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第九十四話 聖女様と新たな魔族

フィリアは走りながら光の精霊たちから話を聞いていた。

「カソードさんとの話を聞かせてくれる?」

「何が聞きたいの?」

「どんな方だったのですか?」

光の精霊は腕を組んで、

「一言で言えば、超効率重視な方だった」

フィリアは首をひねって、

「効率重視ですか?」

「そうだね。とにかく無駄な事を省き、速攻でレベルをカンストさせて、その時の魔王を一気に倒してしまった英雄だよ」

フィリアは、ふと気になって、

「そういえば、時の魔王とは何ですか? それほど頻繁に魔王が出現しているのですか?」


「気づかない人も多いけど、結構な頻度で魔王が入れ替わっているよ」

フィリアは驚いた顔で、

「まさか!」

「嘘を言っても仕方が無いじゃん」

フィリアは頷いて、

「そうですよね。でも、どういうことでしょうか?」

「さぁ? 僕たち精霊じゃわからないよ」

「そうですか。ありがとうございます」

話を終わらせて、救援に集中した。




夜営地に近付くと戦いの音が聞こえてきた。

「フィリア! 私は、先に行く!」

「お任せします」

ラリーナは颯爽と走っていった。



夜営地に着いたラリーナは大量のキメラ達が、非戦闘員達に襲いかかり、それを迎撃する近衛騎士達の姿であった。

「民達を護れ! 何のための剣と盾だ!」

レオンハルトは近衛騎士を鼓舞しながら、大物とやりあっていた。

近衛騎士達は皆、満身創痍であり、徐々に突破され、非戦闘員達に被害が出始めていた。

死者が出ていないのは、エルムンドが連れ去ってキメラにするためであった。



「まずは、あれだな」

ラリーナは、走りながらレオンハルトと戦っている巨人族のキメラに狙いを定めて、

「瞬迅殺!」

最速の一撃を繰り出した。



ドカッ!


分厚いタイヤに阻まれた様な音がして、攻撃が弾かれた。

「ここは、私が引き受ける! 近衛騎士の援護を!」

「すまない。恩に着る」

レオンハルトはラリーナに一礼して苦戦している近衛騎士の救援に向かった。



そこには、フィリア達が到着して冒険者達がキメラを押し返し始めた。

「よし! このキメラなら、俺達でも十分な戦果を上げられるぞ!」

ガンツの声に、

「ここは、先程の汚名を返上しなくては!」

他の冒険者達も気合いを入れた。


フィリアは非戦闘員達の中心に到着して、光魔法を唱え始めた。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に敵よりの攻撃を防げ!」

フィリアの身体が光魔法の白色と黄金色が混ざった輝きを始めた。

それを見たエルムンドは、

「まさか、あれは聖魔法か? 実際にあるとは思わなかった。あの威力はこの身体では厳しいな」

と、呟いた。

「プロテクションフィールド」

フィリアは自分を中心にして、場所に対して結界を張った。

「ぐきゃー」

キメラ達を結界を使って押し出した。


「よし! あの中に近衛騎士達を運び込むぞ!」

ガンツ達は、その結界の中に傷ついた近衛騎士達を運び込んだ。

「天より来たりし光の精霊よ! 我が魔力と共に、この結界内の怪我人を癒したまえ」

「フィールドリカバリー!」

結界の中に黄金色の光が満ち溢れる。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に邪悪な力を祓いたまえ!」

「あれほど強力な魔法を、連続で唱えるなんて凄すぎる!」

リンダはフィリアの虜になっていた。



「せぃ! コレだけか?」

ズシャ!

巨人のキメラの腕を吹き飛ばし、両足を切断した所でラリーナは物足りなさを感じていた。

切断した腕も足も驚異的な回復力で回復してくるものの、戦闘能力自体はもの凄く低く、両腕を振り回す攻撃や、踏みつぶす攻撃などがあるが、全てラリーナの速度を捉えることが出来ず、一方的な戦闘になっていた。

