あなたが落としたのは性格のいい美少女ですか? それとも、体格のいい美少女ですか?
緑生い茂る森の中、日課の仕事として斧をガッツンガッツンと木に打ちつけていた。
ヘイヘイホー!!
気合の声が木をゆらし、ばきばきと音をたててずしんと重い音とともに木が倒れる。オレの数倍生きてきた木を、こちらの都合で一方的に倒す感覚は何度やっても爽快だった。
腹がすいてきたころに、いつもどおり不満たらたらで幼馴染の少女が昼飯をつめたバスケットを提げてやってきた。
いつもの場所、泉のほとりで昼食を食べ始めた。体一つ分の距離をあけて少女は隣に腰を下ろしている。葉をとおしてやわらかな日差しが、おしゃべりをする少女の顔を明るく照らした。
そこに一際強い風がざあと吹くと、少女がかぶっていた帽子が飛んでいった。
この前町にいったときに買ってきたと自慢していたやつだ。地面に落ちて汚したくないと帽子を追いかけて走り出す。
届きそうで届かない帽子に業を煮やした彼女は、野生の獣のように飛びかかった。
「おっしゃあ! つかまえ……」
言葉は途中で途切れる。
少女が足をつけるはずの指先には、水面があるのみであった。
水しぶきをたてながら手足をばたつかせる少女を助けようと、準備運動を始めたときであった。
「あなたが落としたのは性格のいい美少女ですか? それとも、体格のいい美少女ですか?」
太陽のきらめきを放つ美女が水面を割って現れた。
ゆったりとした白いローブをみにつけ、波打つ金色の髪はさらさらと風にゆれる。
ひとならざる存在であったがそこに怪しさはなく、ひとを安心させる優しげな微笑みをこちらに向けている。
まさに女神だ。
「はい、女神です。さあ、選んでください」
気になるのは、女神のかたわらに控える少女と顔立ちの似た二人だった。
一人は母親のような包容力のある優しげな微笑を浮かべた少女。
もう一人は、しなやかな体つきで快活な笑みを向けてくる。
ただの幼馴染の少女は女神の小脇にかかえられ、ぽたぽたと水雫をしたたらせている。濡れた前髪がはりついてその表情はよく見えない。
この中から一人を選べということらしい。
性格のいい美少女とは、きっといい家庭が築けるだろう。
体格のいい美少女とは、きっといい相棒となって仕事の効率があがるはずだ。
ただの幼馴染の少女とは、腐れ縁のままぎゃーぎゃーと騒がしい日常が続くだろう。
女にはいろんな面がある。
かわいいところや、小憎たらしいところ。
人を好きになるっていうのをそんなところもひっくるめて背負うってことだ。
だから、オレの答えは……
「選ぶのは3人ともだ!!」
「そうですか、あなたは正直ものですね」
湖の女神は感心して、性格のいい美少女と体格のいい美少女、それとただの幼馴染の少女を渡してくれた。
やったぁ、ハーレムだ。
「最低っ!!」
顔をはたかれてくるくると視界が回る。浮遊感のあと派手な水しぶきをあげて湖面に沈んでいった。
ゆらゆらとゆれる水面から差し込む光を目指して泳いでいく。ざぱりと水面から顔をだすと、少女が驚いた顔をしてこちらを見ている。
オレが増えた。
ひとりは涼しげな目元をしたオレで、もうひとりはがっしりとした体格をしているオレだった。
「さあ、選べ! 性格のいいオレと体格のいいオレ、それとただの幼馴染のオレ、どいつがいい!!」
「知るか!!」
逃げる少女を追いかけようとするが、他の二人のオレは黙って見送るだけだ。
性格のいい美少女と、体格のいい美少女も同じような微笑を浮かべていた。
結局、元通りの生活に戻ってしまった。
変化といえば、ときおり少女が「本当はどのわたしがよかったの?」と聞いてくるぐらいだった。