ジョビ老師
ヤツヨの村も小さな村であったが、オオヤの村はさらに小さくのどかな村だった。国境に近いため旅人相手の宿屋や飲食店で生計をたてている村人が多く、目抜き通りにはそのような店がたくさんあって賑やかなのだが、一歩裏に入ると何もないような村だった。そのような村だったのでジョビ老師を見つけるのは、それほど難しい事ではないようにタミには思えた。ただ国境付近だからだろうか見回りの兵士が時々巡回しているようなので、そこは気をつける必要があるだろう。タミくらいの年頃の少年が馬を連れて歩いているのはやはり目立つことであったので、とりあえずモモを少し離れた林のかげにつなぐと、まずは賑やかな目抜き通りに行ってみることにする。通りには旅人と思われる人が何人も歩いていて、それらの人に向かって呼び込みの男の人が「空き部屋あるよ」などと威勢よく声をかけていた。そんな呼び込みの中の一人がタミに気が付き話しかけてきた。
「ボウズ、この辺じゃみない顔だな、まさか一人で旅してる訳じゃないんだろ?」
「う、うん、ちょっと先に着いちゃっただけ、後から父さんが来るよ」
「だったら今晩はウチの宿はどうだい?安くしとくぜ」
「そうだね、父さんが来たら話してみるよ。ところでこの村にラタハさんて人がいるって聞いて訪ねて来たんだけど、何処に行けば会えるか知りませんか?」
「ラタハ?・・・ああ、あのジイさんか。だったらこの先に酒場が何軒かあるから、そのうちのどれかにいると思うぜ」
「酒場・・・ですか? わかりました、ありがとう」
「ああ、いいってことよ。その代わり親父さんに宿の事を頼んだぜ」
タミが目抜き通りを進んでいくと、一軒目の酒場が見えてきた。店の前まで来て中を覗いてみたが、店の中には何人か客らしい姿が見えたものの薄暗いこともあって、それらの人の中に老師らしき人物が居るかどうかは分からなかった。昼間とはいえ酒場に子供の自分が入って良いものかどうか考えている時に店の中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんだよジイさん、また金も無いのに飲んでやがったのか!こっちだって商売なんだからよ、また払わねえってなら、もうウチじゃ飲まさねえぞ!」
ジイさん?もしかしたらジョビ老師の事かも知れないと思ったタミは店の中へと入っていった。
「あの~、すみません」
その声に言い争いをしていた店主と老人や他の客達が一斉にタミに目を向けた。
「この中にラタハさんという方はいませんか?」
そう言ったタミに言い争いをしていた老人が駆け寄ってきた。
「おおっ、おぬしか、待っておったぞ。それでは後は頼んだぞ」
「へっ??」
老人はタミを無視して店主に向かって話しはじめた。
「このボウズがワシの酒代分は働いていくからの、よろしく使ってやっとくれ」
「えーっつ!?ちょっと待って、なんで僕が??」
「そういう訳じゃからの、しっかり働いてくるんじゃぞ」
そう言うと、びっくりするような素早さで店を出ていってしまった。
「なんだボウズはラタハじいさんの知り合いか?なんだか知らんがそういうことなら、しっかり働いていってもらうぞ」
どうやらさっきの老人はジョビ老師で間違いないようであったが、その第一印象はタミが想像していた人物とはかけ離れたものだった。
それからの酒場はどんどん客が増え始め、けっきょくタミはもう一人の若い店員と夜遅くまでほとんど休みなく皿洗いをやるはめになってしまった。
「ラタハさんて、いつもあんな感じなんですか?」
「あんな感じ?」
「うーん、昼間からお酒を飲んでダラダラしているような・・・」
「あー、そういう意味なら、あんな感じだね。でもいざとなったら頼りになる爺さんだよ。ほら、この村は旅人の往来がはげしいからさ、旅人同士や旅人と店との諍いがけっこうあるんだわ、そんでもってどうにも解決できなくなった時は、みんなあの爺さんを頼りにするんだよね」
