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ストウン  作者: たくりょう
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消えた石の騎士

リョース城地下にあるヤクータが投獄されている牢獄には石の騎士ユーウが向かっていた。階段を降りてきたユーウに気が付いた衛兵が慌てて近づいて行く。

「どうされました?ユーウ様」

「いやなにヤクータ殿に少しばかり話があってな、すまんが二人だけにしてくれないか」

「二人きりにですか?しかしそれでは国王の命令に背く事になってしまいます」

「あのなぁ俺は石の騎士だぞ、そこらの兵と一緒に考えるなよ。なんだったら国王に証文をもらってくるか?」

「あ、いえ申し訳ございませんでした!私は階段の降口の所で待っておりますので、お話が終わりましたらお声掛けください」

 衛兵はそう言うと慌てて階段を上っていった。現在、リヨース城の地下牢に投獄されているのはヤクータだけだった。少量のストーンライトで照らされた薄暗い廊下をユーウは牢の中を確認しながら早歩きで進んで行き、四つ目の牢の前で立ち止まる。

「ヤクータ・・・」

かろうじて手前の部分にだけ灯りが届いている牢の奥に片足を鎖で壁と繋がれた人影が粗末なベッドにうなだれるように腰掛けているのがどうにか分かった。

「ユーウではないか。どうしたのだ?何事かあったのか」

 足の鎖が伸びきる所までヤクータが出てきて、その疲れきった顔がユーウの目に映る。

「もう少し早く、会いに来たかったんだけど・・・」

「何を言っている、私は重罪人だぞ、石の騎士といえども簡単にどうこうできるものではあるまい」

「うん・・・特に俺はヤクータには近づかぬようにと国王から直に言われててさ、ようやく監視の目が緩くなってきたもんで、会いに来る事にしたんだ」

「そうか・・・すまんな無理をさせて。長居する訳にもいかないだろう、さっそくだが外の状況を教えてもらえるか?」

「うん、そうだね俺まで投獄されたて身動きがとれなくなるのは避けたいしね、手短に話すよ。まず、ご家族の事だけど、奥方とケスリョは南の塔の最上階に囚われている。あそこは知ってると思うけど、それほど悪い環境じゃないから今のところ心配いらないと思う。毎日のように尋問はされているけど流石に石の騎士の家族に乱暴な扱いをできる兵士はいないから安心していいよ。それからタミは無事にジョビ老師の元に辿り着いて、さっそく修行に入ったそうだよ」

「そうか、無事に着く事ができたか・・・」

 ヤクータは安堵の表情を浮かべた。

「次に国王の件だけど、おかしくなり始めたのに気が付いたのはヤクータ達が城にくる二、三日前なんだが、世話役達に聞いても思い当たる事はないらしいんだ、ある日突然って感じらしい。最近では国民への税負担を上げる事を口に出していて、俺にはまったくの別人に思えるよ」

「・・・あの変貌振りは尋常じゃないのは確かだ。私には石の力が働いているとしか思えんのだ。ともかく石の騎士含めて不穏な動きをする者がいないか注意していてくれ」

「俺らを含めてかい?」

「ああ、考えたくはないが、ある程度は力を持った者の存在がなければ無理な話だろう」

「・・・確かに今は全員を疑ってみるべきかもな。わかったよ任してくれ」

 

 ヤクータとユーウが地下牢で話をした数日後のこと、リヨース王の前には石の騎士であるナイカとシューミの二人が呼ばれていた。

「お前達に来てもらったのは他でもない、実は我がリヨース城に程近いエンガの森に獣人が現れたそうなのだ。そこでなんだが、ちょっと討伐を頼みたいと思ってな、ここからであればすぐに行けるであろう?」

