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ストウン  作者: たくりょう
20/20

決着

一旦、ヤクータ達から離れた偽国王が向かった先にはユーウによって大量の麻酔を打ち込まれて動けなくなっている水竜の姿があった。水竜は人の腕くらいはありそうな太いロープで体中を地面に押さえつけられている。偽国王はまだヤクータ達が追いついて来ていないのを確認すると手を水竜の体に押し付けて、その手を赤く光らせた。光はどんどん広がっていき、遂には水竜の体と偽国王の体、全てを包み込み、ヤクータ達が追いついた時には偽国王の体が巨大化していくところだった。

「何だって!まさか変化の力で水竜になろうとしているっていうのか?」

「こりゃ、厄介な事になってしもうたのお」

 光が収まるとそこには、すぐ脇で地面にうつ伏せに縛り付けられている水竜とまったく同じ姿をした巨大な生物がいた。水竜は雄叫びをあげると赤く光らせた口から巨大な氷柱を吐き出しだした。

「いかん!みんな逃げるんだ!」

 それまでの様子を呆然と眺めていた衛兵達が大騒ぎしながら一斉に走り出す。水竜は次々と氷柱を吐き出し、それらは城の建物を破壊していった。

 氷柱を避けて転がったジョビを土の津波が飲み込もうとする。土が全身を覆いつくす寸前でユーウがジョビを上空へと助け出す。

「もう少し早くこんか!」

「すみません、でも待たせただけの成果はありますよ」

「なんじゃと?それはつまり・・・」

「ええ、そうです」

 ユーウが見つめる先にリヨース国王の姿を見つけたジョビが歓喜の声を上げる。

「よくやった!さすがはワシの弟子じゃ」

 ジョビと共に地上に降りたユーウに向かってナイカが叫ぶ。

「こいつをあいつに呑ませられるか!」

 ナイカが投げつけた合成石を受け取りユーウが答える。

「ああ、やってみる!」

 ヤクータも国王の存在に気が付き、今や全ての力を開放して水竜に攻撃を仕掛けていたが、その力を持ってしても様々な石の力を巨体から繰り出す水竜を攻めあぐねていた。そんなヤクータの横にシューミとエンザスが並ぶと次々と空気砲と雷とを打ち出した。堪らず水竜は尻尾を振り回して三人を攻撃する。三人は散り散りとなって尻尾を避けると再び全力で攻撃を開始する。苦痛のあまり空に向けて大口を開けた水竜の上にはヤクータを拾い上げたユーウが待ち構えていた。ユーウがその大きく開けられた赤い口に向かって、力いっぱい合成石を投げつけると、後を追ってヤクータが突風を送り込む。突風によって合成石が水竜の口の中、奥深くへと押し込まれると突然、水竜の動きが止まり、少しの間を置いて体の中心辺りから赤黒い光が広がっていき、やがて光が全身に行き渡ると、地面が震える程の雄叫びをあげながら天に向かい大きく口を開け、そこから赤や青に輝く小石を噴水のように吹き出し始めた。そして最後に一際強く光ると光が消えた後には巨大な水竜の代わりに小さなウサギの姿があった。


ウサギに向かい走り出したナイカとすれ違うようにヤクータは国王の元へと走った。

「リヨース国王!よくぞご無事で」

「うむ、心配をかけたな・・・」

 状況が呑みこめないでいた衛兵達だったが目の前に現れたのが本物の国王であると分かってくるにしたがって歓声が大きくなっていく。ウサギの耳を掴んだナイカも国王の元へと戻ってきた。

「ディネが三つ、それ以外にも結構な量の石を取り込んでいたようだ・・・ところで結局こいつは何者なのだ?」

 そう言ってナイカはウサギを睨みつける。

「その者こそ丹色の鷲の創始者クリミマなのだよ」

 険しい表情をした国王が答えた。


 ガイアは城に送り込んでいた仲間達数人とワセカ王国に向かい馬を走らせていた。ガイアの馬に自分の馬を並べたユニコが後続との距離が広がったのを確認してからガイアに話しかける。