皿洗いをしながらそんな話が聞けたので、タミは少しだけ安心することができた。ようやく最後の客が帰り、店が片付いたところで店主にラタハの家を聞くと簡単な地図を描いてくれたので、モモを迎えにいってから老師の家を訪ねてみることにした。
モモを繋いできた場所に行くとモモはおとなしく待っていてくれてはいたが、さすがにお腹が減っていたとみえて、タミが近づいてくるのが分かると催促するように唸りだした。
「ごめんよぉモモ、待たせちゃったね」
そう言って店主が分けてくれた店の残り物を地面に置くと、モモはガツガツとあっという間にたいらげてしまった。
「それだけじゃあ足りないよね・・・ごめんな、もう少しだけ辛抱して」
店主の描いた地図によると老師の家は村はずれの丘の上にポツリと建っているようだった。巡回の兵士に気をつけながら道を急ぐと、程なくして老師の家らしき所に着くことができた。家には薄っすらと灯りが確認できたが、物音など人の気配はまったく感じられなかった。タミは家の周りを一周してみてから再び玄関らしきドアの前に立つと、少し強めにドアをノックした。
「すいません!ここはラタハさんの家でしょうか?」
しばらく待ってみたが、人が出てくる気配はなかった。ドアノブに手をやり右にひねってみると、当たり前のようにドアが開いたので、タミは思い切って「どなたかいませんか?」と声を出しながら灯りが見える方へと進んで行く。そうして灯りが漏れている部屋の前に来ると慎重にその部屋の中を覗いてみた。その部屋は不思議なくらい何も無い部屋だった。唯一部屋の真ん中に一本の丸太が立ててあり、その丸太の上に両手を胸の辺りで合わせて目を閉じているラタハが立っていた。老人はぴくりとも動かず、薄明かりの中でまるで銅像のようだった。タミはなんだか声を掛けてはいけない気がして、その場でじっと老人の姿を見つめていた。そうして五分ほど経った時だった、ラタハの目がゆっくりと明いて、タミの姿を認めると笑顔になった。
「今日はごくろうじゃったな、おかげでまたあの店でも飲むことができるわい」
そう言って丸太からひょいと飛び降りた。
「腹は減っておらんか?」
「あ、いえ・・お店で食べさせてもらったんで大丈夫です。あの僕は・・・」
「うむ、ヤクータの息子であろう?」
「え、そ、そうです。でもなんでわかったんですか?」
「いくら辺境の村といってもな、それくらいの情報は入ってくるわ。ヤクータが捕らえられ、その息子が逃げたとなると、ワシを頼ってくる事を想像するのは難しくないことじゃ」
「・・・母や弟も一緒に連れてくるつもりだったんですが、僕が家に着いた時には既に城に連れていかれてしまった後でした。父の言いつけ通りにここまで来ましたが、これからいったいどうすれば三人を助けられるのか分からないんです。どうか助けてください」
「うむ、おぬしの気持ちはよくわかる。だがな、相手が王国となると力技でどうなるものでもない。こういった時に大事なのは情報なのじゃ。ワシもリヨース国王の事はよく知っておるが、現時点でワシが掴んでおる情報の中の国王はこれまででは考えられない振る舞いをしておる。こうみえてもワシは王国の中にしっかりとした情報網を持っておってな、今はそれを使い、あらゆる情報を集めておるところじゃ。おぬしは石の力を手に入れたと聞いておる、石の力は使い方を誤ると大変な事になるのは分かるじゃろ?今は来るべき時に備え、正しく石の力を使いこなす為にワシの元で修行に励むのがよかろう」
タミは黙ってラタハ・・いやジョビの言葉を聞いていた。そして少しの間、考えて答えた。
「わかりました、よろしくお願いします。 それと一つだけどうしても知りたい事があるのですが、調べてはもらえませんでしょうか?」
「ん?なんじゃ」
「はい、僕がヤツヨの村で兵隊に捕まりそうになった時に騎士学校にいるはずの親友が助けてくれたんです。彼がその後どうなったか、どうしても知りたいんです」
