2話
「でも……今の俺に出来る仕事と、元の世界に帰る手がかりを探せる場所って、ここだけなんだよなぁ」
コスプレではないかと思う程の立派な鎧を着た人や、防弾チョッキや迷彩服などを装備した人達が出入りする施設を眺める俺。
――冒険者ギルド――
ダンジョンを攻略する為に政府が作った施設。
冒険者達へ支援と管理をする為の組織。
冒険者は自衛隊とは違うが、ダンジョンからモンスターがあふれ出す現象が起こった際には傭兵という形で参戦する義務が発生する。
また、一般の人々から見たら、彼らは超人的な身体能力を保有する者が多く、問題を起こせば厳しい罰が待ってるらしい。
全てはパソコンとテレビの知識だが、この世界の冒険者はゲームでイメージしていた自由気ままな冒険者生活とは程遠い。
災害救助にも参加する義務もあるらしく、準自衛隊のよな職業だ。
建物の中に入ると、中には武装した集団がロビーでたむろしている。
大剣を片手に歩く人や、刀を腰に差す人。
先程見たコスプレのような装備をしている者も少なくわない。
おかげで、ゲームで手に入れた中二心が満載な俺の装備にも誰も気を止める事はない。
だが、誰もが共通して便利な銃器や爆薬の類を持たずに近接戦闘用の武器や弓を装備していた。
理由は簡単だ。
銃を持った冒険者がダンジョン内で乱射。
モンスターと共に跳弾によって他の冒険者が死亡するという事故が発生したのだ。
爆薬や催涙ガスの類も同様。
冒険者の死亡件数を少しでも減らす為に銃器や爆薬の類は絶対に禁止とされている。
見つかれば冒険者の資格を剥奪され、二度とダンジョンの中へと足を踏み入れる事は出来なくなると聞いた。
現代日本らしく様々な規則があり、窮屈な冒険者生活となりそうだが、元の世界に帰る為にはやらねばならない。
俺は覚悟を決めて、受付へと向かう列に並んだ。
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「はい、本日はどうなさいました?」
周りにいる冒険者達の装備を観察している内に列がはけ、俺の番が廻って来た。
対応してくれたのは、茶髪の女性。
年上のようで笑顔が柔らかく、緊張する俺に安心感を与えてくれる。
「えっと、冒険者になる為に来たんですけど……」
「わかりました。では、こちらの登録用紙に必要事項の記入をお願います」
渡されたのは履歴書のような一枚の書類。
氏名や年齢、現住所や電話番号だ。
用紙の一番下には住居不定の方は現住所と電話番号は未記入で可と記載されている。
これだけ簡素な内容を記入するだけでなれる職業は、世界広しと言えども冒険者だけだ。
仕事内容はダンジョンを探索し、モンスターが地上へと上がってこないように駆除すること。
そんな仕事に経歴や資格などは必要ないと言う事だろう。
また、一度も働いた事のないニートや住所不定のホームレスが就職しやすいようにハードルを下げた結果だとテレビでは言っていた。
学歴を必要としないアホにでもなれる職業と一部ではバカにされているが、俺のような存在には非常にありがたい。
偽造した身分証はバレる可能性がある為、使わないに越したことはないからな。
氏名と、居候をしている大徳寺の家の住所と電話番号を記入して提出した。
「はい、では冒険者カードを発行しますね」
書かれた内容を簡単に確認したお姉さんは用紙を受付に取り付けられたパソコンのスキャナーに読み込ませ。
キーボードに色々と打ち込んでいく。
素早いタイピングによって数秒程で仕事を終わらせたお姉さんは、パソコンに取り付けられた機械からクレジットカードのような物を取り出した。
「冒険者カードはダンジョンに入る為のカードキーとなっており、表に書かれたランクによって潜れる階層が違います。
駆け出しである佐久間様は自動的にFランクに登録されますので、潜れる階層は5階層までです。
潜れる階層はランクを上げる事で深くなりますので、ランクアップをお考えの際は受付にランクアップ試験の申請をお願いします。
試験は有料ですが、何度でも挑戦する事が可能で平日でも受ける事は出来ます。
何かご質問はありますか?」
「いえ、問題はありません。
ありがとうございました」
Fと大きく書かれたカードを受け取った俺はお姉さんに頭を下げ、受付を離れた。
偽造した身分証も必要ない程の呆気ない登録に、ホッとした所で冒険者カードを黒い外套のポケットへと仕舞う。
ともかく登録さえ済んでしまえば、あとはダンジョンを探索するだけ。
ギルド内に設置された案内板に従って、ダンジョンの入口へと向かえばいい。
案内板に従って、ギルドの奥へと進んでいくとシャルターの入り口を彷彿とさせる鋼鉄の扉がそこにはあった。
横にはカードキーを差し込む為の装置があり、冒険者カードを持つ人間以外は入れないようになっているのがわかる。
俺は、カードキーの差込口に冒険者カードを挿入。
《Fランク冒険者、佐久間 啓介。ダンジョン探索を許可します。
扉を閉める際には、扉に挟まれないように注意してください》
挿入口の下にあるスピーカーからアナウンスが鳴るとガチャンっ!!と扉のロックを解除する音が辺りを響かせる。
ドアノブに手を掛けて、重厚な扉をゆっくりと開ける。
すると、地下へと続く階段が目の前にあり、天井に取り付けられたライト行く先を明るく照らしていた。
願わくば、これからダンジョンに潜る俺の未来も明るいモノであって欲しい。
俺は、手に汗を握りながらゆっくりと階段を降りて行った。