ゴーレムさん 1-9 宿場街
話が明るくならない。
荷車の乗り心地は悪く無い様で、テントの中で二人が眠った気配を感じる。特に今まで少し寝ては起きてを繰り返していたアイオラが熟睡している気配を感じる事に少し安心した。一番体調を心配しなければならないのは生身の人間であるアイオラだ。元が不健康な状態だったので、今後少しでも健康的にして生きたいと思っている。
乗客が眠れているようなので遠慮なく荷車を引き道を進む。ノンストップはアイオラの生理現象的に無理だがそれ以外は進み続ける事が可能だ。荷車の空いたスペースに荷物を載せて輸送の仕事でも受ければそれなりに稼げるかもしれない。揺れないし壊れ物運ぶのが良いだろうか。そんな信用を得られれば良いかな。この先、旅を続けるうえで拠点となる町が幾つか出来れば、情報入手や仕事に関して都合が良いだろうな。
先の事を考えながら、魔法の練習を片手間に行う。癒しの術は先日の実験である程度コツは掴んだ。肉体の治療なら充分出来るようになったと言えるだろう。精神の方はまだ無理だ。興奮したのを沈静化させるだけだ。心の聖霊が司る属性の魔法ならもっと高い効果の術式があるのだろうか。
そんな事を想いながらこの夜に構築したのは、以前竈の火として作った魔石の応用だ。どこまでの透明で済んだ魔石を筒状に造り底の部分い向かってうっすらと青色が付く様にする。この青い部分は水の魔力の結晶で、癒しと浄化の効果のある水を筒の中に生み出す、上部に注ぎ口と蓋を付けて完成である。注ぎ口と蓋の所に意匠を施し、何となく半身が水に溶けた様な人が水瓶を傾ける様にしてみた。傾けられた水瓶が注ぎ口となって水が出てくるように見える。
出来栄えに満足し、その水を受けるコップも作る。こちらは特に凝った事はしないで土魔法の金属精製からアルミのコップを作った。それを御者台の下に置いておく。アイオラに水差しの水を味見してもらい、改善を施すつもりだ。そうして一人の夜も過ぎていく。
特別他の馬車や旅人とすれ違う事も無く最初の宿場に到着する。前世の映画で観た海外のモーテルの様な印象だ。井戸を中心に宿屋と雑貨屋が並んでいる。雑貨屋の売り物は主にドライフルーツや干し肉だ。夜中という事もあり周辺には誰もい無いが、宿屋のいくつかの部屋や雑貨の中には明かりがともっている。宿泊の予定も無いしざっと見た所アイオラの為の寝具となりそうなものは無いので素通りする。宿の脇に繋がれた馬たちが少し騒いだが、誰かが様子見に来る事も無く通り過ぎた。
こういった宿があるのは道が整備され、魔獣などが出ない様に定期的に狩が行われる管理された道の特徴らしい。かつては鉱山への道として往来が盛んだったころの名残で廃坑になった後もこうした宿が比較的多く残っていて管理もされてるとのことだ。テントの中で寝ているアイオラがそう教えてくれた。土の精霊は会いやすいが、その中でもこうした管理のされた場所へ向かうのが安全で、効率的だと僕も思う。わざわざ危険な地域に進んでいく必要は無い。偶に現れるなら、現れるまで待つだけの事だ。
この旅が冒険小説などで描かれる旅と異なるところは目的達成のための期限が設定されていない事だ。一年に一度姿を現すという場所があるならそこで1年待つことが出来る。世界に危機が訪れているわけでもなければ、倒すべき邪悪な存在がいるわけでもない。邪神や魔王は居るらしいが、それと戦うことなど考えていない。むしろそういう事態からは極力避けていかなければと思う。今は人族であるアイオラと共にいるが、極端な事を言えば人間と敵対しても構わないのだ。進んでそうするつもりは無いが、結果としてそうなる事も考えられる。だからあまり人と深くかかわる事も避けていきたい。
幸いな事に精霊は人里離れた場所に住んで居るものが多い。そっと遭って静かに立ち去るのが最善だろう。夜の道を進みながら考える。元の世界の事を考えない様に今の目的の事を考える。もう感じる事は出来ないだろうけれど、凍えそうな部屋で固く冷たい布団にくるまっていた記憶はある。今、荷車のテントの中で寝ている少女は、僕らが連れ出さねば遠からず似た思いをしただろう。この世界の季節はこれから夏を迎えると言うが、その先に冬は出会った街の付近でも雪は降るそうだ。くるまった毛布が一向に暖かくならず体温が奪われ、その冷たさから布団から出ると余計に寒い。その寒さに再び布団に入ると毛布が暖かいと錯覚する。そんな夜を過ごす。僕は耐え切れずこうして命だけ別の世界に来てしまったが、アイオラに同じ経験をさせる事もあるまい。
