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第八十一話 久しぶりのプリンス

◆ルグニア城


ラリーナを入口のソファーに寝かせると、その傍に小さな銀狼が丸くなっていた。リリとフィリアにその場を任せて謁見の間へ入っていった。

謁見の間に到着すると、いろいろな人が慌しく走り回っていた。

「ただいま戻りました」

直哉の声に反応したのは、ダライアスキーであった。

「よく戻られました。どうでした?」

「古い民家の周囲のには異常はありませんでした」

直哉の報告に、

「ありがとうございます。それでは、直哉伯爵達はお屋敷で休息してください。残りの細かい事はこちらで処理しておきますので」

直哉達は、ダライアスキーの言葉を受け取り、屋敷へ戻ることにした。



直哉がラリーナの傍へやって来てラリーナをお姫様抱っこで抱えると、すかさず小さな銀狼がすり寄ってきた。

「お前も乗るかい?」

直哉が銀狼へ話しかけると、

「クゥン、クゥン」

と、せがんでくるのでラリーナの胸元に乗せて運んでいった。

銀狼はラリーナと直哉に挟まれ幸せそうであった。


「リリもくっつくの!」

リリは後ろから直哉の背中に飛びついた。

「おっと、危ない危ない」

直哉は体勢を崩されながらも、リリを背負っていた。




◆直哉の屋敷


直哉はラリーナと銀狼を部屋に寝かせ、風呂へ向かった。

リリ達も、それぞれ汗を流しに行った。


直哉は湯船に浸かりながら、先程の事を考えていた。

(銀狼が出現してから、ラリーナとの意思疎通が良くなったよな。そして、《ラリーナの想い》というアイテムが追加されているな。ただ、触っても何も起こらないけどね)

直哉は新しく手に入れたアイテムを確認してから風呂を出た。


部屋に戻ると、既に誰も居なかったので一階へ降りると、

「キャンキャン」

銀狼が鳴きながら直哉に飛びついてきた。

「おっと。どうしたの?」

直哉の質問に、

「クゥンクゥン」

と、怯えるように直哉に擦り寄っていた。


「モフモフさせろーなの!」

そこへ、リリとフィリア、エリザが手をワキワキしながら近づいてきていた。

「あぁ、そういう事か。ラリーナは?」

直哉の声に、

「こっちにいるぞ!」

リリ達の後ろから声が聞こえてきた。

壁の間を見ると、大量の料理を目の前にして酒を飲んでいるラリーナの姿が見えた。

「キャイン!」

その時、直哉の足下から、銀狼がリリ達に拉致されていった。


「身体は大丈夫?」

「あぁ、お陰で何とかなったよ。本当に感謝している」

ラリーナは頭を下げた。

「大丈夫そうだね?」

「大丈夫というか、分離する前より調子が良いぞ。力も必要な時必要なだけ使えるし、直哉とも強く繋がっているのを実感出来るぞ。直哉はどうだ?」

力こぶを作り、問題無い事をアピールしてきた。

「俺の方も、以前よりラリーナを感じる事が出来る。それで、ラリーナの心のモヤモヤは取れたの?」

「あぁ、今は清々しいよ。ただ、もうお母様の声が聞こえなくなるのは残念だ」

「もう、問題無いと判断してくれたのかな?」

「そう言う事だ」


「キャインキャイン」

と、話していると、銀狼がラリーナの腕の中に逃げ込んできた。

「あらら、だいぶボサボサになったな」

「しかし、こいつが私の中の暗い気持ちだったとは思えないな」

「凄く可愛くなったよね」

直哉が撫でると、

「クゥーン」

と、気持ちよさそうに鳴いた。


「あー、ずるいの!」

リリ達が我先にと銀狼に手を伸ばすが、ラリーナによって阻まれた。

「今日はこの位にして置いてくれ。この子がすっかり怯えてしまっている。嫌われたくはないだろう?」

「むー。わかったの」

みんな残念そうであったが、銀狼はホッとしていた。

「そういえは、こいつの名前はどうするの?」

「色々と考えてはいるのだが、みんなは何か良い名前は無いか?」

「そうそう、その前にこの子はラリーナの分裂体で良いの?」

「定義的にはそうなるな。だが、近い内に独立した存在になる。そこまで行けば食事や睡眠等を取るようになる」

「凄く詳しいじゃないか?」

直哉が驚いていると、


「お母様の最後の言葉だった。これを残して消えていった」

「そっか、それは悲しいね」

「お母様との別れは悲しいが、それ以上にお前が傍にいてくれる事が嬉しい。さらにこの子。さらにリリ達がいる。私はお母様と同じくこの子を後の世のために、この子にこの世界を託すために動こうと思う。もちろん直哉達と共にだけどな」

