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遺言ゲーム  作者: 織田 伊央華
第1章「最初のゲーム」
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第01話「集うプレイヤー」

第1話「集うプレイヤー」


 水中はいい。聞こえる音は自分の心音のみ。

 漂う世界は無重力のように上下の感覚が薄く、圧し掛かるような水圧は心地よく体の表面を押している。

 小学生の一年生から続けている水泳は俺を精神的にも肉体的にも育ててくれた。それはもうこの世にいない二人の両親にも感謝している。

 大学に奨学金を借りて入学し、祖父母の金銭的な補助で生活できている。今も水泳は続けているがバイトとして子供たちに指導する傍らで練習をしているのだ。これは俺のコーチでもあり上司でもある人の計らいでもある。

 現役自体は高校卒業と同時にキリをつけ、体力維持と自らの矜持で今も練習を続けている。体力を落とすと色々と面倒なこともあるし、大学での不規則な生活は体調維持の観念からも祖父母のため、という事の方が強い。

「おいカオル!」

 水面に浮かぶように泳いでいた俺に声が届く。ここ数年以上、聞きなれた声だ。

 ふと視線を向けると長身の男が俺の方を見ている。

「なに?」

 浮かんだまま返事をする。耳は水中のままだから音が反響し、自分の声がくぐもって聞こえてくる。

「そろそろ閉めるってよ」

 時刻はすでに22時近く、閉館時間である22時まであと数分と迫っていた。

「もうそんな時間か」

 そう呟くと足早にプールから上がった。



 このままだと家にたどり着くのは22時30分を回るだろう。

 そう考えながら自転車のペダルを踏む足に力を入れる。

 自動二輪の免許も取得していてバイクも持ってはいるが基本近場は自転車移動だ。大学生の生活は体がなまる。

 結局のところたどり着いたのは40分くらいだった。自転車を駐輪所に停め、階段を上る。

 4階の自分の家の入口にたどり着くまでには足に僅かながら乳酸が溜まっていた。

「えっと、鍵、鍵は・・・」

 バッグの中を探りながら鍵を探す。するとふと後ろから声が掛けられた。

「もし、貴方様のお名前は櫻 薫様でお間違えないでしょうか?」

 はっきりとした口調と、優雅なたたずまいは初老という見た目からも非常に様になっている。そんな初老から突然声をかけられたのだ。

「え?あーはい、そうですが・・・」

 訪問販売などのセールスにしては時間が遅すぎる。かといって、目の前の男が警察関係者、などということは無いだろう。

 自らに名前を呼ばれてかつ止められる理由を思いつくことが出来ない。俺は怪訝な表情で男を見る。

「貴方様はこの度、抽選の結果24組目に選ばれましたことをご報告に参りました。つきましてはご参加していただくたくここまで参った次第です」

 抽選?何か応募でもしていたかな?

「つきましては・・」

 再度男が喋りだす。

 その直後、俺の視界が揺れた。それはまるで飛び込んだ直後や、頭を強く長打した時などに感じる不思議な感覚。その感覚を最後に俺の意識は閉ざされた。



 体中に多少の痛みを感じることで俺の意識は覚醒した。

「ここは・・・」

 声が向かう先の天井には見覚えがない。綺麗に壁紙が張られ、所々には気づかないほど巧妙に設置された照明が微かな明かりをともしている。そのおかげで天上自体が一つの照明になっているようだ。

「やっと起きた」

 ふと体を起こそうとすると隣から声がかかる。聞いたこともない声で、声の高さからも女性の物だという事が分かった。

 完全に起き上ると俺の目の前には一人の少女がいた。

「ねえ、ここどこ?」

 パッと見て年齢は17歳ほどだろうか。スイミングで通っている年下の子達とさほど変わらないように見える。が、女性の年齢を問うのは自己保身のためにも最善ではないだろう。

