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ストウン  作者: たくりょう
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親友の旅立ち

オキサラマの一件の後、タミとアレクの二人は揃って風邪をひいて寝込んでしまったが、そのおかげで夜中に家を抜け出したあげく泥だらけで帰ってきた事に関してはあまり怒られずに済んだので、二人は発熱に苦しみながらも、その事をラッキーだと考えた。やがて風邪が治ってくると、アレクの母親レミーは騎士学校への入学準備を慌ただしく始め、その甲斐あって十日後にはアレクは仮入学の為に旅立つ事となったのである。仮入学で数週間過ごした結果、問題が無ければ本入学となり、卒業までの間は寮で過ごす事になる。年に二回ほど二週間程度の長めの休みがあり家に帰る事も許されたが、卒業までは何年かかるかわからない。母子二人暮らしのアレク親子は出発までの残された日々を喧嘩などしないでなるべく仲良く過ごすように勤めた。


「もう毎日毎日、母ちゃんがよ~、忘れ物はないかとか、入学したら張りきりすぎて無茶するんじゃないよとか同じような事ばっかりうるさくてよ」

「まぁ、当分会えなくなる訳だし、おばさんもやっぱり心配なんだよ、それくらい許してあげないとさ」

アレクはコパを飲んでしまった事でタミにすまないと思う気持ちがどうしても残っているみたいで、風邪が治ってからは毎日タミをコパ探しに誘っては必死になって探してくれたのだが、これまで散々探してきて、ようやく見つけたコパが立て続けに見つかるはずもなかった。タミ達の家の近所には同じ年頃の男の子は二人だけだったので、物心ついてからは毎日のように二人で遊ぶのが当たり前となっていて、もうすぐ離れ離れになってしまう事がタミには実感が沸かなかったが、向かいの家を訪ねてもアレクがいない事を想像してみると、寂しい気持ちが波のように押し寄せてきて、素直に祝福できない自分を嫌に思ったりもした。十日間はあっという間に過ぎてアレクが出発する朝を迎えると、アレクの家の前には近所の人達が集まっていた。その中には一つ年下の女の子のカリンもいる。

「いたずらばっかりして、学校を追い出されたりしないようにね」

「なんだよカリン、俺だっていつまでも子供じゃないんだぜ」

「あんまりそうは見えないけどなー」

「うるせーな~、ようやく入った騎士学校だぜ、バカはしねーよ」

 そんな二人の脇にはカリンの双子の妹カノンもいて、笑顔のカリンとは対照的に今にも泣き出しそうな顔をしている。タミはカノンがアレクの事を好きなんじゃないかと前々から感じていたが、今日の様子を見ている限り、それは間違いでなかったと確信した。家からはヨーキが出てきてレミーに話しかけたところだ。

「今日は本当におめでとう。太陽もアレクを祝福しているみたいね」

「ありがとう・・・あのねヨーキ、アレクから聞いたんだけど、最初にコパを見つけたのはタミだったらしいのよ・・・私、最初は知らなくて、なんだかごめんなさいね」

「あらいいのよ、気にしないで。そのへんは二人で決めた事でしょうから。そんな事より今日はガヤの町から軍の定期便で騎士学校まで行くのかしら?」

「そうなのよ、ガヤの町までは歩いて行ってもらおうと思って、少し早い出発になっちゃったのよね」

二人がそんな会話をしている時に、遠くに馬に跨った人が近づいてくるのが見えてきた。この世界で馬と呼ばれているのは地球で言うところの馬とは違い、二足歩行する小型の恐竜のような生き物だった。だんだんとその馬との距離が近くなり、タミはハッとして叫んだ。

「父さん!あの馬に乗っているのは父さんだよ!」

 その声に集まった人々は一斉に近づいてくる人物に注目し始めた。タミとケスリョはすでに走り始めている。

「父さん、父さん、おかえりなさい!どうしたの突然?」

「ただいまタミ、ケスリョ。アレクが騎士学校に入学すると聞いてな、例の件も一段落した事だし、お前の誕生日にも帰れなかったんで、少しばかりまとまった休みをもらってきたんだ」

 そう言ってヤクータは馬から降りるとケスリョを抱き上げた。

「じゃあ、しばらく家にいられるんだね」

「ああ、しばらくといっても一週間ほどの予定だがな。誕生日には帰ってこれなくてすまなかったな」

「うん、いいんだよ。わかってるって」

 三人はそんな会話をしながら皆が集まっている所まで歩き出した。

「帰ったよ、ヨーキ」

「おかえりなさい、あなた」

 妻を軽く抱きしめてから、ヤクータはアレクとレミーに話しかけた。

「今回はおめでとうございます。騎士学校には知り合いも多いので宜しく頼んでおきましたので安心してください。 アレク、おめでとう。石の騎士となる為にも努力を惜しまず頑張るのだぞ」

