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第八十七話 ソラティア共和国の闇

◆アフターン


「本当に治療して良かったのですか?」

フィリアは直哉の指示で、怪我をしていた賊どもの治療をしたのであった。

「うん。別に殺すことが目的じゃないからね」

「直哉様がそう仰るのであれば、これ以上は言いませんが、物凄く憂鬱です」

フィリアはプリプリと怒っていた。




村人達を連れて帰ってきた直哉達は、疲れきって座り込んでいるアンナとシロ、そして鍛練を続けているリカード達を見て、

「お疲れ様です」


リカードとゴンゾーは鍛練を中断して直哉達の元へ来た。


後ろでは、助けた村人達が村の様子を見て嘆いていた。

唯一残っていた子供は両親と再開出来たようで、一安心であった。


「マーリカ、こっちは問題ない?」

「はい。村を襲った仲間が来ることはありませんでした」

「そっか。今のところは問題ないか」

直哉は村人に話を聞いた。


「結局、奴等は何者なのですか?」

「彼らはソラティアから依頼を受けたと言っていました」

「ソラティアから?」

「はい。我々は放牧の里アフターンの民です。ソラティアは我々をソラティアの民として吸収しようとしていました。我々は放牧の民です。一カ所に留まる事はしたくありません。ですが、そんな我々の返事に業を煮やしたソラティアは我々を強制的に加えようとしてきました」

「それが、奴等なのですね?」

「はい。ですが、住む場所がここまで破壊されては、ソラティアに行くしかないのでしょうか? 風の噂ではソラティアに連れて行かれた者達は、まるで家畜のように扱われるとも聞いています。この娘達をそのような所へ送りたくはないのですが」


村人の話に、直哉はみんなの方を見た。

「お兄ちゃんのやりたいようにするのが良いの」

「私は何処までもついて行きます」

「わらわにとってはレッドムーン退治も大事じゃが、直哉殿にはその事に囚われて欲しくはないのじゃ」

「そうだな。直哉は思った事を思った通りにやればいいさ。間違っていれば、俺たちが全力で止めるから安心してやりたい事をやってくれ」


直哉はスキルを確認して、

「この村のまとめ役の方はいらっしゃいますか?」

直哉の呼びかけに、先ほど話していたおじいさんがやってきた。

「私が、村の相談役です」

「少し確認したい事があるのですが、よろしいですか?」

「こちらも、聞きたい事があるので、話していただけるのであれば」

相談役の言葉に肯いて、

「わかりました、そちらの聞きたい事を話しましょう。始めにこの村の今後についてですが、ソラティア地方の草原を移動していれば、捕まる事はないですか?」

「一カ所に留まるよりは、危険が減るであろう」

相談役の説明に、

「では、何故、ここに留まっていたのですか?」

「今年は子宝に恵まれて、五名もの女性が妊娠したのだ。流石に数が多くて、安定するまでは一カ所に留まる事を選択したのだ」

「その女性達を動かせれば、問題無いですか?」

相談役は焦ったように、

「走ったり馬で移動して貰うと、身体への負担が大きくなるので、出来ればそっとしていて欲しい」

直哉はその後、馬の数や食料など村人が生活するスペース等について聞いていった。


流石に相談役は不思議に思い、

「何故そのような事を聞くのですか?」

その問に直哉は、

「今から移動手段と簡易テントを作成します。動力に馬を使うので、結構な重量を引く事の出来る馬を数頭用意してください」

そう言って、スキルを発動させた。




まずは、村の出入り口に車輪が付いた大きな家を造り上げた。

「なんと!」

「奇術だ!」

「魔術だ!」

直哉は、村人達の反応を無視して説明を始めた。

家の前後には、馬を繋げる場所が造ってあって、

「この部分に、馬を繋げます。このアタッチメントを使うと、馬への負担を軽くする事が出来ます」

そう言って、相談役が選ばせた馬を接続した。

「おぉ!」

「最大で同時に六頭繋げられます。ずっと同じ馬ではなく順番に入れ替えるのが良いでしょう」



直哉は説明を続けた。

「中は部屋が十部屋、全室、簡易調理場と風呂を完備。妊婦さんがストレスを感じない配慮をしています」

「集まれる場所もあるのか!」

「出入り口も別に作ってあるのね」

村人達が家の中を見て感心していた。

「この中なら、大きな揺れを感じること無く移動できます」

直哉の説明に、

「メンテナンスが大変そう」

村人が的確な突っ込みを入れてきた。

「それは、村の人に覚えて貰いますよ。無理なら、ルグニアの大規模鍛冶場に来てくれれば、きっと直してくれますよ」

「なんと?貴殿方はルグニアの人だったのか?」


「正確に言えば、ルグニアの民でもある、かな?」

「どういう事ですかな?」

「俺は直哉。バルグフルとルグニアの伯爵で、両国からこの世界の勇者と呼ばれている者です」

相談役は直哉を見つめ、

「・・・・・痛い人か?」

そのやりとりを聞いていたリカードが、

「恥ずかしいぜ」

「ちょっ、リカードまで! 酷くない?」


その後、誤解を解いた直哉は、棒に布を付けた物を作成し、地面に棒を突き刺してボタンを押すと、


シャキン! シャキン!