「ここって?」

 とりあえずは俺も状況が把握出来ていない。ゆっくりと見渡すとホテルの一室の様だった。まさか意識がないうちに間違いを犯した、とも現在の服装からは想像できない。

「このホテルの事っ!なんで家にいたのに突然こんなところにいるのよ?」

 多少混乱しているようだがそれほど取り乱してはいないようだ。部屋を見渡した限りこの部屋には俺とこの少女一人だけのようだ。女性が取り乱すとそれをなだめるのにも相当なカロリーを消費してしまう。今はそれだけでもまだ救いと言えるだろう。

 よし、まずは状況確認だ。何事も焦ったら先に進まない。じいちゃんの教えだ。

「まず確認したいんだけど。君はここにいる理由は解らないの?」

 先ほど少女が言っていたことの復習でもあり確認だ。

「さっきも言ったじゃん」

 多少不機嫌にも見えるのだが、改めてみるとこの子相当可愛い。まあそれはとりあえず置いておく。

「じゃあ、ここに来る前の最後の記憶ってどんなの?なんか黒いスーツ着たおじさんが変な事言ってなかった?」

 もし俺と同じ境遇ならば似たような内容で誘拐、もしくは連れ去られた可能性が高い。まあ結局のところどちらも変わらないんだが。

「え?あー確か変なおじさんが部屋を訪ねて来て、不審者って叫んだとこまでは覚えてるんだけど・・」

 まあ他人の家に侵入して彼女の自室まで押し掛けたようだ。叫ばれても仕方がないだろう。その騒動のせいで俺に言ったような言葉を言う暇がなかったようだ。ならば教えてあげるか。

「俺にもそんな変なおじさんが来てこう言ったんだ。『貴方様はこの度、抽選の結果24組目に選ばれましたことをご報告に参りました。つきましてはご参加していただくたくここまで参った次第です』ってね」

 我ながらよくはっきりと覚えていたと思う。でももう一回言ってって言われても無理だろうな。

「なにそれ?」

 ほんと、俺もそう思うが今となっては確認しようもない。

「とりあえず、このホテルの外には出れないの?」

 まず誘拐だとしたら監視がいないのはおかしい。もしかすると部屋のどこかに監視カメラが取り付けられているかもしれないがそれを確認するすべはないだろう。

「うん、あんたが寝てるときに確認したけどドアも明かないし窓も開いたとしても高層ビルだもん」

 少女の言葉に俺も一度確認してみることにする。ホテルの部屋の造りは二人部屋でベッドは二つ。部屋にはテーブルと椅子が2脚あり、比較的広い部屋だ。調度品等を取って見ても一目で高級ホテルだと分かる。

 まず先に調べたのはドアだ。通常であればカードキーが主流のホテル業界だが古いホテルなどでは鍵がいまだに使われている。

 どうやらここの扉はカードキーのようだ。

 ドアノブを回してみても鍵が解除されない。システム的にロックがかかっているようだ。

「これはいよいよ胡散臭い」

 これほどのことが出来るのは犯罪組織では難しいだろう。海外ならいざ知らずなかなか賄賂が効きづらい日本の警察は世界からも高評価を受けている。そんな日本の警察を掻い潜って誘拐をするのはなかなか難しいだろう。それにもし買収などでこのようなことをしているのであれば相当な費用が掛かっているはずだ。もしくはこのホテルのオーナーなどが犯人という場合もある。

 一通り風呂やトイレを確認して電話も受話器を上げてみる。しかし電話線がつながっているのにコールがならない。予想通りだとはいえ、流石に怖いな。

 そして最後に窓を確認する。外は暗く、高層ビル群の光と、地上の道路を走る車のライトだ複数の光の筋を作っている。

 そして一番と言いきく見えるのは東京スカイツリー。

 ・・・・・ん?まて、いまスカイツリーが見えたような。

「え、ここ東京?」

 振り返って少女に尋ねるがなぜか可哀想な瞳を向けてくる。

「いやいや、俺目覚める前まで福岡にいたんだよ?」

 目の前の光景を信じるのであればここは東京という事になる。今日の日付は解らないが、寝ている間に東京まで運ばれたという事になる。服装は記憶にある服装のままだからそう日にちが経過しているとは思えない。微かに俺の体臭は塩素の匂いを含んでいる。

