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第八十九話 直哉が眠っている間に

◆湖畔に建てた直哉の屋敷


「こ、ここは?」

直哉が目を覚ますといつもの天井であった。

直哉はベッドに寝ていて、リリとシロがくっついていた。

近くの椅子ではラリーナが武器の手入れをしていて、

「お? ようやく目覚めたか? 身体の調子はどうだ?」

と声をかけてくれた。



「あぁ、ラリーナ。おはよう」

「ん? どうした?」

直哉は頭を振りながら、

「何か怖い夢を見たような気がする」

「そうか。それだけなら、大丈夫なのかな? とりあえず、フィリアを呼んでおこう」

ラリーナはフィリアを呼びに行った。



ラリーナが戻ってくると、

「フィリアは今、手が離せないらしい、出来るだけ早く来るそうだ」

「フィリアは何をしているの? 他のみんなは?」

「リカード達はパルジャティアと交渉中だ。エリザは子供達の相手。フィリアは村人達を治療している」

直哉はハッとして、

「治療? と言うことは、あれは、夢では無かったのか!」

直哉が取り乱し始めた。

「ああ。直哉が村人達を救ったのは夢では無いよ」

何でも無い様に言うラリーナに、

「そうじゃなくて! 俺が攻めこんだから、村人達は魔力を全て吸われて死んでしまった」

直哉の言葉に、

「ん? 確かに魔力を全て吸われている者もいたが、死んではおらんよ」


「えっ?」

直哉は驚愕した。

「死んだのは、キメラにされた賊達と、自殺したレッドムーンの上官だけだぞ? レッドムーンの一般兵ですら、拘束したからな」

直哉は、倒れる前の事を思い出していた。

「村人達は、魔力欠乏症で亡くなったのでは?」

「魔力欠乏症で死ぬ? そんなわけあるか! 確かに倒れるけど、意識を失う程度だぞ?」

直哉は記憶をゆっくりと掘り起こした。

「でも、あの時、確かに死んでいた」

「近づいて確認したか?」

「いや。だけど、あれは確かに死んでいた気がする。・・・くっ」

そう言って、こめかみを押さえた。




直哉が落ち着いた頃、くっついていたリリとシロが目を覚ますと、

「あー、お兄ちゃん! やっと目を覚ましたんだ! ワーイ!」

「くぅん、くぅん」

直哉にくっつき直した。

「あぁ、おはよう」

直哉はリリ達に、挨拶をして、起き上がろうとしたが、身体が悲鳴をあげた。

「くっ。何だ? 身体が重いぞ?」

直哉がもぞもぞと動くと、足下から声が聞こえてきた。

「ううう」

「えっ?」

慌てて足下を見ると、マーリカが丸まって眠っていた。


「何でマーリカがここに?」

「今は、寝かせておけ。先程ようやく眠りに付いたのだからな」

直哉は、鈍い頭をフル回転させたが、よくわからなかった。

「これが夢か?」



その時、部屋の扉が空いてフィリアが入ってきた。

「直哉様。良かった。お目覚めになられたのですね。本当に良かった」

と、泣きながら抱き付かれた。

「お、おぅ。おはよう」

「もぅ。お寝坊さんなんですから。みんな、喜びますよ」

「えっ? 起きただけで?」

「それはそうですよ。直哉様は五日も眠っていたのですから」

「何だって?」

直哉は驚いていた。



「五日も眠っていた?」

「はい。色々な事がありましたけど、直哉様が目を覚ました事が一番ですね」

直哉は、呼吸を整えてから、

「とりあえず、食べ物を何かくれるかな? それから、俺が眠っていた時に起こった事を教えて欲しい」

直哉は、フィリアとラリーナの手を借りながら食堂へ降りていった。




食堂は、見知らぬ人々でごった返していた。

「おや? 聖女様。そちらの男性は・・・、もしかして勇者様ですか?」

「はい。先程、やっと目を覚ましてくれました。これから食事と身支度をして貰い、それからこの五日間の話しをしようと思います。その時、皆様の力を借りますので、よろしくお願いします」

