第九十六話 メインクエスト開始
◆直哉の屋敷
「ただいま!」
「おかえりなさい」
直哉達が帰ってくると、仲間たちが出迎えてくれた。
「みんな! ちょっと聞いてくれるかな?」
直哉は仲間を集めて、城で話したことを伝えて、どの程度、家が必要なあのかを調べると共に、その家を必要としている者達を集めてもらった。
「おぉ! あなた様は我々を悪魔の装置からお救いくださってくれたお方! ありがたや、ありがたや!」
「勇者様!」
「ありがとうございます!」
難民達に囲まれて、身動きが取れなくなっていた。
「皆さん、落ち着いてください。これより、直哉様が皆さんのために、大切なお話があります。直哉様を開放して聞いてください」
フィリアが声を上げると、
「せ、聖女様。申し訳ありませんでした」
難民達は直哉から離れて話を聞く体制になった。
「フィリア、ありがとう」
直哉はフィリアに礼を言ってから、難民達に話始めた。
「皆さんには、元の場所に帰るか、この場所に留まるかの選択をしてもらいます」
難民達に動揺が走った。
「選んだら、変えられないのですか?」
「いいえ、選んでみて駄目だったら変更するでも構いませんよ」
みんなは安心したようで。
「そうですか。ありがとうございます」
直哉は皆から要望を聞き、必要な建物の数を算出していると、冒険者風の五人が直哉に近づいてきた。
その中の唯一の女性が声をかけてきた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
直哉も挨拶を返した。
「本日は勇者直哉様にお願いがあって来ました」
「何でしょうか?」
女性が他の冒険者に合図を送ると、全員片膝をつき頭を下げた。
「どうか、私達を連れていってください」
直哉は首をかしげながら、
「何処にですか?」
「勇者様の冒険にです」
直哉は、
「その前に、皆さんのお名前を聞かせてもらっても良いですか?」
その言葉に、
「これは、とんだ失礼を。申し訳ありません。私は、リンダと申します」
「俺はガンツ」
冒険者達は、順番に自己紹介をしていった。
「では、リンダさん。俺の冒険に付いてきたいとの事ですが、俺達が何をしているのかご存知なのですか?」
リンダは考え、
「そう言えば、知りません」
「そうですか。では、今すぐお話をしたいのですが、今は急ぎの仕事がありますので、後程ゆっくりとお話します。ですので、何処か待っていてください」
そう言う直哉に、
「一体何をなさるのですか?」
「これから、住むところの無い方々に、家を建てようと思います」
リンダは驚きながら、
「その様な事まで行うのですね?」
リンダは他の冒険者を見て、確認した後で、
「それなら、私達も手伝います」
「それは、助かります」
そう言ってフィリアを呼んだ。
「フィリア! こちらの冒険者達も、街造りを手伝ってくれるそうだ。任せてよい?」
「お任せください。直哉様は、家造りの段取りをお願いします」
直哉がフィリアに冒険者を合わせると、
「聖女様!」
と、冒険者達がフィリアに駆け寄って行った。
「リンダさん。直哉様に許可を頂けたのですね。おめでとうございます」
リンダは、首を横にふりながら、
「いいえ。勇者様の冒険に付いてきたいと訴えた所、俺達が何をしているのか知っているのか? と聞かれ、そう言えば旅の目的等、何も知らないと思いました」
「それで、直哉様の事を知るために手伝うと?」
「はい。少しでも勇者様の事を知るために、手伝いをしようと思いました」
「わかりました。では、ガンツさん達はこちらへ、リンダさんは私と共に、直哉様のお手伝いしましょう」
「はい! お願いします!」
フィリアはガンツ達を割り振り、リンダを連れて直哉の元へやって来た。
そこには、城から駆け付けたステファニーと直哉、そして難民達が話していた。
直哉は地図を指さしながら、
「この辺りから家を建てようと思います。この辺りはパルジャティアに近いため、街の相談役達に集まって貰います」
「わしたちの家ですな」
腰が曲がった、仙人のようなおじいさんと、そのご家族の方達であった。
事前に話し合って貰い、この方が相談役のまとめ役となり、パルジャティアとの連絡役となる。
直哉は事前に作成していた街の造りから、街の長用の建物を呼び出した。
「これに、優劣を付けないようにして、この辺に並べていくと、材料が・・・・、MPが・・・」
