盗もうなんて剣幕ではなかったせいか、見張り達は困惑しながら市長に連絡を取ろうとしているようだが無視だ。


 無線機本体はポケットにしまい、イヤホンを使って風里姉と話す。


『南側の窓から三時半の方向 赤い看板ビルの向こう』


 言われた通りの方向を見る。


 尋常でない数のゾンビ、あるいはもっと最悪なのは三脚の群れ、どちらも見当たらない。


 なにもない――と言いかけて目を擦る。

てっきり構造物の一つだと脳内で処理していたモノが動いていた。


『なんだあれ』

『お前達の非常事態だ それ以外は知らん』


 混乱する脳みそを深呼吸で落ち着かせながら分析する。


『非常事態』の大きさは高さが4~5m程度で縦横はそれより少し大きく、せいぜい2m程度の三脚に比べても構造物かと思うほどの巨体だ。

足は4本で前にやや傾いたテーブルのような形状――。


「あれって人間の……」


 俺について覗きに来た警備員がこぼした通り、アレの形はテーブルというより『ブリッジをした人間』に近い。足先の形も握り込んだ拳に見える。


 更にもう一つの大きな特徴が、頭頂部らしき場所から生えた、つまり体の前側から伸びる巨大な腕だ。

長さは体長と同じ4mほどもあり、複数の関節があるのかグネグネと蠢いている。

形状的には腕なのだろうが、その動きと巨大な本体と併せてグロテスクな象のように見える。


「バケモノだ……」


 警備班の呟きに声を出さず同意する。


 ゾンビも三脚も怪物には違いないが、まだ人間の面影を残し、人型として理解の出来る動きをしていた。だがアレはもう形状も動きも人間とは程遠い。

 

 周囲のビルの窓を割り、看板を叩き壊しながら進むソレは乗り捨てられた車を握り拳のような足で踏みつぶしていく。踏まれたワゴン車がペシャンコになった所を見るに重さ10トン近くあるだろう。


 更に足にひっかかった消火栓を巨大な一本腕を振るって吹き飛ばす。

挙動は完全に象だ。もう象と呼ぶことにしよう。


 唐突に象の動きが止まる。


 まさかこの距離で見つかった?


「そもそもアイツの目ってどこだ」

「……形的には正面の顔じゃないか? 反対になってるが」


 無線で風里姉に聞いたのだが名前も知らない警備班が律儀に答えてくれた。

結構いい奴かもしれない。


 だが象はアラモタワーの方へ来るのではなく、その場で不器用に回転し始める。


 目を凝らすとその足元に数名の人間が居た。

生存者サバイバーか別のタワーの調達班か、いずれにせよ彼らの運勢は最低最悪だ。


 声までは聞こえないが叫びながら逃げる一団、そのうちの一人が恐怖の余りか腰を抜かして倒れ込む。


「起き上がっている余裕はない。そのまま転がって裏路地に――ダメか」

 

