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ストウン  作者: たくりょう
17/20

戻し屋

その日のリヨース城は大変な騒ぎとなっていた。タミが捕らえられた直後は機嫌のよかった国王も、ヤクータが脱走した報告を受けると自室に閉じこもったきり出てこなくなってしまっていた。衰弱の激しいであろうヤクータが短時間で遠方まで移動できるとは考えにくいと判断され、捜索は城内を探した後に城下町を中心にくまなく行われた。また地下牢の入口や中で意識を失っていた衛兵の証言から、ヤクータを脱獄させたのは一人の老人とわかり、この老人についてはおそらくヤクータとユーウの師匠にあたるジョビではないかと考えられて併せて捜索対象となっていた。城の一部を派手に破壊した水竜についてはユーウの働きによって大量の麻酔槍を受けて、すっかりおとなしくなったところを捕らえられており、この水竜が城への侵入に利用されたと考えられた。


 ヤクータ達が発見されない中、自室に閉じこもった国王をガイアが訪ねていた。

「それで例の場所は確認してきたか?」

「ええ、見事に牢の中は空っぽでした」

 国王は近くにあった椅子を持ち上げると壁に向かい思いっきり投げつけて、椅子はバラバラになって飛び散った。

「ヤクータばかりか、あの者までも逃げたというのか!ヤクータめ、やはり隠し牢の住人に感づいておったか」

「まあ少し落ち着きましょう。逃げたといってもあの姿じゃあ、普通のヤツは誰だか教えられても信じはしないでしょう」

「だまれっ!あの姿から元に戻らない保障はないのだぞ。お前だって戻し屋の存在は知っておろう。とにかく一刻も早く見つけ出せ」

「仰せのとおりに。ところで例のガキはどうするつもりですか?」

「・・・今回唯一の収穫だからな。すぐにでもどうにかしたいのは山々だが、さすがにいきなり殺してしまっては衛兵や側近達の不信感を買うからな・・・」

「となると普通に考えて方法は二つ・・・」

「二つだと・・・我らの同志にディネの戻し屋はいないし、手元に合成石が有る訳でもあるまい!」

「ええ、まあ仰る通りですが・・・合成石を国から取り寄せますか?」

「どれだけ時間がかかると思っているのだ!ヤクータを逃がした今となってはそんなにのんびりしていられんわ」

「では如何いたしますか?」

 国王は勢い良く椅子に腰掛けると足を投げ出して考え始めた。そして数分が経ったところで口を開いた。

「そうだな、小僧が脱獄するように仕向けるとするか」

「・・・なるほど、脱獄したところを見つけ、抵抗したので始末したとなれば一応は理由が立ちますな」

「ユニコはまだ城に潜んでいたな、ヤツを使うとしよう。それとヤクータ達が戻し屋を使う動きがないか注意するのを怠るでないぞ」


 城に仕える衛兵の大部分の人数を投入してヤクータ達の捜索は行われていたが、手がかりすら見つかる気配はなかった。それもそのはずでヤクータ達は城から外に脱出した訳ではなかったのだ。事件の直後から捜索を指揮していたシューミであったが、後を部下に任すとリヨース城内の私室へと戻ってきていた。

「すまんなシューミ、助かったよ」

「お前達二人だけなら勝手にやらせておくつもりだったがな、その方を連れている以上、放っておく訳にもいかんからな」

「それで外の様子はどうなんだ?」

「ジイさんの正体はもうばれてしまっている、表向きはお前とジイさん二人の捜索となっているが、当然もう一つの牢が空になっている事にも気付いているだろう。ヤクータの妻子については再び捕らわれてしまい、今は二人とも地下牢へと入れられているようだ。二人共たいした怪我は無いようだが、警備にはプラタ兵があてられている。ユーウはガイアに火達磨にされたらしいが、最終的には逃走に成功したようだ」

「そうか・・・ユーウが約束の場所に現れなかったのも仕方のないところか」

「しかし怪我は無いとは言っても、急がねばならんぞ。特にタミの身が心配じゃ、あの子の持つディネを奪うために敵が手段を選んでくれるとは思えんからな」

「仰るとおりだとは思いますが、同時にあの方の姿もどうにかせねば根本的な解決とはなりませんね」

「おそらく魔獣石の一種を取り込んでいるのであろう、そう考えればまずは戻し屋を使ってみるべきであろう」

「・・・そうですね」

「戻し屋か・・・いずれにしろお前達は少しの間はおとなしくしていた方がいいだろう。プラタの戻し屋なら心当たりがある。確実ではないが町にいる可能性が高いだろう。状況からするとすぐに町に向かった方が良さそうだな」