「お言葉ではありますが国王様、獣人退治程度に我ら二人が向かう必要があるのでしょうか?城の兵士を数班送り込めば事足りるかと思いますが・・・」

「お前達二人で取り掛かればそれだけすぐに片付くであろう?それとも私に何か意見でもあるのか?」

「・・・いえ、滅相もございません。すぐに出発の準備に取り掛かります」

 そう言って慌てて出て行くナイカの後ろを対照的にシューミがゆっくりとした足取りで付いていった。


 エンガの森は城下町を出てすぐのところに広がる広大な森で、人々に様々な恵みをもたらしてくれている場所であり、実際の話、獣人出没は多くの人々に影響を与えていた。

 森と城下町の狭間にある野原には数人の兵士を連れたナイカとシューミが立っている。

「さてと・・・それでは二手に別れて獣人退治といくか。ここ森の入り口を分界点にして西側をおぬし達が東側を俺達が探すということでどうだ?」

「ああ構わん」

「それではさっさと片付けてしまおう」

 石の騎士にとって通常の獣人はたいした敵ではなかったが、問題は広大な森の敷地にあった。広大な森の中を効率的に探すためにナイカは怪しいと思える数箇所に目星をつけていた。シューミと別れるとまずはその中の一つの湖へとナイカは馬を走らせる。やがて湖の畔に着くと兵士達に湖畔をひと回りしてくるように命じ、自分は馬を降り倒木に腰掛けて一息ついた。何か異常があれば合図の笛を吹く手筈になっているのでここで待っていたところで問題ないだろう。ナイカは湖の水面を眺めながら兵士達の帰りを待った。湖は歩いても一時間もあれば一周できてしまう程度の大きさであったが、馬に乗った兵士達が一時間経っても戻ってくる気配もなければ笛の音も聞こえてこなかった。今回連れてきた兵士達は誰もが訓練を積んだ手練れた者ばかりであったし、そのうち二人に至ってはコパ力を持っていた事もナイカの判断を遅らせた。何かしらの問題が発生したと考えたナイカは兵士達の馬の足跡を追って湖畔に沿った林道を馬と共に歩き始める。十分ほど林道を進んだところで木々が少し開けた場所が現れると、そこにバラバラと散らばる様に兵士達と馬が倒れていた。ナイカは馬を降り、兵士の一人を抱き起こしたが「ううっ」と唸るばかりで意識は戻らない。よく見ると兵士は誰もが頭から血を流していて、全員が気絶しているようだった。兵士達の生死の確認が終わり、とりあえず応援を呼びに戻ろうと馬に跨ろうとした時だった。前方の林の中で物音がしたかと思うと、林の中から大きな影が飛び出してきた。それは全身をこげ茶色の毛で覆われた、熊の顔を持つ獣人だった。獣人はナイカを睨み付け威嚇する様に呻っている。次の瞬間、森の木々を赤い光が照らした。


 シューミ達は別れた時と同じ野原でナイカ達を待っていた。一日かけて森の西側を調べてはみたが獣人も、獣人が潜んでいる形跡も見つけることは出来なかった。森に獣人が潜んでいるのが事実ならばナイカ達が獣人と遭遇した可能性は高い、だが訓練を積んだ兵隊が・・ましてや石の騎士が獣人にやられる訳がないと誰もが考えていた。だが日が沈んでも戻ってこないナイカ達を放っておくこともできず、シューミは兵士の一人を城に向かわせ、残った兵士と再び森に入ろうとしていた。全員が馬に跨り、出発しようとしたその時だった、シューミ達の目に森の中からヨロヨロと出てくる人影が見えた。

「シューミ様、あれは!」

「うむ、行くぞ」

 森から出てきたのはナイカが連れていった兵士の一人だった。シューミ達が馬から降り駆け寄ると、兵士はその場に崩れ落ちた。

「どうした、何があったのだ?」

「そ、それが背後から突然、何者かに襲われて気を失ってしまい・・・気が付いたら全員が倒れていまして・・・」

「全員?ナイカも倒されたというのか?」

「・・・いえ、ナイカ様だけ姿が見当たらなかったのですが、こちらに戻ってきている訳ではないのですね?」

「・・・場所は説明できるか?」

 シューミは負傷した兵士に一人付き添いを残し、湖へと馬を走らせた。日はすっかり落ちていて暗闇に近い状況だったが、シューミの体が青く光ったかと思うと、前方が白い光で明るく照らし出され、その光のおかげでシューミ達は迷う事なく湖に辿り着く事ができた。それから程なくして固まるようにして木にもたれかかっていた兵士達を発見する事となった。兵士三人は意識こそ戻っていたが自力で動ける容態ではなく、シューミの姿を確認するとそれぞれ安堵の表情を浮かべた。しかしナイカの姿は兵士が言っていたように何処にも見つからなかった。負傷した兵士達のうち一人だけが獣人を見たと証言したが実際に獣人に攻撃されたかどうかまでは不明だった。やがて城から応援の一団がやってきて、負傷した兵士達を運び出すのと同時に捜索隊が組まれ夜明けと共に捜索が始められたが、結局はナイカが見つかる事はなかった。


