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イタリー 異端の博士  作者: ハイド氏
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シュレックマン氏


それは1944年、6月5日早朝5時。場所はフランスノルマンディ地方その海岸線から少し離れた崖、その上には巨大なトーチカ群と巨大な大砲が設置されていた。あいにくの嵐続きで深い霧と風雨に晒されている。


そのトーチカのひとつ 入口の後ろに佇む濃い茶色のレインコートを着た男が一人いた。年の頃は四十に満たない。頭には少しだけつばの長い皮のハットを被っている。名を【シュレックマン博士】と言った。彼はドイツ系イタリア人で博士号を持った軍事拠点とは一見関係のない男に見える。しかし、この男なくして今のイタリア軍はなかったのだった。


「それにしてもひどい天気だな。明日は少しばかり天候が回復する。この機を逃さないだろうな連合軍は」


帽子を深く被り左手で抑えていた。そうしないと暴風雨で飛ばされそうなのだ。


トーチカはノルマンディのバイユーという町からやや北西に築かれている。その砲台には230mm砲と155mm砲が設置しており【明日】開始されるだろう戦いを前にして喧々と聳え立っていた。度重なる空襲をイタリア空軍とドイツ空軍は撃退していた。損害率は10%程度であり各地の砲台、トーチカ群は堅牢さを保っている。


基地司令のハミル中将はシュレックマン博士にこう切り出した。


「総督閣下、準備は万端です。つい先だっても敵の哨戒艦をこの砲は撃退しました。機甲部隊、歩兵部隊ともに空襲の損害は軽微です」


「そうでしょうね。この様子だと計画通りに【負け】られるでしょう」


となぜか後ろ向きな発言をした。


時は第二次世界大戦の真っただ中、異端とも云える『博士が指揮官』となっている。イタリア第2それに第3特殊作戦群集を指揮しているのがこのシュレックマン博士なのである。




  (その17年前 イタリア テルニ)


 まだ戦争の影もほぼ見られない。ここはイタリア中部の町、《テルニ》その郊外にひときわ目立つ邸宅があった。そう、シュレックマン邸である。父の代ですでにイタリア屈指の財閥を築いておりこのドイツ系の【ミハエル・シュレックマン】を知らないイタリア人はいない。重工業、造船業、それにサービス業まで手広くこなしており一人息子である【ミゲル・シュレックマン】は工業系の大学を二年飛び級、しかも首席で卒業するほどの秀才であった。


イタリアではまだ脆弱であった重工業。父の《イタリアは工業的にもっと発展すべきだ》という思想が息子にも影響を与え工学博士になっていたミゲルは大学在学中にも関わらず航空機を開発するなど実に研究熱心な青年であった。


「それで(くだん)の話、進んでいるか。 あぁ、そうだ、【ハイラット】の話だよ」


電話先は自社の開発副主任とのやり取りですでにこの若さにして副社長に就任していた。


父にも内緒で独自にある組織を編成しようとしていた。その名を【ハイラット】という。


その組織は陸海空の重工業を発展させる目的で作られていた。その意義は後に分かる事となるのだが歴史を動かす原動力となる集団であった。

まだ、イタリア北部に一つの工場と二つの小さな研究所持つだけの組織であったのだがシュレックマン家の本社工場ではすでに《戦車》が開発が佳境を迎えていたのだった。


  【型式名 MR-30】


その戦車は14トンと軽量であり57㎞/hも出せる。いわゆる《歩兵戦車》であり、装甲も正面は遠距離の小口径砲を防げたが側面は小銃弾や機関銃弾に耐える程度ではあったのだがイタリアとしては画期的なマシンであったのだ。主砲に自社開発の37mm砲を搭載している。さらに車体には機関銃を搭載しており十分な火力もあった。

さらに一年半前から開発を進めている【MR-36】は50mm砲43口径を搭載予定でありこちらは機甲部隊主力となりうるものでまだ砲身と砲塔を開発中であり、それにはあと1~2年かかりそう。エンジン開発にはもう少しかかるだろう。


「新たに航空機工場を建設中ですがそちらは視察には…」

「僕の機体で向かうさ。その方が早いだろう?」


これこそがシュレックマン博士の性格を表しているところで自社で学生時代から開発していた「he-53」という複座機に乗り開発副主任のアベーレかベッキオと共にイタリアばかりか周辺国を飛び回っていた。





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