力強く言うラリーナに、銀狼が同調して、

「わん!」



それにつられて、

「リリも! リリも! 手伝うの!」

「もちろん私だって」

リリやフィリア、エリザとマーリカまでが共に育てることを宣言してくれた。

「こんなに、嬉しい事は無い」

ラリーナは涙ぐんだ。


「それなら、みなでこの子の名前を考えよう」

それから、銀狼の名前をつけるため、長い時間話し合った。

そして、[シロ]と命名した。



「よし! 今日もゴタゴタして疲れたし、早く休もう」

「明日のご予定は?」

「そうだ、明日は午後から城に行くことになってる。リリ、フィリア、ラリーナも来るようにと言われていたのを忘れていたよ」

「わかったの!」

「了解!」

「おぅ」

三人は嬉しそうに返事をした。


「わらわもついて行って良いのかの?」

「私も良いのでしょうか?」

エリザとマーリカも同行を申し出てきた。

「連れてくるなとは言われていないので、問題無いですよ。一緒に行きますか?」

「もちろんじゃ!」

「ありがたき幸せ!」

二人はそう言うと、汗を流しに風呂へ向かった。


ラリーナはシロを連れて風呂へ向かい、先に入っていたリリとフィリアももう一度入りに行っていた。

(ルグニアでの活動も、そろそろ終盤だな。次はソラティアへ向かって、究極魔法の回収とマーリカの事を調べる事にするか。バルグフルの噴火に対する防衛はどうなったのだろう? 一度バルグフルに戻るのも良いかな? でも、遠回りになるよな。それと、この屋敷はどうするかな。バルグフルとは違って、一時的な物だろうし。うーむ・・・・)

直哉は、次の目的地についてあれこれ考えていたが、いつの間にか眠りについていた。




◆次の日


直哉が目を覚ますと、左腕にフィリア、右腕にラリーナとシロ、お腹の上にリリという完全包囲網により身動きが出来なくなっていた。

(みんな、よく眠っているな。だが、動かせないな)