「ここまでにするか?」

ラリーナは、両手両足を切断後、首を刎ねて終わりにするつもりであった。

ところが、驚異的な回復は刎ねられた首をも修復を始めた。

「ほほぅ。それは楽しめそうだ!」

ラリーナは巨人のキメラを小間切れにしていった。

「これは?」

小間切れにした巨人の身体から、宝石のような塊が出てきた。

「ゴーレムを動かす時のコアみたいな物か?」

そう言って、その宝石を叩き割った。

その瞬間、巨人のキメラはキラメキながら消滅した。

「これが、弱点だったのか。さて、他はどうなっているんだ?」

そう言って、戦場を確認した。



戦況を見ていたエルムンドは、

「これ以上、この場に留まるのは危険だな。キメラを囮にして撤退するか」

そう言って魔法を唱えようとした時に、プロテクションに入っていないリンダを見つけた。

「ふむ。あの女で試して見るか」

そう言って邪悪な笑みを浮かべて、魔法を唱え始めた。

「光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、魔力の暴走を!」

「マジックアンコントロールボウ!」

「ブレイクウィケンネス!」

フィリアの破邪魔法と、エルムンドの魔力暴走魔法が同時に炸裂した。


リンダは自分の魔力がいきなり桁違いに膨れあがるのを感じた。

「えっ? 何で?」

その瞬間、リンダの身体を魔力が蝕み始めた。

「いやぁぁぁぁぁぁ」

「ふふふふふふ。これは、予想外の収穫がありそうだ」

エルムンドは暗い笑いを浮かべていた。


「リンダ!」

「ぐぅぅぅぅ」

冒険者がリンダに集まり、弾け飛びそうなリンダを押さえ込んだ。

だが、吹き出る魔力エネルギーにより、リンダもろとも周囲のガンツ達を切り刻んでいった。

「いやぁぁぁぁぁ」

それを見ていた非戦闘員達が、

「聖女様。何とかならないのですか?」

フィリアは空になった魔畜棺を外して、リンダに向かって投げた。

「そのアイテムを装備して!」

リンダは、フィリアの声に無意識に反応して、魔畜棺をつかみ取った。

その瞬間、リンダを蝕んでいた魔力が魔畜棺の中に吸い込まれていった。



それを見たエルムンドは驚いてその光景を見入ってしまった。

「何だと! 何だあのアイテムは!」

その隙を見たラリーナは、

「瞬迅殺!」

と、肉薄していた。

「しまっ・・・・、ぐはぁ!」

エルムンドは対応が遅れ、ラリーナの一撃をまともに食らった。

「この身体では、コレが限界か・・・。まぁ良い。ソラティアを動かすか・・・」

そう言って、灰になって消滅した。




リンダを中心に溢れ出ていた魔力も、全て魔畜棺へ吸収されて、リンダはその場に倒れ込んだ。

フィリアは、その全てを見届けた後、

「ラリーナ。後は任せます」

と言って、意識を手放した。



「うわぁぁぁぁぁ!」

「聖女様がやったぞ!」

その場の非戦闘員達と近衛騎士達は、フィリア達を崇め奉った。

傷が塞がったレオンハルトが、

「怪我をしなかった非戦闘員は、聖女様のために野営地の確保を!」

「わかりました!」

「怪我をした人は、治療と休息を!」

しばらく野営地の再構築をしていると、ゴンゾーと合流したリカード達が帰って来た。



リカードは野営地の様子を見て、

「何とかなったようですね」

レオンハルトは、

「はい。そちらで休息中の聖女様のお陰です」

そう言って、倒れてしまったフィリアの所へ案内した。

「塔の方はどうでした?」

「仮面の男は灰になって消滅しました。上の階まで調べてみましたが、何もありませんでした。塔は完全に制圧しました」

リカードの言葉に、

「おぉ! ありがたや!」



「確認しに行って来ますか?」

「それは、聖女様がお目覚めになってから、みんなで行こうと思います」

「そうですか。わかりました」

リカード達が天幕を潜ると豪華な内装と大きなベッドが置いてあり、フィリアはベッドに寝かされていた。

その傍には、ラリーナが控えていて、リカードを見たラリーナが、

「そっちも終わったようだな」

と言って、中へ招き入れた。

リカード、ゴンゾー、アンナと続き、リカードとアンナの距離が近いことに気がついたが、ラリーナにとってはどうでも良いため、その件については何も突っ込まなかった。

その後、レオンハルトを交えて情報交換をした五人は、休憩のためそれぞれに用意された休憩場所へ散っていった。




三日目の朝。フィリア達が仮面の男やエルムンドとやりあっている頃、屋敷に残ったリリ達に危険が迫っていた。


目標は直哉。


「今日も相変わらず眠っているの」

リリは朝一で直哉の様子を見て、今までと変わり無い事に複雑な気持ちを抱きながら、朝の鍛練へ出掛けた。



「ワンワン! グルルルル! ワンワン!」

しばらく鍛練を続けていると、直哉の部屋からシロの鳴き声が聞こえてきた。

リリは風の魔法で一気に直哉の部屋まで飛んで、中を覗こうとすると、黒いか溜まりが飛び出してきた。

それをシロが追いかけ、窓際で吠えていた。


(あの、黒い鳥はどこかで見たの)

そう思いながら、追いかけると、強烈な眠気が襲ってきた。

(な、何なの?)

リリはパニックになり、風の魔法が解けてしまい、空中へ放り出された。

「ワンワン!」

その時、下の方からシロの鳴き声が聞こえてきて、鳥の放った睡眠攻撃を何とか解除した。

(まさか! こいつが夢を見させる元凶かな?)