「ガイアよ、一つだけ教えてくれ」

「ん?なんだよ改まって、まあ答えられる事は答えてやるから言ってみな」

「今まで想定していた以上に慎重だった奴らがなぜ今日に限って、あれほど大胆に動いたのか考えてみたのだが、おぬし何か仕組んだのと違うか?」

「・・・まず言っておくが俺は別に平和が嫌いなわけじゃないんだぜ。平和の裏で甘い汁を吸いながら贅沢な暮らしができりゃ、それで満足なんだ・・・あの人が三つめの石を手に入れたら何をしようとしていたか想像できるか?」

 ユニコもガイアの考えには賛同できた。そうなる為にクリミマに従ってきた訳なのだから。だったら、なぜ?ガイアの行動を不可解に思いながらユニコは答える。

「手始めにリヨース王国は完全に手中にできただろう、それの何が問題なのだ?」

「問題はその先だ・・・あの人はそれだけじゃあ満足できないのさ、つまり俺と違って平和が好きな訳じゃないんだな。隣国に対して戦争を仕掛けて、この世の中を混乱に陥れるくらいの事は考えていただろうさ。それは俺としては賛成しかねるって事だ。とは言え、ここまでの事態は俺も望んじゃいなかったんだけどな、三つ目の石がどうにかあの人の手に渡らないようにと考えたんだが、上手くいかねえもんだな」

 そう言って夜空を見上げたガイアの横顔をユニコは黙って見つめた。


 リヨース王国が近年において最大の危機を脱した次の日の午後、町のコロシアムは住人や城に使える者達で溢れかえっていた。国王本人から昨日までの国王は偽者だった事が告げられるとあちらこちらから「ああやっぱり」などといった驚きの声が上がった。石の騎士によって偽国王は捕えられ、危険は去ったとの話がされたが、偽国王の正体については何も明かされる事はなかった。またこの時にヤクータとユーウの二人が再び石の騎士の使命に着き、入れ替わるようにガイアが賞金首になった事が明かされると民衆からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。ガイアと丹色の鷲の関係はこの場では伏せられたが、今回の件にワセカ王国が関与していない事が説明され、今後もワセカ王国とは友好的な関係を保つ事が公言された。そして最後にナイカが現れると当然のごとく驚きの声でコロシアムは包まれた。ナイカ自身が偽国王に囚われていた事を説明すると驚きの声は喜びの声へと変わっていった。この日の発表については王室の正式声明として各駐屯地へデリバーが飛ばされ、駐屯兵から各地の住人に知らされる事となった。

 

 その日の夜、リヨース城の謁見の間には石の騎士を始め、王室の中枢を司る人々が全員集まっており、その中には太后の姿もあった。そして彼らが緊張の面持ちで見つめる視線の先には国王と向かい合って立つヤクータとタミの二人の姿があった。

「本来の私として対面するのは初めてであったなヤクータの息子よ」

 タミは恭しく頭を下げながら、初めて謁見の間に入った時の事を思い出していた。あの時に対面した国王と同じ顔をした国王が目の前に立っていたが、その周辺に漂う空気の質がまるで違っていることをタミは感じていた。そんなタミの様子を察してか国王は笑顔で話し始めた。

