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第九十三話 パルジャティア湖畔の塔攻略 後編

◆次の日


眠たい目をこすりながらアンナが起きて来ると、早くにダウンしたフィリアが起きていて、湖に浸かって沐浴をしていた。白い厚手の沐浴着を着用していて、透ける事はなかったが、身体のラインがハッキリとわかるので、フィリアのスタイルの良さをマジマジと見つめてしまった。

「おはようございます」

アンナは誤魔化すように挨拶を済ませ、自分も沐浴を始めた。

アンナもフィリアと同じように沐浴着を着用して、湖に入った。


しばらくすると、湖の中からラリーナが浮かび上がってきた。

「きゃぁ!」

驚いたアンナはその場で派手に転んでしまった。

しかし、ラリーナは物陰を睨み付け、

「誰だ!」

と叫ぶと、リカードがバツの悪そうな顔で、物陰から姿を現した。

「すまん。その気は無かった」

と、頭を下げた。


「護衛をしていたという事で良いですか?」

ラリーナが尋ねると、

「そう思ってくれると、ありがたい」

「アンナさんの事が心配なのはわかりますが、少し過剰すぎるのではありませんか?」


「いや、本当にすまない」

と、平謝りであった。



「直哉様の為の身体を見られた事は、非常に腹立たしいのですが、アンナさんの為だったということであれば、少しは溜飲が下がります」

怒り半分呆れ半分で苦言を呈していた。

そんな波乱な一日の始まりであったが、旅そのものは、順調であった。

数回のモンスターの襲撃を受けたが、冒険者達の成長は目覚ましく、近衛騎士達も第二防衛ラインを任せられる程であった。

そのまま、湖の塔へ到着した。



「上空からの攻撃が届かない所に野営地を!」

リカード達は、非戦闘員達に指示を出して、周囲を警戒しはじめた。

魔物の群れが散発的に襲いかかってきたが、冒険者と近衛騎士で防ぎきれた。

野営の準備が出来て、本格的に塔を攻略する事になった。


リカードは全員を集めて攻略組と防衛組の役割を決めていった。

「近衛騎士の皆さんは夜営地の護衛をお願いします」

次に冒険者達を見て、

「ガンツさん達と我々で塔を攻略します」

ガンツ達は気合いを入れた。

最後にレオンハルトを見て、

「レオンハルトさんはどうしますか? この場を指揮するか、攻略に加わるか」

レオンハルトは、攻略組に参加したかったが、近衛騎士達が残るのであれば、自分がまとめ役になろうと決心した。

「私は、この場の指揮をしましょう」

リカードは他の選択肢が無かったレオンハルトに、

「では、非戦闘員の皆さんを頼みます」

リカードが気を使ってくれている事を感じて、

「了解しました」

と、引き受けた。



塔へはリカード達のパーティとガンツ達のパーティに別れて、リカード達が第一の矢、ガンツ達が第二の矢として突入した。

ラリーナが先頭で続いてリカードとアンナ。後方からフィリアとゴンゾー

が続いた。

ガンツ達は、リンダを中心に、前ガンツ、後ろバール、左右にジャスとハルパが入り、守備を固めた。

塔の入り口は小さかったが、人が二人並んで進めるほどだったので、難なく入ることが出来た。



塔は吹き抜けになっていて、あちこちに窓があり、最上階部分に辺りを一望できる管理室があった。

塔の内側に螺旋階段が設置されていて、その螺旋階段から外が見られるように窓が設置されていた。

普段であれば、塔のなかには周辺の森や湖の香りが立ち込め、大自然を感じられる造りになっていたのだが、現在は魔物と人間の死臭が立ち込め、むせ変えるような臭いが充満していた。

全ての窓は土や板などで封がされ、中は真っ暗になっていた。

塔の中には大量のキメラ達が蠢いていて、気味の悪さを演出していた。

その中から声が聞こえてきた。


「ここまで来てしまったか。エルムンド様に楯突く愚か者よ。お前達もここに居るキメラ達の仲間にしてやろう」

暗闇からキメラ達の叫び声が聞こえて来た。

「来るぞ!」

リカード達が戦闘態勢に移行して、フィリアは一気に蹴散らそうと詠唱を開始した。

「天より来たりし光の精霊よ・・・・・」

しかし、どれだけ魔力を糧にしようとも、光の精霊を周囲に感じる事が出来ないフィリアは、

「えっ? この場に光の精霊が近付けない」

初めての事に焦っていた。


「行け! キメラ達よ! 光の魔法はこの場所では使えない。心置きなく仲間を増やせ!」

闇の奧から男の声が聞こえてくると、

「キシャーーーーー」

「プシューーーー」

と、キメラ達がリカード達に群がってきた。

リカードがフィリアを見た時に、フィリアは首を横に降って、浄化が直ぐに出来ないことを伝えた。

リカードはフィリアに了解したとサムズアップして、

「どうやら、この塔の中で光魔法は封印されているらしい。今、フィリアさんはその封印をも打ち破るために瞑想に入る。フィリアさんが封印を打ち破るまで、私たちでフィリアさんを守るぞ! ガンツさん達は塔の入り口を死守してください。危なくなったら、塔の外へ待避してください」

