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プロローグ


 世界初のDMMO-RPG 『ダンジョンクエスト』。


 多種多様な職業と装備で理想のアバターを作り出し、仲間と共にダンジョンを攻略する大人気ゲーム。

 現実世界の自分を忘れ、自分の理想とする姿となって、ファンタジー世界を冒険する。


 ダイブゲームが許される子供から大人までが熱中し、社会現象まで引き起こした。


 当然、そんな世界規模の大人気ゲームには俺も例に漏れる事無くドップリと嵌まっており、大学二年の夏休みも寝食を忘れる程にゲームに没頭した。

 発売して一年。他にも様々なDMMO-RPGのタイトルが発売されているが、その熱は冷める所かゲームに対する熱は高まるばかりで、ゲームを購入する前まで貯金していたバイト代の全てを注ぎ込む廃課金プレイヤーと化していた。


 俺のような廃人プレイヤーが量産され、世間では社会問題として注目される中、俺は今日も睡眠を忘れて仮想現実の世界に居た。


 1


 大悪魔が支配するダンジョンの奥。

 黒い外套を装備した全身黒の男性アバターが、最下層にあるエリアボスの居る部屋の前に立っていた。


 それは、彼が一人で行動するロールプレイヤーであるからだ。


 エリアボスに挑むのならPTを組むのが、DMMO-RPGに限らず全てのオンラインゲームの基本中の基本。

 しかし、彼のような理想の自分を演じるロールプレイヤーはその基本から意図的に外れる事が多い。


 孤高でクールな冒険者や最強の冒険者と言った設定を楽しみ、ダンジョンを攻略する事よりも理想の自分を演じる事を何よりの楽しみにしているからだ。


 だが、そういったロールプレイヤーは自分の理想に縛られる為、周りのプレイヤーからはネタキャラとして扱われる。

 強い装備よりも見た目だけの武装を整え、どんなに役に立たない魔法でも演じる為なら習得する。

 アバターにピッタリな職業を見つけたら不遇職であろうとも取得する。


 そんな、攻略を二の次にしたロールプレイヤーの中には稀にアバターとゲームに対する愛が深すぎて、ネタキャラの枠を超える変態が現れる。

 長時間のプレイで稼いだ経験値と課金アイテムによるステータスの強化。

 結果、単独でも上位ダンジョンを攻略できる変態仕様の怪物アバターが誕生するのだ。

 

 そして、この黒いアバターは何を隠そう俺の操作するアバターであり、一時期は世界ランキングにも登録された変態仕様のアバター。


 故に、上位クエストであろうとも単身でエリアボスへと挑めるのだ!! 


 俺は、ゲーム世界の分身である黒い外套を装備したアバター《ケイ》を操り、骨で構成された不気味な扉のノブに手を掛けた。

 すると……。


 「う、うおっ!?」


 視界を覆う砂嵐。

 壊れたテレビなどが見せるその現象は、目の前の扉を視認できないほどに大きく巻き起こり、俺の視界を暗転させた。


 「って……あれ?」


 だが、突然起きた砂嵐は一瞬でなくなり、俺の視界にはさっきとまるで変わらない扉が目に映った。


 「ゲームのやりすぎか?まあ、二徹だしな……。

 エリアボスを倒したら、少し眠るか。

 体を壊したら、ゲームが出来なくなるし」


 俺は、そう言って目の前の扉を開けた。

 そして、直ぐに俺は扉を開けた事を後悔した。


 「マミたんにマジカル★パワーをくださいノン!!」


 部屋の奥にある玉座に座る強大な悪魔よりも圧倒的な存在感を放つ、筋骨隆々なアバターが野太い声で悪魔に語り掛けている光景が目に飛び込んできた。


 悪魔の前に居るアバターは側頭部で結んだツインテールをなびかせ、純白のゴスロリ服を身に纏っており、魔法少女の持つ可愛らしいデザインの杖を片手に立っている。

 その手足は丸太の様に太く、足に装備されたニーソックスが悲鳴を上げていた。

 

 そう、俺の視線の先でエリアボス相手に願い事をしているのは魔法少女のコスプレをした厳ついオッサンだった。


 「……」


 俺は今までの人生で経験した事のない類の恐怖から、そっと扉を閉めた。

 そして、カタカタという音が手元から聞こえ始め、ゆっくりと視線を落とすと、扉を閉めた己の分身である《ケイ》の腕が小刻みに震えてる事を認識する。

 もしかしたら、アバターだけでなく現実世界の自分も震えているのかもしれない。


 エリアボスの部屋は何故かゴブリンと前代未聞なクリーチャーな先客が居るようだし、こんな震える体ではプレイミスの元だ。


 まともな戦闘が不可能であると判断した俺は迷うことなくログアウトする事を決め、コンソール画面を呼び出そうと腕を動かそうとした。 


 まさに、その瞬間。

 

