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ストウン  作者: たくりょう
6/20

父の決断

次にタミが目覚めたのは自分のベッドの中だった。最初は自分の置かれている状況が理解できずに朦朧としていたが、椅子に座ってウトウトしている母ヨーキの姿が視界の隅に入ったところで獣人退治での出来事がぼんやりと思い出されてきた。

「・・・母さん」

 とても小さな声だったが、ヨーキはその声ですぐに目を覚まして、タミが目覚めたのが分かると目に涙を浮かべ抱きついてきた。

「ああタミ、ああよかったわ。本当に心配したのよ」

「ちょっと痛いよ母さん、なんだか体中が痛いみたいなんだ」

「あっ、ごめんなさい。でもあなた丸二日も目を覚まさなかったのよ、母さんも生きた心地がしなかったんだから」

「えっ二日も?そうか・・・ごめんね心配かけて」

「ともかくお父さんを呼んでくるわ」

「あ、でも待って、おなかも減ったし、僕が下に下りていくよ。やっぱり二日分おなかが空いてるみたい」

「そうね、そうよね。すぐに何か食べる物を用意するわ」

 涙を拭いて笑顔を見せるとヨーキは一階へと下りていった。タミはベッドから出るとパジャマを脱いで、自分の体を鏡に映してみる。見事に全身に傷だらけの姿が、そこに映し出されて、これなら痛いはずだと思わず納得する。なるべく傷に触れないようにゆっくりとパジャマを羽織ると、食べ物のいい匂いが漂い始めた一階へと下りていく。一階のキッチンでヨーキが慌ただしく食事の準備をしているのを横目で見ながら、テーブルにつくとすぐにケスリョが駆け寄ってきた。

「兄ちゃん!目が覚めたんだ!良かった~」

「ああ、心配かけてごめんな」

そう言ってケスリョはタミの横に座ると嬉しそうにタミの顔を見ていたが、料理が運ばれてくる前には何処かに遊びに行ってしまった。間もなくヨーキがパンとスープそれと目玉焼きなどを運んできたので、それらをかき込むように食べ始める。半分ほど食べ終わった頃にヤクータがテーブルへとやってきた。

「おっ、ようやく目が覚めたか、体中に怪我はしていたが擦り傷や打ち身といった具合だったので心配はしてなかったのだが、それにしてもよく眠ったなあ」と笑っている。タミは目が覚めてからの間ずっと父親に何から話すべきかを考えてはいたけれど、結論は出ないままだったので、ただ父親の顔を見つめ返すだけで何も言えないでいた。

「・・・父さん・・あの・・・」

「ん?・・・ともかく食べてしまいなさい。話はそれからだ」

「・・・うん」

 そうして残りのすべての食べ物をキレイに食べ終わるとヤクータの方から話し始めた。

「さてと腹ごしらえも終わった様だし、色々と聞かねばならんの。ともかくいつ何処でディネ力を手に入れたのだ?まずはそれから教えておくれ」

 そう言ってヤクータがタミの目をじっと見つめた時だった「ガチャン」と何かが割れる音がキッチンに響いた。

「何ですって!?今、ディネ力とおっしゃいました?タミがディネを呑み込んだと言うんですか!いったいなんでどうしたっていうの?」

「まあ母さん落ち着きなさい、これからそれを聞こうとしているのだよ」

「落ち着いてなんかいられません!ディネを勝手に呑んだというなら、どんな処罰が待っているかあなただって分かっているでしょうに」

「もちろんわかっているよ、だからこそ詳しい話を聞いて、これからの行動を考えねばならんのだよ」

「それはそうかもしれませんけど、だからってそんなに落ち着いてなんかいられませんよ!」

 ヒステリックにまくし立てるヨーキをなだめるようにタミが話し始める。

「待って母さん、僕はディネを呑んだ事は後悔していないんだ、もちろん処罰の事は考えたけどそれでも後悔はしてない。これからその理由を話すから聞いて欲しいんだ」

 タミのその言葉を聞くとヨーキは少しだけ落ち着きを取り戻したようで黙ってテーブルに着いた。

「では話してごらん」

「うん」

 タミはディネを見つけて呑み込んだ経緯をその時の自分の気持ちを交えながら、ゆっくりと思い出しながら話した。その間、二人は一言も話す事なく黙って聞いていた。そうしてタミが全てを話し終わった後も暫らく二人は黙って考えていたが、やがてヤクータが話し始めた。

「そうか・・・そんな状況でディネを見つけたというのか・・・それもひとつの運命かもしれんな。ともかく改めて礼を言うぞ、タミありがとう。お前のおかげで私は命を失わずに済んだ」

「そんな、元々は僕がいたから父さんはあんな奴に・・・」

「いや、お前を連れて行くと決めたのは私だからな、あのような状況にしてしまったのは私の責任であるのだよ」

ヨーキは相変わらず心配顔で黙っている。

「それでな、これからの事なんだが、体の傷が癒えたらタミと供にリヨース城に向かおうかと思う。国王にすべてを話し、しかるべき判断をしていただこう」

「そんな・・・あなた、そうしたらタミは一生幽閉されてしまうかもしれないんですよ」

「その可能性が無いとは言わん、だがなヨーキよ、私は長年リヨース国王に仕えてきて、あの方の人となりは十分に理解しているつもりだ。リヨース国王は年齢こそ若いが一国の主として尊敬するに値する人物なのは間違いない。今回タミがディネ人となった経緯を話せば正しい決断をしていただけるであろう」