と、棒が伸びていき、そこから四方に布が伸びていってテントが出来上がった。

「・・・・・・・」

村人達は想像をはるかに超えた技術を目の当たりにして、固まっていた。


直哉は気を取り直して、

「そう言えば、俺に聞きたい事って何でしょうか?」

相談役が気を取り直して、

「先ほどお聞きしてしまったのですが、あなた方は何者なのですか? それと、コレだけの物に対するお金はありませんよ」


直哉は、

「あ、そうか。料金か。うーん」

と、考え込んだ。

「でしたら、今回はお試しということで、どうですか?」


「お試しですか?」


「はい。気に入って頂ければ、次回は買い取ってもらうというのはどうですか?」

「本当によろしいのですか?」

「今回は特別ということで、良い商品が買えると思っておいてください」

直哉と相談役が話していると、妊婦さんとご主人が直哉の前に来て、

「話は聞かせて貰いました。確かに私たちの持ち合わせは少ないです。ですが、もし、良ければ、私たちの持ち物て交換、もしくは、アイテムを買い取って頂けませんか?」

「物々交換というわけですか?」

「はい」

「良いですよ。それで何が欲しいのですか?」

「私たちの結婚腕輪をお願いします」

「結婚腕輪?」


「はい。私達には持ち合わせが少なく、腕輪を準備する事が出来なかったのです。ですので、もしよろしければ、お金ではなく、アイテムと交換、もしくは、アイテムを買い取ってくれれば、そのお金で買わせていただきます」

「なるほど。少々お待ちください」

直哉はスキルを発動して、結婚腕輪を見つけた。

(本当に腕輪なんだ)

更に詳しく見ていくと、

(材質や装飾が選択出来るのか。つか、見本用に造れないかな?)

スキル欄を隅から隅まで読んで、ようやく見本品の欄を見つけた。



直哉が見本品を造り出して見せると、夫婦だけでなく、リリ達も群がってきた。

「リリも欲しいの!」

「そうだな。私達も欲しいよな」

ラリーナが、フィリアに言った。

「はい。直哉様から頂ける事を楽しみにしております」

「なるほど。こちらの世界は腕輪が結婚リングなんだね」

直哉の疑問に、

「お兄ちゃんの世界では結婚腕輪は無いの?」

「そうだね、俺の世界では、結婚指輪だった」

「指輪! きっと、物凄い魔法が撃てるようになるの!」

直哉は、そんなリリの想像力に苦笑いを浮かべながら、

「リリ達のは少し待ってくれる、まずは、お客さんの要望を聞かないと」

直哉はそう言って、夫婦の希望を聞いて行った。


直哉は夫婦の夢を叶える値段を言うと、

「そんなに安いのですか?」

と、驚いていた。

「材質が特殊で、殆どがその値段ですね」

「その材質はこれですか?」

夫婦の持っていた首飾りに同じ材質が使われていた。

「これは、確かに同じ材質が使われています」


「この首飾りからつくる事は出来ませんか?」


直哉は鑑定のメガネをかけて、

「この首飾りは装備者のMPと引き換えに、不幸から身を守る力が封印されています。正直にいうと、この魔力を移すことは出来ませんので、ちゃんと素材を見付けてくることをオススメします」

夫婦は目を丸くして、

「初めてです。この首飾りを正確に鑑定して、その結果を伝えられたのは」


「あぁ。このメガネは最上級品なので、値段だけでなく、効果等もわかります」

「それでも、それを正直に話してくれる方は、居ませんでしたよ」

直哉は少し考えてから、

「俺は、お互いが得をする取引をしたいので、こうやって本当の事を言ってから交渉する事にしています」

「それでは、儲けが少ないのでは?」

「確かに儲けが少ないかもしれませんが、それでも儲けには変わりありませんし、これで生計を立てている訳ではないので問題ありませんよ。他の商人からは嫌われるでしょうが」

直哉は肩をすくめた。



夫婦は首飾りを仕舞い込み、代わりに袋から数個の破片を取りだした。

「素材はコレで大丈夫ですか?」

直哉が受け取り鑑定をすると、

「これで、問題無いですね。というか、これ一つで充分ですよ」

と、その中の一つを指さした。

「コレですか?」

一番小さい塊を持ち上げた。

「はい。この鉱石は大きさよりも純度が大事になります。もちろん、大きさも大事ですがその中にどれだけ含まれているかが重要なのですよ。それで判断すると、これが一番条件がよいですね」