「福岡ってあんた寝ぼけてるの?」

 口は悪いけどまあ可愛いから今は後回し。

「こんな状況で寝ぼけられるのはどこぞの主人公だけだよ」

 多少の皮肉も置いておいて、とりあえずほかに部屋に何かないかを確認する。ついでに時刻もだ。外が暗いという事は夜だという事は間違いないだろう。それに東京であれば下に見える光の線が輝かしいのもうなずける。

「時刻は11時57分。日付は・・・俺がさらわれた日から約一日、23時間後ってところか」

 12月24日、明日はクリスマスか。そんなことはどうでもいい。まあ去年も一人だったし。

「後はっと」

 最後にテレビ回りを確認する。もし電源が付くならテレビでニュースを見たい。俺は一人暮らしだから早くても周りが気づくのに数日はかかるだろう。だが少女の方はどう見てもまだ高校生だ。だとすると両親が早めに気づいて警察に届けを出すだろう。そうなればマスコミも黙ってはいない。早ければもうニュースになっているはずだ。

 しばらく探したが結局リモコンはおろかテレビをつけることも出来なかった。まあ一応専門分野だから分解してつけることも出来るだろうが、それは最終手段にしたい。それにボタンやロゴなどが一切ない特殊なテレビのようだ。分解して万が一爆発などしたら困る。

「テレビは付かないか」

 そう言ってあきらめるようにベッドに座る。あと一分ほどで零時を回る時計に視線を落としながら次の行動を考える。が、その前にここは協力をしておいた方が後のためだろう。

「とりあえず、出会いは偶然でもこんな状況だ。お互いに自己紹介ぐらいはしておいた方がいいと思ううんだが」

 そう隅でうずくまる少女に声をかける。俺の言葉に少し顔を上げて視線で睨み付けてくるが口は開かなかった。それを俺は了承と見なし自ら先に自己紹介を始める。

「俺の名前は櫻 薫、福岡の大学3年生だ、歳は21歳。呼び方はカオルでいいよ」

 数拍以上の沈黙。しかし俺の声は少女にも届いていたようだ。

 すこし間を置いて少女も口を開いた。

「・・・私は柚木 雫、高校3年生で18歳」

 ぶっきらぼうな言い方だがまあ女の子はこんなもんだろう。第一俺もマンガや小説などを読みまくっていたからこそこんなに落ち着いているんだ。オタク趣味も悪いものではない。意外と実益を生み出すのはここ5年ほどで実感済みだ。

 とりあえず自己紹介もつつがなく、とは言いずらいが終了したところで今後をどうするか雫に問言おうとした時だった。

『ようこそまだ若き有望な後継者候補達よ』

 静かだった部屋に低く、だが迫力のある声が響いた。


 テレビに映っているのはどこかで見たことがる老人。病床なのか豪華なベッドに上半身を起こした状態で映っている。映し出される顔や体はすでにやせ細り、もうほとんど死に近い状態であることが画面越しにうかがえる。だが、この顔、どこかで・・

「・・・楠木 門左衛門・・・」

 思考の途中で雫の声が俺の聴覚に届く。小さな呟きだったがそれは明確に俺まで届いた。

 思いだした。楠木 門左衛門、数日前にニュースで大々的に放送していた人物だ。俺が持つ情報はすべてニュースからの情報だが、世界トップクラスの財閥、楠木財閥の会長であり、一代で世界の頂点にまでのし上がった人物だ。驚くのはその手腕もそうだが総資産である。世界各地に財産を持ち、その総資産は数千兆円と軽く国家を超えるほどの資産を保有している。それほどの大富豪が無くなったのだ。それはニュースにもなるだろう、歴代の日本出身の大富豪も彼まで上り詰めた人物はいないだろうからな。

