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ストウン  作者: たくりょう
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石の力

次の日からヤクータは一日のうち数時間はタミの為に剣術の稽古をつける時間を作ってくれた。タミは一度だけコパ探しにも付いてきて欲しいと頼んでみたが、ヤクータは決して付いてきてはくれなかった。それはあくまでも自分の力だけでコパを見つけろという父親の教えだと理解したタミは毎日泥だらけになりながら、これまで探してないような場所を選んでは探し回ってはみたけれど、アレクと二人で探してもなかなか見つからなかったコパが一人で簡単に見つかるはずもなかった。そうこうして数日が過ぎたある日のこと、村人の一人がヤクータを訪ねてきた。

「ヤクータ様、すみません今日はご相談があって訪ねさせてもらいました。私は裏山の麓で牧場をやっているゾンタと申します」

 人の良さそうな顔立ちの四十代と思われるその男は話をそう切り出した。

「それでゾンタさん、私に相談というと、どのような話かな?」

「はい・・・私のところの牧場では余程の悪天候でなければ朝早くに羊たちを山に放牧して、たっぷりと新鮮な草を食べさせた後、日が暮れる前に家畜小屋に全て集めて鍵を掛けてから、村の端にある母屋に帰るという営みを続けています。昨日もいつものように放牧していた羊達を残らず家畜小屋に入れると鍵を掛けて家へと帰りました。そして今朝も日の出から少し経った頃に羊たちを放牧する為に小屋に向かった訳なんですが、小屋が近づいてきても鳴き声ひとつ聞こえてこないもんでおかしいと思い、急いで小屋の中に入ってみるとひどい有様でして・・・羊たちがほとんど噛み殺されていました。最初は狼の仕業かとも思ったのですが、小屋の鍵は間違いなく掛かっていましたし、何匹かはいなくなっていましたがほとんどが殺されたまま小屋に残されていました。やつらが食べる分以外を襲う事はめったにない事ですので・・・」

「・・・獣人か・・・ともかく状況を見てみましょう」


 牧場の家畜小屋に着いて、中に入ってみると羊たちは片付けられてはいたけれど、中にはむっとした血の臭いがまだ漂っており、壁や土に染み込んだ血の跡と合わせて凄惨な状況が目に浮かぶようであった。ヤクータは注意深く小屋を一回りしてから屋根付近にある窓を眺めながら話し始めた。

「窓枠が壊されている、どうやらあの窓から出入りしたようだな・・・出入りの状況と殺戮を楽しんでいるともとれる状況からすると獣人の仕業と考えて間違いないだろう」

「やはり獣人ですか・・・これからどうしますか?」

「うむ、まずは村役場にいって対策本部を作る手はずを整えましょう。体制が整ったら山狩りをせねばならんだろう、被害者が出てからでは遅いですからね。それからガヤ駐屯地にもデリバーを飛ばしておきましょう」

 それからのヤクータを軸とした村人達の動きは早く、その日の夜には山狩りを行う事となった。タミは自分も山狩りに参加すると主張したが、ヨーキがそれを許してはくれなかった。しかし傍で二人のやり取りを聞いていたヤクータが口にしたのは意外な事にこんな言葉だった。

「ヨーキよ、獣人は確かに危険な存在であるし、お前が反対する気持ちはよくわかる、だがタミも騎士学校へ入れる年齢となり、これからは大人の男の役割を少しづつでも経験するべきだと思うのだよ。今回は私と供に行動させ、そういった経験をさせるいい機会だと思うのだ。もちろん私が傍について常に目を離さないと約束するので許してやってはくれまいか」

 ヨーキは何か言いたげな顔をしていたが、結局は諦めたようにこう言った。

「・・・あなたがそう言うのなら、私には反対できませんよ」

 そう言い終わるとヨーキは後ろを向いて、忙しそうに食事の後片付けを始めるのだった。


 ゾンタの牧場には二十代から五十代の男性ばかり、百人ほどの村人が集まっていた。もちろんタミが最年少なのは間違いない。ガヤ駐屯地からも応援が来る予定であったが少し遅れている様だ。村人達はおのおのストーンライトと麻酔薬の塗られた槍を持って立っている。村には厳戒令が敷かれ、残った女性や子供達は戸締りを厳重に行うと、部屋の中で夫や父親、子供の無事を祈った。

