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06.結界魔法


「スーリャ!」


「わかってる」


 ゴドウィンの声にスーリャは鬱陶しげに頷き、馬車に殺到する盗賊たちに向かって剣の切っ先を突き出しながら駆け出した。一歩遅れて追いかけるがとても追いつけない。すごい足の速さだ。おそらく彼女は素早さに関係した才能(ギフト)を持っているんじゃないだろうか。


 スーリャはそのまま襲撃者の先陣に斬りかかり、数人倒してから一度退いた。


 迷いのない流れるような動きだ。戦いの最中なのに足を止めて見ていたくなるような洗練された技。


 一拍呼吸の間を置き、スーリャは再び足並みの乱れた箇所に斬りかかる。


「くっ、こいつすばしっこいぞ!」


 襲撃者たちは馬車を襲うのを止めて、仲間同士の距離を詰めてを防御陣形を取った。僕が旅人から話に聞いていた盗賊たちは、こんなに連携や協調性は高くない。さっきのゴドウィンと襲撃者のリーダーの会話から推察するに、こいつらは金で雇われ訓練された傭兵なのかもしれない。


「まとまってくれたほうが屠りやすい」


 スーリャは怯んだ様子もなく、一団に向けて剣を振る。


「そんな剣でやられると思って……」


 襲撃者は振り下ろされた剣に対して(バックラー)を掲げた。盾で斬撃を防ぎ、返しで横薙ぎに斬るつもりだ。


 しかし、盾は剣を防ぐことができなかった。


「ぐあっ!?盾が!?」


 スーリャの振った剣が、ガラスを割るように(バックラー)を粉々に破壊したのだ。


 それは物理的に起きえない壊れ方だった。鉄と木を合わせた盾があんな風になるのは、魔法の力としか思えない。おそらくは盾や防具に対して有効な……鎧破壊(アーマーブレイク)才能(ギフト)だ。


 移動系、さらに鎧破壊(アーマーブレイク)……二つも戦闘向きな才能(ギフト)を持っているのなら、たしかにこの人数を相手にするのも可能かもしれない。


「これなら……!」


 希望が持てる展開だが、襲撃者たちも黙って見ているだけではなかった。


「焼けろ!」


 魔法が使える何人かはスーリャに向けて火属性の初歩的な魔法、炎弾(ファイアボルト)を放った。


 スーリャがどんなに素早くても、雨のように降り注ぐ魔法は避けきれない。


 こういうときにこそ、結界魔法のような防御魔法が役に立つのに……!


 無力感を覚える僕の目の前で、炎弾はスーリャに、さらに前線にいた襲撃者たちに襲い掛かった。


「正気かお前たち!?くっ……!」


 同士討ちも辞さない攻撃に、スーリャも面食らったようだ。


 スーリャは炎弾を浴び、苦悶に表情を歪ませた。鎧に魔法耐性があるのか致命傷にはならなさそうだけれど、二度三度と攻撃を受ければ持たないだろう。


「いまだやれ!」


 足が止まったところに傭兵たちが矢を放った。それをスーリャは寸でのところで避け、あるいは剣で受け流した。剣を振る傭兵たちも必死だ。何人かはさっきの炎弾の流れ弾をもろに受けていただろうに猛然と攻め立ててきた。


「加勢しないと……!」


 スーリャに追いつき、僕はそばにいた傭兵に向けてナイフを構えた。


「なんだこのガキ。そんなナイフで殺ろうってのか」


 傭兵は僕の手に握られたナイフを見て鼻で笑った。


 たしかにこのナイフで斬りかかるのは無謀だ。相手の武器とのリーチの差を意識すると、つい腰が引けた。こちらが後ずさったのを見て、傭兵は好機と考えたのか剣を振り上げた。


「うわああっ!?」


 腕をクロスさせて身体を守ろうとする。ヒュン、と剣を振る風切り音が聞こえて、僕はやってくるだろう痛みに備えた。


 ――しかし、斬られる感触はなかった。


「あれ……」


 目を開けると、傭兵の手には剣の柄だけ残され、柄から先の刃の部分が消え去っていた。


「な、なんだこりゃぁ……」


 傭兵のほうも何が起きたのかわからなかったのか、剣の柄を見て驚愕に目を見開いていた。


「おい、反撃のチャンスだぞ」


 スーリャは傭兵の斬撃を受け流しながら言った。


 そうだ、相手の武器はなくなった。これなら……!


「うおおおっ!!」


 ナイフを両手で握り、切っ先を突き出した。


「痛ぇっ!」


 ナイフは傭兵の腕に刺さった。嫌な感触だ。肉に突き刺す感触に鳥肌が立つ!


「代われ!そのガキは俺が殺る!」


「くそ、頼んだ!つっ……痛ぇ!」


 入れ替わりで僕の前に立ちはだかったのは、さっきの奴よりも大柄の上半身裸の傭兵だった。そいつは剣ではなく巨大な槌を振りかぶり、大きなフルスイングで僕を横薙ぎに吹き飛ばそうとした。


 今度は目を離さずに身体をガードした。インパクトの瞬間を凝視する。すると、なんと槌は僕に当たる寸前に消滅してしまった。そうだ、これは木こりのグスタフさんを手伝ったときと同じ……僕の才能(ギフト)の効果によるものだ。


 さっき僕に向けて振られた剣も、木と同様に消えてしまったのだろう。そして槌も。これなら身を守れる。いや、この才能(ギフト)を使えば攻撃に転じることもできるじゃないか。


 僕は足を前に踏み出し、ナイフを振り上げた。


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