リリアム、天使と出会う
「誰がにゃんこですか?」
背後から耳元に囁かれる透き通る声。後ろを振り向くと、金髪に榛色の瞳。天使の様な顔立ち。
セシル・シューエン。シューエン国の第一王子である。セシルは留学という形でアムールノ国に来ている。
「なぜ、セシルが花の館にいるの?ここへは入れないはずよ。」
紫の瞳が鍵となるので、お城の後宮の片隅にある館へはわたしか、母様、父様が一緒でないと入れない。
「俺が入れた。セシルとエル、ミルが遊んでるのが見たくて。リリアムはこの後ビオラと王女教育の勉強だから、俺は3人を見て癒される。」
母様に寄り添う父様は、お疲れなのか母様成分が足りないのか、3人を見て癒されたいらしい。
確かに、天使顔立ちのセシルに、父様似の美しい双子。3人一緒は絵になる。でも、セシルが天使なのは顔だけだ。口を開けば嫌味ばかり。
「心配しなくても、後でリリアムとも遊んであげますよ。」
わたしを見て微笑むセシル。わたしより睫毛ながいなぁ。
「婚約者候補とのデートの予定もないでしょうし。」
ほら、やっぱり嫌味ばかり。肌もわたしより極めが細かいなぁ。
「何でわたしが、セシルに遊んでもらわないといけないの?あなたはわたしより年下じゃない。
わたしと一緒に遊びたいの間違いかしら?」
そう、セシルはわたしより年下の10歳。声変わりもまだで、身長だってわたしの肩くらい。
嫌味なセシルは年のことを言われるのが大嫌い。
「じゃ、後で遊んでもらおうかな。エル、ミル庭の噴水で遊ぼう。」
セシルは年のことを言われ一瞬嫌な顔をするが、すぐに天使の笑顔に戻ってわたしに遊んでほしいと言う。わたしが嫌だと返事を言う前に、エルとミルを連れて噴水へ向かう。父様も癒されるため3人の後を追う。
「ロゼアムが男性をこの館へ入れるなんて、珍しいと思わない?」
母様がわたしへ疑問を投げ掛ける。
「リリアムとも仲が良いし、わたくしもセシル王子が息子だったら嬉しいわ。」
「わたしとセシルは仲良くなんかありません!セシルを何歳だと思ってるのですか?いくら婚約者がいないとは言え、セシルと結婚はしませんよ。」
母様に向かって言うと、母様はわたしを面白そうに見る。
「リリアムの旦那さまではなく、わたくしとロゼアムの息子だったら嬉しいという意味だったのよ。でも、リリアムったらそう勘違いするのね。
まんざらでもないのかしら?」
「母様の方こそ勘違いですよ。まんざらって何ですか?」
「あらあら、顔を赤くして必死に否定しなくても。そうだわ、今日の授業はセシル王子への贈り物を作りましょう。ここで使う王子の椅子はどうかしら?」
母様はウキウキと木材調達へ行きましょうとわたしの手を取る。
母様、普通、淑女は椅子は作れないと思いますよ。ノコギリの使い方って王女教育としてどうなのですか?
ビオラ:あら、ノコギリなんて持ってどうしたの リリアム。
リリアム:ノコギリは使わないのですか。(ほっ)
ビオラ:ええ、まだ使わないわ。
リリアム:母様、もしや手に持っているのは、斧ですか?
ビオラ:木材調達からよ。
リリアム:父様、とーうーさーまー!助けっ
ビオラ:もう、淑女が大声なんてはしたないわ。
リリアム:(斧もって娘の口を塞ぐ淑女もいないわよ。誰か助けて!)