「皆の者、今日はまことにご苦労である。軍からの応援はまだ着いていないが、あまりのんびりもしておれん。これから五人一組となって打合せした道順をおのおの通って探索をおこなってもらう、もし獣人を発見したらまずは合図の笛を鳴らすことを忘れないでくれ。襲われた家畜の状況からして、かなり凶暴な輩と考えられるので気を引きしめて慎重に行動してもらいたい。では順次、出発してくれ」

「よーし!では第一班から出発するぞー」

 オオーッ!村人達から一斉に声が上がる。村人達は順番におのおのの方向に向かって歩き始めた。そうして最後にヤクータ達の班と探索本部となる十人程が残っていた。

「それでは我々も出発するとしよう」

 ヤクータのその声で五人は川に向かって歩き始める。ヤクータ達は川まで着いたら、川に沿って山を登っていく道順を探索する予定になっていた。獣人も生き物である以上、生きていく上で水を必要とするので、水場の近くに潜んでいる確率は高く、ヤクータはそれを狙って自ら川沿いの道順を選んでいた。

獣人とは水に濡れるとピンクに光る魔獣石を呑んでしまった人間が変化した生き物の総称である。様々な種類の動物の属性があり、元となる動物の見た目と習性を受け継ぐが、その殆どが人間に害を及ぼす動物がモデルとなっている事が問題であった。石の力と呑んだ人間の精神力・体力とのバランスにより、人間でいる時間と獣人でいる時間の割合が決まってしまうが、強い精神力を持つ事である程度はコントロールが可能と考えられている。また人間時の性格が獣人時に反映されるので、今回現れた獣人はかなりの悪人の成れの果てと考えられた。欲深い人間ほどピンクが赤に見えてしまいディネと間違えて呑み込んで獣人になってしまうといった言い伝えもあったが、稀にコパやプラタを二種類以上取り込んだ時の組み合わせによってはそれらが体内で魔獣石に変化してしまう事があり、運悪く獣人になってしまった人も極少数ではあるものの世の中にはいるのだった。

タミはこれまで一度も獣人を見た事はなかったけれども、何度も獣人を捕らえているヤクータからその恐ろしい様子を聞かされていたので、どんな生き物なのかは理解しているつもりでいた。三十分ほど川を遡ったところで森側を歩いていた一人が声をあげた。

「ヤクータ様、ちょっとこれを見てください!この部分なのですが、草が踏み潰されていて何かが通った跡のように見えるのですが・・」

「・・・うむ背丈くらいの高さの小枝が折られた形跡もあるし、この跡を追ってみる価値はあるようだな。 みんな、ここより森の中に入るのでなるべく固まって歩くようにしてくれ。頭上にも注意を払うのも忘れずにな。 タミは私のすぐ後ろを歩きなさい」

 タミは指示に従いヤクータにくっつくように歩き始めた。いよいよ獣人に近づきつつあると思うと緊張が高まってくるのが自分でもわかった。

 しばらく森の中を歩いて行くと崖下の少し開けた場所に突き当たった。全員、立ち止まって辺りを見回していると崖下に赤黒い石のような物が転がっているのに気が付いた。何かと思い、近寄ってみるとそれはどうやら羊の体の一部のようだった。タミは思わず「ウワッ」と声をあげてしまったが、大人達は羊を確認すると槍を握る手に一段と力を込めてから、別々の方向に向かってライトを照らし始める。

