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第九話 リリの決意

◆冒険者ギルド


酒場の店員の言ってたとおり緊急クエストが入っていたらしく、ギルドは騒然としていた。

「酒場と違ってこっちは賑やかなの!」

リリは目を輝かせながら受付まで直哉を引っ張っていった。

イリーナに取り次いでもらおうと思ったが、大勢の冒険者を相手にしているらしく順番待ちとなった。


直哉は、配られていた緊急クエストの案内を受け取って内容を確認していた。

「これが、緊急クエストなの?」

リリが覗き込んできた。

「そうだね、火山の近くに大きな遺跡が発見されたらしく、その調査がメインだね」

「リリたちはやらないの?」

直哉はプレートを見せながら、

「こういう新しい遺跡などは高ランクの冒険者が安全を確認してからじゃないと、僕みたいな低ランクな冒険者は入れないんだよ」

「危ないから?」

「そういうこと。高ランクの方のほうがより多くの経験を積んでいるわけだから、不測の事態に迅速に対応出来るということなんだよ」

リリは行きたいようだったが、

「まぁ、何にしても家が出来たって報告しに来ただけだし、鍛冶ギルドにもよる予定だからクエストは受けないよ」

リリは何かを秘めながらも直哉の言葉に従っていた。

そんなリリを見ながら直哉は、

(そんなに遺跡に行きたいのかな?)