そう言ってキメラ達に斬り込んで行った。



リカード、ゴンゾー、ラリーナはアンナとフィリアにキメラを近づかせずに戦っていたが、回り込んだキメラはガンツ達に襲いかかってきていた。

「バール! 後方警戒は良いから前方と左右を守ってくれ」

「了解です!」

その中心では、リンダが魔力を練り上げていった。

「爆発を司る精霊達よ、我が魔力に呼応し敵を蹂躙せよ!」

訓練後に鍛練してさらに詠唱速度が増した爆発系魔法が完成した。

「エクスプロージョン!」

敵の中心で大きな爆発が起こり、多くのキメラが蒸発していった。


「やった! 出来ました!」

喜んでいるリンダを目掛けて数本の矢が飛んできた。

ガンツ達はキメラを倒すことに精一杯で、その矢の対応が遅れてしまった。

「それに気が付いたゴンゾーが、自分たちの周辺を通過する矢を迎撃してその本数を減らしていた」

その、ゴンゾーに新しいキメラが殺到した。

「ぬぅ」

それを見ていたアンナがゴンゾーを援護していた。

「えぃ!」

その、援護のおかげで致命傷を避けたゴンゾーが、

「アンナ殿、かたじけない。拙者は大丈夫ですので、フィリア殿の護衛をおねがいします」



ガンツ達の方は、リンダに迫ってきた矢をはじき飛ばす事が出来ないと悟ったガンツとバールが、その身を使って矢をガードした。

「ぐっ」

「くはぁ」

その二人へキメラが追い打ちを掛けてきていた。

ガンツの方は頑丈な鎧のおかげで、致命傷は避けていたが、バールの方は盾をはじき飛ばされてしまい、大きなダメージを負っていた。

「不味い! リンダ! お前は塔の外へ! バールを塔の外で治療しろ!」

ジャスとハルパが両面に回り込んでくるキメラ達を押し戻しながら、リンダにバールの事を任せていた。



そんな様子を見ていたフィリアは、

「光の精霊よ!」

と、一心不乱に塔の中に入ってこられない光の精霊に呼びかけを行っていた。

光の精霊に呼びかけている時に、魔術師ギルドで教わった事を思い出していた。




◆魔術師ギルド フィリアの過去


光の魔法を教えてくれる先生は、

「まず、光と闇の魔法は、他の八つの属性とは毛色が異なります。他の属性達は四つの基本魔法が存在し、その四つに対応した四つの上級属性があります。これは、全て異なる属性として分類されています。しかし、光と闇にはその区分けがありません。聖と魔という上位のような属性がありますが、この二つは光と闇が昇華した属性であると言われています」

フィリアは話しを聞いていたが、良く分からなかったので、

「つまり、聖属性の魔法というカテゴリーは無いということですか?」

「光魔法はやがて聖魔法になると言うことです。他の火属性の魔法はどんなに使っても火でしかなく、爆発魔法にはならないのです」

フィリアはわかったようなわからないような顔をして、

「つまり、光魔法を使い続けると聖魔法になると言うことですか?」

「そう言われておる。だが、その昇華をした者は私の知る限り一人だけなのじゃ」

「誰ですか?」

「先の魔王を倒した、勇者ガナックじゃ」


フィリアは驚いて、

「ガナック? 悪魔神官長のガナックですか?」

先生は目を閉じて、

「はい。どうしてあのような行動に出たのかは知らないが、そのガナックじゃ」

「そんな、その様な方が何故、魔族等と共に行動しているのですか! しかも、闇魔法も使っていました」

「彼に聞くのが一番の近道なのじゃが、残念なのじゃ」




◆湖の畔の塔 現在


フィリアが、昔の事を思い出しながら詠唱を続けていると、身体の内側に光の精霊が居て、ウズウズしている事に気がついた。

「あなた方は?」

「ようやく気が付いてくれたよ! 僕たちは光の精霊! 何か、外からは近づけない結界が張ってあったけど、君はそれでも呼び続けてくれたから、君の身体を利用してこの場に出ることが出来たよ。でも、この場所は僕たち光の精霊には厳しい場所だね」

