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日本滅亡  作者: TAMAJI
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No.005 二日目 07時 ~ 08時

 No.005 二日目 07時 ~ 08時


 正直修はうんざりしていたが、このままだと近所迷惑なのでもう行くしかないと思った。行ったうえで、断って帰ってくる。めんどうだが、そうするのが一番当たり障りがなさそうだと判断する。


「わかった、行くよ。少しまっててくれ」


 しぶしぶ感をこれでもかというくらい出しながら、部屋の鍵をとってきて戸締まりをした。

 昨日と同じ服だが、着替えているような時間はなさそうだった。

 アパートの前の道路には、普通乗用車ではなくバンが止められていた。修と灘は後ろの席に座る。

 無精髭を生やしたごつい体の男が運転席に座り、助手席には女性が座っていた。後ろからなので顔は見えないが、髪は茶髪の長髪で頭の頂点付近は黒くなっているのはわかった。


「あんた、高良田修だろ? あたしは李尊美り そんみ。こっちは、木田毅きだ たけし。これからよろしく」


 走りだしたところで、助手席に座っていた女が前を見たまま言ってきた。

 修はその名前に違和感を感じたが、そのことについては触れなかった。


「よろしく」


 それだけ言うと、修は黙りこむ。というのも、あぶなそうな雰囲気がひしひしと感じられて、必要以上に深入りしたくなかったからだ。

 まったく会話がないまま、修を載せたワゴン車は二十分ほど走って目的地についた。

 車は公園の横にいったん止められて、修は荷物を公園に荷物を運びこむ手伝いをさせられる。

 公園にはけっこうな数の人間がいたが、大半が高齢者で皆似たような格好をしている。多くの人がプラカードを持っており、公園中のそこかしこを、うろうろと歩きまわっていた。

 修が運びこんだのは大型のスピーカーとアンプ、それにマイクのセットだった。運び込まれると、別の人間が手慣れた様子で設置を始める。

 スピーカーは公園の樹木やら電柱や遊具といった場所にくくりつける。次に、そこまでケーブルを伸ばして接続する。

 公園の真ん中にはステージが仮設されており、マイクはその上に設置された。

 成り行き上、修はその作業を手伝っていたが、益々不安になってくる。


「なぁ、これって許可とってんの?」


 他の人間に聞かれないように、そっと灘に聞いてみる。


「いいか、これは日本が戦争をしないためなんだ。そのために俺たちが戦わないといけない。そういうことなんだぜ」


 灘は修の質問には一切応えることなく、そんな返事を返してくる。正直、修はどうでもよくなり、それ以上つっこんだ質問はしなかった。

 ものの三十分ほどで会場が出来上がり、公園をプラカードを持った高齢者たちが埋め尽くしていた。


「それじゃ、俺もいくわ。紹介するから、お前もこいよ」


 設営の手伝いが終わると、灘はそう言って灘を舞台下へと連れて行く。人混みを迂回するように連れて行かれるが、彼らの手にはしているのは、『自衛隊反対』とか『戦争反対』とか、そういった古めかしいお題目が書かれたプラカードが大半で、中には中国の簡体字とかハングル文字とかが混じっている。修にはさっぱり読めない。一体誰に向けて書かれたものなのか疑問に思ったが、口には出さなかった。それ以外に目立つのは、共社党の真っ赤な旗である。これから一体何が始まるのか、まったく興味はなかったが、なんとなく政治的な何かなのだろうなとは想像がついた。


「おい、なにぐずぐずしてる。こっちだ!」


 まるで乗り気ではない修はやる気なさげにゆっくり歩いていたのだが、灘に呼ばれて急がざるをえなくなった。

 灘の隣には背広を着た年配の男が立っている。なんとなく、見覚えがあるような顔だったが、はっきりとは思い出せなかった。


「こちらは、箍誠たが まこと先生だ。お前だって知っているだろ。共社党の党主様にして内閣総理大臣だ」


 やたらとへりくだった態度で灘が修のことを紹介する。灘の紹介のおかげで、テレビでみたことがあることに気づいた。ネット上でも見た記憶がある。まったく興味がなかったので常にスルーしていた。


「はあ。どうも」


 修はなんと答えていいものかよくわからないので、戸惑いながら適当に頭を下げておく。


「お前なぁ。もっとちゃんと挨拶できねぇのかよ!」


 修の態度に腹を立てた灘が詰め寄ってくるが、紹介された箍は鷹揚な態度で言う。


「まぁまぁ。君は初めてのようだし、今後は色々と教えてもらうといい。そして、自衛隊打倒のため、共に戦おうではないか


 おもいっきり上から目線で、諭すように言われたが、修にはどうにもピンとこなかった。


「はあ……」


 なので、やはり答えはこんな感じになってしまう。


「それで、最初の演説は……」


 箍は完全に修に対して興味を失い、隣にいたスタッフらしい男と話始める。

 元々、修のことなど視界にすら入っていなかったのだろう。

 灘は灘で、他のスタッフから声を掛けられる。それ以上修にかまっている暇はなくなったようで、最後まで見ていくようにと言い残してどこかに行ってしまった。


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