 尻もちをついたまま後ずさっていた男は巨大な握り拳に踏みつけられる。

潰れたなんてもんじゃない。体のパーツが四方八方に飛び散ってメチャクチャだ。


 残りの者達はなんとか目の前の6階建てビルに駆け込んでいく。


 2人目、3人目、4人目……5人目の女性は怪我をしているのか遅れているが、このペースなら間に合いそう……ああ、やばい。


「バカ、間に合うと思って速度を落とすな――クソ」


 象の鼻……見た目には腕がグンと伸びて最後尾の女性を弾き飛ばす。

自分の胴回りより太い腕に殴りつけられた女性は玩具のように回転しながら吹き飛び、電柱にぶち当たって、背中から「く」の字に圧し折れた。


 残り4人がビルの中に消えても象の追跡は止まらない。

巨体だけあって決して遅くはない速度で迫り、そのままビルに体当たりする。


 ビルが揺らいで窓ガラスが全て割れ、コンクリートの破片が木の葉のように飛び散る。


「ビルごとぶっ壊す気か」

「なんてやつだ」


 俺は警備班の男と顔を見合わせて軽く抱き合う。


 象は一旦後退してから助走をつけてもう一撃、今度はビル全体にヒビが入り、4階までの窓枠が壁ごと崩れる。心なしかビルそのものも傾いているように見える。


「ダメだ。あれじゃもたない」


 俺の判断通り、三度目の体当たりで重要な場所が壊れたのか、ビルの右側が露骨に傾いていく。


 窓から放り出された女性が顔面から地面に落ちて潰れ、もう一人の男は足が折れたのかのた打ち回っているところを踏み潰される。 


 なんとか逃げ出した中年男は脳天から鼻腕に叩き潰されて地面の染みになり、その脇を通って逃げのびた女性は警戒心を切らせてしまったのか、路地から現れたゾンビに引き倒されて腹を食い破られた。



『全滅だな さてアレをどうみる?』


 同じく見ていた風里姉から再び通信が入る。

警備班に疑われないよう気を付けて答えないと。 


「サイズはほぼアフリカ象。但し鼻のような腕はよりパワフルで全体重量もより重いだろう」


『見た目のまんまだな』


「挙動はアフリカ象より遥かに鈍重。大きさがあるから直線速度は走る人間と同程度にはあるが、方向転換の速度はかなり鈍い。但し加速するのは早くて体当たりの勢いはある」


 警備班が頷く。

ただの分析だと思ってくれているようだ。


「感覚器は逃げる人間を正確に鼻で打ち付け、足元の奴を一発で踏みつけたところを見るに割と鋭敏」


 そして最大の脅威。


「尖ったコンクリートへ平気で体当たりして血も流さない防御力。車で突っ込んだり銃で撃ったりしてどうにかなるとは思えない。戦車砲でも必要だ」


「だよなぁ」


 警備班ではなく風里姉に向けて言ったのだが返事は無かった。

 

「あの象がこっちに来たら……トラックを動かせるか……動かせるよなぁ」


 横倒しになってつっかえたトラックを更に押し込んで動かすのは相当な力でないと不可能だろう。

だから三脚が群がろうがゾンビの大群が来ようが、それほど心配はなかった。


 だがあの象は鼻腕が使える。

トラックは外側からめり込んでいるのだから、外へ引っ張り出す分には割と簡単に動かされてしまう。


「気付かれたらまずい。なんとしてもやり過ごさないと」



 俺は警備班を置いてオペレーター室のある階に向かう。

本当は市長を通すべきだろうが時間がない。


「木船さん――ってなんですそれ?」


 緊急事態の放送を続けていた木船さんだが、何故かナースの恰好だった。


「遊んでる時に緊急事態になって着替える暇がなかったの! それよりここは立ち入り禁止だよ!」


 遊びに大変興味があるが今はそれどころではなかった。


「全館に照明を消して声を出さないようアナウンスをして下さい。最後に放送も切って下さい」


「そんなことできるわけないでしょう! 放送は市長か久岡さんの――」


 俺は木船さんの肩を本気で掴む。


「やばいのが来ているんです。気付かれたら大変なことになります。三脚なんて比じゃない」


 木船さんは俺の本気の表情を見て、困ったような顔で天を仰いだ。


 というかこの人ナース服だけで下つけてないぞ。

誰と遊んでたんだ羨ましい。


「……わかった。でも後で責められたら全部キミに脅されたって言うからね」

「ええ、お願いします」


 木船さんは前のめりになって館内放送のマイクを握る。


『全館に向けて緊急放送です 全ての照明を消し 静音を保って下さい 全ての光と音を消してください また非常放送は事態が好転するまで一時停止いたします 幸運を』


「これでいい? すぐに市長か久岡さんが怒鳴り込んでくると思うけど」

「ありがとうございます」


 木船さんはやれやれとばかりに放送のスイッチを切る。

そして窓から入り口を見おろす俺の隣へおっかなびっくりやってきた。


 先ほどまで聞こえていたざわめきは消え、ビル風の音だけがやけに大きく聞こえた。

 

