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ゴーレムさんサン  作者: macchang
8/19

ゴーレムさん 1-2.5~8 sightアイオラ

 いつもの様に薬草を集め、街の外の屋台で安いパンに固い肉を挟んだ夕食をとる。一人で活動し始めてから何度も繰り返し習慣になった生活サイクルだ。今日集めた薬草を朝一番にギルドに引き渡し早々に街の外に出て翌日の分の薬草を取る。朝一番に割りの良い依頼を求めてギルドに集うのは新人やいつまでも評価の上がらない人達だ。私が出会いたくない人達は馴染の依頼主や指名依頼があるためその時間にギルドに来ることは皆無だ。そもそも人とあまり関わり合いたくない。孤児院を出て一人で生活を始めた時は娼館で働くこともあったがそれも続かず逃げて来た自分には行く先も無ければ受け入れてくれる先も無い。それでもせめて自分の稼ぎで生きて居たい。それだけを考えていた。


 そうして人を避ける様に門の近くの集落から離れた朽ちた小屋跡で野宿する暮らしをしていたのが裏目にでる。日が落ちて辺りが暗闇に包まれた頃。いつもの様に膝を抱えて、寝付くこともなくうつらうつらとしている。このまま朝が来て、鈍く痛む頭を抱えながら街へ向かうのだが、その生活はこの日をもって終わることになった。


 突然、音も無く居らわれた大きな影、人の様な形だが人にしては大きく、頭と思われる所に何もなく、人間でいうなら首の付け根の少し下に目と思われるぼんやりとした光が二つ並んでいる。間違いなく魔獣だ。恐怖にパニックを起こした私の前に浮遊する発光体が現れる。巨大な魔獣にゴーストの組み合わせ。身体を魔獣に、魂はゴーストに喰われるのかと思い、半狂乱で持っていたステッキを振り回す。このステッキは元は魔力を宿した杖だったが折れて、魔法を扱う時の補助具でしかなくなったものを安く譲り受けたものだ。攻撃性能なんてたかが知れている。無駄と知りながら暴れる私に魔獣が何か魔法を掛ける。花の香りの包まれながら私は意識を奪われた。


 目覚めた時に隣にいたのは巨大な木製のゴーレムだった。こちらの様子を覗いながら、昨夜錯乱した私を少々お節介なレベルで心配している。怖がられた事を気にしている様でもあったので

「え、あのごめんない?」

と謝っておく。

どうやらこのゴーレム自分の声が私に聞こえていることに気付いてい無い様だ。私には幼いころから草花の声が聞こえるという特技があった。このゴーレムの声もその草花の声と同じように聞こえてくる。おそらくこの声は他の人には聞こえないだろう。


 驚いた事に昨夜ゴーストだと思ったのは光の聖霊だった。何と失礼な事をしてしまったのかと思ったが、あまり気にしてい無い様だ。どうやら聖霊様はまだ幼いらしく、ゴーレムの方も幼い聖霊様に創られたばかりで世情に疎い様子だった。そうして光の聖霊ルル様とゴーレムさんに言われるままに、私は行動を共にすることになった。


 

 一緒に街に入ると景色は一辺した。多くの視線が私とゴーレムさんに注がれる。言われるままに街を歩き望むままに手続きを済ませ誰にあったかも定かでないくらい落ち着かない時間だった。街を出て普段の野宿する場所に付きようやく一心地着く。


 その後も聖霊様のゴーレムさんが規格外の行動をするので気が休まらなかった。なんだか自分が関わってはいけない大それた事をしている気持になる。アルタイトとか伝説の金属だし、建国の礎になりそうな炎の魔石をあっさり魔法で作ったり。そもそも光の聖霊の存在からして規格外なのだから当然なのだけれど、一夜で変わりすぎた環境についていけない自分が居た。


 その晩、門の前の集落現れた巨大な魔獣。その巨躯は高さだけならゴーレムさんと並ぶが四つ足の全長は倍近くあった。防衛の為に集落にいた戦士や魔導士が攻撃するも効果は無く、一人が餌食になろうとした時、強い負の感情と共に私の隣にいたゴーレムさんが魔獣へ向かい駆け出し、倒してしまった。しかしゴーレムさんはその時、自身でも抑えきれない魔獣に対する敵意に戸惑っていた。

 

