ゴーレムさん 1-1 森のゴーレムと光の精霊
前作品の誤字修正しながら書いていきます。
このまま眠ったら死ぬなぁ。
そう感じてのは仕事を失ってから一年過ぎて2度目の冬を迎えた時だった。元々楽観的な性格ではあったのだが、それが今は悪い方へ作用してしまっている。身体が弱く、フルタイムで働けない弟がさらに体調を崩し、介護の為に自身も退職したのだが、当時の政治家の方針で貰えるハズの助成金が貰えなかったり。貰う為に資産を手放せと言われたり。
政権交代があり、それがもらえるという話だが、知ったのは二日ほど前だ。幸か不幸か今日、叔母が手続きを済ませ弟を施設へ入れると引き取って行った。今の制度が続く限り弟は安泰だろう。それも今まで恵まれない身体ながらに精一杯働き収める物を納めてきた彼の成果だ。誇らしいし支えて来た甲斐があるというものだ。惜しむらくはもう弟に合えないであろう事だ。
電気の止まった安いアパートの一室。全て手放し使い切った自分に残ったのは化学繊維の布団一式とヤカンのみだ。物を持たない生き方もあると言うが、一定を過ぎると再起不能になる。ましてや自分の様に身体に何も問題の無い人間は安全網が少ない。後先考えなさ過ぎた事を悔やむ。
「水は体温下がるから飲みたくないけど」
呟く口の中は乾いて歯茎に唇が張り付く。喋りにくいと感じながら暖かくならない布団の中で意識を手放した。
揺蕩うような感覚が全身を包み寒さが消える。火照った身体でぬるい湯舟に使ったようなそんな暑さと寒さが混在する感覚から、そのまま排水溝に吸い込まれるように意識が流れていく。走馬燈ではないが景色の様な物が視界の隅を流れていく。
「――――――――!」
誰かの声?悲鳴のような声の様な物が聞こえる。言葉は解からないが意思は伝わって来る。死にゆく物を引き留めようとする意思だ。それも幼い。自分の死を悲しみ引きもどそうというのだろうか。もっと聞きたい今更ながらに命が惜しいのか生に執着心が湧いてくる。もっと、もっとはっきりとこの引き留める意思を受けたい。そう思い感覚の無い手を伸ばす。温水プールを泳ぐような、ただ声のする方へ手が届くことを願いながら。
「お願い起きて!母様!!」
声の主へ手を伸ばす。しかし身体が動く感覚が無い。体が動かない?朦朧とする意識を辛うじて巡らせながら、いつも布団から起きる時の動作をゆっくりと行う。神経を研ぎ澄まし順番に身体を動かしていく。手足を曲げ胴を起こす。動くたびにそこから新たに身体が作られる様な、そんな感覚に眩暈を覚えながら声のするようへ手を伸ばし、声の主を見つけようと目を凝らす。
そこで目にした光景は見慣れていた自分の部屋では無く、木々が生い茂る見知らぬ場所だった。どこかの公園の木立の中だろうか。周囲を見回しても歩道やベンチは見えない。公園でなければ雑木林?思いつく限り、視界に道路や敷地境界の柵が見えなくなるような雑木林には覚えがない。少なくとも先程までの自分が徒歩で行ける距離には無い。そして声の主の姿も無い。
「なんで、母様は?」
頭上から声がしたので視線を向ける。そこには木漏れ日と木々に生い茂る葉と、ボンヤリとした発光体が浮かんでいた。
「母様をどこへやった、なんだお前は」
強い恐怖と少しの怒りを含んだような声が発光体から聞こえる。
「母様を返せ!!」
声と共に発光体の光が増すがそれだけだ。暫く光ると力尽きたように発行体は地面へ降下する。木陰で弱々しく点滅する発行体。その点滅に合わせて小さな嗚咽が聞こえる。そして徐々に光は弱くなっていく。このままでは消えてしまうのではないか、そん不安が過り何かできないかと心が騒めく。するとその気持ちに応える様に視界の下、自分の胸の辺りから光が発せられるのが見えた。
「母様?中に居るの?」
光を浴びて少し輝きを取り戻した発光体が此方に向き直る様に意識を向けてくる。自分を引き留めた声はこの発行体からの物で間違いないだろう。それにしても何者なのだろうかこんな生物は見たことも聞いた事も無い。
「アンタこそ何なのよ、アタシは母様を引き留めたの。アンタなんか知らない。」
声が出ていただろうか?いや違う、そもそも声が出ていない。喉に手を当てようとして自分の身体の異常に気が付く。触れた感触から手の大きさ、そもそも喉と思った場所にその感触が無い。
「アンタ自分の事人間だと思ってるの?ほんと何なわけ」
何なんだ自分の体はどうなっているんだ?誰か教えてくれ。
その願いに応答するように情報が頭に流れ込んできた。
名称〈未設定〉種族 プラントゴーレム
水魔法Lv10
土魔法Lv10
森林魔法Lv7
代償魔法
レムリアの知識
森の使途
『光の精霊の精霊石を核に樹木を素体に創造されたゴーレム核となった精霊石の生前の記憶を引き継ぐ。』
種族が人間ではない、というかこの情報は何だろう、魔法?精霊?
