No.004 二日目 03時 ~ 07時
No.004 二日目 03時 ~ 07時
そこで、スマートフォンを使って検索をかけてみようとするが、それも同じようにタイムアウトになってしまった。
さすがにこのままではレポートが進まないので、なんとかするしかない。
もしかすると、検索サイトの問題かも知れないと推測をたてる。特定のサイトのURLを入力してみると、きちんとホームページが表示された。やはり、検索サイトが動いていないか、検索サイトへの接続が拒否されている可能性がある。
そこで、修はいつも利用している世界最大の検索サイトではなく、規模の小さな検索サイトのURLを入力してみるが、やはりタイムアウトになってしまった。
修が知っている他の検索サイトを試してみるが、他の検索サイトも同じであった。
あまりに異常で、そんな馬鹿なことがありえるのだろうか、と思うくらいだったが、現実に起こっているのだからどうにもならない。
イライラしながら何か手はないかと探っていると。もしかして、特定のIPアドレスからの接続ができなくなっているのではないかという推測を新たにたてた。
そこで、VPNを利用して国外のIPを取得してみることにする。
とりあえず、無難なところでUSAと表示されるVPNサーバに接続して、そこからIPアドレスを借りる。
この状態で、もう一度検索サイトに繋いでみると、なんの問題もなくいつものホームページが表示された。
ただ、さすがにそれで良しということにはならず、一体何が起こっているのか気になる。言わば今はIPを偽装している状態だ。なぜ、こんなことをしないといけないのか、気にならないはずがない。
そこで、修が最初に見たのは、日本最大のネット掲示板である。さすがに過疎化しているのではないかと思ったが、実際には逆で凄い勢いでスレッドが作られていた。
その中の一番頻繁に更新されているスレッドを見てみると、どうやら日本国内のIPから検索サイトにアクセスしようとすると、ほぼ例外なく遮断されているようであった。
なぜこんなことになったのか、様々な憶測が書き込まれていたが、結論はまだ出ていないようであった。
これではまるで中国ではないか。というのが一番多い反応だったが、原因を特定する書込みは見られない。実際に検索サイトを運営している会社に直接問い合わせをしている者もいたがまともな返答は得られていなかった。
だが、そうこうしているうちに検索ができるようになったという書込みが見られるようになり、修も試してみると普通に検索サイトに繋がった。
一体どうしてこんなことになったのか、結局何もわからないまま修はこの問題を放置することにした。
さすがに、レポートを仕上げなくては間に合わないからである。
復活したネット検索とコピー・アンド・ペーストを駆使して、修が提出用のレポートを作成し終えたときには、空が僅かに明るくなり始めていた。
少しでも寝ておかないとと思い、掛け布団と枕だけ押入れから引っ張りだして横になる。
友人のことも含めて色々とあったので、中々寝付けないまま夜が明けてしまった。
そして、ようやく眠りについたとたん玄関のドアをドンドンと叩く音で叩き起こされる。
対応に出ると、灘がいた。
「おい、いくぞ。支度しろ」
いきなり言われて、修は戸惑う。
「はぁ? なんなんだよ?」
常識からすれば、当然の反応をする。
「ちっ。聞いてなかったのかよ? 昨夜言っただろ。朝迎えに行くからって。時間がないんだ、早くしろ」
まったくの、上から目線の答えが帰ってきた。しかも、命令口調。一体何様なんだよ、とは思ったが今の修には言い争うだけの気力がなかった。
「あのさ。俺は行くなんて一言も言ってないんだけど?」
修は正論で応じる。
すると、突然灘の顔色が変わった。
「はぁ? てめぇ、ふざけてんのか? 今更、何言ってんだよ。こっちは、同志に話して車まで出してもらってんだ。そんな話、通用すると思ってんのかよ?」
気色ばんで詰め寄ってくる。今にも殴りかかって来そうな勢いだった。
ここで、修は急に怖くなる。昔知っていた灘とは、まったくの別人であった。こんなに暴力的なヤツではなかった。
「一体、いつまで待たせんのよ?」
女の声が下から届いてくる。修の住んでいるアパートは2階建てで、両サイドに階段があり上下に部屋が並んでいる昔からあるオーソドックスなタイプの造りになっている。相手が下に立っていれば、手すり越しに会話は可能だった。
こいつ彼女がいるのか? とも思ったが、女の声はひどく攻撃的で耳障りに感じて、そうだとしてもまったく羨ましくなかった。
「ちょっと待てよ。今こいつ連れて行くから」
折り返し、苛ついた声で灘が叫び返した。
朝っぱらから、こんな調子でやられたら、さすがに他の住人から苦情がきそうだ。
「おい、はやくしろよ。みんな待ってんだからよ」
灘はさらに機嫌が悪くなり、修に向かって八つ当たりするように言ってきた。