「ヤクータ様、まだ近くにいますかね?」

 一人の村人がヤクータに問いかけたその時だった「グワアァァァ」と低く大きな叫び声が聞こえたかと思うと崖の上からバラバラといくつもの石が転がってきた。タミが石の転がってきた先を見上げると大きく黒い影が月明かりに浮かび上がり、それは自分達に向かって飛びかかってきているように見えた。タミがその大きな影に恐怖したのと同時にヤクータが両腕を影に向かって突き出す。その掌が赤く光るとそこからは小さな竜巻の様な風が発動された。竜巻は影に向かって真直ぐ向かっていく。「ゴオオオオ」という爆音と共に竜巻は影にぶち当たり、そのままの勢いで影を上空へと押し上げていった。その隙に村人の一人が連絡用の笛を鳴らし、甲高い笛の音が森に響き渡る。

「みんな槍を構えておれ!落とすぞ!」

 ヤクータの掌から噴き出し続けていた竜巻が止ると、夜空に同化してほとんど見えなくなっていた黒い影がみるみる近づいてくる。地面に激突すると思った瞬間に影は体制を立て直すと足から着地した。「ドスン」といった鈍い音がすると同時に土埃が舞い上がり、その中でヨロヨロとしている影にストーンライトの光が当てられた。そこに浮かび上がったのは全身短い毛で覆われてズボンだけ履いているヒヒのような顔をした獣人の姿だった。ヤクータは獣人に向かって再び掌を突き出す。さっきと同様に竜巻が飛び出すと、獣人は竜巻に押されるようにして激しく崖に激突した。獣人が苦痛の叫び声を上げると同時にヤクータは槍を投げつけ、その槍は獣人の胸の辺りに命中し、獣人は背中から倒れこんだ。

「一本では足りないかもしれん、続けて頼む!」

 三人の村人が慌てて獣人に近づき、槍を突きたてた。獣人はゼエゼエと声を荒げていて、もはや立ち上がる力すら残ってないようだった。やがてまったく動かなくなったかと思うとピンクの光が獣人を包み、獣人の体に変化が起き始めた。短い毛はすべて抜け落ち、突き出ていた鼻面は引っ込み始め、同時に恐ろしげな二本の犬歯も引っ込んでいく。光が消えると、そこには三十歳くらいの薄汚れた一人の男が横たわっていた。

「よし、この者はもう大丈夫だ。縄で両手足を縛って、仲間達を待つとしよう」

 ヤクータはそう言うとタミにニッコリと微笑みかけた。そして何か話そうとした時だった。パチパチパチと拍手の音が聞こえてきたかと思うと、木の陰から二人の男が現れた。一人は小柄な老人のようで、もう一人は口髭を生やした何となく意地悪そうな顔をした男であった。髭の男が拍手をやめて話し始めた。ヤクータは鋭い目つきで男達を睨んでいる。

「いや~すばらしい、さすが名立たるリヨース王国の石の騎士ヤクータ殿ですな。獣人などまったく相手にしないその戦いっぷり、まったくもって見事ですな」

そう話しながらこっちに近づいてくるのを制止するようにヤクータが言う。

「おぬしら何者だ?獣人以外になにやら悪意を持った気配があるのは感じていたが・・・」

「悪意とはまた随分な言われようですな。まあもっとも間違いとは言い切れませんがね」

「間違いでないと言うならば我らの敵であると判断して良いようだな。おぬしら山賊というわけでもなさそうだが、ストーンレベルなのではないか?」

「・・・確かに私達は国王の許可を得ないで石の力を得た者ではありますが、敵かどうかはまだ分かりませんよ。私達がここにいる目的は二つありましてな、一つは石の騎士ヤクータ殿の実力を見極める事で、もう一つはその実力が我らの仲間になるのに値すると分かった場合、我ら丹色の鷲の仲間へとお誘いする事でしてな」

 タミは二人の男を睨みつけていたヤクータの目が更に怒りで燃え上がったような気がした。

「丹色の鷲だと!・・・私に丹色の鷲の一員になれと申すのか?」

「もちろん幹部クラスとしてお迎えしますよ」

 そう言い終わるか終わらないうちにヤクータは腰から剣を抜くと髭の男に切りかかっていた。

ガチッ!!