「ふむ、なるほどの、できるかぎり調べてみるとしよう」
「ありがとうございます!」
「まずはおぬしの口から事の経緯を聞きたいところじゃが、今日はもう遅い、明日の朝にでも詳しく聞かせてくれるかの?」
「はい・・・あ、そうだ!馬がいるんです、ここまで僕を運んでくれた。何か食べ物を与えたいのですが」
「おー、そうじゃその話も聞いておるぞ。おぬしに馬を貸してくれたのは石の騎士の一人ユーウじゃよ、おぬしの父親の弟弟子じゃ」
「弟弟子?」
「うむ、ユーウは訳あって幼いうちからワシの元に預けられての、ヤクータが修行を終える前の一年ほどはヤクータもずいぶんと世話をしておった。そんなこともあって、ユーウが石の騎士となった時にはお互い再会を喜んでおったものじゃよ」
「そうなんですか、だから馬を・・・ここまで来ることができたのはモモのおかげです。あの時にモモを貸してもらえなかったら、すぐに捕まってしまっていたと思います」
「そうじゃな、ユーウに出会えたのも神のお導きなのであろう」
次の朝、朝食を済ませるとタミは自分の目線でこれまでの出来事を老師に聞かせた。老師は時々その事実に驚きながらもタミの話を聞いている。
「なるほどの、おぬしが石の力を得た時の話には驚かされたが、大体のところはワシが掴んでおった情報と変わりはないようじやな。となると重要なのは国王に何が起きたかを知ることじゃ、簡単な事ではないであろうが。因みにおぬしはリヨース国王と会った時にどのような印象をもったかの?」
タミは謁見の間でリヨース王に会った時の事を改めて思い出してみた。
「そうですね・・・父さんから聞かされていた印象と違い、なにかこう冷たい感じで、喋っていてもあまり感情が無いような・・・」
「・・・ふむ、そのように感じたか・・・ワシが思うに国王の異変について考えられる可能性は三つ。一つは何かの出来事が国王自身を変えてしまった、二つめとして国王の意思とは別に発言や行動を強要されている、三つめは何者かが国王になりすましている。どうじゃ、おぬしはどう思う?」
「・・・はい、僕は元々の国王の事を知らないから、はっきりとは言えないけど、確かにその三つくらいしか思い浮かびません・・・でも最初の二つの理由はともかく、誰にも気付かれないくらいそっくりになりすましたりする事って出来るものなんでしょうか?」
「普通に考えたら無理な話よの、だがこの世の中にはおぬしが考えもよらぬ力を持った石もたくさん存在するのじゃよ」
老師のその言葉でタミは髭の男といたユニコと呼ばれていた男を思い出していた。
「では老師は誰かが石の力を使っていると考えているんですか?」
「ワシが知っている限りでは一つめの理由と成りうるような出来事は起きていないはずなのじゃ、次に強要されている可能性なんじゃが、もし誰かが国王を脅しているとすれば石の騎士達がその事を見過ごすとは思えんのじゃ、だが考え方を変えれば石の力を使い何者かが国王を操っていると考える事もできる。三つめの他人になりすます力を持った石が存在するのも事実だしの」
他人を操る力・・・まさにユニコの力がそれじゃないか!タミの不安は大きくなっていく。
「・・・もしかしたらなんですけど丹色の鷲のやつらが関係している可能性はありますか?」
「うむ、その可能性は大いにあるぞ、やつらはその組織力を生かし様々なアビテを確保しておるらしいからの、おぬしの話からしても確実にやつらは我がリヨース王国に潜入してきておるわけじゃしな」
一度は老師の話に納得して、力を蓄える事に専念する気になったタミであったが丹色の鷲の名が上がったところで燻っていた気持ちが抑えられなくなる。
「老師!本当に情報がそんなに大事なのでしょうか?僕はこんな所でおとなしくしている場合じゃないと思います!もっとするべき事があるのと違いますか?」
興奮状態になりつつあるタミをなだめる様に老師は落ち着いた口調で答える。