 そんな人物が画面の向こう側にいる。もし死んだというのが本当であるならばこれは事前に用意されていた録画映像だろう。

『この画面の向こう側にいる諸君は今の現状を理解できていないだろう。なぜここにいるのか、そして今から何が起こるのか』

 皺の深い顔の奥からは不吉なほどの迫力を感じる。

『それを教えたいのは山々じゃが、まずは祝福せねばなるまい。おめでとう、今回選ばれた25組50人の男女の諸君らは我の資産相続の正統後継人候補に選ばれた。我が持つ総資産約3240兆円を諸君らに渡そう。しかしじゃ、これをタダで、しかも複数という事にはならぬ。故にここに遺言ゲームの開催を宣言する』

 そこで一息つくと画面の中で初老の執事が何かをお盆の上に載せて門左衛門の隣に立った。

『さてまずはルール説明と行こうかの。まずゲームは全部で3回戦ある。これは人数を減らすためであり、適性を見ることにある。最終的に勝者は一組になるじゃろう。では第一のゲームの説明じゃ。第一のゲームは鬼ごっこじゃ。諸君らは鬼ごっこをしたことがあるじゃろう。一般的に認識されている鬼ごっこの認識で間違いはない。だがこのゲームでは逃げるのはおぬしらじゃ。そして優秀な鬼は警察じゃ』

 その言葉で隣で見ていた雫が短く小さな声を漏らす。要はこの爺さんは鬼が警察の鬼ごっこをしようという事だ。

『まあそうゆうてもまず勝ち目はないじゃろう。そこでじゃ』 

 そう言うと傍に控えていた初老の執事が前にでてお盆の上に載っていたものをカメラに向かって見せた。それはスマートフォンだった。その直後ウィンとモーター音が聞こえテレビ下のテレビ台から引き出しが自動で出てきた。先ほどリモコンを探した時にはそこに引き出しがあるとは思いもよらなかった。それほど巧妙に隠してあったのだ。

『この端末はおぬしらが使っておったスマートフォンとは少し違う。まずは機能じゃが連絡できる先は一つ、そしてその一つはおぬし等を助けてくれるオペレーターへとつながっておる。最後まで逃げ延びたいのであればこのオペレーターをうまく使う事じゃ。それとその端末の隣に置いてあるのは軍資金じゃ。何事にも先立つものが必要じゃろう。わずかだが我からのお小遣いと思うてくれ。ではルールの続きじゃ。

一つ、第一ゲームは鬼ごっこである

これは先ほど説明したのう。では次じゃ。

二つ、逃げられるのは国内だけである

これは海外へ逃げることを防止するための物じゃが。まあ万が一逃げようとなどは考えぬことじゃ。我の私兵は飛ぶ飛行機を容易く落とし、走る船を容易く沈めることになる。また他の人間にこのゲームの事を話した瞬間にはおぬしらの首が飛ぶことも理解しておくように。

三つ、逃走期間は一週間後の12月31日午後11時59分59秒まで

これは逃走期限じゃ。これを過ぎれば警察は追うのをやめる。万が一追い詰められていて我の迎えが間に合わず警察に捕まっても拘置所に入る前に出ることになるじゃろうから安心せい。

四つ、期限内に警察に捕まった者の命はない

これは言うよりも見せた方が早やかろう』

 そう言うと画面が切り替わった。表示された画面は独房のようだ。鉄格子の中には二人の男女が入っている。

『これは試験をした時の逮捕者じゃ。かと言ってもいまおぬしらが居る時間よりもわずかばかり前に逮捕されたのじゃ。これは現在の独房のライブ映像じゃ』

 声だけになった門左衛門の声が状況を説明する。

『では先ほどの意味を説明しよう』

 そう言うと画面に変化が訪れる。

 画面端、下の方に突如黒いスーツを着た男が複数現れた。そして次の瞬間複数の小さな閃光が薄暗い独房内を照らし出した。

 一瞬逸らした視線を元に戻すとその独房内に黒スーツの姿はない。しかしその他にも独房内で動くものはゆっくりと流れる黒い液体。それも動かなくなった二人の男女から流れでているものだけだった。