 それから魔獣を換金し、その身体から取れた素材でゴーレムさんが私に装備を提供してくれた。その帰りに会いたくない人達と合い、もう一晩経ち、街から逃げる様に出てきて今がある。ここまでに何故か私の住環境だけが大きく改善されている。荷車に幌の代わりに設置されたテント。美味しそうな匂いをさせる肉を炙るゴーレムさん、串に刺したその肉を差し出してくる。美味しかったが食べきれずもったいない事をした。


 その前日の話だがゴーレムさんが引く荷車は全く揺れない。テントの中は地面に座って夜を過ごすよりはるかに良い。横になっても平気なのだ。寝袋や毛布は無いが、この床の感触だけで泣きそうになる。夜、ルル様が入ってきて話をする事になった。恐れ多い事かと思ったが、ルルさま自身はまだ幼く普通に孤児院の幼い子と話している気持になった。


 街を出た私たちは先代の光の聖霊であるレムリア様の復活の為に各所の精霊に会いに行くことになっている。本来は最初の目的地である街へ、荷運びか何かの依頼を受けるか、それに同行する形で行く予定だったが私の都合で急ぎ街をでることになってしまった。ギルドに登録した当初の私の指導担当だった二人組に出会ったしまった。思い出したくない記憶だ。

 

 自分の気持ちと身体を制御できず、動けない私の状態を察したゴーレムさんが私を抱えて早々に街を出てくれた。このゴーレムはやはり私の知る魔獣の一種であるソレとは明らかに異なるところがある。通常のゴーレムは何者かに創られ、その創造主か主人と認識する相手の指示に従うだけの人形である。または魔力の集まる場所で無機物が変異し動き出した者である。その場合は自分を生み出した環境や魔力の源を守る様に本能的に行動する物だ。しかし私の異常を察したり、私やルル様と会話しているゴーレムさんには本能とは別に明らかな感情と人格を感じられる。聖霊によって直接作られたからなのだろうか。特殊な個体なのは間違いない。


 特殊な点は他にもある。ゴーレムさんは魔法が使えるのだ。身体に術式を組み込みそれを発動することで魔術を行使するゴーレムも存在はするが、自ら術式を組み上げ魔法を行使するゴーレムなど聞いた事が無い。眠る必要の無いゴーレムさんは人が寝ている間に魔術の訓練をしている。魔術への適性と才能も高い様で高度な術式を簡単に扱っている。ゴーレムさん自身はあまり目立ちたくない様な事言っているが、自分が人前で魔法を使うだけで注目を浴びるという事を理解しているのだろうか。


 街を出た所で少し休み、予期せぬ食事をすることになった。保存用に燻された固い肉ではない焼き立てのお肉を食べたのはいつ以来だろうか。美味しい食事であったが、食べきる事は出来なった。ゴーレムさんが少し残念そうな様子で申し訳ない気持ちになる。


 食事の後に目的地の位置を確認する。当初の予定とは違う出口から街を出てしまったので、本来出る予定だった道へ合流する必要がある。幸い、街を周回する様な道がある為、そこに沿って進み予定の道にはいる算段だ。

「土の精霊が住むツオドの村は馬車でも数日かかります。途中に宿場となる町があるのでそこを経由していくのが一般的な順路です。」

[そうか、夜も馬車を引き続けたら少しは早く着くかな?]

「ゴーレムさんはそれで大丈夫なのですか?」

馬車も馬を潰さない様に休憩をとるものであるがゴーレムは休憩を必要としない為、一日中進み続けることが出来る。

[揺れて眠れない様なら言ってね]

「いえ、大丈夫だと思います。それより大丈夫なんですか?」

[心配してくれてありがとう。休憩の要らない身体だからね。道に沿って進むだけだから大丈夫だよ。]

こういった反応が通常のゴーレム違う所だ。言葉が通じるのが私とルル様だけなので他の人には伝わらない事だけれど、まるで普通に人間と話をする感覚で喋ることが出来る。ゴーレムさんが引く荷車には御者などいらないだろう。ゴーレムさん自身が御者として働けるだろう。

「夜道で大丈夫なのですか。」

聞けば目と思しき洞の中の光が輝きを強める。まだ日が出ているのに照らされている場所ハッキリわかるくらい強い光だ。

[人よりも夜目は効くし、こうして照らすことも出来るよ。僕を作ったルルが光の精霊だからかな?少しは光を使えるんだ。]

