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牧羊犬と羊  作者: オニザクラ
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遠吠えは山に木魂する

まだ文章形態は確立できていないので、その点は大目に見てください。

死体となったパーティメンバーが倒れている。左側頭部を撃たれたのだろう、そこだけどっかに飛び散っていた。鼻を突く血の匂いが周囲に充満する。昔ならこの状況に遭遇したら吐いていただろうが、今ではもう慣れてしまった。慣れというものは恐ろしいもので、こんな状況でも考えていることは敵の位置と仲間の位置の把握だった。

今し方死体となった彼はこのパーティーで唯一の長距離狙撃用のライフルを持っていたカウンタースナイパーだった。彼は陽気な性格で明日からの仕事がツライといった趣旨の話をさっき話していた。最初の一人が撃たれた時も彼は嬉しそうにライフルを構えていた。スコープを覗いていた彼から笑みが消えた。彼は「犬の面をした奴がいる」と言った後「笑ってやがる」と呟いた…矛盾した発言だった。

 

ことの発端は対戦車地雷に引っ掛かったことだった。それにより、鹵獲したT-34を牽引していたT-72のキャタピラが外れてしまい走行不能となったため新しくキャタピラを取り付けていたのだ。最初に撃たれたのは砲塔のハッチから上半身を出していたガンナーだった。タレットの重機関銃を扱っており撃たれた時も絶賛警戒中だった。


操縦手側のハッチが開く。暇そうにしていた操縦手が驚いていたが、顔を突っ込んできたのは見知った顔だった。

「8時方向距離750!相手は犬の面をしているらしいぞ!」

そういうとハッチが締まった

「…だそうです。リーダー」

操縦手が無線機の方を向いて言う。


「了解した。砲手、聞こえてたな?」

砲塔内には砲手と車長の二人がシャシーと呼ばれる車体の方には操縦手一人が乗っている。砲手と言われた男が答える。

「榴弾でいいですかい?」

「あぁ…頼む」

一息つこうと座り直そうとすると背中が生暖かいことに気づき手で触ってみる。それが血であることを認識するとともにそうだったと上を見上げる。最初に撃たれたガンナーの屍が重力に従い砲塔内に入り込もうとしている。腕が引っかかって止まっているが、このまま砲塔内に入ってきてしまうとただでさえ小さいスペースが消滅してしまう。しばらく自分と砲手の間にある自動装填されていく砲弾を見ていたが、まずはこの局面をどう乗り越えるべきかと考えを切り替える。まず、敵戦力の把握が先決だろう。敵は一人ではない…今のところ言えるのはそれだけだ。攻撃してきたのは一人だけだったが、攻撃してくるということは勝ち目がある戦闘であると敵は踏んでいることになる。となると戦車に一人で戦うなんて無謀すぎる。現に、歩兵の使う銃器では戦車の装甲を通すことはできない。では、携帯式対装甲車両用の兵器を持っているのか。否、持っていないだろう。持っているのなら不意打ちの出来る初弾で確実に仕留めようとしてくるだろう。それに

「犬の面かぁ…」

犬の面をする奴ということは「犬小屋」の連中だろう。「犬小屋」は上位クランの一つでクランメンバーは全員犬を模したウェイスマスクをつけている。そして集団で行動するのだ。

現在交戦している敵も犬小屋のメンバーなら複数人で仕掛けているはずである。

「射撃準備完了!」

砲手が照準器を覗きながら言う。

「よし!主砲発射の後、機銃で牽制しろ。撃てっ!」

合図と同時にガッシャンという機械じみた音とともに駐退機が勢いよく下がってくる。その後、ガンガガガガという音とともに目の前の機関銃にベルトに連なった弾が次々と吸い込まれていく。この音は廃莢で飛び出した薬莢が鉄板に当たる音だ。テレスコープから前方を確認するが砲撃によって吹き飛んだ砂が視界を阻む。上のハッチから声がする。

