ヤクータ救出
ジョビはユーウから説明を受けていた道順を慎重に進んでいった。物影に隠れるのにジョビの小柄な体は都合がよかったのと衛兵のほとんどが水竜の対処に追われていた為、地下牢の入口近くまでは何事もなく辿り着く事ができた。廊下の曲がり角部分から慎重に顔を出して入口付近を覗き込むと、ユーウの話にあったとおりに地下牢へと下りる階段の入口には屈強な衛兵二人が立っている。
ジョビは深呼吸してから一気に階段に向かい走り出す。当然、二人の衛兵はジョビに気付くと槍を構えて警告の言葉を発したが、ジョビが警告を無視すると容赦なく槍を突いてきた。槍をギリギリでかわすとその槍を持つ手に青く光る手が触れて衛兵の一人が崩れ落ちる。そのまま前転をした勢いでもう一人に飛びかかるが、衛兵は槍の柄を使いジョビの手を払いのけると槍を持つその手を緑に光らせた。コパの力により槍を突く速度が倍増した衛兵にジョビは迂闊に近寄れなくなってしまう。間合いを取り直したジョビの両手が今度は赤く光りだした。すると衛兵の動きが止まり、ジョビは衛兵の懐に入り込むと、瞬時に力を赤から青へと切り替え、その手で衛兵の頬に触れたのだった。
地の底まで続くような階段をジョビは急いで下りてゆく。ようやく下りきった先には鉄格子が見えるが、これもユーウの情報通りだ。鉄格子の向こう側で腰掛けていた衛兵がジョビの気配に気付き、立ち上がりこちらを見ている。
「何だ、お前は?」
衛兵が問いかけてきた直後にジョビの両手が赤く光りだす。
「て、手が勝手に!」
ジョビの手の動きに合わせて衛兵の手も動いている。そしてその手が鉄格子の脇のレバーを引き上げると鉄格子が天井に向かって動き出した。わずかに開いた隙間を転がるように通り抜けるとそのまま青く光った手で衛兵の足首を掴み、衛兵は倒れこんだ。
ヤクータは人の気配が近づいてくるのに気が付くと廊下の先に目をやった。するとそこに思いがけず懐かしい人の姿を発見して驚きを隠せないでいる。
「老師様・・・いったいどうして?」
「さすがに疲れた様子じゃのう、すぐに鎖を外してやるから待っておれ」
ジョビは先ほどの衛兵の腰から鍵の束を抜き取っていた。一個づつ鍵を鍵穴に合わせてみたが牢獄の扉はなかなか開かなかった、残りの鍵が後一つとなったところで突然背後から声が聞こえてきた。
「残念だがそこの扉の鍵はその中には無いぞ」
そこには人差し指で鍵をクルクル回すシューミが立っていた。
「おぬし?ナイカの葬儀に出ておるのかと思ったぞ」
「ふん、死んでいるかどうかも分からん人間の葬儀に出ている程、暇ではない」
シューミはまったくの無表情で答え、そこから考えを読み取ることはできなかった。
「おぬしも国王の異変には危機感を感じているはずじゃ。そろそろ手を打つべきとは思わんか?」
ジョビは石の騎士の中に裏切り者が存在する可能性を捨てきれずにいたので、この発言は一つの賭けだった。シューミが裏切り者だとしたら最悪の事態になってしまうだろう、しかし鍵がシューミの手の内にある以上、力ずくでも奪うしかないのである。ジョビは息を整えシューミの反応を待った。
「では聞くがヤクータを助け出したとして、次に何をするつもりだ?」
「・・・ワセカから迎え入れた石の騎士・・・奴の正体は丹色の鷲じゃ、そこから切り崩し真実を突き止めさえすれば、我々の言葉を信じる衛兵や国民はたくさんいるはずなのじゃ」
その言葉にはシューミより先にヤクータが反応した。
「何ですって!老師様その話は本当なのですか!?」
「ああ残念ながら本当じゃ、しかもその男はおぬしも知っている男じゃぞ」
そう言われたヤクータの脳裏に不敵な笑みを浮かべたガイアの顔が蘇った。あの場で倒せなかった事を悔やみながらもシューミに向かい話しかける。
「この隣の牢にわずかな時間であったが男が入れられていたのを知っているだろう?彼は私を同類だと思ったらしく素直に話してくれたのだが、どうやらナイカ襲撃に関しては何も記憶がないらしいのだ。だが、襲撃の数日前に丹色の鷲を名乗る男から仲間に誘われて、エンガの森に一緒に入ったところまでは覚えているという話だった」
ここまでのやり取りの中でジョビはシューミが裏切り者ではないと感じ始めていた、いくら隠しても殺気というものは隠しきれないところがある、シューミからはまったく殺気は感じられなかった。しかし彼が並みの人間でなく、石の騎士であったが故にジョビは確信を持てずにいた。
「ガイアの話は確かな情報なんだろうな?」
「ああ間違いない」
シューミは少し考える素振りをすると持っていた鍵をジョビに向って放り投げた。
「おぬしも協力してくれると考えてよいのか?」
「とりあえず中立だ。協力は期待するな」
そう言い残してシューミは地下牢から出て行った。受け取った鍵を使うと牢獄の扉が開いたので、ジョビは中に入るとヤクータの前にしゃがみこみ、鎖に繋がれた足枷を外した。
「ありがとうございます。シューミのあの様子では外は特に騒ぎになっているという訳ではないのですね?」
「ある意味、大騒ぎにはなっておるが、今回はおぬしら家族の救出が目的なんでの、今のところはワシらは気付かれてはおらんと思うが・・・タミとユーウがヨーキ達を助けに向かっておる、我々も急ぐぞ!」
「タミも来ているのですか・・・しかし少し待ってください。もう一人、一緒に連れて行くべき人がいるのです」
「もう一人じゃと?いったい何処にそのような者がおると言うのじゃ?」
「老師、最初に使ってみた鍵の方をお貸しいただけますか」
ヤクータはジョビから鍵の束を受け取ると、薄暗い廊下を奥へと進み、突き当りの壁を手で探り始めるとやがて小さな穴を見つけた。鍵の束の中に一つだけあった細長い鍵を穴に差し込むと壁の一部が引き出されて、中に葡萄の様にまん丸い石が一つだけ入っているのが見えた。ヤクータはその石を取り出すと今度はそのすぐ脇にある牢の鍵を開け始めた。
「この牢の中には隠し牢があるのです。そして最近になってそこに誰かが収監された気配がありました。私の想像が正しければおそらくそこにいるのは・・・」
「・・・リヨース国王か・・・」
ヤクータは牢獄の中の粗末なベッドを端へと寄せるとその下にあった小さな窪みにさっきの石を置いた。二人が見守る中、石が青白く光り出し、やがて光が床へと広がり、それが収まるとその光っていた部分にはぽっかりと穴が開いていた。




