リリアム、叫ぶ
「もうすぐ、セシルの誕生会が始まるわ。」
わたしはお腹に顔をうずめたままのセシルに言うと、セシルは顔を上げ恥ずかしそうに微笑む。
「あら、泣いているのかと思ったわ。」
わたしが意地悪く言うと、顔を朱に染めるセシル。
「泣いてません!ちょっと思いの外リリアムの作った椅子に感動してしまっただけです!ほら、行きますよ。僕の誕生日を祝ってくれるのでしょ。」
セシルは立ち上がり泣いていたのを誤魔化すように元気にわたしの腕を引き、食堂へ足を進めた。
食堂ではもう準備が終わっていて、主役を待っている状態だった。準備が終わったらセシルを呼びに行く手筈だったのだから、随分と待たせてしまったようだ。
「遅くなって申し訳ありません。」
セシルは申し訳なさそうに母様へ謝罪する。
「あらあら、いいのよ。ロゼアムが公務が遅れてまだなの。来るまでエルアムとミルアムの相手をお願い。母様はスープを温めてくるわ。」
双子は待ちわびていたのか、セシルを見つけると途端にキラキラと目が輝きセシルの両手に群がる。
「セシル、僕お花を作ったよ。見て!」
エルはセシルの右手を引っ張る。
「セシル、私は輪っかを作ったよ。見て!」
ミルはセシルの左手を引っ張る。
双子はセシルに自分たちが作った飾りを褒めてもらいたいみたいだ。手を引かれ広い食堂の中央へ向かう。
「エルとミル。ふたりとも僕のためにありがとう。上手に出来てるね。」
ふたりに嬉しそうな笑顔を見せ、双子の頭をなでる。本当の兄弟のようだ。
「「姉様も来て~。」」
双子の呼び掛けにわたしも3人の元へ行こうとする。
すると慌ただしい足音が食堂へ向かっていることに気付く。バンっと乱暴な音と共に父様が入ってきた。
大きな音に驚いた母様が厨房から出てきた。
わたしは父様に話しかけようとするが、様子がおかしい。いつもは優しい顔立ちだが、今日はわたしたちに見せない王としての冷たさが瞳にある。
「ロゼアム、どうしたの?」
ただならぬ雰囲気に母様が父様に近づき尋ねる。
「……。シューエン国の王弟アゼルが王位を継ぐそうだ。」
沈黙の中、重々しく口を開く父様。信じられないような内容である。セシルがいるのに、王弟が王位につく?まだ国王も生きているのに?
「セシルがアムールノ国にいることはシューエン国王にだけは伝えていたのだが、どこかで王弟にバレたのだろう。アムールノ国が関わっているから、セシルを行方不明のまま死亡扱いにし、周りのセシル側の貴族連中を捩じ伏せ、セシルが子供の内に事を進めようとしている。セシルの行方を知っているシューエン国王の身が心配だ。」
セシルは顔色を無くし無表情で父様を見つめている。双子は心配そうにセシルを見ている。
父様はセシル側へ行き、肩を掴む。
「セシル、どうする?このままアムールノ国に留まると言うのなら俺はそれでもいい。」
セシルは父様の言葉に首を振る。
「帰ります。」
「お前はまだ子供だ。時を待ってもいいのだぞ。」
「母上が叔父上の手にかかったの時はまだ何も分からぬ赤子でした。今度は父上まで見捨てるわけにはいきません。それに、子供と侮っている今の方が油断しているハズです。」
意思のこもった榛色の瞳。
「分かった。護衛を付けてシューエン国へ送ろう。」
父様は手配しようとセシルの肩から手を外す。
「いりません。アムールノ国の騎士が僕の護衛に付くと誤解を招き下手をしたら戦になりかねない。僕はここへ一人で来た。帰るときも一人で帰ります。」
「セシル!」
セシルは父様制止を振り切り玄関に向かおうとする。わたしは咄嗟にセシルに抱きつく。
「嫌よ!セシル殺されてしまうわ。セシルが行くなら、わたしもシューエン国に行くわ!」
わたしは叫ぶ。
「リリアムをここから出すわけにはいかない。リリアムはここで待っていて、必ず帰るから。」
セシルは涙で濡らすわたしの目元に口づけし、わたしの腕をほどいたと思ったら、首に一瞬痛みを感じたと思う前にわたしは意識を失った。
次の日目を泣きながら目を覚ますとセシルはすでにアムールノ国を出ていた。