「コイツどかすぞ」

声の主が新しくできた背もたれを指差しながら聴いてくる。少し残念に思うも邪魔なので頼む。

「ああ頼む」

背もたれが少しずつ引き込まれていく。ちょうど足が見なくなるところまで来て異変に気づく。車体にコンッというものが当たる音がするのだ。様子を見ようとハッチから顔を出すとハッチから火花が散ったかと思うと後方からけたたましい音が鳴る。慌ててハッチを締める。

「後方機関銃!キャニスターで潰せっ!」

と吐き捨てるように言う。砲塔が動いている間も敵の動きをペリスコープで逐一確認する。どうやら敵は砲塔が時計回りに回転しているので少しでも追いつかれないようにと時計回りに走っている。まあ砲塔が回転する方が速いのでいずれ追いつかれるのだが…

残念ながら戦車の外の味方はあの機関銃手に全員やられたようだ。あの時、全員が狙撃手のいる方向に気を取られていたから後方の刺客に気がつかなかったのだ。

突如視界が真っ白になる。

「煙幕かっ!砲手、吹き飛ばせっ!」

「あいよっ」

返事とともに駐退機が後退する。砲撃によって視界が晴れ、視界内に起き上がろうとする敵を捉える。主砲は再装填中だが機銃でなら倒せる状況だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

砲手がトリガーを引く

カチカチカチカチカチカチカチ

間の抜けた迫力のない音が車内に響き渡る。スコープから目を離し、恐る恐る目の前の機関銃を見る。

しまった、弾切れだ。主砲は自動装填だが機銃は車長が手動で再装填しなければならない。完全に自分のミスだ。

悔やんでも仕方ないので外にある弾を取りにハッチに手をかける。予備の機関銃の弾は砲塔の後部に取り付けられているケースの中に収納されているので外に出なければならないのだ。

いや待てよ?

ハッチのロックを外したところで思いとどまる。

煙幕を貼ったのは誰だ?逃げまわっていた敵がこちら側にそんな行動をしていなかったのは自分が監視していたので明白だろう。となると最初の狙撃手か三人目の敵がやったことになる。つまりこのままハッチを開けて弾薬を取りに行けば敵の格好の的になる訳だ。

砲手が舌打ちをする

「チッ…また煙幕かよ」

しめたっ。これなら敵に撃たれる危険性が大幅に下がる。

「撃つなよ」

砲手にそう告げてハッチを開けようとすると

カンッ!

さっきまでフル回転していた思考が完全に止まる。

カンッ!

音は少しずつこちらに近づいている。敵に張り付かれたのだ。今まで安全だと思っていた砲塔内にも危険が迫りつつある。わざと音を立てているのだろうがこちら側の恐怖心を煽るには十分すぎた。

どれくらいの時間が立ったのだろうか、実際には10秒くらいの時間しか経っていなかったが音の主はハッチの上まで来ていた。

ホルスターから銃を抜く

ハッチが開いた瞬間に撃てば勝てるかもしれない。敵が姿を晒しながらハッチを開けるとは思わんが最後の抵抗はしたいものだ。

意外にも敵はこちらに有無を言わさずキルしようとはしなかった。

コンコンとノックしてきた。

沈黙

またノックしてきた

今度はノックし返すことにする

テレスコープを覗くことはできなかった。

向こうから声がする

「ハッチを開けろ!抵抗しなければ殺しやしない」

銃をホルスターにもどしゆっくりとハッチを開ける。

恐る恐る頭を出すと、後ろから声を投げかけられる

「素直に従ってくれて嬉しいよ」

振り向くと犬のマスクをした男が小銃を構えて立っていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] シャシーとキャニスターって分かりにくいのではないですか?
2020/03/23 22:47 退会済み
管理
[一言] すみません 鹵獲って字が 読めません 責任取ってください
2020/03/23 22:38 退会済み
管理
[一言] はーい了解でーす。
2020/03/23 22:32 退会済み
管理
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