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私とパパとスイカ(千文字小説)

作者: 小出元春




 父曰く、私が三つになった年の夏だった。その日は真っ青な空が広がり、当時の最高気温を更新した旨と、甲子園のスタンドから溢れる歓声がラジオから流れていた。


 家の留守番をしていた私と父は縁側に座り、冷やしてあったスイカを食べていた。私は額に汗を滲ませながら、スイカの種を一つ一つ指で取り、取り切れなかった種は口に含んで飛ばして遊んだ。そんな私の横で父は豪快にかぶりつき、種を吐き出すことなく飲み込んでいた。私はそんな食べっぷりを見ながら少し不安になったのかもしれない。幼かった私はこんな質問を父にしたそうだ。


 「ねぇパパ、そんなに種食べちゃって平気なの?」

 それを聞いた父は少し困ったような顔をして、「実はパパみたいに種ごと食べちゃうと、お腹の中で芽が出て、夜になると口から葉っぱが伸びてきて死んじゃうんだ」と言った。


 『死んじゃう』という言葉に私は心底驚き、そのままを信じた私は父のお腹をゆすりながら「死んじゃだめー!」と大泣きしたらしい。程なくして母と兄が帰宅し、私が泣いているのを発見。父が状況を説明したら、母からこっ酷く叱られたらしい。


 『らしい』ばかりで申し訳ないのだけれど、私には殆ど記憶に無い。確かにスイカは昔から好きなのだけれど、少し神経質なくらい種を取り除いてから食べることに思い当たった。原因は父の言葉だったのだろう。


 この話は親戚で集まり、父に酒が入ると毎度のように話した。自分の泣いた話なんて当人にとっては恥ずかしいだけの内容だし、中学生にもなると、その話をする父をウザったいと思った。まぁ、大学生にまでなると私もネタにノっかったり、「また始まった~」と言いながら親戚の人達と別の話をするようになった。


 その日の晩、私が宴会の片付けを手伝っている時に母からこんな話を聞いた。

 「お父さんは、あの時あなたが泣きながら『死んじゃだめー』って言ってくれたことが本当に嬉しかったと言っていたのよ。あの時のお父さんの顔、覚えてる?」




 八月のお盆が目前に迫った日、病院から電話があった。「お父様の容態が」と言われ、仕事場を抜け出し、病院へ向かう。あまり長くないと言われていたので覚悟はしていたけど、やはりその場になるとどうしていいか分からなくなる。病室に着いたが、心電図モニターから流れる音の間隔が少しずつ広くなっていった。弱々しくなった父に最後のお願いを言う。


 「死んじゃ……だめ……」


 父の顔が少しだけ微笑んた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


またあの季節がやってきますね。

私は『H2』が好きです。あの余韻がまた……

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