 隣からひっと小さく声が聞こえてくる。

『まあこの映像を信用するもよし、しないもよし。じゃが明日にはニュースの一面を飾るであろうな。では次に行こうか。

 五つ、最初の分配金は10億円とする。これはオペレーターとその用途に使用される。またこの資金が無くなった場合は四つと同じく死を意味する

 まあ金は命と等価というわけじゃな。そして10億はおぬしらが逃走で使える軍資金じゃ。使用方法の詳細はオペレーターに聞けばよかよう。

 ではゲームを始めたいと思う。せいぜい頑張って逃げよ。では第一回戦”鬼ごっこ”スタートじゃ。7日後にまた会おうぞ』

 その言葉を最後にテレビはぷつりと切れた。

 流れる沈黙。それはこの部屋にいる二人ともがこの現状を呑み込めていないという事でもある。だがそうも言ってられない現状がある。とにかく動かなければ、死ぬ。

 俺は考えるよりもすぐに体が動く。これは長年水泳というスポーツをやって来た副産物だろう。

 まずは先ほど言った端末だ。

 手に持つと思った以上に軽く、不思議な材質なのか金属質なのにもかかわらず冷たさを感じない。すると突然電源が入る。

 なにができるのかを考えなければ。そう思い画面に視線を落とすとすぐにオペレーターへの通信ができるボタンを見つける。とりあえずわからないことがあれば聞けばいい。そう思いタップする。すると直後から電話がかかり始めた。

 急いで耳元に近づけるとすぐに声が聞こえてくる。

『はい。御用でしょうか?』

 合成音声でもないが人間独特の温かみも感じない。どちらかと言えばコールセンターなどの受付嬢の声などにも似ているがこの声はそれよりも機械質だ。

「現状を知りたい。そっちが出来ることを簡潔に教えてくれ」

 我ながら何とも投げやりな言い方だ。だがこれで相手のオペレーターがどこまで対応してくれるのかを知ることが出来る。

『かしこまりました。我々オペレーターが出来るのは資金として用意された10億円を使用してプレイヤーの皆さまをお助けすることです。ですが指示以外の事は自ら実行することはできません。また現在の科学力や物理学を超える現象を起こすことは不可能です。資金についてはその都度適性額を引いていきます。現在お持ちの端末で随時確認できます』

 とりあえずはSFなどで出てくるような超常現象は起こすことはできない。まあそれは当たり前だろう。であればどこまでできるかが今後の行動に影響される。まずは試験が必要かな。

「よし、じゃあ俺たちをここから逃がせ。それも警察に見つからずに、と言ったらできるか?」

 なんたるアバウトな問いだろう。そう自分でも思うし、これが実現出来たらオペレーターなんぞいらん。そもそもゲームの意味がなくなってしまう。だから答えは

『不可能であると考えます。我々は状況に応じてプレイヤーを援助する役割を主としています。その為こちらがすべての行動を考えることは不可能になります』

 だろうとは思っていた。先ほどの門在衛門の言葉や態度からはこのゲームを楽しむような感じがしていた。だからこそ公平性とゲームバランスを崩すようなことはできない。

「よし、なら始める前に何個かルールを決めておこう」

『ルール、ですか?』

 なんか珍しいようにいままで違うような感じの声が聞こえてきた。案外人間なのかもしれない。だがAIという可能性もあの金持ちからは可能性として捨てきれない。だがそれはこの際おいておこう。