石の騎士ナイカが行方不明となった事実は翌朝には城下町に知らされる事となる。国民にとって石の騎士は絶対の存在であり、そんな石の騎士が行方不明となっている事に国民は動揺し、またその安否を心配した。ナイカの捜索で城内がバタバタと慌ただしい中、ユーウが馬の背中に一人の大柄な男を横たえさせて城へと帰ってきた。近づいてきた衛兵が男が何者なのかと質問をすると、ある事件の容疑者だとだけ伝え、地下牢に投獄するように命令した。男は意識を失ったままタンカに乗せられ四人掛かりで地下へと運びこまれた。

「ユーウ様、この男の怪我の手当ては如何がいたしますか?」

「いや放っておいても大丈夫だろう、元々丈夫そうな体をしているしな」

「でわ、このまま牢の中へ入れてよろしいですね」

「ああ、そうだなヤクータの隣の牢にでも入れてくれ」

「わかりました」

 衛兵達が牢の準備をしている間にユーウはヤクータの牢の前へと近づき、衛兵達に聞かれないようになるべく小さな声で話しかけた。

「ナイカが獣人に襲われたあげく行方が分からなくなっちまった、その事について隣の牢に入れた男から何か話が聞けるかも知れないぜ」

「・・・行方が分からない?どういう事だ?」

 それだけの会話をしてユーウはヤクータの牢の前から離れていった。男は牢に入れられ、ユーウを含む兵達は地下牢を出て行ったので、後には意識を失ったままの男とヤクータの二人が薄暗い地下へと残されたのだった。


 一連の出来事は辺境の地オオヤの村に石の騎士ナイカが獣人に倒されたと誤って伝わっていた。タミは酒場でジャガイモの皮を剥いている時にその話を初めて聞かされたのだった。

「おい聞いたかよ?」

「え?何のこと?」

「石の騎士のナイカ様が獣人に殺されたらしいぜ」

「!それって本当の話なの?石の騎士は簡単に獣人なんかにやられやしないよ」

「まあ俺もそうは思うけどよ、城下町はその話で大騒ぎしてたって話だぜ。たぶん今日は店の方でもその話で持切りになるだろうから嫌でも情報は入ってくるよ」

 店で働く、タミより四歳年上のヨウスはそう教えてくれたのだった。夕方になり序々に客の数が増えてくるとヨウスの予想したとおり、皆がナイカの話で持切りとなった。だがその内容に耳を傾けてみたものの様々な話が飛び交っていて何が真実なのか結局はよく分からなかった。ヨウスとも皿洗いをしながら客達から仕入れた噂話を情報交換してみたが、やはりナイカの生死についてははっきりしない結果となった。真実がはっきりしないまま家に帰り、夕食が終わって、老師が石茶を飲んでいる時にナイカの件を問いかけてみると、老師はそれまでのリラックスした様子からうって変わり厳しい表情で話し始めた。

「まず事実を述べておくとな、石の騎士の一角ナイカが倒されたというのは誤った情報じゃ、とは言え獣人に襲われたのは間違いないようでな。その結果、今は行方が分からなくなっているという話じゃ」

「でも石の騎士にとって獣人はてこずる相手じゃないのと違いますか?」

「・・・実はなお主がマソウ釣りに行っておる間にわしの元に一匹のデリバーが飛んできたのじゃ。差出人はユーウであったのじゃが、とても興味深い話が記憶されておった」

 そこまで話すと老師は一口お茶を飲んだ。

「ナイカの行方が分からなくなった次の日のまだ夜が明けきらないうちにユーウは一人で事件のあったエンガの森へと向かったそうじゃ。森の入口では城から派遣された兵隊が捜索の準備を進めておったが、あえてユーウは単独で森へと入って行ったんじゃな。ナイカが兵士達と最後にいた湖を中心に調査をしていると獣人らしき足跡を見つけ、それを手がかりに足取りを予想しながら移動してみたそうじゃ、それから随分と捜し歩いたらしいが、しばらくして崖下に身を隠すのにうってつけの洞窟を見つけてな、その中に入ってみると案の定、獣人が隠れていたという話じゃ」