「ともかく今はワシの言葉を信じるのじゃ、おぬしは午後からでもさっそく修行に入りなさい。ワシにはおぬしの力が必要になる時がそう遠くないうちに来ると思えてならんのじゃ。その時の為に今は自分の力を伸ばす事だけを考えるのじゃ」
「でも、のんびりしている間に父さんや母さんに何かあったら・・・」
「わかっておる!だが焦って行動を起こしても何にもならんのじゃよ」
老師のその口調に只ならぬ決意を感じ取ったタミは黙って納得するしかなかった。
その日の午後、ジョビからタミに修行の内容が伝えられた。
「老師、ひとつ聞きたいのですが、なんで日中のほとんどが店の手伝いになっているんですか??」
「ハッハッハ、働かざる者食うべからずじゃよ、わかるじゃろ」
「・・・はぁ」
タミは今ひとつ納得がいかなかったけれども、文句を言っても仕方がないと諦め、黙って老師の言われたとおりにすることにした。
「店にはおぬしの話はしてあるからの、訪ねていけばすぐにわかるであろう」
「はい、じゃあいってきます」
前日の店での忙しさを思い出すと足取りが重くなるタミだったが、考えて方を変えてみれば楽な修行などあるはず無い事に気づき、気を取りなおして老師に渡された地図を見るとどうやら昨日の店とは違うようだ。地図を頼りに歩いていくとそこは四、五十人は余裕で入れる規模の大きな食堂だった。開店前の店の中でモップをかけていた男の人に話しかけると老師の言っていたように話はすぐに通じ、たいした説明も無しに玉ネギの山の前へと連れていかれ、それから半日は玉ネギとの格闘となった。遅い昼食の後は皿洗いをこれでもかとばかりにやらされて、気が付くと驚くほど時間が経っていて、心なし赤い顔をした老師が向かえにきた。
「おージイさん、孫だかなんだか知らんが、子供を働かせて自分は昼から飲んだくれて、いい身分だね~」
「ほっほっほ、家に住まわしてやるんじゃから、それなりに稼いでもらわんとな。ほれ、帰るぞ」
店主との話もそこそこに二人は店を出て、村はずれの家へと向かって歩き出す。
「老師は今日も昼から飲んでいたんですか?」
「ん?まぁほんの少しじゃよ・・・というかのワシにしてみれば、酔いに負けぬ精神力を鍛える修行みたいなもんじゃ。ハッハッ」
「修行ですか・・・」
「修行と言えばおぬしの夕刻の修行じゃがの、薪拾いとキノコや野草摘みをする日とな、魚釣りの日を交互にやってもらう事にする。今日のところは一旦家に戻り、道具を取ってきたら夕飯を釣ってきてもらうとするかの」
それから二人は家から釣道具を取ってくると、歩いてすぐの所にある川へとやってきた。森の中を緩やかに流れるその川には川底がはっきり見えるほどの澄んだ水が夕日に照らされ輝いていた。
「よいか、この糸の先に付けた金属片をな、魚のいそうな場所で上下させるのじゃ、するとキラッと光った時に小魚と勘違いして獲物が食いついてくるというわけじゃ。狙うのはマソウという魚じゃが、こいつがえらくすばしっこいヤツでな、エサでないとわかるとアッという間に吐き出してしまう、こいつを釣り上げるにはとにかく集中力じゃ、竿を持つ手に神経を集中し、かすかな異変を感じたら素早く竿を上げる、これだけじゃ」
そう言って竿をタミに渡すと家に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ老師、僕はこれまで釣りなんてしたことないんです、できれば手本を見せてもらえませんか?」
「手本か?・・・まあ、よいじゃろう」
老師は竿を持つとキョロキョロと川を見渡し、川岸に引っ掛かった流木を見つけると、腰を屈めながら静かにその場所へと近づき針の付いた金属片を投げ入れた。手首で煽るように竿先を上下させると一分とかからぬうちに掌からはみ出すくらいのキラキラと光る赤い魚を釣り上げた。
「な、簡単じゃろ?」
「はあ、確かに簡単そうには見えましたけど・・・」
「大事なのは、魚がいるであろう場所の見極めと、わずかな水の流れの違いも感じ取ろうとする集中力じゃ、その為の修行であるからの」