直哉が独り言を言い始めたので、難民達は心配になった。
「これでよし! さぁ、建設予定地へ行きましょう!」
そう言ってみんなを促した。
◆新たな街
「森しか無いですね」
「街道もないですね」
「大丈夫なんですか?」
そんな、心配する声を余所に、直哉はMPの確保を、嫁達は建築範囲内に異常がないかの確認を始めた。
ガンツ達もリリやラリーナに連れられ、意味も分からぬまま、建築の範囲に直哉お手製の建築範囲の杭を刺していった。
「準備完了です」
「ありがとう。リリ、フィリア、ラリーナ」
直哉は三人に礼を言ってから、スキルを発動させた。
「まずは整地」
スキルの効果が現れ、建築範囲内の木々は一瞬で消滅し、更地になった。
「・・・・・・・・」
はじめて見た者は絶句し、動けなくなっていた。
「よし、今日は調子が良いな」
直哉は、その後次々と相談役達の家を造っていった。
「ふぅ。とりあえずはここまで、でもMPが回復したら続きをやるので、リリ達はみなさんに設備の使用方法を教えていってください」
「はいなの!」
直哉の指示に、嫁達は難民達を連れて、設備の使い方の説明に行った。
「これが、勇者の力ですか?」
ステファニーの言葉に、
「一応そう言う事になりますね」
「MPの回復とおっしゃいましたが、MPがあれば、無限に造れるのですか?」
直哉は呼吸を整えて、
「そうですね。あとは、俺の意識があれば、ですかね。急激にMPを消費すると、意識が落ちちゃうので」
「確かに。大量消費は精神に負荷を掛けますから。私でも、究極魔法を連発すれば、意識が落ちますし」
「ですよね。あの感覚はあまり味わいたくはありませんよ」
そう言っている直哉が銀色に輝いているのを見て、
「その輝きは、魔力吸収ですか?」
「良く分かりましたね。そうです魔力吸収です」
「なるほど。貴方の強さの一部を見られて光栄です。勇者直哉様」
ステファニーはその場に片膝をつき、頭を下げた。
そして、休憩と建築を繰り返し、一度も意識を失うことなく難民のための街を造り上げた。
「お兄ちゃん、また凄くなったの! 一度にここまで造れるようになってるなんて! 流石お兄ちゃんなの!」
リリがそう言って飛びついてきた。
「おっとっと」
難民達は家が出来ると、庭に相当する部分に農作業地や放牧地等を造っていき、我先にと仕事を始めていた。
「おらの畑取れた野菜を、聖女様に捧げるんだ!」
「俺だって、負けてないぜ」
「こっちは、食用のモーモーやブーブーの飼育だな」
今まで湖岸で手を入れてこなかった場所に人々は新たな生活空間を造り上げていった。
帰って行った者達は、自分の村を離れたのが数日なため、再び生活を始めるのに苦労はなかった。
新しい街では、明かりが大量に使われていたが、直哉の計らいによって、湖方面の森をそのまま残して、パルジャティアの方へ光りが漏れないようにして、今までと同じ生活が送られる配慮を欠かさなかった。
◆数日後
街人たちがようやく街での生活に慣れてきた頃、湖岸の塔からパルジャン達が帰って来た事を、城から来たステファニーによって知らされた。
「勇者直哉様、パルジャティア国王パルジャン様が、街の様子伺うのと、直哉様との対談をご希望です。許可していただけますか?」
「俺との対談は、望むところです。街の事は街人に任せていますので、その様子は相談役のまとめ役であるキシリスさんを尋ねてください」
直哉はキシリスをステファニーに紹介した。
キシリスは、街の相談役達と話し合い、国王の視察を受け入れた。
ステファニーは城へ戻り、パルジャンやラインハルト等を連れて戻って来た。
「そなたが勇者直哉かな?」
「はい。初めまして、俺が直哉です」
「うむ。初めましてだな。して、そなたの目的は何じゃ? ん?」
と、話そうとしていた所、後ろに出来ていた街に気が付いた。
「ステファニー。あのような場所に街などあったかの?」
「いえ、パルジャン様が塔へ出ている時に、勇者直哉様がお建てになりました」
「あの建物を? 全部?」
パルジャン達は、驚いていた。
パルジャンの疑問に、直哉は、
「俺達は、レッドムーンと呼ばれる組織を解体するべく、ルグニアより参りました」
「ルグニアの者であるか」
「はい。より正確に言えば、俺はこの世界の人間ではなく、異世界の住人です」
直哉はこれまでの経緯を話した。