群がっていた、人々は、直哉に礼を言って去っていった。


「えっと? 誰だっけ?」

「直哉様がお救いした村人達ですよ。まだ外にも居ますし、パルジャティアや元の村にも居ます」


そこへ、リカード達が屋敷へ入ってきた。

「おっ! ようやく目覚めたか!」

そう言って、直哉の肩をバシバシと痛いくらいに叩いた。

「心配をおかけしました」

直哉は頭を下げた。

「まぁ、あれだ。疲れが溜まっていたのだろう。現在の身体の調子はどうだ?」

「はぃ。物凄くお腹がすいていて、身体が重く感じます」

「それなら、飯を食って身体を動かせば治りそうだな」

直哉はみんなに心配されながら、食事を済ませた。

「では、俺が寝ている間の事を教えてくれる?」

「わかった」

直哉のお願いにみんなが集まってきた。




◆五日前のレッドムーンの燃料貯蔵庫


「直哉!」

ラリーナは、倒れた直哉の元へ駆け付けた。

「どうした?」

リカードは焦りながら、直哉の所にきた。

「わからんが、意識がない」

「まさか、変な病気なのか?」



ラリーナ達がおろおろしていると、フィリアがやってきて二人に指示を出した。

「直哉様。・・・・とにかくお二人は村人の救出を指揮してください」

「わかった」

「直哉の事、頼む」

ラリーナ達はそう言って、非戦闘員達に指示を出して、村人達を救出しはじめた。



フィリアは直哉を診て、

(直哉様はどうしたのかしら。大きな外傷は見当たらないし、魔力も残っている。スタンする要因がわからない)

頭を抱えていた。

「フィリア殿よろしいですかな?」

そんなフィリアを見て、ゴンゾーが声をかけてくれた。

「拙者が見た、直哉殿の事を話しておきます」

そう言って、ゴンゾーが駆け付けた所からの出来事を伝えた。



「そのような事があったのですね」

「はい。直哉殿は本当にお優しいのですね。ですが、その優しさを自分に向けないと、いずれ心が壊れてしまいます」

ゴンゾーの話しに、

「話してくださってありがとうございます」

と、お礼を言った。


「リリ、ラリーナ、来てくれる」

フィリアの召集に、二人は瞬時に駆け付けた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「何かわかったのか?」

二人の疑問に答え、直哉を屋敷に運ぶ手伝いを頼んだ。

「お兄ちゃん。本当に優しいの」

「敵にも涙を流すとは」

二人はそう言いながら、直哉に抱き付き、抱きしめた。



三人で屋敷へ直哉を運んでいると、村人達や非戦闘員達が、屋敷の周りに群がっていた。

「この建物は、こちらの勇者直哉様が建てたものである。簡易施設のため、直哉様の傷が癒え、出発する時には片付けます」

フィリアの言葉に、

「背負われている方は、俺達を助けに来てくれた方だ! あの方が勇者様なのか?」

群がっていた村人達は、直哉に頭を下げた。


フィリア達は直哉を部屋に運び込み、直哉を看る順番を揉めていると、

「奥様方は、この屋敷の使用方法を皆さんに教えてあげてください。ご主人様は私が命に変えてもお守りいたします」

と、マーリカが申し出てきた。


フィリア達は頷いて、村人や非戦闘員達の話を聞いて、これからの事を話していった。

その間にも、救出された村人達が運び込まれて、屋敷周辺はカオスな状態になっていた。



「意識の無い方々は、こちらへ」

村人達のダメージレベルに合わせて、治療優先度を決めていった。

村人達の救出が終わり、リカード達が戻ってくると、今後について話始めた。

「捕縛したレッドムーン兵士の話によると、湖畔の塔を拠点にしていたのだが、ソラティア王国から協力の要請があり、エルムンドがソラティアへ行ったらしい。それで、この場を指揮しているのは仮面の男と言う話しだ」

「仮面の男!?」

アンナが反応した。


「どうかしましたか?」

リカードの質問に、

「その男は、私の兄かもしれません。外道に落ちた今、私が引導を渡さなくては」

「それで、今回の旅に付いてきたのですね」

アンナは、心の内に秘めていた事をさらけ出した。

「私の兄が外道に落ち、ルグニアの民に大きな被害を出しました。エバーズ様はお優しいので、私には責任がないとおっしゃってれていますが、そう思わない方々も多くいらっしゃいます。今回の旅で、兄を撃つにしろ撃たれるにしろ、ルグニアから去るつもりです。その先はまだ考えていませんが」