髭の男もすばやく剣を抜いてヤクータの剣を受け止めた。そのまま二人は睨み合っている。

「予想はしていたが交渉決裂のようですな。残念ですが、仲間にならないのならば今ここで消えてもらいましょう。ユニコやれ!」

 小柄な男の方はそれまで黙って二人のやり取りを見ているだけだったが、その言葉に頷くと、なにやらブツブツと喋り始め、そしてその体が赤く光り始める。

 タミがディネ人だと思った直後に不自然に地面が揺れだして、次の瞬間に何か巨大な物が地面から現れた。それは体長五コンプはありそうな巨大な土竜のような生き物タルピーだった。それも一頭だけではなく、同じくらいの大きさをした二頭が同時に現れていた。

 タルピーは槍を突き出す村人達を巨大な手で払いのけるように吹き飛ばす。吹き飛ばされた村人達は木や地面に叩きつけられ動かなくなってしまった。タルピーはタミに向ってもその巨大な手を振り回してきたが、タミはとっさにしゃがみ込み、間一髪避ける事に成功する。一瞬タミを見失ったタルピーに向かってタミは槍を投げつける。槍はタルピーの右肩の辺りに命中したが、その巨体に対して槍に塗られた麻酔薬の量はあまりにも少なすぎた。

 タミがタルピーと戦っている間もヤクータと髭の男はまだ剣でやりあっていた。ヤクータの背後にはもう一匹のタルピーが張り付くように立っていて、隙を見せようものなら大きな手を振り回してくるのでヤクータも集中しきれず戦いが長引いているところもあった。

「やはり簡単には倒されてくれませんな、だがこれならどうかな」

 髭の男の腕が赤く光ったかと思うと掌から炎が噴き出した。だがその炎はヤクータに向かって出されたものではなかった。炎は一塊の弾丸のようになって真っ直ぐにタルピーから逃げ回っていたタミへと向かっていく。

「タミッ!!」

 ヤクータが叫んだ。炎はタミの服をかすめて木にぶつかって、メラメラと木が燃え始める。タミの服からは焦げ臭い煙が立ち上り、タミは慌てて煙の出ている辺りを手ではたいた。

「おっと惜しかった。それならもう一発!」

 再び炎がタミめがけて打ち出されたが、それと同時にヤクータの掌からは竜巻が飛び出す。タミの目の前で炎と竜巻が激しくぶつかると聞いたこともないような音が反響するのと同時に煙のようなものが舞い上がる。煙が消えて再び前方に視界が開けると、ちょうどヤクータがタルピーの一撃を受けてしまったところだった。タミを助けようと石の力を発動させた隙に攻撃されてしまったのだ。吹き飛ばされたヤクータに向かい、髭の男が炎を発射した。炎はヤクータに命中すると一瞬でヤクータは炎に包まれてしまう。しかし炎の中でヤクータの体が青く光ったかと思うとヤクータの全身から勢い良く大量の水が溢れ出し、炎を消し去った。

「ほほう、水のプラタ力も持っているのか、ますます仲間にできなくて残念だよ、考え直してはみぬか?楽しい思いができるぞ」

「バカをいえっ!」

 ヤクータのその言葉を聞いてニヤリとすると、髭の男は次から次へと炎をヤクータに向かって投げつけてくる。ダメージを負ったヤクータにはそれらを避けるのが精一杯のようだった。タミが援護しようと駆け出したところにタルピーが攻撃をしてきた。必死に横っ飛びで避けようとしたタミだったが、風を切る音を立てながら振り下ろされたタルピーの爪先がタミの足先を引っ掛けていった。タミの体が勢いよく地面を転がっていったかと思うとその姿が突然、煙のように消えてしまう。当の本人さえも何が起こったのか理解出来ないでいたのだが、この時タミはタルピーが地面から出てきた時に出来た大穴にすっぽりと落っこちてしまったのだ。穴の中はちょっとした崖とも言える傾斜がついていたので、タミは自分ではどうする事もできないまま暗闇を転がり続け、傾斜が緩やかになって、ようやく止まった時には全身擦り傷だらけになってしまっていた。