「俄には信じられないが、凄い力の持ち主という事はわかった。それで、この後はどうするつもりなのだ?」
パルジャンの質問に、
「レッドムーンの本拠地を捜索する所からやり直しですね。一応ソラティアが係わっているようなので、そこから始めようと思います」
「ソラティアですか? 今は完全に封鎖されていて、私たちでも入れませんよ?」
直哉はやっぱりという顔をして、
「やはりそうでしたか。では、それも含めて調査する必要がありますね」
直哉が考えていると、
「もし良ければ、この場に留まり情報を集めて見ては如何かな?」
パルジャンの申し出に、
「いえ、流石に長期の滞在は皆さんの負担になるでしょうから、別の場所を考えていました」
「そういう事でしたら、何の問題もありませんので、是非、このパルジャティアでお過ごしください」
直哉は少し考えた後、
「わかりました。それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
黙って話を聞いていたレオンハルトは、
「戦闘能力も高いと聞いている。後で、手合わせをお願いできるかな?」
「もちろんです」
直哉はレオンハルトとも約束をした後で、ここに造った屋敷を本格的な拠点するべく改装を行っていった。
◆数日後
「立派な拠点が出来ましたね」
「あぁ。久しぶりに本気を出してしまったよ」
「直哉! 街の人たちから差し入れだ!」
「お肉があるの!」
直哉と嫁達は改装が終わった、拠点の自分たちの部屋で周囲の状況を確認していた。
直哉はパルジャティアからの支援要請を受けて、様々なアイテムを造り、パルジャティアの発展に貢献していった。
城からはアイテムの資金と人材を受け取り、レッドムーンの捜索に全力を挙げていた。
(今日も進展なしかな)
直哉は各地から集まってくる報告書を見ていると、気になる点があった。
「この、ソラティアで大規模な徴兵があったってあるけど、定期的にあるのですか?」
城から代金を持ってきていたステファニーは、
「いいえ。初めて聞きました」
「そうですか」
(何か嫌な予感がする)
ここで、直哉のウインドウに変化が現れた。
(まさか!?)
確認すると、クエストの欄にビックリマークが付いていた。
(久しぶりに来たな)
そう思いながら、クエストを確認すると、
■メインクエスト
ソラティア共和国・古都バルグの大戦
『ソラティア共和国と古都バルグの、国を賭けた戦いが始まります。プレイヤーの方々の貢献によって戦況は大きく変化します。皆様のご参加をお待ちしております』
(・・・・・・・)
「みんな、集まってくれる。想像以上に危険な事が起こりそうだ」
直哉は、嫁たちエリザ、マーリカ等の全ての仲間を招集した。
その集まりを見て不安に思う人々も出てきた。
「と、言うことが起こるのだけど、みんなはどう思う?」
直哉は、メインクエストの事を話して、どうするべきかの判断を仰いだ。
「まずは、パルジャティアの方々に報告だな。それで、パルジャティアの方々がどう出るかによって方針を変えましょう」
リカードの案に皆が頷いた。
直哉は、リカードとエリザを伴いパルジャティア城へ向かった。
◆パルジャティア城
謁見の間に通された三人は、大慌てで準備しているパルジャン達の様子を見ながら待っていた。
「いや、すまない。急な登城だったので油断していた」
「報告があります」
直哉は、サラッと無視して話を始めた。
「そうか。猶予がなさそうだな」
パルジャン、レオンハルト、ステファニーは気を引き締め直哉の話を待った。
「この、ソラティア共和国が古都バルグと戦争になります」
「なんだって!?」
「まさか!?」
直哉の報告の瞬間、パルジャン達は大きく驚いた。
「先程、私の能力で戦争が起こるとお告げが来ました」
「それで、どうなるのですか?」
「これからの行動しだいで、変化していきます」
直哉の言葉に、
「勝敗はどうなるのですか? このパルジャティアは?」
「そこまでのお告げはありませんでした」
パルジャティアの面々は話し合いを始めた。
「勇者直哉よ、情報感謝する。これはパルジャティアだけの問題ではなく、第二都市のアルカティアを含め、ソラティア共和国内の小さな街、村でも、問題になりそうです」
パルジャンはステファニーに、
「アルカティアへ連絡を!」
パルジャティア城が騒然となった。




