リリアム、王に出会う
鬱蒼と生い茂る木々。手入れがされていない裏山。本当にここに王妃の墓があるのだろうか?
セシルの生母なのに。
裏山で王妃の墓を探して歩く。暫く道なき道を歩くと少し開けた場所に出た。石があり、王妃の名前が刻まれている。
本当に小さな墓だ。花も何もない。
わたしは膝まづき祈りを捧げる。
後ろから声がする。
「どうして来たのですか?」
わたしは振り返りセシルを見つめる。
「セシル、わたしたちはいつまでも一緒よ。あなたが行くならわたしも行くわ。」
わたしはセシルの手を取ろうとすると、それを阻むように人の気配がした。
「セシル、お前なら危険と分かっていても必ずこの場所に来ると思っていたよ。」
現れたのは長い金髪、青い瞳。若い男性で、父様やセシルより劣るが十分美男子である。
「アゼル叔父上…。」
やはり、アゼル王弟なのか。セシルの地位を奪う者である。
「セシル、お前は本当に私の邪魔ばかりする。長子に生まれなかったというだけで、兄の面倒ばかりみていたのも体の弱い兄では子が望めず、私が王太子になると思っていたからだ。なのに、お前が生まれた。」
アゼルは憎しみの籠った目でセシルを睨む。
「なら、生まれた時に殺せばよかったじゃないですか。他の皆を殺したように。」
セシルは憂いの籠った目でアゼルを見る。
「したかったさ!でも出来なかった!シューエン国の血が獅子の王に愛された子を殺すことを拒むのだ!優秀なお前は幼いながらに城を抜け出し、アムールノ国に匿われた。私は気が狂いそうだった。頭では帰ってくるなと思っているが、心ではシューエン国に獅子の王に愛された子がいない喪失感。私の手ではお前を殺せない。だからお前が自決するよるように仕向けるのさ。」
アゼルは一瞬の隙に私の手首を掴み、鼻元に体の力が抜ける薬を嗅がせた。
「リリアム!叔父上!彼女はアムールノ国の王女なのですよ!」
セシルが叫ぶ。
「王女を無事に返してほしかったら、おとなしくすることだな。」
アゼルが手を挙げると、凄まじい数の兵士が山を登って来た。この数では逃げるのは難しそうだ。
兵士に混じり、宰相を初め貴族らしい人たちもいるようだ。
「宰相に、騎士団長、近衛長…。お前たちも裏切るのか。」
セシルの瞳にほの暗い灯りがともつ。
「確かに獅子の王に愛された王子であったが、まだまだ子供で、獅子の子供に変身できるだけではないか。」
アゼルは笑いながら、セシルを捕らえる指示を目線で騎士団長に送る。
騎士団長がセシルに手をかけようとすると、セシルが手をかわし騎士団長の素早い速さ後ろへ回り、騎士団長の足を払い剣を抜き首筋へ突きつける。
「僕が11歳だからといって侮らないでもらえますか?」
「何をやってる!行けセシルを捕らえよ!」
アゼルの命令に、兵士が一斉にセシルを捕らえようとする。セシルは騎士団から奪った剣で兵士の剣を華麗に凪ぎ払う。セシルはこのわたしの後ろを取れるくらいの武術の達人なのだ。無駄がなく動きも最小限。
アゼルの顔に焦りが見える。
「セシル、王女がどうなってもいいのか!」
上手く力が入らず抵抗できないわたしの頬をアゼルの短剣が傷つけ、血がにじむ。
セシルはわたしのことを気にして動きが止まる。
「叔父上。あなたは本当に愚かだ。僕の前でリリアムを傷つけるなんて。」
怒りに満ちたセシルは雄叫びをあげる。ビリリと国全体が震えるほどの咆哮。
セシルは人の姿から、金色の鬣、切り裂けた大きな口に立派な体躯。どの獣も畏怖に感じる。正に獅子の王がいる。