No.013 二日目 10時 ~ 11時
No.013 二日目 10時 ~ 11時
「そうしたいところは山々なんですが、中々うまい方法が……あっ、走り始めました。信号を右折しようとしています」
三島が答えようとしたところで、動きがあったようでそれを上島に伝える。
「交差点が見えた。目標の車の特徴を教えてくれ」
上島の声は落ち着いているが、緊迫感は伝わってくる。
「白のバンです。後部の窓はすべて黒いシートが貼られており、中を確認できないようになっています」
三島は分かりやすい特徴を簡単に伝える。
「あれだな。シートベルトは締めてるな? それと、タブレットはしまっておけ。少々手荒にいくぞ」
そう言うと、上島はアクセルを踏み込み軽自動車を加速させる。
「えっ? まさか、ぶつけるつもりじゃ?」
慌ててバッグの中にタブレットを仕舞ながら三島が聞くが、
「舌を噛むんじゃないぞ!」
上島の言葉の直後に強烈な衝撃がくる。派手な音と一緒にエアバッグが開き、三島の視界を塞いだ。
「おい、大丈夫か? すぐに出るぞ」
すでに上島はドアを開けて行動を起こしていた。
三島はふらつく頭を一振りすると、それに続いて外に出る。
すると、一体どういう状況になっているのかが確認できた。交差点の中央付近で、右折をしようとしていたバンに、軽自動車がぶつかってきた。運転席のあたりを直撃している。運転席では男がぐったりとしていた。
上島は運転席のドアを開けて手を突っ込み車のキーを抜き取る。
「てめぇ、何しやがるんだ!」
声がバンの助手席から聞こえてくる。むろん、上島はそれに構わず鍵を持って後ろに回る。三島もそれに続くが、李尊美もバンの助手席から降りてきた。
「てめぇ、さっきいたぶん屋じゃねぇか! なんのつもりだよ!」
さすがに顔を覚えていた。三島につめよってくる。
「いやぁ、申し訳ありません。よそ見してまして」
李尊美の正面に立って、三島はぺこぺこと頭を下げた。もちろん、上島のじゃまにならないように足止めするためである。
「はぁ? そんな言い訳、通ると……あっ、てめぇ、何勝手に車開けてんだよ!」
抜き取った鍵を使ってドアを開けた上島のことに気づいて、李尊美は咎めるようにどなった。
「いやぁ、申し訳ありません。まったくもって、不徳の致すところでして。どのようなお叱りでも受ける覚悟をもって……」
李尊美の正面に立って、ぺこぺこと頭をさげながら妨害する。
「てめぇ邪魔だ、どきな!」
さすがに足止めをしていることくらいは見抜いているようで、三島を払いのけようとする。もちろん、三島がどくわけがない。李尊美は回り込もうとするが、三島も動いて妨害する。
そうやっていると、すぐに上島が声を掛けてくる。
「目標を確保した。撤収するぞ」
見ると手錠を掛けられて、不自然なほどふらついている修の体を支えている三島の姿があった。
どうやら、修の身柄は無事に確保できようだ。
「というわけで、失礼」
三島は頭を下げて、この場を立ち去ろうとするが。
「バカめ。逃がすかい」
いきなり、三島は腕を掴まれた。振りほどこうとするが、女とは思えないような強い力で、振りほどくことができなかった。
そこに、さらなる厄介事が増える。
「おい、てめぇら何やってんだ!」
それまで、運転席で気絶していた男が降りてきた。体格からみても、三島では到底相手になりそうもない。
「高良田のガラ抑えられた。あんたは、そっちをなんとかしてくれ」
李尊美が降りてきたばかりの男に向かって指示を出す。
「わかった」
男は素直に李尊美の指示に従うようだ。
三島は無理に振りほどくのをやめて、李尊美に抱きついて体を持ち上げる。李尊美は口汚い言葉で罵りながら、足をばたつかせるが三島はかまわずバンの後部へと移動する。
すると、いきなり左の耳をバーナーで炙ったような強烈な痛みが襲った。ぬるっとした液体が頬を伝って、顎の先からしたたりおちる。三島の血液であった。耳を噛まれたのだ。
「うおおっ!」
三島の口から雄叫びめいた声があふれるが、李尊美の体に回した手は緩めなかった。それでもさすがに、前進していた足は止まる。
「放しやがれ、このくされち○ぽやろう!」
女性が使うにはおそよ不適切な内容の言葉を叫びながら、三島の手を放した右手で自分が噛みちぎった耳を叩き始めた。
血しぶきが舞い、派手に飛び散る。三島は五回その攻撃に耐えたが、六回目の打撃でついにその体を離し、その場に膝をついてしまう。耳をふさぐ打撃のせいで、鼓膜を突き破ってしまったのだ。
「なめてんじゃねぇ、このふにゃち○やろう!」
不適切な発言とともに、つま先で三島の顔を蹴り上げる。
避けようと顔をそらすが避けきれずに、靴のつま先が頬骨の当たりに入る。李尊美の足は三島の頬を切り裂きながら上にそれたために脳へのダメージはほとんどなく、脳震盪を起こさずにすんだ。
「避けてんじゃねぇよ、てめぇは!」
理不尽な怒りと共に、李尊美は次の蹴りを放って来ようとしたのだが、実際にくることはなくなった。




