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ひだまり童話館 参加作品

夏の夕焼けと黄色い車

作者: 朝永有

 おじいちゃんの車は黄色だ。

 どっかの国に旅行に行ったとき、乗ったタクシーがカッコよかったらしい。

 それに憧れて以来、おじいちゃんは黄色い車に乗り続けている。


「おばあちゃんはそれについては何か言ってるの?」

「そういやあ、昔に『車のことは分からないから任せるね』って言われたなあ。昔から亭主関白。俺が家を引っ張ってきたからな」

 おじいちゃんは隣に座る僕に目をやらずに答えた。

「で、おじいちゃん?」

「どうした」

「いつになったら家に着くの?」

 前も後ろも並ぶのは車、車、車。買い物帰りの僕たちを飲み込んでいた。

「とろとろ走ってたら、せっかく買ったアイスも溶けちゃうよ!」

「そう言われてもな。なんで混んでるのか分からん」

「おじいちゃんは家までのショートカットを知らないの?」

「ショートカット。それはなんだ?」

「ええと……近道! そう近道だよ!」

「そんなもん知ってるなら最初から使っている」

おじいちゃんは冷たく語気を強めた。僕は少し黙ることにした。

おじいちゃんは無表情で怖い。早く家に帰りたい。


 長い間沈黙は続いた。僕の思いは届かず、車は前に進んでいない。

「こりゃあ、動かないかもしれない」

「ええ! アイスはどうするの!?」

「そうだな……」

 無表情のまま前方を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「車の中で食べてしまおう」

「え!?」

「お前もたくさん食べられるだろう」

 おじいちゃんがニヤッと笑った。僕はその顔を見て少し戸惑った。けれど、すぐに頷いた。


 おじいちゃんは適当なお店を見つけて、そこの駐車場に車を止めた。

 空はオレンジ色、一色に染まっていた。

「さあ、食べてしまおうじゃないか! 出せ出せ!」

 先ほどまでの無表情から一変、おじいちゃんは無邪気な笑顔を見せるようになった。僕はビニール袋からアイスカップを取り出し、おじいちゃんに渡した。

「おお! 甘い!」

 おじいちゃんは笑顔を弾けさせた。僕も頷く。口の中でアイスが溶け出し、その冷たさが体中を駆け巡る。暑さが残るこの時間帯には最高だ。

「しかし、遅く帰ったら二人が怒るだろうな」

 おじいちゃんが真剣な表情になった。僕はそれを見て凍りついたように固まった。

「まあ、大丈夫だ。俺に考えがあるから」

 おじいちゃんが自信満々で僕に教えてくれた。僕は思わず吹き出してしまった。


「どこをほっつき歩いてたの! 早く帰って来なさいと言ったでしょ! まったく!」

 帰りが遅くなった僕らに、おばあちゃんがお灸を据えた。

「「申し訳ありませんでした!」」

 僕とおじいちゃんはいきなり土下座をした。

 俯いて落ち込んでいる様子を見せることが大切なのだと、おじいちゃんからさっき教えてもらった方法だ。

「まったくあんたは昔からこうだよ! 私の言うことを聞いたのは車を買うときだけだよ、あんた!」

 僕は横目でおじいちゃんを見た。おじいちゃんと目が合った。今までに見たことのない、情けない顔をしていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイスを物凄い笑顔で食べる 亭主関白風のおじいさんが可愛らしかったです!w 「車を買う時だけ」意見を聞いたのは おばあさんと2人でドライブをしたかったからだろうか?と想像してしまいましたw…
[一言] おじいちゃんのキャラがいいですね。亭主関白で頼りになると見せかけての~!  笑わせていただきました。 とろとろアイスが食べたくなりました。 そういえば子供の頃、アイスをスプーンでぐるぐる混ぜ…
[良い点] ほっこりほのぼのですね〜! やっぱりおばあちゃんが元気な家は幸せオーラが出ていると思います。 おじいちゃんに夫婦円満の秘訣を教えてもらったお孫さんならどんな奥さんでもきっと大丈夫でしょうね…
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