「ああそうだ。これから俺が指示を出すとその都度お金を使うんだろう?」

 俺の解釈が間違っていなければそれであっているはずだ。

『はい、その解釈で間違いありません』

 ならばルールが必要だ。

「じゃ、まずはお金についてだ。これから最後までお金を使うだろうが最終的には1円残しておけば問題ない、そうだろう?」

『はい』

「では何が有ろうとこの一円は残す。そのお金は最初に隔離する。これは俺たちが万が一使おうとしても決して誰も使う事の出来ないお金だ。それが出来るか?」

『可能です。実行しますか?』

「ああ、実行してくれ」

『実行します。・・完了しました』

 意外と融通が利く。これは門左衛門が言った通りオペレーターの使い方次第で今後が左右されるな。

「では次だ。各プレーヤーの現在位置は解るか?」

『はい感知可能ですが資金を消費します』

「金額はどれくらいだ?」

『現在から七日後までで考えると100万円です』

「安くはないな。じゃ他のプレイヤーから探知されないようにするにはどのくらいかかる?」

『先ほどのものと合わせると125万円で実行可能です』

「じゃ実行しろ。そして他のプレイヤーの現在位置はこの端末で見れるようにしてくれ」

『かしこまりました。実行中・・・完了しました』 

 意外と早い。まさかとは思うが本当にAIなのか?

「じゃ次は逃走する手段が欲しい。バイクを用意できるか?」

 最初は車を考えたがこの時期だ、万が一渋滞に巻き込まれて検問などに引っかかると不味い。その為歩道でも走れるバイクの方がいい。

『カオル様がお持ちのバイクと同型をすぐにご用意できます』

 よし、思った以上に使える。

「じゃ用意してくれ。場所はこのホテルの地下駐車場だ」

『了解しました。ヘルメットは二人分用意しますか?』

「そうしてくれ。あと警察無線を傍受できる通信機をマニュアル付きで用意できるか?なるべく簡単なのがいいが傍受範囲は広いほうがいい」

 これは今後警察と鬼ごっこするうえで必ず必要になるだろう。こんなところでゲームの知識が役に立つとは思わなかったが。

『可能です。衛星式の無線傍受機があります。ご用意しますか?』

「ああ頼む」

『では先ほどのバイクと共に地下駐車場にご用意します。金額は150万円になりますがよろしいでしょうか?』

「問題ない」

『では実行します』

 そこで俺は通話を切った。画面には複数のアプリのようなアイコンが表示されておりそのうちの一つが金額の表示を使用品目。そしてもう一つは他のプレイヤーの現在位置を表示したマップになっている。あとの一つは参加者一覧表だがおそらく脱落したらその名前が黒くなるんだろう。

 そう思いながら端末が置かれていた引き出しに目を向ける。そこには万札が積まれていた。金額にしておそらくは100万円。軍資金としては高額だと思うが逃走費用としては心もたないかもしれない。とりあえず横に置かれていた小さなショルダーバッグに突っ込む。そして後ろを向いた。

「雫はどうする?」

 この問いはおかしなものだ。俺としてはもう選択肢などはない。それにこの状況が怖くもあるが退屈していた俺としては非常に楽しくもあるのだ。不謹慎などと言われるかもしれないが。

「どうって言われても・・・」

 まだ現実が呑み込めていない。まあ普通ならばそうだろうな。俺みたいな楽天家ともいえる人間は少ないだろう。ましてはこんな状況を楽しめる神経など我ながら狂っている。

「そのままだといずれみつかり、殺される。おそらく俺の予想だがすでにここにも警察は向かっているだろう。早めに出た方がいい」

「なんでそんなに簡単に割り切れるの?それになんでそんなに次々と決められるの?その知識はどこから来てるの?」

 おっとここにきて質問攻めか。まるで話に聞くエジソンのようだ。

「まず一つ。動かないならば死ぬ。ならば進むしかない。それにもう一つ、俺の知識はゲーム、アニメ、マンガ、小説、様々なものから来ている。いわゆる雑学だ」

 まあ誇って言うものではないんだろうがこんな時には純分に役に立つ。

「オタクって事?」

 まあ最終的にはそこで決着がつくんだが。

「まあそれは否定しないね」

 俺はオタクという事を公言して回っているわけではないが隠しているわけでもない。

「馬鹿じゃないの?」

 そう言いながら雫は笑っていた。瞳から涙を流しながら。



さて、平行更新2作品目である「遺言ゲーム」第一話の投稿となりました。

この話はふと遺言について親戚との会合で話が持たれたときに思い浮かびました。

今後の進展はなるべく現実に近づけたいと考えています。が私は警察に追いかけられたことが無いので正確には難しいところですwww

では次の更新までしばらくお待ちください。

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