更に夫婦の要望を足して、

「全部で50Sで、そのうち、持ち込みの素材が35Sになるので、合計15Sになります」

夫婦は素材を直哉に売り、腕輪を購入した。


直哉はスキルを発動して一組の腕輪を造り出した。

「どうぞ。お確かめください」

直哉から夫が腕輪を取り、嫁に着けると、腕輪から光が溢れて夫婦の名前が刻まれた。

同様に嫁から夫に着けても同様の効果が現れた。


「ほぇー」

リリ達が溜め息を漏らしていた。

「ありがとうございます。これ程良いものを造っていただいて。感謝します」

「いえいえ。末永く幸せになってくださいね」

直哉は夫婦に別れを告げ、

(さて、リリ達の分を考えますか)

そう思い、スキルからどうするかを考えていると、


「直哉!奴等がここにくるぞ!」

ラリーナの警告が響いた。

(まぁ、そうなるよな)

「村人の皆さんは避難を開始してください。もう、奴等のような連中に捕まらない事を祈ります」

直哉の言葉に、村人達は慌てて避難準備を始めた。




直哉達が立ちはだからると、

「俺達の上前を撥ねるとは、随分となめた真似をしてくれたな! この落とし前はきっちりとつけてもらうぜ!」

直哉は一団を確認すると、先程ぶちのめして牢にぶちこんだ奴等が大半であった。


「お兄ちゃんには指一本触れさせないの!」

リリ達が直哉の元に集まると、先程の連中から悲鳴が上がった。

「ぎゃー、ピンクの悪魔だ!」

「ピ、ピンクが襲い掛かってくる!」


「むー、リリはそんなんじゃないもん!」

頬を大きく膨らませて怒った。


「う、後ろには天女様がいらっしゃるぞ!」

フィリアの姿を見つけた賊どもは自分たちを治療してくれたフィリアを天女と敬っていた。

「あぁ、やっぱり。彼らに慕われてもちっとも嬉しくありません」

フィリアはプリプリと怒った。



「何か、興ざめだな」

ラリーナは鼻を鳴らすと、後ろに下がって飯を食べ始めた。



賊の頭は青筋を立てながら、

「どいつもこいつも、この俺様をコケにしおって! 許さん!」

頭は直哉に踊りかかった。

「えっ? 俺?」

直哉は丸腰であったが、頭の攻撃はあまりにも遅かったため、左の肩から振り下ろされてきた刀を、左足を後ろに下げ回避して、さらに右手でその刀を平手打ちにした。

「せぃ!」


バキン!


賊の頭が持っていた剣は、直哉の素手によって叩き折られた。


「な、何だって?」

「ひぃぃ。奴も化け物だった!」

「お助けを!」

賊達はその場で命乞いを始めた。

「呆気ない。というか、鍛え方が足り無さすぎでしょ?」

直哉は憤慨していたが、


「とりあえず、話を聞かせてください」

賊頭に向かって聞いて見た。

「どうして、村人を襲っていたのですか?」

「ソラティアの王城から通達が来て、指定の場所へ村人たちを連れて行くとお金が貰える仕組みだ。新しい村人一人につき、1S、若い娘がいる場合は5S、王様が気に入れば10Sの賞金が貰えるのだよ。俺たち以外にもたくさんのあぶれ者達がティアの称号を持っていない村を襲っている。俺たちもようやく誰も狙っていない村を見つけて襲い掛かったのに、まさか横取りされるとは思わなかった」

直哉は賊頭を見ながら聞いた。

「あなた方は、まだ、続けるつもりですか?」

賊頭は直哉をしっかりと見て、

「いや。元々俺達は何処にも参加できないほどの、落ちこぼれ達の集まりなんですよ。できれば、静かに暮らせるところがあれば農作業をして、のんびりと暮らして生きたいです」

賊たち全員がその言葉に頷いていた。



直哉はその言葉を聞いてから、リカードに聞いた。

「どう思いますか?」

「今のところ、信用できる要素は無いな」

「ですよね」

二人の言葉に賊達は、

「し、信用してください!」

「のんびり暮らしたいです」

と、訴え始めたが、

「お前たち! みっともない真似は止せ! 俺達の事は、このお方に託すしかないんだ。大人しく待て」

頭の一声により、大人しくなった。


「ふむ。カリスマ性はあるようですね」

直哉は考えてから、

「お金が貰えるという、指定の場所を教えてください。他の村人達を救おうと思います」

「わかりました。それなら俺が案内します!」

頭は立ち上がった。

「お願いします。他の方々はとりあえず、着いて来てください。武具は俺が用意しますので、それを使ってください」

直哉は、賊たち用の武具を造り、全員にお揃いの武具を手渡した。




着替え終わった頭は、直哉に頭を下げ、

「俺の名前はガリウス。貴方に忠誠を誓う」

「わかった、信じます。俺は直哉。案内を頼みます」

直哉はガリウスを立ち上がらせ、握手をした。


そして、指定の場所へ向かう途中、ガリウスはゴンゾーにみっちりと鍛え上げられ、戦力としてカウントできる程度には、上達したのであった。

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