と思いながら、リリの頭をなでていた。

呼び出しが入り、リリと共にイリーナの元へやってきた。


「イリーナさんこんばんは!」

「さっきぶりなの」

「こんばんは、二人とも」

挨拶が済んで、直哉は家が出来たことを伝えに来た。

「と、言うわけで家を作っちゃいました」

「なの!」

イリーナは呆れながら、

「相変わらず、出鱈目な早さね」

そういいながら、何かを思いついたようだった。


「この後、家にお邪魔しても良いかしら?」

元々そのつもりだったので、

「良いですよ。鍛冶ギルドのマスターにも声をかけますので、もしかしたら来るかもしれません」

直哉はこの後、鍛冶ギルドに寄ることを告げると、

「それなら、一緒に行きましょう」

と、イリーナは片づけを始めた。

「イリーナさんと一緒に帰れるの?」

「私も、あなたたちの家に興味があるから一緒に行きましょう」

そう言いながら片づけを終え、

「裏口で待ってて、上司に報告してくるから」

直哉たちは冒険者ギルドの裏口でイリーナが出てくるのを待っていた。


「お待たせ」

ラフな格好のイリーナが出てきて、二人に合流した。

「わーい、綺麗なイリーナさんなの」

リリがイリーナに飛びついた。

イリーナは困惑しながら、

「あら、普段の私は綺麗じゃないのかしら?」

そういいながら、鍛冶ギルドへ向かった。



◆鍛冶ギルド


「おじさん、こんばんは」

直哉は裏口の髭樽おじさんに話しかけた。

「おっ、ナオヤじゃないか、また来たのか? って本当にこっちの調子は良さそうだな」

そう言って、小指を立てた。

「この二人はそういう人じゃないけど、マスターは居ますか?」

直哉はあからさまに話題を変えた。

「最上階にいるよ、行き方はわかるよな?」

直哉は礼を言ってリリとイリーナと共に奥へ進んだ。


リリは何かを思い出したようにイリーナに質問した。

「これってどういう意味なの? お兄ちゃんがイリーナさんに聞いてくれって」

そう言って、小指を立てた。

イリーナは直哉に何の事と視線を向けて来たので、

「先ほどの会話のやつです」

「あぁ、直哉君じゃ言い辛い? わかったわ、教えておくわ」

そういって、リリに耳打ちをした。

リリは真っ赤な顔をして、

「リリはそんなんじゃないもん」

と、否定していた。


三人でマスターの部屋に行くと、呼び出しのお姉さんが、

「現在来客中です、少々お待ちください」

と言って、横の待機室へ案内しようとしたが、イリーナさんが、

「来客は、冒険者ギルドのお偉いさんではないかしら?」

呼び出しのお姉さんは何でそのことを? という顔をしていたので、

「イリーナが来たと伝えてくれるかしら?」

イリーナさんは、呼び出し嬢を促した。

「少々お待ちください」

そう言って、中に確認しに行くと、

「どうぞお入りください」

呼び出し嬢は中へ入れてくれた。


中に入ると、鍛冶ギルドのマスターである仙人様と、もう一人若い感じの男が居た。

ぱっと見は20歳になるかならないかで、直哉がため息をつくほどの美青年であった。

直哉とリリは完全に固まっていたが、

「ま、マスター?」

イリーナは驚愕の声を上げた。

「あれ? 知っていたのではないのですか?」

直哉はイリーナに聞いてみると、

「ギルドの幹部クラスが来る事になっていたのに、まさかマスターが来るなんて思わなくて」

そこへ、鍛冶ギルドマスターから声がかかった。

「おぉ、お主たち良く来たのぅ。さぁ、こちらへ来なさい」

直哉たちはマスターの傍へやってきた。


「紹介しよう、こちらは冒険者ギルドのギルドマスターじゃ」

「はじめまして、私はヘーニルと申します、以後お見知りおきを」

冒険者ギルドのマスターは、ものすごく丁寧に挨拶をしてきた。

「はじめまして、俺、私は風見直哉です。鍛冶職人としてこのギルドに在籍しています」

「リリはリリなの、お兄ちゃんの所で一緒に住む予定なの」

直哉とリリが挨拶した後、鍛冶ギルドのマスターが、

「わしはヘーパイストスじゃ、見てのとおり鍛冶・・・」


「仙人様なの!」

リリはヘーパイストスの台詞を最後まで言わせなかった。

「ほっほっほ、そうじゃわしは仙人をやっておる」

ヘーパイストスはリリをなでながらそう言った。

「私はイリーナです、冒険者ギルドの受付から冒険者たちのオブザーバーをしております」

「私はラウラ、マスターの秘書です」

全員の挨拶が終わると、ヘーニルが話し始めた。


「突然で申しわけないのだが、直哉君の力を見せていただけますか?」

「えーっと、それはどういう事ですか?」

困惑する直哉にヘーニルは続けた。

「あなたの、鍛冶スキルはかなり特殊だと報告を受けました、実際に見せて欲しいのですが、よろしいですか?」

直哉は少し考えた後、

「スキルを見せるのはかまいませんが、後で本当の事を教えていただけるとありがたいです」

そう言って、目の前に用意した『銀鉱石』からスキルを使って『銀』を冶金した。

「こ、これは・・・」

ヘーニルは驚いて出来上がった銀を手にとって、

「これ程の冶金とは、聞いていたのより凄い」

と直哉のスキル鑑賞会が始まりそうな所だったが、


「そろそろ、帰りたいの」

リリの一言により、直哉の家に集まることになった。

マスターが一冒険者の家に行くことは、あらぬ誤解を招きかねないため、直哉の家には、直哉、リリ、イリーナ、ラウラが歩いて向かい、ヘーニルから手渡された転送石をどこかに取り付けて、マスター達が訪れる手はずになっていた。