〈精霊〉
『万物に宿る実体を持たない生命の総称。寿命を迎えると意識を失い記憶と魔力の結晶体、精霊石となる。』
新たな情報が流れてくる。
〈ゴーレム〉
『魔石や精霊石を核に自律して活動する魔物の総称。自然発生のモノと意図的に創造されたものが存在し、後者は基本的に創造主に服従する。』
それからのいくつか情報が頭に入って来る。そこから推察されるのは、目の前の発光体は光の精霊で、その母親が寿命を迎え、それを引き留めようとしたときに母親の精霊石を核にこのゴーレムを創造した。そして何故かは知らないが自分の命がこのゴーレムに宿った様だ。
『死後の世界へ時空を超えようとした魂が呼び寄せられ宿る確率は天文学的だが起き得ない現象ではない。娘をお願いします』
情報に混じって何かが聞こえた。おそらくさっきから解説してくれるのはレムリアの知識だ。核となった精霊の生前の知識と意思なのだろう。というかそうか娘なのか。全然判らないな。それよりも自分の事だ。自分がプラントゴーレムなる存在になっているがそれが何かわからない。ゴーレムは良く物語で聞くそれだというのは解かるが
〈プラントゴーレム〉
『木材では無く、生きた樹木を媒介に創造された半生命体のゴーレム。その能力は素材となった樹木に強く影響される』
また何ともコメントし難い解説だ。とりあえず自分の体が木製なのはわかった。そして解説と共に自分の姿が頭に流れ込んでくる。丸太に藤の様な蔓上の樹木が巻き付いたような胴体に同じく丸太の様な太い腕に大きな手。人間でいう頭は無く、胴体上部に二つの洞が目の様に並びその中で何かが光っている。人間の比率から観れば短い脚も2メートルを超える巨体なので人間に比べると長い。首のあるあたりに髪の毛の様に葉っぱが生い茂る。身体全体にも所々に新芽の様な葉が生えている。その内でも花でも咲きそうな感じする。
口が無い。それ故言葉を話せない。鼻も無い。なのに匂いは感じる。どうにも不思議な身体になったようだ。
「ちょっと!ボーッとしてないでなにかいってよ」
ああ、そうだ彼女に何者か尋ねられていたっけ。自分はプラントーゴーレム、名前はまだ無い。創造したのは君みたいだよ。と、とりあえずそんな感じに気持ちを彼女に向けてみる。これで伝わったろうか?反応を伺う。
「じゃあゴーレムのあんたに命令よ、母様を生き返らせて」
少しの間の後に彼女から命令が下る。その命令に一瞬心が震える様な感触を覚えた。自分の意思と関係なく身体が勝手に身震いした。創造主に服従するという事が何となくわかった。それに忌避感を覚えない自分にもし人間の体なら苦笑いしていたであろう。身体は大きく変わったしまったようだけれど、自分は何も変わっていないようだ。
命令を受けたせいか身体が活動的になってきている。彼女の、名前を知らないが恐らく光の精霊の娘の願いを叶えるにはどうしたらよいか。
「ルルよ」
どうやらルルという名前らしい。ルルの母様、レムリアさんの復活方法など自分が知る由もない。
「アンタがいなくなれば母様は元に戻るんじゃないの?」
それは無いだろう。自分はレムリアさんの
「母様の事は様で呼んでよ」
レムリア様の死後、精霊石になってから宿ったようだし自分が消えても精霊石になったままだろう。復活の時は自分が消えてしまうかもしれないが、元の世界で死んでいる様だし。そもそも精霊の死因は何だろう。
『精霊に寿命は無く、生きる気力を失った時に思考を停止しその時に身体が結晶化する。もう飽きちゃって』
何か聞かない方が良い説明が聞こえた。ちなみに復活させる方法をレムリア様は知っているだろうか。
「ねぇ、またボーッとしてどうしたのよ」