 タミにとってヤクータは父親であると同時に無敵の英雄であり、一瞬とはいえ髭の男に火達磨にされてしまった姿はまるで悪夢を見ているような感覚をタミに植えつけて、穴の中を転がっている間も頭から離れることはなかった。体中のあちこちに痛みが走り、どこをどう怪我をしたのかよく判らない状態にもかかわらず、すぐさまヤクータの元へ駆付けなければという思いがタミを起き上がらせようとしたが、気持ちとは裏腹に体は言うことを聞いてはくれなかった。痛みを堪え、どうにか上体を起こしたところで、まともに立ち上がる事もできない自分が仮にヤクータの所まで行けたところで何も役立てない現実に気が付いた。

「みんな僕のせいだ・・・僕がいたせいで父さんはあんな奴に・・・」

 タミは自分の無力さが悔しかったのと、何より大好きな父親が殺されてしまうかもしれない現実が容赦なくタミの胸を締め付け、気が付くと大粒の涙をボロボロと流していた。涙は頬を伝い、次々と地面へと落ちていく。そんな時にある異変が起こった。涙でぼやけるタミの瞳が地面の上に赤い光を捉える。地面についた両手の辺りに転がっていた小石の一粒がタミの涙で濡れた事によって赤く光り始めたのだった。まさに奇跡が起きた瞬間だった。アビテの見た目は普段はただの砂利とも言える小さな石にすぎないけれども、水などの液体によって濡れる事でディネは赤く、プラタは青く、コパは緑にと輝き始めるのである。石の色はそれを取り込んだ時に発揮される力を現しており、同じ能力を持った石ならば、緑より青、青より赤い石がより大きな力を発生させる事ができる。だからこそディネやプラタは王室によって厳重に管理しておく必要があるのだ。

「まさか、嘘だろ・・・・」

 赤い石・・・すなわちディネを国王の許可なく呑む事は重罪である。国によっては死刑になる場合だってあるのだ。しかしタミに選択の余地は無かった。たとえ石の光が赤ではなくピンクだったとしても、この時のタミは迷うことなく、それを呑み込んだであろう・・・ヤクータを助けられる可能性が広がるのであれば。小豆ほどの大きさの赤い石を摘み上げると、確認するように少しの間見つめていたが、次に目を閉じると思いきってそれを口に放り込んだ。

 アレクがコパを呑み込んだ時がそうであったように、タミの体を赤い光が駆け巡り、不思議な事にさっきまで立ち上がる事もできなかったタミの体に力がみなぎってきた。暗闇の中に出口は見えなかったけれども、幸い傾斜のおかげで出口の方向だけは判断することができた。両手の拳を力一杯握りしめて体力が完璧以上に回復しているのを実感すると、タミは猛然と穴の中を駆け上って行ったのだった。

 暗闇の坂道の中で何度も転びそうになりながらも穴から抜け出すと、外は髭の男の出す炎が燃え移った木が何本もあるせいで、思いのほか明るく森の中の様子が照らし出されていた。そんな中、ヤクータはまだ髭の男と戦っていた。決して望ましい状況とはいえなかったが、タミはヤクータが生きている事に感謝した。ヤクータは二匹のタルピーの攻撃をかわしながら、火事が延焼してしまわないようにと水の力を使い、そして髭の男を倒そうと必死で戦っていた。炎によるダメージも残っているのだろう、その表情はとても苦しそうに見える。タミはまず自分が何をすべきかを冷静に考えようと努めた、そして少し離れた所で時々赤い光を放つ小柄な男を見つけた時に何をするべきかを悟った。タルピーはただ闇雲に暴れまわっている訳ではなかった、明らかに髭の男を援護するような暴れ方をしていたし、現れたタイミングも出来すぎに思えた。小柄な男が赤く光るのはディネ力を使っていると考えて間違いないだろう、となるとタルピーと男の関係もおのずと見えてくるのだった。タミは行動を開始した。ユニコと呼ばれていた男はタルピーを操るのに集中しているからか、タミが自分のすぐ傍に近づくまで、その存在に気が付かないでいた。