「それでユーウさんは獣人をどうしたんですか?」

「獣人は熊型の獣人でな、力はかなりのものだったらしいが、とてもナイカを倒す程の相手とは考えられんそうじゃ、つまりユーウがてこずる相手ではなかったようじゃな」

「・・・ではナイカさんを襲ったのは別の獣人だったのでしょうか?」

「可能性が無いとは言わんが、あまり現実的な考え方とは言えんじゃろう」

「・・・もしかするとそれって、父さんと獣人退治に行った時と同じなのかもしれない。前にも話しましたが、その時は獣人自体は父さんがすぐに倒してしまったんですけど、そのすぐ後に丹色の鷲の奴等が出て来て」

「うむ・・・ナイカもヤクータと同じように丹色の鷲に入らないかと誘われ、断った為に何かしらの危害を受けた・・・そうでなければ誘いに乗ってしまい奴等と行動をともにしている事も考えんとならんかの。丹色の鷲は石の騎士一人一人に誘いをかけてきているのかもしれんな。もしも既に丹色の鷲に取り込まれた騎士がいたとしたら、国王を操るのにこれ以上の適任者はおらん事になるの・・・」

「まさか石の騎士がそんな・・・」

「あまり考えたくはないが、あらゆる可能性を考える必要があるのじゃ」

 タミにはとても信じられない話であったが、もしもと考えると背筋が寒くなるのを感じるのだった。


 時を同じくして、ユーウはリヨース城の一室にシューミを呼び出していた。

「急に呼び出したりして、すまないね」

「お前が私に用事があるとは珍しいな」

「この機会だからはっきり言うけど、どうも俺はあんたが苦手でね、個人的な付き合いは避けていたんだが、どうしても聞いておかなければならない事ができてね、悪いが少しだけ時間をいただきたい。ナイカが居なくなっちまった日の話だ、俺とエンザスはそれぞれ西と南の国境警備の状況確認に出かけていた、そこで城に残っていたあんたとナイカが国王に獣人退治を命ぜられ兵士数名とエンガの森へと出かけていった。間違いないよな?」

「ああ、間違いない」

「森へ着くと二手に分かれて探索する事になり、あんたは兵士達と森の西側を探し始めた。森に入るとすぐにあんたは兵士達に森の更に西を探索するように命じて、一人だけ別行動をとったそうだけど、一人で何をしていたんだい?」

「何をだと?何を言っているお前は?獣人探索に決まっているだろうが。連れていった兵士は四人もいれば獣人に遅れをとる連中ではなかったんでな、だったら二手に分かれた方が効率的と考えただけだ」

「まあ、それも分からない話じゃないけどな、ただ俺としては疑問に思った部分は確実に解決していかない事には先に進めないんだ・・・本当にあんたは獣人程度にナイカがやられちまったと思っているのかい?」

「・・・普通に考えれば有り得ない話だな。だが絶対かと言われれば答えはノーだ、時にはちょっとした油断が命取りになることもある。とは言えナイカの件については、何かの理由があって自ら身を隠していると考えるのが妥当だろう」

「そのあたりは俺も同じ様な考えだが、もう一つ別な要素があればナイカが倒された可能性もあるんじゃないかと考えているんだ、油断以外にもう一つね」

「何が言いたい?はっきり言ってみろ」

「ああ、そうさせてもらう。兵と分かれた後に、あんたはナイカ達を追いかけて行ったんじゃないのかな?そして兵達を気絶させておいて、後から来たナイカを獣人を利用して倒した・・なんて事も有り得るんじゃないのかなってね」

「・・・ふん、話はそれだけか?私はナイカを追いかけてもいなければ、襲ってもいない。信じる信じないはお前の勝手だが、私にはそんな事をする理由がない」

 そう言い残して、乱暴に扉を開けるとシューミは部屋を出ていった。

「やっぱり怒らしちまったかな」

 部屋に残りシューミとのやり取りを思い出しながら、ユーウは考えを巡らせていた。しかし改めて考えてみると、ユーウはシューミという人間をよく理解していない事を思い知らされた。これまでの実績を調べてもみたがシューミのそれは石の騎士として十分立派なものであったし、最近の行動をみても特に不穏な点は見つからなかった。話した印象も特に怪しいと思えるところは無く、尤もな考えに思えた。結局のところ注意して様子をみていくしかないかと考え始めた時にドアがノックされた。

「失礼します。ユーウ様、国王がお呼びです」


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