 やがてドスンドスンと重厚な足音を響かせ、象が入り口前へやってくる。


「……来た」

「うげっ」


 木船さんは象を目にするなり後ろにひっくり返り、慌てて両手で口を塞ぐ。


「やばいでしょう?」

「……」


 小声を出すのも怖いのか無言でコクコクと頷く。

ミニスカナースでひっくり返っているものだからそっちもヤバいが今はそれどころじゃない。


 半身を隠したまま見おろす。

象はこちらに向かって来るが、アラモタワーを目指していると言うよりはただ一番広い道を進んでいるだけに見える。


 タワーの目の前に来た象はこちらを一瞥もすることなく……いや止まった。

入り口を叩き続ける三脚に気付いたのか。


 鼻腕を大きく振り上げる象……しかしそれを三脚に振り下ろすことはなく、傍のビルに叩きつける。

ビルの破片に混じり、数体のゾンビが千切れ飛ぶのが見える。


「目の前の三脚を攻撃せずにゾンビの方を狙った……? あれは三脚と同種……?」


 しかし高い場所を狙ったせいでバランスが崩れたのか、よろめいた象はトラックに取り付いていた三脚を踏みつけて3体ともペシャンコにしてしまった。


 象は足をあげて潰れてしまった三脚を確認するように数秒動きを止める。


「割とドジ……」


 木船さんがポソリと言い、俺も声を出さずに笑う。


 数秒の停止の後、象は再び道の向こうに向き直りゆっくりと前進し始める。


 なんとかやり過ごせたようだと、俺は溜息をつきながら木船さんを抱き寄せようとする。



 そこで無線……俺のではなく館内放送用の無線が鳴った。


『なんだあの怪物は! 屋上から見ているがとんでもない大きさだぞ! 地下に居る奴らはなにか見てないのか!? おい答えろ!!』


 久岡の声だ。

一瞬背筋が凍ったが、26階建て高層ビルの屋上に居るなら地上から簡単に見つかりはしないはず。


 そこで今度は俺の無線機が鳴った。


『一つわかったことがある』


 雰囲気から風里姉は今分かったのではなく、わかっていたことを今言ったのだと確信する。


『奴はお前らが三脚と呼ぶモノの変異体だと思われる つまり感覚器官は熱探知だ』


 象の顔がこちらを向く。

目がどこかもわからないのに、はっきりと見られた感触があった。


「見つかった」


 巨体のゆっくりとした方向転換、そして強烈な加速。

強烈な破壊音とかすかな揺れ……26階建ての巨大建造物が揺れた。


 オペレーター室の無線機が一斉になり始める。


『こちら地下駐車場!! 何だ今のは天井にひびが入ったぞ!』

『こちら隔離室! 今の衝撃で水が噴き出した。配管が破損した!』

『居住区でショート発生! ブレーカーを落とす!』


 そして最悪の報告が入る。


『こちら警備班。3~4F東側の窓が全壊。繰り返す封鎖していた窓が全壊した! 目の前に化け物が……ゾンビ? いや違う速い! 変なのが入って――ギャァァ!!』


 それっきり警備班からの通信はノイズとなる。


 俺は目の前の観葉植物を蹴り倒してからエレベーターに飛び乗るも振動のせいか停止している。


「また上手くいかない!!」


 俺は悪態をついてから観葉植物を元に戻し、非常階段を駆け下りるのだった。


【裏】

主人公 双見誉 

拠点 両河ニューアラモレジデンス『アラモタワー』 調達班 

環境 出入口損壊 巨大怪物攻撃 配管通電異常 3F4F損壊 外敵侵入

人間関係

仲間

アオイ「守るべき者」タイコ「療養中」ミドリ#26「調達班」ヒデキ「調達班」スミレ#19「調達班」

中立

松野「調達班長」横須「市長」木船「ナースオペレーター」


敵対

久岡「警備班長」風里姉「協力強要」黒羽「冷血漢?」


所持

拳銃+弾x13発 小型無線機


備蓄

食料60日以上 水??? 電池バッテリー???

経験値 198+X

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― 新着の感想 ―
[一言] はやくカオリのmを目覚めさせてほしい
[良い点] ナースさんともヤるんだろうなぁ
[気になる点] 次回! 誉vsゾンビの 疑似『象』対決!(違う) [一言] こんな時に エイギル・ハードレットがいれば·····! って思わずクロスオーバーしてしまった。笑
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