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ストウン  作者: たくりょう
18/20

太后の元へ

薄暗い牢の中で時間感覚が麻痺していくのを感じ始めた頃だった、タミは誰かが近づいてくる気配を感じた。

「タミ殿、タミ殿」

 囁くような声が聞こえてきた、タミが顔を上げると鉄格子の向こう側に一人の衛兵が立っていた。タミが黙って次の言葉を待っていると衛兵は言葉を続けた。

「私はヤクータ様に以前より大変お世話になっていた者です。ヤクータ様の命令でここから抜け出すお手伝いをしに参りました」

「父さんの?」

「ええ、実は城の中にも国王に疑問を感じている者は少なくないのです。私もその一人という訳です。必ずや逃がして差し上げますので私に付いてきてもらえますか」

 そう言って牢獄の鍵を開けて中に入るとタミの手枷を外した。

「さあ行きましょう」

「でも母さんは?」

「一度に多人数で行動すると見つかりやすくなってしまいます。すぐに別の者が来ますので、まずはあなたから一緒に来てください」

「母さんから先にはお願いできないですか?」

「私はこちらの牢の鍵しか持っていないのです。すぐに別の者が来るはずですから、まずはあなたから付いて来てはもらえませんか」

そう言われて仕方なく衛兵に続き牢からでたタミはヨーキに話しかける。

「すぐに別の人が来てくれるらしいから、もう少し辛抱してね」

 ヨーキは手招きをしてタミを呼び寄せるとタミだけに聞こえる声で囁いた。

「タミ・・・その人を完全には信用しないで」

 タミはその言葉に黙って頷いた。


椅子に座ったまま気絶している衛兵の脇を通り階段を上がると、その降り口付近には二人の大柄な衛兵が立っていて、タミは思わず後ずさりしたが、先を歩いていた衛兵は一言「大丈夫です」と言い、その脇を何事もなく通って行く。タミも後に続き二人の衛兵の間を通り抜けるが二人はタミの事などまったく気にかけていない様子だ。それからは他の衛兵に気を付けながら物陰から物陰へと進み、中庭を抜けたところで衛兵は「こちらへ」と言うと、扉の一つを開けてタミを中へと招き入れた。ストーンライトで照らされた部屋の中で待っていた人物を見てタミは思わず声を上げてしまう。

「こ、国王!」

「よく来たな。歓迎するぞ」

 国王が笑うのと同時に案内してきた衛兵が扉の鍵を閉める音がする。

「しかし脱獄とは大胆な小僧であるな。その度胸は認めるが見つけた以上はただでは済まさんぞ・・・やれっ!」

 剣を抜いた衛兵が斬りかかってきた。タミは左腕を石化させるとその腕で剣を受ける。背後からは国王が斬りかかってきたので石化を全身に広げるのと同時に真横に飛び避ける、国王の振り下ろした剣はタミの足に当たりはじかれた。下半身だけ石化を解いたタミが衛兵に向かい走り出し体当たりをすると、壁とタミとに挟まれた衛兵が崩れ落ちる。振り向いたタミの太もも辺りを何かがかすめていき、国王を見ると両手が赤く光っていた。国王はその両手から、先が鋭く尖り槍のようになった氷柱を次々と繰り出してきて、タミが部屋中を逃げ回ると中にあった家具が次々と壊されていった。タミが扉の前で全身を石化させたところに一際大きな氷柱がタミを襲い、タミの体を扉ごと吹き飛ばす。首尾よく氷柱と共に部屋から押し出されたタミは何処に向かう当ても無いまま夢中で走り出した。


 タミの危機を匂わせるメモを読んだシューミはジョビを引き連れて地下牢の入り口へと来ていた。正気を取り戻していた見張りの衛兵がシューミに尋ねる。

「シューミ様、その老人は?」

「すまんが、お前たち一人一人を説得している時間が無いのでな」

 ジョビはシューミの脇をすり抜けると両手を青く光らせた。崩れ落ちる衛兵を端に寄せて二人は階段を下りていく。地下牢へ着くと鉄格子は上がったままになっていて、なぜか見張りの衛兵は椅子に座ったまま気絶している。シューミは後ろを振り向きジョビに目で注意を促すと、先へと進む。そうしてシューミが通り過ぎていった牢の前でジョビは立ち止まった。