リリは空中で体勢を変えて、敵を探すと、真っ直ぐに直哉の方へ飛んで行くのが見えた。


「こんのー! お兄ちゃんには触れさせないの!」

大気中の風の精霊を集めて攻撃を開始した。

下からは、異変を察知したエリザとマーリカが攻撃を開始した。

「よく狙って、これなら倒せるのじゃ!」

射ち出した矢は、寸分の狂いもなく黒い鳥へ向かって飛んで行った。

もう少しで当たるときに、何かが射線上に飛び込んできた。

(まさか! リリちゃん?)

エリザは驚いていたが、それはリリではなく、ワイバーンであった。


「ぐぎゅ」


エリザの放った矢は、ワイバーンを貫きその衝撃で、少し逸れてしまい、黒い鳥のしっぽを掠めて飛んで行った。

「ぎゃーっす!」

黒い鳥は悲痛な叫びを上げ仲間を呼んだ。

その声を聞きつけたワイバーンたちが襲い掛かってきた。

エリザは矢で打ち落とそうとしているが、動きが早く中々捕らえられないで居た。

「くっ、早すぎるのじゃ」

闇雲に撃とうにもリリが上空に居るため、攻撃するのを躊躇っていた。


そこへ、恐怖に打ち勝ったマーリカが、

「エリザ様、一瞬ワイバーン達の動きを止めますので打ち落としてください。止めは私が刺しますので! リリ様。少し堪えてください!」

そう言いながら、術を発動した。

「雷遁! 稲妻走り!」

上空へ向け電撃を放った。


「ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ!」

「痛いの! ビリビリなの!」

「ぎゃーっす!」

上空で戦っていた黒い鳥、ワイバーン、リリはそれぞれ電撃ダメージが襲い掛かってきた。

「これなら、当たるのじゃ!」

エリザはこの好機を逃さず連続して矢を放っていった。

翼にダメージを受けたワイバーンたちが次々と落ちてきていた。

「土遁! 防火土流!」

マーリカは追い討ちで、落ちてきていたワイバーンに火に強い土を被せて埋めた。

それを見たエリザが、

「おぉ、土葬なのじゃ」

と呟いていた。



黒い鳥はまた仲間を呼んで、ワイバーンが集まってきた。

「これなら、雷撃も受け止められるの! マーリカ! 稲妻を撃って!」

マーリカは肩で息をしながら、

「はい! 行きます!」

そう言って、さらに魔力を練り上げていった。

「雷遁! 稲妻走り!」

「ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ! ぐぎゅ!」

「よし! 魔法を溜める要領で受け止められたの! これを、黒い鳥へっと!」

「ぎゃーっす! ぎゃーっす!」 


先程と同じようにワイバーン達は雷撃に打たれ落下して行った。

「くっ、土遁! 防火土流!」

しかし、先程より物凄く少なくなった土の量を見て、

「これ以上は、埋め切れません」

と、嘆いていた。

そこへ、

「ワンワンワン!」

シロが、ワイバーンへ襲い掛かっていた。

そんなシロを見て、マーリカも力を振り絞り、短剣を抜いて止めを刺しに行った。



上空では、リリとエリザの空と地上のコンボで黒い鳥を追い詰めていっていた。

「あーちょちょちょ」

リリは新しい力を試していた。

「右手に氷、左手に雷、そして両手で無限連続拳!」

ぎゃーっす!

リリの攻撃範囲から逃げ出そうとすると、エリザの矢が飛んできて、リリの攻撃範囲へ押し戻されてしまう。

黒い鳥は悲しげに鳴きながらその力を急速に失っていった。

リリはその動きをしっかりと見ながら、

「氷を司る精霊達よ、我が魔力と共に敵の動きを止めよ!」

「フリーズ!」

弱っていた黒い鳥は、魔法を無効化できずに、完全に氷漬けになって地面へ落下した。


ぐしゃ! バリーン!


地面に落下した黒い鳥は粉々になりキラメキながら消滅した。

「はぁはぁはぁ」

マーリカは、膝から崩れ落ちた。

「えーいなの!」

クルクルクルっと回転しながらリリが空から降ってきた。

「ふぅ。終わったの!」

額を拭うしぐさをしながら、えっへんと無い胸を張った。


「わらわも、殆どの矢を撃ちつくしたのじゃ」

リリは、マーリカを見て、

「マーリカは倒れちゃったのね。シロは?」

エリザがワイバーンたちが落っこちた付近を捜索すると、

「くぅんくぅん」

と、疲労困憊なシロを見つけて、回収した。



「リリちゃんは大丈夫なのかえ?」

「うーん、汗かいちゃったの! お風呂に行ってくるの! シロはリリが運ぶの! マーリカはエリザお姉ちゃんが運んでくれる?」

そう言って、シロを抱えて屋敷へ帰っていった。

そんなリリの後姿を見ながら、マーリカを抱えて、屋敷へ戻るエリザであった。

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