◆直哉の家


家に到着した直哉たちは、一階の酒場のようなリビングで休憩していた。

「これが、家ですって・・・完全に宿屋じゃないですか」

ラウラは滅茶苦茶驚いていた。

「あ、直哉君、リリちゃん寝かせておこうか?」

イリーナは直哉の背中で寝てしまったリリを受け取り、

「部屋は模型どおりなんでしょ?」

「えぇ、その通りです」

直哉は答えながら、

「ラウラさんは奥のキッチンでお茶の用意をお願いします」

そういって、地下室へ下りていった


大工スキルで地下の部屋を微妙に変え、見えにくいところに扉を配置し転移石を取り付けた。

転移石が力を発揮し、ヘーパイストスとヘーニルがやってきた。

「ここは、ホール? というより鍛練場ですか?」

ヘーニルは辺りを見ながらそう判断した。

「そうですね、地下の鍛練場をイメージして作りました」

「みなは、上の一階かの?」

ヘーパイストスは模型を見ていたので、大体の構造は理解していた。

「はい、ラウラさんがお茶の用意をしているはずです」

そういうと、奥のリフトを呼び出した。


三人が一階のリビングに顔を出すと、キッチンで呆然としているラウラさんと二階から下りてきたイリーナさんと合流した。

「直哉様お話があります」

「何でしょうか?」

「お茶の用意をしようと思いましたが、何もないのですが、私はどうすれば良いのですか?」

直哉は、そういえば後で揃えようと思っていたので、何も無いということに気付かされた。

「そういえば何も無いのでした。すみません」

そう言いながら、土と石と鉄を駆使し大工スキルで家具を造り出した。

その間に、ラウラは地下の転移石を使用し、鍛冶ギルドに常備してあるお茶とお茶請けを持って来ていた。


「さて、本題に入りたいのだが、よろしいかな?」

ヘーニルはお茶を受け取りながら、直哉へ向き直った。

「はい。お願いします」


「今日来た理由はある王国の王女とその母上を、かくまって頂きたいのですが」

直哉は驚きながら、

「何故? とお聞きしてもよろしいですか?」

「その王女は母親と共にその国から追放され、我が国へ亡命してきた。我が国では冒険者として受け入れ細々とであるが生活をしていたのだが、先日その国の第一王子と第二王子が暗殺され、現在は第三王子が王位継承権的には一番近いのだが、追放した王女の方が年上のため担ぎ上げようとする輩がいるとあちらの国から警告が来たのですよ」

ヘーニルは一度お茶をすすり口を潤した。

「ですので、あちらの国の王位が定まるまで、安全な場所に居て欲しいとお願いという名の脅迫が来まして、そんなおりヘーパイストスやイリーナから直哉君の事を聞き、私の目で直哉君を見極めさせて頂きました」

「大体の事情はわかりました」

直哉はそう言って、いくつかの質問と条件を提示した。


質問

1、このお話は冒険者ギルドからの依頼という形を取ってもらえるのか?

2、この家の警備が低い問題をどうするのか?

3、私は男なのですが、良いのか?