アンナの目をしっかりと見ながら話を聞いていたリカードは、

「わかりました。そういう事情であれば、私が力を貸します」

それに続き、

「拙者はリカード様の剣であり盾である。もちろん手伝いますぞ」

ゴンゾーも続いた。


エリザはアンナの前に出て、頭を下げた。

「申し訳無いのじゃ。わらわの父のした事で、お主につらい思いをさせてしまって」

アンナは、

「いいえ。エリザ様。エリザ様には何の非も無いのは私が良く知っています。顔を上げてください。エリザ様も、父上の事で微妙なお立場なのは同じ境遇なのですから」

と、言ってくれているが、

「本当に申し訳無いのじゃ」

エリザは涙を流しながら謝っていた。



リカードが、

「そう言う事なら、直哉が起きてから行くの出はなく、先に終わらせておくか」

「そうですな。直哉殿は心が弱すぎる。余計な負担を掛けないようにしましょう」

「そうなると、俺たち三人とガリウスか。ガリウスは、この場で指揮を取って貰うとして、嫁達が動いてくれるか頼んで見るか」

そう言って、フィリアの元へ向かおうとすると、

「待ってくだされ、わらわも、わらわも行きたいのじゃ」

エリザが懇願した。


リカードは首を横に振って、

「残念ですが、エリザさんには、直哉と私の代わりに象徴として残って貰います」

「そんな! あんまりなのじゃ」

「高貴な生まれの宿命ですな」

エリザはガッカリしていた。



リカードがフィリアに、

「アンナさんの兄らしき仮面の男を倒しに行くのだが、力を貸して貰えないか?」

「わかりました。私とラリーナが行きます」

リカードはリリを見て、

「リリちゃんは行かないのかい?」

「お兄ちゃんが起きた時、誰かが居ないと悲しむと思うの。だからリリは残るの!」

「そっか。それじゃぁ、直哉の事を頼むぞ」

「もちろんなの!」



と、いう事で、湖畔の塔へは、リカード・ゴンゾー・アンナ・フィリア・ラリーナの超前衛パーティで行く事になった。

そこへ、パルジャティアからの使者がやってきた。

見た目は優しそうなお母さんのような感じの人だった。

「私は、パルジャティア王国の宮廷魔術師、ステファニーと申します。そちらの責任者はおられますか?」

「今、目覚めている中で言えば、リカード様になりますか?」

フィリアの言葉に、

「仕方があるまい」

と、覚悟を決めた。


「現在、我々のリーダーである、勇者直哉は先の戦闘で負傷しこの屋敷内で眠りについておる。その関係で目覚めている中では私になる。我が名はリカードと申します」

リカードは自分を紹介しつつ、直哉を紹介した。

「勇者直哉とは、聞いた事がないですね。確認しておきたいのですが、あなた方はソラティア王国の者ですか?」

ステファニーは疑問をぶつけてきた。

「いいえ、ソラティア共和国とは関係がありません」

「それでは、最近現れた、レッドムーンとやらですか?」

パルジャティアにとって、ソラティアと同じようにレッドムーンは大問題であった。

「いいえ、我々はそのレッドムーンを滅ぼすためにこのソラティア共和国へ来ました」

「そうでしたか。それで、レッドムーンの兵士達を捕らえ、数多くのキメラを葬っていたのですね」

ステファニーはホッとしていた。

「先程の戦闘を見ていたのですね」

「はい。あちらの王城から」

そう言って、しっかりと守られたパルジャティアを指差した。


「それで、どう言ったご用件でしょうか?」

「もし、よろしければ、勇者様のご尊顔を拝見してもよろしいでしょうか?」

ステファニーの申し出に、

「どういうことですかな?」

ゴンゾーも警戒心をあらわにした。

「私の特殊能力で、その人の表情を見れば、善人かどうかを判断することが出来るのです。この、能力だけで宮廷魔術師の任を任されたといっても過言ではないくらいです」

リカードは、フィリアたちを見て、

「どうする? お前たち嫁に任せる」



フィリアは、考える時間も無く、

「もちろん構いませんよ」

そう言って、直哉の元へ案内した。


直哉の顔を見たステファニーは、

「まさか!? 本当にこのような方がいらっしゃるとは」

そう言って、神に祈りを捧げた。

「神よ、子の様な時代に、この世を救う者を遣わせてくださり、ありがとうございます」

ステファニーはフィリア達に頭を下げ、

「疑って申し訳ありませんでした。直哉様と、皆様の身は私が保証します」

と、保障してくれた。


「それで、皆様はどちらに行かれようとしていたのですか?」

リカードは、湖畔の塔へ、レッドムーンの幹部を倒しに行くことを伝えた。

「それでしたら、我らがパルジャティアで身支度をしてください」

その申し出に、

「でしたら、食料の販売と、怪我人の収容をお願いします」

フィリアはそう言って、地下鍛錬場の状況を教えた。

「そうでしたか、空白地帯からの民を強制徴兵ですか。凄いことを考え付きますね。しかもレッドムーンに横取りされているとは、情けないですね」

「ですが、そのソラティアとレッドムーンが手を組んだらしいのです」

「なんですと? それは大問題ですね」


ステファニーは深く考えた後、

「やはり、一度お城へ来てもらえますか? もし、ソラティアとレッドムーンが手を組んだのであれば、一刻の猶予もありません。国王に兵を出してもらいましょう」

「今回は共闘すると言うことですな」

「はい。その後の事は、勇者様が目を覚ましてからということでよいですか?」

「はい。それでお願いします」

そう言って、リカード達はステファニーに連れられて、パルジャティアへ向かった。

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