「ハッ?小僧!まだ戦えるのか!」

 ユニコがそう叫ぶのと同時にタミは男に殴りかかる。タミの体が赤く光り、握り締めた右の拳が灰色っぽく変化した。その拳を力いっぱい男の顔面を狙って殴りつけたのだ、ユニコはとっさに腕で顔をかばったが鈍い音と供に倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。そしてその瞬間にまるで糸が切れた操り人形のようにタルピー達の動きが止まったのだった。髭の男がタルピー達の異変に気付き、こちらを振り向く。

「小僧!何をした!?」

 そう叫ぶが早いか炎を連続で打ち出してくる。タミは無意識のうちにそれを避けようとはせず、その場で全身に力を込めた。再び赤い光が放たれると今度は全身が灰色っぽく変色して、そこに炎が直撃する。ヤクータとの戦いの最中にそこまで見ていた訳ではない髭の男だったが、長年の戦いの経験から炎がタミに命中した事を感じ取り、この厳しかった戦いにも終焉が近づいた事を確信した。息子が死んだとなると、この手強い石の騎士にも隙ができるはず、ここで一気に畳みかければ石の騎士といえども倒せるであろうと・・・しかしヤクータの攻撃は衰える事はなかった、そればかりか力を増している様にさえ感じる。確かめる様にタミに炎が直撃した辺りに目をやると思いもよらない光景が目に入り、髭の男はうろたえた。倒したはずの少年が何事も無かったかのごとく自分に向かって走ってきていた。隙ができてしまったのは逆に自分の方になっていた、その隙を突いてヤクータが発射した小さな竜巻に足元をすくわれると背中から派手に地面へと倒れこむ、慌てて起き上がり、追撃に備えようとしたところに少年の拳が飛んできた。髭の男は腕を十字に組んで防御したが、子供の力にダメージを受けるとは考えもせず、すぐさま反撃して人質にとってやろうとさえ考えた。だがしかし自分を襲った衝撃の強さはそんな事をできるような穏やかなものではなかった。苦痛によろめきながら、目の前にいる少年が普通でない事を確信したところに再び竜巻が飛んできた、慌てて炎の壁を作って防ぐ事に成功したその時に、少年の体が赤く光るのを見て男は驚愕した。「そんなバカなっ!ディネ人だと!」 男は短い時間の中で考えを巡らせる、石の騎士に加えて子供とはいえディネ人がもう一人、タルピーはもう役には立たない、果たして勝算はあるのか?男が出した結論は撤退だった。少年のディネが何の力を持ったものなのかは分からなかったが、動きが速くなる訳ではないのが男には幸いした、タミの攻撃を避けると炎の壁を作り、ヤクータの繰り出す竜巻をかわしながら倒れているユニコの元へ駆け寄った。ユニコは死んでいる訳ではなかったけれども意識が朦朧として自力で歩ける状態ではなかった。

「チッ、仕方ねえなぁ、ほらユニコ逃げるぞ、つかまれ」

 ウウウと小さく唸るだけのユニコを無理やり抱き起こすと、首からぶら下げていた銀色に光る笛らしき物に息を吹き込んだ。その笛の音はタミの耳には聞こえなかったが、数秒すると木立の中から馬が飛び出してきた。馬は真っ直ぐ男の元へと駆け寄り、男はユニコを抱えて馬に跨るとヤクータに向かって叫んだ。

「これで終わったと思うなよ!また近々会えるのを楽しみにしてるぜ」

 そう言い残してアッという間に木立の中に消えて見えなくなった。男が見えなくなるのを確認するとヤクータはすぐさまタミの元へ駆け寄った。

「タミ!お前いったいその力は・・・」

「父さん・・・よかった・・・僕、役に立ったよね?」

そう言い終るとタミは突然意識を失ったのだった。

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