「おおヨーキさん、大丈夫か?すぐに出してあげるからちょっと待っておれ」

「あなたはジョビ様ではありませんか!ご無沙汰しております」

「まあ、挨拶は後じゃ、タミはどうしたのじゃ?見当たらないようだが・・・」

「主人の使いを名乗る方に連れて行かれましたがご存知ないのですか?」

「なんじゃと!?・・・一足遅かったという事か」

「まずいな・・・もはや慎重になどと言っている余裕は無いようだ。私はロマを連れて太后様の塔へ向かう。あんた達はやるべき事をやってくれ」

 二人の会話を聞いていたシューミはそう言うと、鍵の束をジョビに渡して足早に来た道を戻って行った。


 北の塔では太后がそろそろ寝支度を始めたところだった。塔に幽閉されてもうどれくらい経つだろう。いつからか息子の様子がおかしくなってきているのに気付いておきながら何もしないでいた結果が今の自分の境遇を作ってしまったと考えれば諦めもつくが、このままでは国自体が滅んでしまうかもしれない、そこまで考えると悔やんでも悔やみきれない思いが込み上げてくる。そんな時にどうにかなってしまいそうな精神状態を引き戻してくれたのが一緒に幽閉されている子犬の存在だった。太后は子犬をピピと名付け、たいそう可愛がり、子犬もまた太后の傍を離れようとはしなかった。

 いつものようにピピが眠っているカゴをベッドの傍らに置き、ストーンライトに蓋をしようとした時だった、ドンドンと激しくドアをノックする音が聞こえ、不審に思いながらも太后はドアへと向かう。

「何事ですか?」

「このような時間に申し訳ございません。なにぶん緊急な故どうかお許しください」

 そう言ってシューミはゆっくりとドアを開けた。

「あなたでしたかシューミ。いったいどうしたのですか?」

「申し訳ございませんが詳しい話は後程させて頂きます。こちらに子犬がいると聞いたのですが?」

きょとんとした表情の太后が答える。

「この子がどうかしましたか?」

 気が付くと太后の足元に寄り添うように一匹の子犬が座っていた。

「すみません、失礼します」

シューミは子犬を抱きかかえテーブルの上に座らせるとロマに向かって頷く。それを受けたロマはテーブルに近づいてナイカの時のように子犬を青く光る手で包み込んだ。太后が心配そうに見つめる中、ウサギがナイカに戻った時間をとっくに過ぎても子犬に変化が現れる様子はなく、遂にはロマが音を上げた。

「すみません。もうこれ以上は力を持続できやせん」

「そうか・・・太后様、こちらの犬はあなたが思っている以上にあなたにとって大事な存在である可能性があります。その事を証明する為に少しの間、私に預けて頂くわけにはいきませんでしょうか」

 太后は黙ってシューミの目を見つめ、シューミがその目を逸らす事はなかった。

「正直言って、私は誰を信じていいのか分からなくなってきています。それは石の騎士であるあなたでさえも同様なのです」

「国王から受けた仕打ちを考えればそれも致し方ない事でしょう」

「本当にあなたを信じて良いのですね?」

「はい」

「・・・ではピピの判断に任せます」

 太后はそう言って子犬を抱き上げると頬ずりをしてからシューミに向けて降ろした。子犬は太后を見上げるように振り向いた後にシューミに向かい歩きだしたが、シューミが抱きかかえようとする前に後方から聞こえてきた声でシューミの動きが止まった。

「珍しいところでお会いしましたなシューミ殿」

 声の先にはガイアの姿があった。シューミは急いで子犬を抱きかかえると剣を抜く。

「どうやら犬を渡す気は無いらしいですな」

 ガイアがそう言い終わるのと同時にシューミは斬りかかり、ガイアを押し出すように部屋を出ると肘でドアを閉める。剣を構えてガイアの反撃に備えたが、ガイアは体を動かすより先に声を上げた。

「ユニコ!やれっ!」

 ガイアの後ろに赤い光が見えたかと思うと自分に何かの力が働くのをシューミは感じた。自分の意思とは別に子犬を抱いた腕が勝手に子犬を放そうとしているようだ。シューミは必死にその力に抵抗したが、ガイアが斬りかかってくるのを避けた拍子に子犬を抱く腕の感覚が無くなったのをガイアは見逃さなかった。ガイアは子犬を奪い取ると叫んだ。

「お前達に渡すくらいなら、こうしてくれるわ!」

 太后の悲鳴が響き渡る中、塔の最上階からは硝子の破片が次々と地面へ向かって落ちていき、その破片を追いかけるように黒い塊が落ちていく。ガイアは笑いを押し殺してシューミを見つめ、シューミはそんなガイア達の存在を無視して窓から下を覗き込んだ。ガイアがゆっくりと剣へと手を伸ばしかけたところで窓の外に向かってシューミが叫んだ。

「その子犬をヤクータの元へ!彼は城内にいる!」

 窓の外には子犬を抱え闇夜に浮かぶユーウの姿があった。

「何だと?今、何と言った!」

 シューミの背中でユーウが見えないガイア達は慌てだす。シューミはガイア達に向き直すと剣をしまい、その両手を赤く光らせた。


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