「それはリヨース国王はすばらしい国王だと私も思いますよ、でも・・・それでも私は心配なんですよ」

「うむ、私も心配だよ。私の為に法を犯した息子にもしも厳しい処罰がくだったと考えると・・・このまま家族だけの秘密にしておくべきではと考えてしまったりもする。しかしな、私は国王を信じたいと思う。もちろん何かしらの処罰は受ける事になるだろう、だがリヨース国王は結果だけで全てを判断されるお方ではない、それが大きくタミの人生を狂わせる程の処罰にはなるとは考えづらいのだ。だからお前達も私を信じてはくれないか?」

 タミはその父の言葉によって改めて覚悟を決めた。

「・・・うん、わかったよ。僕は父さんを信じる、お城に行ってすべてを話すよ」

「タミ・・・本当にそれでいいの?私も父さんの事は信じているけど、それでも・・・」

「うん、そりゃあさ、怖くないって言ったら嘘になるけど、ディネを呑む時に覚悟は決めたし、それでも本当に後悔してないんだ。だから母さんも心配しないで待っていて。それに父さんだって国王に嘘をついたまま石の騎士を続けていくのは辛いと思うし・・・」

 ヨーキは少しの間、まっすぐタミの目を見つめてから話し始めた。

「・・・わかったわ。ごめんなさい、私だけ取り乱してしまって」

「ごめんね母さん」

 そう言うとタミは背中から優しく母親を抱きしめた。


 同じ頃、リヨース城近くの深い森の中で、ある三人の男が密会していた。

一人はまるで蝋人形のように黙って立っているだけで息をしているのかさえ分からない。その蝋人形男に向かって一人が話しかける。

「いい感じで力が働いているじゃないの。いいな、これが例の石だ、しっかり持っとけよ」

 そう言って蝋人形男の手に小石を握らせると今度はもう一方の男に話しかけた。

「よし準備は整った。後はお前の力の見せ所だぞ」

 そう言い、男の肩に手を乗せるとそれを合図に男の体が赤く光り、直後に蝋人形男が一人歩き出す。男が向かう先には木々の上に聳え立つリヨース城の黒い影が見えた。


 タミの怪我はそれから三日程かかって大体治った。怪我が良くなるにつれて、城に向かって出発しなければならない現実が近づいてくることを感じ、タミの不安は大きくなっていったが、そんなことを口にすればヨーキが悲しむのは分かりきっていたので、タミは努めて明るく振舞うように心がけた。その間もヤクータはリヨース国王の話を色々としてくれた。十五歳の時に病気で父親を亡くし国王の座に就いた事、夫を亡くし悲しみに暮れる女王を支え続けた事、国民の為にどのような政策をとるべきか日々勉強している事、そのような話を聞いていると少しだけ不安な気持ちも軽くなったのだった。

 そしてその日の夕飯を食べ終わった時にヤクータがタミに話かけた。

「タミよ、体調もずいぶん回復したようだし、明日の朝に出発しようと思う、準備をして今日は早めに寝ておきなさい」

 タミは返事こそしたものの、いよいよかと思うと憂鬱な気持ちになり、なかなか寝付く事ができなかった。朝になりヨーキに起こされベッドから出た時はひどく頭が重く感じ、窓の外を見るとそんなタミの気分を表したかの様にどんよりとした曇り空が広がっていた。いつもと同じ様に朝食をとり、いつもと同じ様に後片付けを始めたヨーキであったが、その後姿を見ていたタミはヨーキの肩が時々震えているのに気付き、とても切ない気持ちになっていった。

「それじゃ母さん、行ってくるね」

「タミ・・・きっと王様はわかってくれるわよ、すぐには帰ってこれないかもしれないけど、少しの辛抱だと思って・・・体には気を付けるのよ」

「うん、ありがとう母さん。母さんも少し寂しいかもしれないけど待っていて。ケスリョも母さんの言うことをちゃんと聞いて、母さんを困らせるんじゃないぞ」

「わかってるよ・・・兄ちゃん・・・早く帰ってきてね」

「うん、そうだな」

「それではヨーキいってくる・・・すまぬな、タミの事は任せてくれ」

「お願いします。あなたも気を付けて・・・」

「うむ、わかった」

 最後にケスリョは半ベソになってしまっていたが、ヨーキは笑顔で見送ってくれた、タミも不安な気持ちを堪え、頑張って笑顔で手を振り返した。

 ヤツヨの村からリヨース城までは馬でも丸一日は掛かるので、城に着くのは明日の昼前くらいになる予定である。今晩は途中の山の中で野宿をする事にしていた。温めたスープとパンだけの簡単な夕食を済ませると、石の力を利用して焙煎した石茶を片手に焚き火を囲みながら二人は色々な話をした。

「ところでお前の力の事なんだが、自分ではちゃんと力について理解はできているのかい?」

「うん、実はあれから試しに何回か力を使ってみたりしたんだけど、意識を集中させた部分を石みたいに硬くできるみたいなんだ」

「そうか・・・石の力か鋼の力といったところのようだな。そうだ一つ注意しとかねばならんのだが、自分の力が気になるのは分かるのだがな、それが違法な事であることを忘れてはいけないよ。徐々に城に近づいて行く訳だし、これから先は力を封印しておきなさい」

「うん、わかったよ、これから力は使わない様にする」

「うむ、後ひとつ話しておきたいのだが、これは最悪の事態を考えての話なのだが、もしもお前が姿を隠さないといけない状況に追い込まれてしまった場合、王国の北のはずれにオオヤの村という小さな村があるのだが、この村に私の師匠であるジョビ老師というお方が住んでおられる、現在は名前をラタハと偽っているのだが。もしもお前がこの方を訪ねて行ったなら、必ずや力になってくれる事を覚えておきなさい」

 その夜、タミは父親の師匠にあたる人物とはどんな人物なのだろうと想像を膨らませているうちに眠りについていた。

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