「そうか・・・すまん、宜しく頼む」

 ヤクータはそう答えると、ベッドでスヤスヤと眠るケスリョの顔を見つめたのだった。


 タミが目を覚ますと薄暗い牢の中の冷たい床の上に横たわっていた。しばらくは頭がボーとして何も考えられなかったが、ガイアの手からユーウを自由にした直後に国王の命令により衛兵に捕らえられた事を思い出してきた。両手は後ろ手にされたところに手枷がはめられていて自由が利かない。這いつくばりながら鉄格子に近づき声をあげた。

「母さん!母さんはここにいるの?」

 タミの声は地下牢の中に響き渡り、少しの間をあけてか細い声が返ってきた。

「ああタミ、あなたも牢に入れられているのね」

「母さん!大丈夫?怪我とかしてないの?」

「ええ多分、なんだか頭がすっきりしないのだけど薬のせいかと思うわ」

「そっか・・・ごめんね、僕のせいで」

「何言ってるの、あなたこそ怪我は無いの?」

「うん、特に痛い所とかは無いよ。ケスリョはそこにいるの?」

「・・・それが変化した後の記憶は私もはっきりしていなくて・・・」

「そうなんだ・・・」

 幼い弟がたった一人で取り残されて、いったいどうなってしまったのだろう。タミは自分の無力さを呪いたい気持ちになっていた。

 暫らくの間は後悔ばかりが押し寄せてきて何も考えられなかったが、時間と共に多少は気持ちが落ち着いてくるとタミは自分が置かれた状況を分析してみる。その窓の無い薄暗い周りの様子とひんやりとした空気から、自分がいるのは地下牢と考えられたが近くに父親のいる気配はない。つまりジョビにより父ヤクータは無事に助け出されたと考えて良いのだろう。ユーウも一度は炎に包まれてしまったとはいえ、石の騎士にまで昇り詰めた男である、間違いなく逃げ切った事だろう。自分達を助けに来てくれる人達が何人も牢の外にいる、その事に望みを託して今は体力を温存しておこうとタミは考えた。


 その頃シューミはナイカの葬儀の為に国中から集まった人々で賑わった城下町にいた。人々はシューミに気が付くと尊敬のまなざしを投げかけ、年寄りの中には手を合わせる人までいる。そんな中、シューミは一軒の酒場に入っていく。店の中は大騒ぎの状態だったがシューミに気が付く人が増えるにつけ、まるで波が引いていく様に静かになっていった。ひときわ大きな声でカードゲームに興じていたテーブルに近づいていったシューミはその中の一人に話しかける。

「やはり来ていたかロマ」

 慌てて男は振り返る。

「これはシューミ様。いや~ナイカ様にはずいぶんと世話していただきやしたんで花の一つでもと思いやして」

「お前にも恩義を感じる気持ちがあって助かった。ともかく今はお前の力が必要だ、黙って付いて来い」

 外に出ると相変わらずたくさんの人で町はごった返していたが、その中に異彩を放つ集団がいるのにシューミはすぐに気が付いた。黒っぽい鎖帷子に身を包み、顔半分が隠れる兜を被った男たちはシューミ達を見つけると真っ直ぐに近づいてくる。

「その男は何者だ?」

「お前達こそ何者だ?まあ誰であろうと答えるつもりはないがな」

「・・・戻し屋だとしたら我々に渡してもらお・」

 シューミは男が言い終わらないうちに赤く光る両腕を真横に突き出した。シューミ達を取り囲むように近づいてきた男達のうち二人がそのとたん近くの屋台や壁に向かい吹き飛んだ。叫び声と共に人々がその場から離れようと走り出す。男達が手を青や緑に光らせると雷やら炎やらが一斉にシューミ達に向かい飛んでくる。だがシューミが手を光らせたまま、その場で一回転するとすべての攻撃がはじき返された。