返事がないという事は知らないという事だろう。仮に知っていてもその前にレムリア様が飽きてしまった世界に新たな興味を持たせないとまたすぐに精霊石になってしまいそうである。
『過去に精霊が復活した例は無い。復活後もすぐに精霊石となる仮説は充分にあり得る。あと疲れるのでもう質問しないで。』
あ、解説を期待しているのがバレてる。
「ねぇちょっと、なんとか言いなさいよ」
口調は命令口調だが声は泣きそうだ。なんとなくこういう相手を放っておけないのは性分だ。ルルは復活方法を知っているのかと聞いてみる。生き返らせようとして自分を創造したのだ。何かを知っているかもしれない。
「知らないわよ。ただこうすれば命が作れるって母様に教わったから。」
どうやらゴーレムの作り方は知っていて、同じことをすれば生き返ると思った様だ。その結果別の生命が宿ってしまったわけだ。
「アンタは何か知らないワケ?」
魔法も無い世界から来た自分が知るはずもない。1から方法を調べていくことになりそうだ。
「なんで知らないのよバカ!」
罵る言葉の裏に自分で制御できない感情が感じられるので不快感より心配する気持ちが湧いてくる。ルルは母親を失い混乱しているのだ。
「なんでアンタが、なんで母様じゃないのよ、母様、母様」
それ以降は母親を呼びながら鳴き声を上げ続ける。何も考えない様にひたすら彼女が落ち着くまで待つことにする。光が弱ったら再度自分の核となる精霊石からの光を浴びせてみる。どうやらこちらの意思で光をある程度操作できる様で、強く光らせると胴体に巻き付く蔦状の樹木の隙間から光が漏れだすようだ。やがて泣きつかれて落ち着いたのか鳴き声は消えて、木々のさざめく音のみになる。辺りはすっかり暗くなり、発光するルルの姿とその光に照らされる範囲がぼんやりと暗闇に浮かび上がる。
「えっと、ごめんなさい」
落ち着いたのかな
「母様、最近ずっと口数が少なくて、わたし元気づけようとしてたんだけど全然笑ってくれなくて。昔はもっと私の話に笑いかけてくれたのに、それで、どんどん精霊石になっていって、ワタシ何もできなくて。母様にワタシ嫌われちゃったのかな。」
無心を貫け、生きるのに飽きたとか今のこの子に聞かせる内容じゃない。
「ワタシどうしていいかわからなくて、命を作れるって教わったから、そしたら母様の精霊石に木が絡みついていって、何が起きてるのか判らなくって、怖くなって。」
それで自分の事を罵ってしまった様だ。
「ごめんなさい。あと、えっとワタシ何もしらなくて、母様を生き返らせるの手伝ってくれませんか。」
いいよ
即答する。一度死を自覚し実際に死んで今この場にいる。この先、何がどうなっていくのかまるで想像できないが、ルルという幼い精霊の願いを叶える為に行動するのは決して悪い事では無いし目的として充分だと思った。
「ありがとう」
光の感じが温かみのある柔らかいものに変わる。姿形はまるで見えないが光の加減で感情を推し量ることが出来そうだ。前世結局最後まで弟を見守れなかった。せっかく得られた新たな機会だ。今度は最後までやり遂げたいと思う。
その後、今後の方針を少し相談しお互いに知識が無さすぎる事を確かめた。結論としては森を出て、精霊復活の方法を知る存在を探す方向で話はまとまった。森の中に高い知性を持つ存在はルル親子以外居なかったらしいので森の外、一番近い人間住む街を目指す事にする。そして夜明けと共に僕らの旅は始まった。
読んでいただきありがとうございます
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