 ドアが勢いよく開いて、丸太のように太い腕が俺のアバターの腕を勢いよく掴んだ。


 「え?」


 突然現れた腕に驚き、反射的に俺は腕の主に目を向けた瞬間。

 …おっさんの顔が視界一杯に広がった。


 「マミたんにマジカル★パワーをくださいノォォオォォオン!!!」


 「ほぁああああああああああああああああああああああああっ!?」


 見るもおぞましい生物兵器の顔面を至近距離で見せられた俺は、叫びと共に意識を手放した。


 2


 本能に従って闇に沈んだ意識が浮上する。

 瞳を開けると、そこには見知らぬ天井があった。


 フカフカしたベットから体を起こし、辺りを見渡す。


 視界に入るのは壁に貼ってある魔法少女のポスターと魔法少女関連のDVDボックスとコミックスがキレイにまとめられた棚。

 ベットの近くには魔法少女の相棒だと思われるファンシーな生き物のヌイグルミと幼い少女が振り回しているイメージが強い、可愛らしいリボンが付けられた玩具のステッキ。


 勿論、俺の部屋ではない。

 しばらく視線を彷徨わせていると、ヤツが短いスカートをおっぴろげ、純白の女性下着を晒しながら大の字で倒れていた。


 「うっ!?」


 思わず吐き気を催し、両手で無理矢理口を押える俺。

 正直目の前の悪趣味なキャラクターを操る変態プレイヤーに対して悪態をつかずにはいられない。

 一体どんな変態的な思考をしていたらあんな化け物をキャラメイキング出来るんだ!!

 モンスターがポップする悪魔の神殿から自分の陣地に運んでくれた事には感謝するが、気分は最悪である。


 俺はコンソール画面を呼び出す為に腕を動かした。


 「ん?」


 だが、決まった動作を行えば現れるはずのコンソール画面は出現しなかった。

 不可解な現象に疑問を抱きながらも、もう一度コンソール画面を呼び出す動作を行う。


 「んん!?」


 ブンブンと腕を動かしまくるが、コンソール画面が俺の前に出現する事はなかった。

 一体、なんだってんだよ!!


 「ノン?」


 焦る俺をよそに、眠っていた怪物が目を覚ました。


 「やったノン!異世界の人を呼ぶことに成功したノン!!

 これでマミたんも立派な魔法少女ノン!!」


 部屋に響き渡る野太い声。

 ……おいおい、異世界って何言ってんだこのおっさん。

 確かにゲームの仮想現実は異世界とも言えなくもないけどさ……。


 後、俺は呼ばれたんじゃなくて誘拐されたんだよ!!


 恐怖は怒りで吹き飛び、勢いそのままに目の前の最終兵器に怒鳴ってやりたいが相手は上位クエストを受ける事の出来る実力者で、ここは相手の陣地。

 PKされる可能性非常に高く、デスペナルティを恐れた俺は手を握りしめて必死に声を抑えた。


 「黒いお兄さんはなんてお名前ノン?

 マミたんはマミたんノン!」


 俺の怒りをよそに嬉しそうに話しかけてくるマミたん。

 お、落ち着け~普段通りに対応しろ~ロールプレイヤーは動じない!!

 大体、名前なら頭上に表示されているだろうが!!


 ……ん?


 目の前の《マミたん》に違和感を覚えた俺は彼の頭上を見て、目を見開いた。


「どうしたノン?具合でも悪いのかノン?」


 何と、驚くべきことに彼の頭上にはキャラクター名が表示されていなかった。

 その事実に体の力が緩むと、手のひらに痛みを感じて、自分の目の前に持ってきて唖然とした。

 なんと、俺の手のひらは強く握った事によって爪が食い込んで赤くなっていた。

 まるで生身の様な痛みと現象に背筋が冷たくなった。


 「…失礼、《ダンジョンクエスト》と言う言葉に聞き覚えは?」


 確認する為の(とい)に喉が渇く、厳選された《ケイ》の声も震えていた。

 ゲームでは流れない汗が自身のから流れ、ポタリと床に落ちる。


「……知らないノン。

 でも家の近くにある《新宿ダンジョン》なら知っているノン」


 マジっすか?





 悲報、俺氏異世界の日本に誘拐されたようです。


 「元の世界に戻すことは……」


 「やってみるノン。

 黒いお兄さんを異世界から呼べたマミたんに死角はないノン。

 はぁぁあああああああああ!!!」


 野太い声が部屋を震わせ、マミたんから闘気のようなものが立ち上る。

 その姿はまさに、必殺技を放とうと気の力を溜める世紀末覇者。

 こ、殺される!!


 理不尽な死を覚悟した俺だったが、マミたんはぶっ倒れた。


 あれ?


 「ごめんノン、もう一度やってみるノン」


 むくりと起き上がって、再び構えを取るマミたん。


 「はぁあぁあぁああああ!!!!」


 気合の咆哮が先ほどよりも大きく部屋を揺らす。

 あまりの凄さにベットに飾られていたヌイグルミは床に落ち、玩具のステッキは横に倒れる。

 す、すごい。これならきっと……。


 「うっ!?」


 だが、苦しそうなマミたんの声によって、俺の淡い期待は粉々に砕け散った。

 先ほど以上に気合を入れてくれたマミたん。

 彼は糸の切られたマリオネットの如く、床に崩れ落ちた。

 しかも、先ほどと違って意識はなく、彼は白眼を剥いている。


 その後も、目覚めた彼は頑張って俺を元の世界に戻そうとしてくれたが成功する事はなかった。

 最後はとても辛そうな彼を見ている事が出来ず、被害者である俺が止めてくれと言った所でマミたんの挑戦は終了した。


 挑戦が終わると、マミたんは自分のしでかした事について泣いて彼なりに真摯に謝ってくれた。


 「ごめんなさいノン!初めは魔法が成功して浮かれていて気づかなかったけど、今ならわかるノン!!

 マミたんは魔法少女なのに悪い事をしてしまったノン!!!」



 ……彼なりにね。



 「黒いお兄さんは絶対に元の世界にマミたんが帰すノン!それまではマミたんが面倒を見るノン!!」



 ……………………。



 「え?」


 この日、俺は魔法少女を夢見るおっさんのヒモとなった。




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