「ありがとうございます。こんな子ですから厳しく鍛えていただいて、ちゃんとした人間になってもらえればと思います」

「ありがとう、ヤクータ様。俺、頑張るよ」

「うむ、辛い事もあるかと思うが挫けるでないぞ。そうだ今日はガヤまで私が馬で送って行ってあげよう」

「ホント!やったー」

 そうこうして別れの時がやってきた。

「アレク、頑張ってね。僕も必ずコパを見つけて追いかけるからさ」

「そうだぜタミ。ちょっとだけ先に行って待ってるから、早く来いよ」

 そう言って二人は軽く拳を合わせた。カリンが笑って手を振っている横でカノンは泣き出してしまっている。アレクはそんなカノンの肩をたたき「お前も元気でな」と声をかけたが、カノンは頷く事しかできなかった。

「それじゃあ母ちゃん行ってくるぜ、体には気をつけるんだぞ」

「あんたこそ体を大事にするんだよ、あたしの事は心配いらないから、しっかりやるんだよ。 ヤクータ様、お手数掛けますがお願いします」

 うっすらと涙を浮かべたレミーの横でタミはいつまでも手を振っていた。


 それから一時間ほどして、アレクを送っていったヤクータが戻ってくると、その夜は久しぶりの家族四人揃っての夕食となった。ヨーキはヤクータがアレクを送りに行っている間に市場に行って、たくさんの食材を仕入れて、テーブルいっぱいの夕食を用意した。ヤクータは久しぶりに食べる妻の手料理を満足そうに食べている。

「そういえば父さん、例の件は片付いたって言ってたけど、それって丹色の鷲の話でしょ?全員捕まえる事が出来たって事?」

 タミがそう質問するとヤクータはタミの目を見つめた後に顎に手をやり、髭を指でこすりだす。タミは父親が何か考え事をする時のこの癖を久しぶりに見た気がして何となく嬉しくなった。そして少しの間考えてからヤクータは静かに話し始めた。

「いや全てが解決したという事ではないんだ。確かに密入国しようとしていて捕まえた人間の中に丹色の鷲のメンバーらしい者がいるにはいたんだが、ディネ人はおろかプラタ人さえも一人もいなくてな、全員がコパ人だった。密入国の罪で当分は拘留されるだろうが、いずれは釈放せざるえないだろう。そうなった時にやつらは我が国の情報を自国に持ち帰り、今度こそプラタ人、ディネ人らの者達が侵入してくるのではないかとの考えが多数あるのだ。まぁ今回の休暇はそのような事態に備えて、今のうちに休養をとっておこうといった意味もあるのだよ。もちろんそうは言っても国境警備はこれまでよりずっと厳重になっているのだけどね」

 タミとヨーキはその話を聞いて、想像していたよりもずっと深刻な状況に気付くとともに改めてヤクータの仕事の重要性を感じたのだった。その晩は他にも色々な話を四人はしたのだけれど、タミは一番話したかったオキサラマの一件はヨーキに話してなかった事もあって、結局話せずじまいだった。そんなタミの気持ちが通じたのか、タミがベッドに入り寝ようとしているところでドアをノックする音が聞こえてきた。ヤクータは部屋に入ってくると枕元の椅子に座り、しげしげとタミの顔を眺めてから言った。

「母さんの前では話せなかった事があるんじゃないのかい?」

「・・・父さんはなんでそんな事がわかっちゃうの!?」

 ヤクータは声を出さずにニヤリと笑った。

「まぁ何となくわかるものだよ。でも本当は母さんに隠し事はよくないのだがな」

 タミは頭をかきながら素直に謝った。そして夜中に部屋を抜け出してベンケの沼に行ったこと、オキサラマに襲われた時にアレクがコパを呑んで切り抜けたことを手振りを交えて話した。その間、ヤクータはタミの事をじっと見つめながら静かに話を聞いていた。そうして一通りタミが話し終わると話し始めた。

「そうか、それは大変な冒険だったようだな。ただなタミよ、勇気とは何かを勘違いしてはいけないよ。勇気とは何かと考えた時に私が思うのは、自分以外の人も含め悲しみは少しでも少なく、喜びは少しでも多く、そうなるべく行動することが本当の勇気ではないだろうか?お前も石の騎士を志すのであればこれから先、幾度となく勇気を試される場面に出会う事になるだろう、そうなった時に誤った判断をしない為にも私の言った事の意味をよく考えてみておくれ」

 そう言ってヤクータは部屋を出ていった。タミは一人ベッドの中で父の話した勇気について考えてみた。父の言いたかった事はなんとなくわかった気はしたけれど、いざその時になって正しい行動がおこせるかと考えるとあまり自信がなくなってしまうのだった。

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