No.021 二日目 17時 ~ 19時
No.021 二日目 17時 ~ 19時
洞窟の中には電気が通してあり電球が切れていない場所は明るかったので、どこまでも続く洞窟の中を一日中探検して遊んでいられた。電球が切れている場所を見かけたら祖父に連絡する。すると、すぐに電球は新しいものと交換され、また探検の続きができるようになる。そのおかけで、洞窟の中のことは隅々まで覚えていた。ただ、その頃のことを誰かに話したことはなかったはずだ。母親が先に死んだ後、海外赴任をするために一時的に修を母方の祖父の下にに預けていた父親もそのことは知らないはずであった。普段住んではいなかったが、普通の一軒家が多摩市街地に存在していたからである。
「どうして、そのことを?」
知っているのかと修が聞くと。
「一度、そこに友達を連れて行ったことがあるだろ? 櫻井一郎、覚えてないか?」
そういえば小学生の頃、そんな名前の同級生がいたことを思い出す。一時的に多摩小学校に通っていた時、修が一番最初に仲良くなった友達だった。とはいっても、奥多摩の山中から通っていたために、平日の放課後はほとんどまともに遊んでいられるような時間はなかった。そんな中、一度だけ休みの日に遊びに来たことがあった。その時は朝からずっと一緒に塹壕の中を一緒に探検していた。
「ええ、確かに知っています。それが何か?」
何か嫌な予感がして修が聞き返すと。
「桜井一郎くんは先週、板橋区にある自室から遺体で発見された。パソコンで作成された遺書もあったことと、発見時に密室であったことから所轄は自殺で処理したんだ。だが俺はそこの大家が武装集団の関係者リストの中にあることを知ってね、桜井くんのことを改めて調査したんだ。そうしたら、君の名前にたどり着いたってわけさ」
修の喉が鳴った。無意識のうちに生唾を飲み込んでいたらしい。
「それじゃ、桜井は殺されたんですか? そして、俺も同じ連中にさらわれそうになった……」
いまさらながら、修の背筋が凍りついた。
「殺されたのは間違いないだろう。問題なのは、この殺人事件はこれから起こるであろう惨劇の前触れに過ぎないってことだ。そして、彼らが拠点としている内部の構造を熟知している唯一の人間だ。身柄を確保したのは、他にその情報を知る人間がいないかを聞き出すつもりだったのかも知れない。もちろん、聴きだした後は口を封じるつもりでね」
乃木は恐ろしいことをさらりと言った。
「た、逮捕しないんですか? 大家とか……人を殺してるんですよ?」
恐ろしくなった修が焦るように言うと。
「そうしたいのは山々だが、そうもいかんのさ。連中は組織で動いている。実行犯を逮捕したところで、他の人間が実行する。実際、君をさらった連中は別の人間だった。それに、情報を掴まれていることを知った連中は、次は問答無用で殺しにくるかも知れない。さらに言えば、連中の計画が成功すれば、法律にはなんの意味もなくなる。彼ら……というか、共社党の意思に逆らう者はすべて殺されるからな。そんな状況なんで、大家一人を逮捕したところで、なんの役にもたたない」
乃木は淡々とした声で状況を説明する。
「それで、僕は何をすればいいんですか?」
すると、修は覚悟を決めた様子で改めて尋ねた。
「これをつけてくれ。超小型の無線だ。スクランブル信号がかかっていて簡単には傍受できないようになっている。俺と上島が潜入してから、要所で連絡を入れる。君はそのとき、先の通路がどうなっているのか教えてくれればいい。袋小路に迷い込んだりすれば洒落にならないからな。それと、もう一つ。司令部を設置してある場所だ。塹壕跡の中で、一番広い場所へ誘導できるか?」
乃木の質問に、修が頷く。ようは、できるかできないかの次元ではなくなっている。やるしかないのだ。そして、成功する以外に修が生き延びることのできる道はなかった。
「やります」
決意を言葉に込め返答を返した後、修は間を置くことなく続けて話し始める。
「塹壕の中で広い場所は二箇所、そのうち一箇所はすべての通路が集中する場所で、もう一つはそこから離れたわかりづらい場所にあります」
修の話に口を挟んだのは上島だった。
「片方が本丸、もう一つはキルゾーンだな」
聞き慣れない言葉がでてきたので、修は思わず聞き返していた。
「キルゾーン……ですか?」
上島は手にした暗視スコープを調整しながら修の質問に答える。
「侵入した敵を誘導して殲滅するための場所のことだ。これがテロ対策だと監視装置の配置やインテリアの場所を工夫して、どこがキルゾーンになるのかわかりずらくしてあるが、戦時中ならそんな必要はないから最も効率的に敵を誘導できるようにしてある。そこを使用している以上、今もキルゾーンとして利用されている可能性が高いな」
上島の説明を聞いて、修はようやく理解する。
「つまり、通路が集中している場所がキルゾーンで、僕はもう片方に誘導すればいいということですね?」