どこか自分を重ねて同情し連れ出した側面もあったのかもしれないなぁ
一人そんな事を考えていると、道の先にかがり火が見えた。夜営か夜行する旅人か、ひとまず後ろに声をかけアイオラを起こす。テントから出てきたアイオラが御者台に乗ったところで再度足を進める。
かがり火の主は夜営する商人と護衛の一団だった。番をしていた男にアイオラが一声挨拶するだけで幾分か空気が違った。そのまま通り過ぎたがやはり人が着いているのは大事だ。もし僕だけだったら、街道に荷車をひくゴーレムが出たと街に報告が上がり厄介事の種になりかねない。
[有り難う。助かったよ。]
テントに戻るアイオラに感謝の言葉をかける。戸惑ったような表情をしながらも軽く会釈を返して彼女はテントに戻って行った。
それ以降特段変わった事もなく。夜が明ける頃には次の宿場へたどり着いていた。
「それで、そのゴーレムの行方は知れないということか。」
「教会の物が知っていると思われますが、干渉する事を善しとするかは不明です。」
報告を受けた議長は頭を抱えたい気持ちを堪えた。
街の外壁のすぐそばに大型の魔獣が出たという報告自体が上がってくるのが遅かった。原因としては現れて早々に退治されて、その脅威が正確に周知されなかった事が最大の要因だろう。しかしながら本来大きな脅威となり得る対象が早々に討伐されたという事態そのものが別の脅威を孕んでいる。
その事が理解できるのは人の上に立った経験のあるもの意外では少ないだろう。つまりは方向の遅滞は起こるべくして起こった事だ。それを理解するが故に堪える事が出来たのだ。
街を納める議会のその長たる男の前には討伐されたという巨大な魔獣の頭が置かれている。その大きさから脅威の大きさも見て取れる。
「こんなものが何の前兆も無く現れたとういうのか、いや、これが何かの前兆なのか?」
「しかし、既に討伐されております。そこまで危機をあおる必要は無いのでは。」
「これを討伐したのは使役されたゴーレムだというが、その主が悪人でないという保証はあるのか?」
その問いに沈黙が生まれる。ゴーレムの主として報告が上がっているアイオラという元孤児の女。身元に関しては保証が出来るが、その経歴は到底信用できるものでは無い。悪い意味ではない。彼女が街の人間、ひいては人類そのものを嫌悪していても不思議ではない。そういう経歴がある。そんな人物が今現在、強大な力を保持しているのだ。
「光の聖霊が同行しているというのは確かなのか?」
「それに関しては教会が公式に回答を返しています。間違いありません。」
縋る気持ちも沸いてこない。教会の信じる神は人類の破滅を望んでいるでは無いかと疑いたくなる。
「監視はどうなっている。」
「街を出たのは確認しております。面識のあるギルドの物を使命して依頼を出しております。」
この話題に置いて数少ない悪くは無い報せだ。それを聞いて多少の冷静さを取り戻した議長は溜息を洩らしつつも追加の支持を出す。
「可能な限り動向をこまめに確認せよ、予算は特別に組んで良い。これは緊急事態と心得よ。」
この時点でアイオラ達一行が本来出ていく予定の出口とは別の所から街を出ている事を認識している者は本人達を除いては居ない。その為、使命依頼を受けたタイカン達は街での目撃情報をと教会の情報を基に行き先を推察し、実際とは異なる方向へ向かう事になる。
そうして暫しの間、光の聖霊に連れられたゴーレムの存在は公式の記録から姿を消すことになる。そしてこの時の記録の曖昧さが後の記録に置いて彼らの存在の信憑性を低める事になる。目立つ事を嫌ったゴーレムの意図はこうして本人の意図せぬところでも叶えられ、政治の場とは離れたおとぎ話の様な所で広まっていくことになる。後に公式の記録に彼らが登場するまでは、一部の物を除いて変わることの無い日常を送っていた。
もっとこう、俺ツエー系の腕力無双なつもりで書いてるのに何でこうなったんだろう。少なくともメリーエンドでバッドエンドにはならない様に話考えてるのに。
明るく楽しく、少しエッチなハーレム主人公を描ける人達はやっぱ凄いわ。都合の良いチョロインって難しい。
チョロインの処女性を守ることが私には難しい