直哉が困っていると、フィリアが目を覚ました。

「あっ、おはようございます」

「おはよう。よく眠れた?」

「はい! やはり、みなで眠ると安心します」

と、話していると、ラリーナも起きたようで

「おはよう。二人とも早いな」

「おはようラリーナ」

両腕のロックが外れたため、上で眠っていたリリを静かに降ろして起き上がった。



朝の稽古のため、フィリアとラリーナと共に身体をほぐしていると、リリが降りてきた。

「うにゅにゅ。おはようなの」

「おはよう」

フィリアはリリに近づいて、

「ほら、コレを持って顔を洗ってきなさい」

そう言ってタオルを渡してくれた。

「はーい」

半分寝ながら顔を洗いに行ったようであった。



朝の鍛練は、基本的に個人個人が自分で決めるため、バラバラに行う事が普通であり、始まる時間も終わる時間もまちまちであった。

一応ご飯の時間があるので、それに間に合うように行うのが暗黙の了解として浸透していた。

直哉はいつも通り、リカードとゴンゾーに教わった基本の型をなぞっていた。

リリは、フィリアと共に鍛練をしていて、フィリアの放った光の塊を回避しながらの詠唱を行っていた。

ラリーナは瞑想していて銀狼化での能力アップを計っていた。その傍でシロが眠っていた。

四人が鍛練をしていると、エリザとマーリカがやってきて、鍛練を開始した。

鍛練後、朝食を済ませた直哉一行は、城へ向かう準備を始めた。




◆ルグニア城


直哉達が城門へ付くと、

「これは、お早い到着で」

門便はそう言って中の人と連絡を取ってくれた。

「アシュリー様達はまだ準備が出来ておりませんので、こちらの控え室へどうぞ」

城からやってきた係の者は、直哉達を控え室へ案内してくれた。

控え室へ向かう途中、リリが他の扉の前で目を輝かせ始め、

「この気配は知ってるの!」

そう言って、いきなり他の人が待っている待合室の扉を開けた。



「こんにちはなの!」

リリの挨拶に、その場にいた全ての人が凍り付く中、直哉がすっと前へ出て、

「申し訳ありません。お騒がせするつもりはありませんでした。平にご容赦を」

と、謝った。

「お前は、直哉か?」

と、懐かしい声が聞こえてきた。

「えっ? リカード王子?」

直哉が顔を上げると、そこには驚いた顔のリカードと、剣を抜こうとしていたゴンゾーがそこに居た。



「リカード! ゴンゾーさん! 久しぶりです!」

直哉は笑顔になって、二人に近寄った。

「やっぱり、直哉か! いや、見違えたぞ!」

リカードも笑顔になり、直哉と抱擁を交わした。

「直哉殿、ちゃんと鍛練を続けているようですな、関心ですぞ」

「ゴンゾーさんは少し老けました?」

直哉の悪態に、

「誰かが居なくなってからは、リカード様をお諫めするのが大変で大変で」

と、矛先をリカードの方へ向けた。


「はっはっは。それにしてもリリちゃんもフィリアさんもラリーナさんも、随分と綺麗になりましたね」

と、さらに矛先を換えた。

「当たり前です、みんな直哉様の嫁なのですから」

と、フィリアが素で返してきたので、話題の変更に成功した。

「そして、さらに二人の嫁候補という事かな?」

リカードは直哉へ追い打ちを放った。


「今は冒険者仲間ですよ。将来は分かりませんが」

「ふむ。時間が出来たら、手合わせでもしますかな?」

話題の収集が不可能になって来たので、ゴンゾーがさらに強引に話題を変更した。

「そうですね、もし、今日ルグニアに泊まるのであれば、我が屋敷へ招待しますよ!」

「腕が鳴るの!」

「私もバルグフルに居た頃よりも強くなっていると思う。手合わせを所望する」

ゴンゾーは肯いた。



「して直哉よ、上級鍛冶職人にはなれたのか?」

リカードは近況を確認してきた。

「えぇ、なんとかなれましたよ。ですが、このルグニアで色々とあって、バルグフルへ戻るのが遅くなりそうです」

直哉の報告に、

「そうか、その色々はこれからルグニアの王様から話して貰えるという事かな?」

「俺にはわからないけど、俺たちも呼ばれたという事は、何か進展があったという事だと思う」

何かを考え始めたリカードに、

「駄目ですぞ」

ゴンゾーが諫めた。

「わかっている。公務が終わったらだな」



その時、呼び出しがやってきた。

「お話中申し訳ありません。アシュリー様の準備が整いましたので、リカード様はこちらへ。ゴンゾー様もご一緒にどうぞ」

リカード達は謁見の間へ消えていった。

「懐かしいの! 嬉しいの!」

リカードに会えて、リリは興奮していたし直哉も嬉しくなっていた。


「それで、先ほどの高貴な方はどなたかえ?」

バルグフルを知らないエリザとマーリカが聞いてきた。

「バルグフルの王子と、その教育係だよ」

直哉の返答に二人は驚いた。

「なんじゃと?直哉殿は本当にバルグフルの王族とも繋がっておるのか?」


「本当にって、親書や馬車があったでしょ?」


「いや、しかし、驚きじゃの」


エリザは本当に驚いていた。




「ですが、お二人は王族と貴族ではなく、親友の様な振る舞いでしたね」

マーリカの言葉に、

「間違いなく親友だからね。それに、命の恩人でもあるし、剣術の兄弟子でもある」

「改めて、ご主人様はすごい方ですね」

「凄いのはリカードの方だよ。こちらの世界の人間で、得たいの知れない俺の事を気にかけてくれるし、本当に助かってるよ」

直哉はリカードに感謝していた。



そこへ、呼び出しがやって来た。

「直哉伯爵様! こちらでしたか! アシュリー様がお呼びです。直ちに謁見の間へ来てください」

直哉達が謁見の間へ到着すると、アシュリーが中央に腰を下ろし、以下エバーズとダライアスキーがその左側に並び、アシュリーの横にはリカードが座っていて、その横にゴンゾーが待機していた。

(おぉ! これだけ並ぶと凄いな)


アシュリーが話し出した。

「さて、直哉伯爵よ。色々と状況が変化している事を話そう」

直哉は何のことかわからなかった。

「まず、ここにいらっしゃるバルグフルとの連携について、これを直哉伯爵にやってもらいたい」

「俺ですか?」

「あぁ、両国にゆかりのあるお前が適任だ」

リカードも直哉を推薦していた。

「これで、バルグフルだけでなくこのルグニアにも帰ってきてくださいね」

「随分と仲良くなったものですね」


リカードが絡み始めたので、

「それで、他の情報とは何でしょうか?」

「次にレッドムーンの潜伏場所がわかりました」

エリザが食いついてきた。

「何処におったのじゃ?」

「彼らは西の大草原ソラティアにある、湖の傍にある神殿に身を隠しておる」

「大草原ソラティアですか?」

直哉は内心喜んだ。

「しかし、問題がある。そのソラティア共和国が他国に対して鎖国を宣言したのだ」

「鎖国ですか? 何でまた?」

直哉は首をひねった。

「理由は述べておりません」


「一筋縄では行かないようですね」

「そうですね。今のところ鎖国は首都であるソラティアのみですが、今後兵力が整い次第拡大していくそうです」

「そうですか。厳しい状況ですね」

直哉と共に、エリザもがっかりしていた。


「ところで、直哉伯爵とリカード王子はお知り合いと言うことですが、どのように知り合ったのでしょうか?」

「俺が、この世界に来て色々と助けてくれた命の恩人です」

「何を言うか、お前のほうこそ、私の命の恩人ではないか。この腕だって、直哉の力が無ければ無くなっていたし」


「お互いがお互いをという事ですか? それならば、今夜のリカード王子の宿を直哉伯爵の屋敷にしたいのだが、大丈夫ですか?」

アシュリーの提案に、

「はい。もとより、そのつもりです」

「わかった。今夜はここで晩餐会を開く予定だし、明日のイベントにも参加してくれるそうだ。とりあえず、晩餐会の準備がきるまでは直哉伯爵が、このルグニアを案内してやってくれ」

「わかりました」

直哉達はリカードとゴンゾーを連れて、ルグニアの街を散策しに行った。

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