「前にここで対面した時と体は同じなのだがね。ま、それはさておき今回の一件では、お前達親子にはずいぶんと迷惑を掛けてしまったようだ。すまなかった、このとおりだ」

 そう言い頭を下げる国王にヤクータが慌てて答える。

「滅相もございません。お顔をお上げ下さい。私達は親子共々、国王のお役に立てて喜ばしいかぎりでございます」

「そう言ってもらえると私も気が楽になるよ、ありがとう。 ヤクータの息子よ、名は何と申したかな?」

「はい、タミといいます」

「そうかタミか。それではタミよ、お前に質問せねばならんのだが、聞いたところによるとお前はディネの力を得たそうだがそれは真か?」

 タミがヤクータの顔を見るとヤクータはタミの方に顔を向け黙って頷いた。

「はい本当です」

「そうか・・・まあ、そのあたりの事情については報告を受けておるのでな、情状酌量の余地はあるとは考えている。とはいえディネの不法搾取は重罪であるが故、無罪放免という訳にはいかんのだ。処罰については王室法務部と相談の上、申し伝える事とする」

「はい、わかりました」

 二人は深々と頭を下げてから国王の次の言葉を待っている時だった。それまで黙って座っていた太后が口を開いた。

「国王ちょっと話してもいいかしら?私もあなたもこの者達には随分と助けられました。何か褒美を取らせてもよくなくって?」

「・・・確かにそうですね。今回は本当に助かったよ、ありがとう。太后が仰るように何か褒美を取らせたいが何がよいであろう?」

そう言い終ると国王は腕を組み考え始める。思いがけない国王の言葉にタミにはある一つの考えが思い浮かんだが、先に口を開いたのは国王の方だった。

「・・・そうだ処罰の軽減ではどうだ? 法務大臣よ、異存はあるまい?」

 突然、話を振られた法務大臣はしどろもどろとしながら答える。

「国王のお気持ちもわかりますが、罪状も罪状ですので、ある程度は示しのつく処罰にするべきだとは思いますが・・・」

「示しのつくか・・・だがこの件については改めて公にする必要はないと私は考えていたのだが」

「そうするにしても一般国民はともかく、衛兵達の間でこの件を知らぬ者はいないかと存じます」

「おおっ、そうであった、衛兵といえば実は先程、衛兵隊の隊長から、このような物を渡されたのだが」

 そう言って国王はサイドテーブルの上から紙の束を取って見せた。それはガイアの炎からタミが守った衛兵達が中心となり、城中の衛兵から署名を集めた直訴状であり、内容はタミの刑の軽減を訴えるものであった。その直訴状に一通り目を通すと法務大臣は言った。

「・・・我が国の兵達は統率が取れていて誇らしいかぎりですな」

「そなたもそう思うか?私もまったく同感だよ」

「わかりました。その少年の処罰については国王にお任せいたします」

「そう言ってくれるか、それではすまんがそうさせてもらうよ」

国王は一度咳払いをしてから改めて話し始めた。

「ヤクータの息子タミよ、石の掟違反の処罰を言い渡す。そなたには福祉施設への三ヵ月間の勤労奉仕を命ずる。細かい指示が出るまでヤクータの私室で謹慎しておれ」

「ありがとうございます!」

 ヤクータが歓喜に満ちた声でそう応えたのに対し、タミは難しい顔をして黙って何かを考えているようだった。

「ん?どうしたタミよ。処罰に不満でもあるのか?」

「・・・あの国王様、そのお言葉、本当にありがたく思います。だけど僕にはどうしても気がかりな事があって・・・それは今回の件で僕は親友を一人犠牲にしてしまったのです。彼はせっかく騎士学校に入学したところだったのに、僕を助ける為に取り消しになってしまったのです。褒美は刑の軽減ではなく、彼が再び騎士学校へ通えるようにして頂く事にはなりませんでしょうか?」

 その言葉を聞いていた人々はざわめき、国王もまた驚きを隠せずにいた。

「それではお前は何年も投獄されてしまうかもしれんのだぞ、それでもよいのか?」

「・・・仕方ないと思います」

「ヤクータよ、息子の言葉をどう思う?」

「・・・息子が自分で考え決めた事ですから、受け入れたいと思います。またそう決断した息子をとても誇りに思います」

 リヨース国王は左手を顎に持ってくると、一点を見つめ考えている様子だったが、やがて考えがまとまると話し出した。

「そもそもタミの身に降りかかった事実が間違いだったとすれば、それを正そうとした者を処罰するのも間違いであるのだろう。だとすれば今回の褒美とは別の話だと私は考える」