「私の傍を離れるなよ」ロマにそう伝えるとシューミは剣を抜く。その後、男達の攻撃をほとんど受ける事なく全員を戦闘不能にして縛り上げると、騒ぎを聞きつけて駆けつけた兵士達に男達を引渡し、無駄にした時間を取り戻すようにロマを後ろに乗せた馬を城へと走らせた。

シューミが私室へ戻ると、助けられた時には見た目からも蓄積された疲れが隠せなかったヤクータも随分と体力が回復してきたらしく、酷かった顔色も幾らか良くなってきていた。

「待たせたな」

「その男が戻し屋なのか?」

「こりゃどうも、ロマっていいやす。いちおうプラタまでなら何とかなるかと思いやす」

「そうか、では早速頼むぞ」

「へい、ではどなたの石を戻しやしょう?」

「ああ、あそこに座っている・・・」

「ん?あの坊ちゃんですか?」

「いや違うのだ。あの子の抱いているウサギを頼みたいのだ」

「ウサギですか!?いやあっしもこの力を手に入れてから随分と経ちやすが動物は初めてですわ」

「・・・ともかく頼んだぞ」

 ウサギがテーブルに置かれ、そのウサギを包み込むように構えたロマの手が青く光る。皆が注目する中、ウサギには何も変化が現れない。だがロマの額に汗が滲み出した頃になり変化が現れ始めた。ウサギが小刻みに震え始め、震えが収まると咳と同時に赤黒く光る小石を吐き出した。それからウサギの体がぼんやりと赤っぽく光り始め、段々と光は強くなっていき、光の中でウサギの影が大きくなっていくのが見えた。そして最後に弾けるように強く光るとウサギのいた場所には一人の人間が立っていた。

 ヤクータ達の予想ではそこに立っているのはリヨース国王のはずだった。だがそこにあったのは数時間前には葬儀の主役となっていた男、石の騎士ナイカの姿だった。

「あなただったのか!」

「・・・ああ、色々な意味で迷惑をかけた・・・すまん」

「いや、そんな事よりも今はあまり時間が無いのだ。知っている事を全て話してもらいたいのです」

裸で立つナイカに毛布を渡しながらヤクータが言った。

「ああ、わかっている。俺も全てを把握している訳ではないのだが、知っている限りの事を説明させてもらうよ。その前にやはりここに居る者達には謝罪をせねばならない。実は今回の事件の発端は自分にあるのだ・・・本当にすまない、まずはそこから説明させてくれ。半年ほど前の話になるだろうか、国王の使いで俺が一人でワセカまで旅をした時の話だ。任務を無事に終えた俺はその開放感からか正直言って油断していたのだと思う。非公式の訪問だった事から俺はごく普通の旅人の姿で大衆宿に泊まっていたのだが、奴らが近づいてきている事にまったく気が付かないでいたんだ。突然ドアを蹴破って入ってきたディネ人四人に取り押さえられると無理やり一つの石を呑まされてしまったんだ。それからすぐに俺の体に異変が起き始めた。体が赤黒く光り始めると喉の辺りに違和感を感じ、咳をするのと同時に俺は今まで取り込んでいたアビテを全て吐き出していた。奴らはアビテを全て袋にしまいこむと俺を窓から外へと放り出した。俺はすぐに奴らを追いかけようとしたが、奴らは家々の屋根から屋根を飛び跳ねるように逃げていき、石の力を失った俺には奴らを追い詰める事は出来なかった。俺はその後も町に残り、手掛かりを探し続けた。数日が経ち、ようやく丹色の鷲が関係している事を掴んだのだが、伸ばし伸ばしにしていた国に帰る期日が来てしまい、やむなくワセカを出国する事にしたのだ。そしてあと少しで国境という所で逆に奴らから接触してきたんだ。それまで奴らが俺に呑ませた石は単にアビテを吐き出させる力を持った石かと考えていたんだが、実はそれは副産物であって本来の力は別にあるという事をそこで思い知らされる事になった。接触してきたのは例のガイアともう一人はユニコと名乗る男だったが、ユニコが石の力を使い始めると俺の中で石の力が発動するのを感じた。そうして俺の体は奴の言いなりとなってしまった。ユニコの操りの力とその石の力によって距離が離れていても、俺の目を通して奴は自由に俺を操れるらしかった。奴らは俺と一緒にリヨース国に入ると、この事を他言したら操りの力を使い俺に国王を殺害させると脅かしてきた。俺はいつユニコが意識に入ってくるか判らない事を考えると何もできないでいたんだ。それから数日経った夜中に俺はエンガの森へと操られて行った。そこで待っていたガイアからアビテらしき石を渡されると俺は城に戻り、国王と二人きりとなったところで力ずくで国王にその石を呑ませてしまったのだ。その後、獣人討伐の名目でエンガの森におびき出されると今度はさっき吐き出した石を呑まされてしまったという訳なんだ・・・全ては俺の油断が招いた結果なのだ・・・すまん」