「では、もし他の旅人出会った時は起こしてくださいね」

それだけは頼んでおかないと。真夜中に誰も御者台に居ない荷車を目を光らせたゴーレムが引いている光景は誤解を招く。実際、最初にタイカンさん一行と出った時も勘違いされて攻撃を受けたと聞いている。

[そうだね、対人の交渉はお願いするよ。大変かもしれないけど、僕が君に使役されていて安全と伝われば良いからね」

「はい、頑張ります」

正直、こうした人との交渉を任されるのは私には過酷な事ではある。だけどこれは今の自分の環境を変える好機でもるのだ。ルル様とゴーレムさんと一緒に行動して、食つなぐだけで精いっぱいだった生活から抜け出すのだ。

[それより、本当に揺れて寝れないようなら言ってね。無理して進む気は無いから]

「はい、ゴーレムさんも無理はなさらないでくださいね。」


 そんなことを話した後、荷車を引き始めるゴーレムさん。その背中を業者台から見つめている。手綱などは無い。ただ座って見つめているだけ。頭に生い茂った青葉が歩調に合わせて揺れている。単に木で作られたゴーレムでは無く生きた木で出来た身体は枝も伸びるし花が咲いて果実も実る。一度だべさせてくれたが、非常に美味だった。いつか期を見てもう一度食べさせてくれないか頼んでみようかと思う。


 途中すれ違う人も無く、旅の道行きは順調に進み、日が暮れる。テントに入るとルル様も一緒に入って来た。

「一緒にお休みしよー」

無邪気な声で言われてどこかホッとした気持ちになる。意識しない所で張りつめていたのだろう。

「はいルル様」

「んん、嫌ぁ~」

私の返事に拗ねた様な声で抗議が来た

「なんだかアイオラのルルの呼び方嫌。ルルの事嫌い?」

昨夜テントで話た時とは機嫌が異なる様子。

「昨日は精霊の事を説明してくれてたからそういう話方なのかな?って思ったけど。ゴーレムと話してる時とルルの時とでアイオラの話方が違うの嫌。」

「えっと、もっと親し気にという事でよいでしょうか?」

「よくわかんないけど、そう。ゴーレムはルルの事ルル様なんて言わないよ?」

畏まった言い方に距離を感じているようなのだけれど、ルル様は光の聖霊様だ。普通の人は畏まってしまうだろうし、私も普通の枠からはみ出したつもりはないのでそれに倣ってしまう。

「ええっと、急には難しいので私達、まだ出会って間もないですし。」

「んー、でもこれから一緒に行くんでしょ?仲良しさんがいいよ」

「それならルル様と呼ばない様に気を付けますから、今はそれで我慢してもらえませんか」

「ルルの事なんて呼ぶの?」

「ルル・・・・・・ちゃん?」

少し考えたが幼いという事を考えて言ってみる

「ん、うん」

「ルルちゃん、これでいい?」

「うん、そおいうのがいいよ。お友達っていうんでしょ?」

「ゴーレムさんは友達では?」

「ゴーレムはルルのゴーレムでしょ?」

「あはい」

あまり深く聞かない方が良さそうだ

「ルルね、母様に人間は怖い人がいるから、あまり会っちゃ行けないって言われたの。でもアイオラは怖くないの。なんでだろうね。」

「それは私が弱いからですよ。弱くて何もできないから。」

「そうなんだ、でも怖くないならルルと友達になれるからルルはうれしいな。」

「それは私も嬉しいな。」

なんだか過去の怯えてばかりの自分を肯定された気がした。

多くの人の信仰する光の聖霊が私を友人と呼び臆病な私を受け入れている。何だ目元が熱くなる。

「アイオラ、欠伸我慢してた?眠いなら休もう。ルルも眠いよ。」

「そうですね。今日はお休みしましょうか。」

そう言ってテントの床に横になる。テント内を照らしていたハズのルルちゃんの光は目を閉じるまるで見えなくなる。不思議な光である。


 テント中ではここが動く荷馬車の上だと感じない程に揺れを感じない。少し入り口をかけて外を見れば確かにゴーレムさんの後ろ姿を流れていく景色がある。このまま本当に一晩中進めるようなら予定より早く目的の宿場まで辿りつけるだろう。そうして私は横になったまま目を閉じ、今まで感じる事の無かった安心感を抱きながら眠りについた。

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