フィリアは驚いて、

「私の身体を利用して?」

「そうさ。君は凄い力を秘めているよ」



「こんな事が普通にあるのですか?」

「んー。僕たちは君が初めてだけど、他の精霊ならなった事があるよ」

「それは誰の身体を借りたのですか?」

「カソード様とガナックだよ。特にカソード様は僕たち精霊をこの世界から開放してくれるって、契約してくれたからね」

フィリアは、後でゆっくりと話しを聞こうと心に決めながら、

「私にはどの様なメリットがあるのですか?」

現状の打開策があるのかを聞いてみた。

「僕たちがこの場にいるという事は、いつでも光魔法を唱える事ができるよ。しかも、僕たちをその身体を通じて呼び出す事が出来ると、魔法が強化されるよ」

フィリアは、

「つまり、今見たいに封じられても大丈夫と言うことですか?」

「今回は場所に結界が張られているから、僕たちを呼び出せた時点で使えるよ」

フィリアは光の精霊に感謝しながら、

「わかりました。力を借りますね」

フィリアは身体を通して呼び出した、光の精霊達に呼び掛けた。



「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に邪悪な力を祓いたまえ!」

今までにない強力な光の精霊の力を感じながら、詠唱を続けた。

この場所に存在する事が出来ない光の精霊を感じ、仮面の男が驚いていた。

「馬鹿な! エルムンド様の結界が破られるはずがない!」

驚愕する男を余所に、魔力を高めていくフィリア。

「キメラ達よ! まずはあの女を射貫け!」

その時、フィリアの魔法は完成した。

「ブレイクウィケンネス!」


周囲にもの凄い光のエネルギーが吹き荒れる。

しかし、矢は放たれており、鎧に矢が当たっていくのを感じながら、次の魔法を唱えた。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏しその加護を仲間に与えたまえ!」

光のエネルギーが充満している塔の中で、さらに炸裂した。

「ディバインプロテクション!」

リカード達はもちろんガンツ達にも光の加護がかかり、劣勢を一気に逆転した。



さらにゴンゾーとバールに回復魔法を掛けて、残りは仮面の男のみとなった。

「そ、そんな、馬鹿な! エルムンド様に何と言えばよいのか!」

仮面の男は狼狽していて、動こうとしなかった。

すると、塔の展望部分から声が聞こえてきた。

「どうやら、お前はここまでのようだな」

「お、お待ちください。必ずや必ずや! 彼奴等を仕留めて見せます!」

「それならば、最低でもここで足止めをせよ! 私はお前が失ったキメラの元を調達してから帰ろうと思う」

仮面の男は、

「ありがたき幸せ!」

と、叫びながらリカード達に突っ込んできた。



「貴方は私が止める!」

アンナがリカード達の前に出て仮面の男の攻撃を受け止めた。

「フィリア! 外の非戦闘員たちを守ってやってくれ!」

リカードは先程の力を出したフィリアに、回復をしないと戦闘に参加できないと踏んで、移動中に回復できる様に計らった。

「こちらはお任せします」

「ラリーナとガンツさん達はフィリアの護衛をお願いします」

「了解した」

フィリアはMP回復薬を食べながら、ラリーナとガンツ達はそのフィリアを追って野営地に向かっていった。




「くそ! 数匹逃したか! エルムンド様のお手を煩わす前に、倒さねば!」

仮面の男は、最終形態へ変態した。

「そら! くらえ!」

サルの力を利用して、衝撃波を放った。

「その程度!」

リカード達は難なく避けて斬りかかった。

「絶空!」

「第二奥義! 突刺牙崩!」

リカードとゴンゾーのコンビネーション技をヒツジの毛で防いでいたが、

「ココです!」

二人に比べたら、あまりにも小さなアンナの攻撃がクリーンヒットした。

「ぐぁ!」


その様子を見て、

「これは?」

「行けそうですね」

リカードとゴンゾーは囮をやり始めた。

二人のコンビネーション技でアンナの動きを隠し、アンナに攻撃を任せていた。

「せぃ! うりゃ!」

攻撃力は小さいが、確実にダメージを蓄積させていった。



「ぐるぁぁぁぁ!」

風の魔法、雷の魔法、炎の魔法を連打して、リカード達を引き離そうとしていたが、二人の連携は見事なもので、確実に追い詰めていった。

「これで、落ちろ!」

十数回目のアンナの攻撃で、防御を勤めていたヒツジの毛の部分を切り落とす事に成功した。

「ぐぁぁぁぁぁ!」

苦痛の叫びを上げる仮面の男に、

「絶空!」

「第二奥義! 突刺牙崩!」

と、リカード達の攻撃が直撃した。



パリン!


仮面が割れ、男の素顔がさらされた。

「兄さん!」

顔の四分の三が魔物に変えられていたが、アンナには残った部分でも兄だと感じることが出来た。

「ぐるぅぅぅぅぅぅ!」

唸り声を上げて威嚇するレンだった魔物。

アンナは、涙を浮かべながら、

「今、楽にしてあげますね」

優しく語りかけながら、顔の魔物の部分を引き裂いた。



「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」



魔物の叫びとも、人の叫びとも思える声が続き、そして、息絶えた。



「兄さん。ごめんなさい。兄さん」

アンナは、涙を堪えながら兄だった魔物に謝っていた。

リカードは、ゴンゾーに目線を送り、ゴンゾーは頷いてからフィリアの方へ向かった。

「アンナさん。感情を抑えるべきではありませんよ」

リカードはそう言って、アンナを抱きしめた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ。にぃさぁぁぁぁぁぁん」


アンナは、リカードの胸に顔を埋めて泣いた。涙が悲しみを押し流してくれるかのように。

リカードは、レンを見て驚いていた。

(最後は物凄い痛みで辛かっただろうに、微笑を浮かべているとは。目元しか残っていないのに凄い人だ)

リカードはアンナを優しく抱きしめていた。

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