 このナイカの話には滅多に感情を表に出さないシューミでさえ驚いた表情を見せた。

「そのような力を持つ石があるとは驚きじゃ・・・」

 ジョビの言葉を聞いてナイカは先ほど自ら吐き出した石を手に取り言った。

「この石の色だが、少しおかしいと思わなかったか?」

「ああ確かにディネしては暗い赤に見えたが・・・」

「これは奴らが合成石と呼んでいるものだ。これこそが丹色の鷲がこれほどまでに勢力を拡大できた要因なのだ。信じがたい事だが奴らはこのような石を作り出す技術を編み出したらしいのだ」

何を聞いても、もう驚かないと思っていたジョビとヤクータだったが、それは間違いとなった。張り詰めた空気の中、まず口を開いたのはジョビだった。

「おぬしはおぬしで大変な思いをしたようじゃな・・・これまでの話から予想するに国王は合成石の力によって操られていると考えるべきかのう」

「俺が国王に呑ませてしまった石は俺が最初に呑まされた石と同じ種類の物のようだったが、知っての通り我らが城の貯蔵庫には変化の石が保管されていた。その力を使い何者かが国王に変化している事も十分に考えられる」

「・・・とは言え、あくまでも体は本物の国王と考えて行動するしかあるまい・・・つまり国王の体から合成石を排出させる事を一番に考えるべきだろう」

 シューミの言葉を聞いてその場にいた全員が戻し屋ロマを見つめる。ロマはその事に気が付き慌てて話し出す。

「いや・・・今回はたまたま戻せやしたが、あっしは本来はプラタまでしか戻せないのはご存知でやしょう?そりゃもちろんお力にはなりたいと思いますが・・・」

「どう思う?ナイカ」

「・・・合成石はまだまだ不安定な物らしいのだ。あの男の言うように今回は上手くいったが次回どうなるかは・・・」

「それでもやってみるしかあるまい」

「・・・もう一つ手があるとすればこれだ」

 そう言うとナイカは合成石を突き出した。

「さっき話した様にこいつには取り込んだ時にそれまで取り込んでいた全ての石を排出させる特性があるようなのだ。そのおかげで俺は全ての力を奪われたのだからな」

「一時的であるとしても国王をウサギにしてしまうという事か・・・」

 全員が溜息を漏らした後にジョビが代表して口にだす。

「気は進まんが準備はしておくべきじゃろう」

 重苦しい雰囲気の中でヤクータが話を続ける。

「話を一旦戻すが、変化の力により国王がすり替わっていると仮定すると本物の国王は何処におられるのだろうか?」

「ガイア達によって城外へ運び出されてしまった可能性もあるだろうが、そうだとすれば尚更、俺が二回目に呑まされたのと同じ属性の合成石を呑まされてしまっているとは考えられんか?」

「つまりリヨース国王は人間の姿をされていないと言う事か・・・」

「うむ、奴らにしてみればその方が何かと都合が良いじゃろうからな」

「まてよ・・・その考えからすると一つ調べて見る価値のある場所があるぞ」

 こうしてこれからの方向性が決まった時だった、扉の前に人の気配を感じたシューミが扉を開けると一枚の紙切れがヒラヒラと落ちてきた。

「今夜ディネの子供に危機迫る」紙切れには筆跡を誤魔化すように角ばった文字でそう書かれていた。誰もが戸惑いの表情を浮かべる中、ヤクータは思いつめた顔で声を絞り出した。

「シューミよ・・・すまんが地下牢に向かってはくれまいか・・・」

「ああ、わかっている・・・」シューミは一言そう言うと部屋を出て行ったのだった。


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