そういい残すと、釣り上げたマソウを持って、今度こそ家へと帰ってしまった。
「集中力かあ、そりゃあ老師は慣れているから簡単に釣れるんだろうけどさ」
その後、すっかり日が暮れるまで粘ってみたものの、タミは結局マソウを一匹も釣り上げる事はできなかった。そんなタミに老師は笑って言った。
「一匹も釣れんかったか、まあ最初はそんなものじゃ、そうやって少しづつ集中力を身に付けていく為の修行なのじゃからな。ただし夕飯が粥だけになってしまうがな。ハッハッ」
その言葉通り粥だけの夕食を済ますと、昨夜、老師が丸太の上で瞑想していた部屋へと向かった。寝る前に丸太の上で瞑想するのがその日の修行の締めくくりであるのだ。老師は朝夕それぞれ一時間ほど瞑想するのが日課であったが、まずはその半分の時間が課題としてタミに与えられた。丸太の上で目をつぶってバランスを取るのは思った以上に難しく、この日は何度も丸太から落っこちて、とても瞑想と呼べるようなものではなかった。老師にはバランスを取ろうと意識しているようでは駄目なのだと注意を受けたが、一日二日で出来るようなものでないのも事実だった。
次の日、夜が明けて少しすると枕元で聞こえる鍋を叩く音でタミは目を覚ました。
「ほれ、いつまで寝ておるんじゃ。今日は勘弁してやるが、明日からは師匠より先に起きておかんといかんぞ!」
「・・・すみまへんでした・・明日から気をつけまふ・・・」
半分寝ぼけながらタミは答える。眠気を覚ますように冷たい水で顔を洗うと老師の後についてロードワークへと出かけた。走ることにかけてはタミも多少なりとも自信があったのだが、老師はとても老人とは思えぬ速さで野山を駆け抜け、度々老師が立ち止まってタミを待つ事となった。
「なんじゃだらしないの~、こんな年寄りについてこれんのか」
「年寄りって・・・こんな速さで走りまわる年寄りなんて普通はいませんよ」
そうしてヘトヘトになって家まで辿り着くと、休む間もなく朝食の支度を言いつけられた。これまでほとんど料理などした事の無かったタミだったが、昨夜のうちにジョビから渡されていた、ヤクータを始め、これまで歴代の弟子達が書き綴っては受け継がれてきた料理など家事に関するノートを読みながら朝食を作り上げた。
朝食が終わると次は丸太の瞑想が待っていた。昨夜とあまり変わりなく何度も丸太から落ちてしまったが、終わってみると不思議と心が落ちついた気がした。
その次は武術の稽古だ。といっても老師が直接、相手をしてくれる訳ではなく、まずは剣の素振りから始まり、それが終わると型の指導が繰り返された。
そうこうして食堂へと行く時間になる。食堂が本当に忙しくなるのは夕方過ぎであったが、昼は昼で昼食を求める旅人達も多く、夜の仕込みなどと合わせるとかなりの忙しさであった。食堂から戻ると今日は薪拾いの日だ。朝食作りに使ったノートには食べられるキノコや野草の識別方法も書かれていたので、そのノートを持っていって薪と一緒に食材を採ってくるようにと老師は言った。戸惑いながらも何種類かのキノコと野草を採ってくる事ができたタミは、少々うんざりしながらもそれらを使い、例のノートを頼っての夕食作りを始める。どうにか夕食を作り終えたが、その味は老師を満足させるのには程遠かった。最後に再び丸太の上で瞑想をしてタミの長い一日が終わった。ヘトヘトになってベッドへと向うタミを老師は呼び止めた。
「どうしても知りたいと言っておった友達の件じゃがの。確かにおぬしがヤツヨの村で捕まりかけた時に一人の少年が王国兵士に捕らえられておった。彼は仮入学にもかかわらず無断で騎士学校を抜け出していた事もあって入学は取り消しとなり、今は家で軟禁状態だそうじゃ」
恐れていた通りになっていた。タミはその事実に打ちのめされ、力なく老師にお礼だけ言ってベッドにもぐりこむ。体は疲れきっているはずなのに、その夜タミがぐっすりと眠りにつくことはなかった。