条件

1、明日リリが居る前で、王女様とその母上様とお話をさせてください。

2、その後で、リリから承諾を得てください。

3、護衛を付けて下さい。

「以上です」


へーニルは頷きながら答えた。

「依頼は冒険者ギルドのマスターである私からの指名依頼とする予定だ」

ヘーパイストスが口を挟み、

「警備問題はこの保安石を使う事で、かなりの保護になるはずじゃ」

さらにイーリスが、

「直哉君が男なのはわかっているけど、間違いを犯さないって信じているから」

と、無駄に信頼された言葉を掛け釘を刺した。

「お二人の話し合いは、明日で良ければこちらに寄こしましょう」

へーニルはラウラに指示を出した。

「護衛に関しては、私ラウラにお任せください」

「彼女はランク4の冒険者でかなりの腕利きです。こちらとのつなぎ役としても最適です」

へーニルが自信をもって推薦した。

「ワシとしては、秘書が居なくなるのは厳しいが、我がギルドとこの家は繋がっておるから、大丈夫であろう」

ヘーパイストスはそう言いながら、ラウラへ命令を出していた。


「ここまで周りを固められてしまったら、逃げようがないですね」

直哉はそう言いながら、

「でも、リリがなんていうかわからないし、王女様側からの話も聞いてみないことには、何とも言えないですね」

「では、難しい話はココまでにしよう。今日は泊まっていっても良いかの?」

直哉はスキルを発動させながら少し考え、

「明かりと上下水、風の石が足りないので部屋を増やせないです」

「では、ラウラに持ってこさせよう、格安で販売するぞ」

ヘーパイストスはそう言いながら、必要個数を直哉から聞き出しラウラに取りに行かせた。

「それでは、お風呂に入っている間に、このフロアの上に客間フロアを造りますよ」

ラウラから石を受け取った直哉は、ステータス画面を開きながら客間を完成させていった。


「先に着替えを持って最上階に行っててください、俺はリリを起こしてきます」

マスター達四人はリフトで、直哉は階段でリリを起こした後、最上階に集まった。

「左側が男性用。右側が女性用、奥が混浴になってます」

直哉は説明しながら、男性用の風呂に入っていった。

「女性のみなさんも説明をするので、そのまま入ってきてください」

直哉は一通りの設備の使い方を教えた。女性陣は女性用の風呂へ向かい男性陣はそのまま脱衣場で服を脱いだ。

「この、滝を使って身体を洗うというのは新鮮ですね」

「このボディソープというのも、じつに良いのぅ」

マスターズはシャワーを気に入ったようで修行ごっこをしていた。

「さて、お風呂とやらに入ってみるとするか」

ヘーパイストスは重たい腰を上げ、湯船に浸かった。

「はぁー、気持ちよいのぅ。湯船に浸かるというのがこんなに気持ちよいとは知らなかったぞ」

ヘーニルの方も気持ちが良いのか、尖った耳をフリフリしていた。

そんな、ヘーニルをみて直哉は、エルフだったんだと思った。


「はぁ、極楽極楽」

ヘーパイストスが茹蛸になる前に、

「露天のほうで、夜風に当たった方が良いですね」

と二人を連れ出した。

直哉は、夜風に当たりながらお湯をかけて調節していた。

「ほほぅ、これはまた風流じゃな」

ヘーパイストスはそう言って、温度の高い部分で足だけ入れて夜空を楽しんでいた。

「フム、これは素晴らしい」

ヘーニルもまた、露天の良さに酔いしれていた。

そんな中、女性用の方からリリの声が聞こえ


「外からお兄ちゃんのにおいがするの!」

と、扉を空けて、リリが露天へ飛び込んできた。

「わーい、お兄ちゃんだ! 仙人様たちもいる!」

一糸纏わぬあられもない姿で、元気いっぱいに、直哉へ飛び込んできた。

「どーん!」

なんとか受け止めた直哉は

「危ないよ、リリ。怪我しちゃうよ」

イリーナとラウラも合流し六人で露天を堪能していた。


お風呂から出た後、二階の客室フロアを案内し、四人は別々の部屋に泊まった。

リリと直哉は三階へ移動し、各部屋へ別れようとしたところで、リリに呼び止められた。

「ねぇお兄ちゃん、相談があるからそっちの部屋に行っても良い?」

リリは直哉を見上げながら話しかけた。

「もちろん」

そう言ってリリを部屋に入れた。



◆直哉の部屋


部屋の明かりを付けようとしたが、リリに止められ一緒に月明かりを見ながら話し始めた。


「リリね、倒したい魔物がいるの」

「どんな奴なのかな」

「普段は火山に住んでいるのだけど数年に一度暴れ回るの、お父さんはルビードラゴンって言ってた、真っ赤でキラキラしたドラゴンなの」


直哉はゲームの情報を呼び起こしていた。

(うーん、そんな敵いたかな? 覚えがないぞ?)

「どうして、倒したいの?」

「両親のカタキなの」

直哉はリリの話に耳を傾けた。

「もう、五年も前のこと、両親が冒険者だったリリはワガママを言って冒険について行ったの。目的は火山で咲く花を収集することだったの。でも、そこには予期せぬ魔物が待ち構えていたの」

「それが、ルビードラゴン」

リリは直哉の相づちにうなずくと、

「そうなの、お父さんは前に出てお母さんにリリを連れて先に行けって。お母さんはリリを抱えて必死に火山を下りていったの。そのまま、お父さんは行方不明、お母さんは無事に逃げ延びたけど、心労が重なって同じ年に死んじゃったの」

リリはその時の事を思い出しているのか、涙を流しながら話し続けた。


「リリはその時から一人で暮らしてきたの。イリーナお姉ちゃんに冒険者の仕事を教わりながら。あれからリリは強くなるように鍛練してきたの、でもお兄ちゃんに会ってからのリリはもの凄い勢いで強くなってるのが実感できるの。お兄ちゃんとならばカタキを打てる気がするの。だからお兄ちゃん、いや、直哉さん、力を貸してください」


リリは頭を下げた。

直哉はリリの思いを真剣に受け止め、

「わかったよリリ。俺の持てる全ての力を使って君をサポートするよ」

直哉は微笑んだ。

リリは泣き笑顔になり、直哉へ飛び込んできた。

「ありがとう、お兄ちゃん!」

リリの頭を撫でていたら、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。

「自分の部屋にって、今日はこのままで良いか」

二人はそのまま眠りにつき、次の日を迎えた。

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