 誰からともなく沸き起こった拍手で広間はいっぱいになっていった。

 国王の姿から一転してウサギの姿へと変わったクリミマはナイカがそうされたように地下の隠し牢へと収監されたが、その事実はリヨース国王及び石の騎士と各大臣のみが知っているだけであった。クリミマから吐き出されたアビテは後に国一番の石鑑定士によって分別され、変化と氷のディネは王室保管庫へ、土の力と考えられたディネはナイカの元に返された。鑑定は絶対と言い切れるものではなかったものの、幸いナイカが呑み込んだディネは鑑定通りの結果であり、ナイカは再び土の力を手に入れた。


 夜も更けた城のテラスで、まばらに輝く城下町の灯りを眺めるリヨース国王の元にヤクータが近づいていく。国王はヤクータに気が付くと優しく微笑んで迎えいれる。

「国王、今回の息子への処遇については何とお礼を申し上げてよいか」

「気にするではない。そなた達の働きには本当に感謝している。正当な報酬として受け入れてくれればそれで良いのだ。ところで細君が魔獣石を呑んでしまったそうだが大丈夫なのか?」

「はい、シューミが探しだした戻し屋がまだ城内におりますので、早速明日にでも会わせるつもりでおります」

「そうか・・無事に吐き出されればよいな」

「はい、ありがとうございます。戻し屋と言えばタミのディネについてなのですが、ロマの力では直接取り出すことは出来きませんでしたが、国王が取り込まされていた合成石を使い、吐き出させる事も可能かと考えまして・・・」

 国王は再び視線を町の夜景へと移すと一呼吸おいて話し始めた。

「私は思うのだヤクータよ、人が石を選ぶのではなく、石が人を選ぶのだと。タミが石を見つけたのは偶然のようでいて、そうではないのかもしれんな。合成石などのような邪悪な石を取り込むのは最後の最後でよいのだ。無駄に息子を危険にさらす必要は無いぞ」

 ヤクータは感謝の言葉を述べると、同じ様に町の灯りに視線を落とし、この若い国王のためにこれから先も精一杯、仕えていこうと改めて胸に誓うのだった。



一方、久しぶりに家族との団欒を楽しんだタミは、ベッドの中で幸せを噛みしめていた。ヨーキは獣人石を取り込んだままだったが、獣人に変化するのは感情が高ぶった時だけで、概ねコントロールできていたし、明日には戻し屋に会えるので元に戻れるかもしれないという話だった。その事以外は昨日までの苦労や悩みがまるで嘘のように消えて、神様の存在を信じずにはいられないような気持ちだ。とりわけリヨース国王がアレクの騎士学校への復学に便宜を図ってくれると約束してくれた事は、タミに心からの喜びを与えてくれた。また自分の事に関していえば、国王は最初の言葉通り、三ヶ月の勤労奉仕のみの処罰しか言い渡さなかった。つまり勤労奉仕をまっとうさえすれば、騎士学校への入学も可能なのだ。もちろんその為にはコパを見つける必要はあるのだが、タミは何も心配していなかった。それは今回、様々な経験をしていく中で、信じて努力すれば叶わない願いは無いと強く感じていた故の思いだった。ディネ力を得たタミではあるが、仮に騎士学校へ入学できたとして、その力は卒業するまで封印しなければならないとの事である。しかしタミにとって、そんな事はどうでもいい事であり、すでに彼の頭の中は騎士学校でアレクと再会できた時の事でいっぱいになっている。

「兄ちゃん、がんばれ」そんな時、隣で眠るケスリョが突然寝言を言った。あまりのタイミングの良さにタミは吹きだしていた。


                                             完




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