第七十九話 直哉を非難する者
直哉が治療を受けていると、試練の間が解除され、リリを担いだグラチエイの分身が直哉達の元へやって来た。
「リリ!」
「リリちゃん!」
意識を失っているリリを見て、グラチエイを見た。
「この娘は、魔力の大量消費の反動で意識を失った」
そう言って、手を伸ばしたラリーナにリリを渡した。
ラリーナが頷くのを見て、
「ありがとうございます」
と、礼を言った。
「それで、リリは合格ですか?」
「途中怪しいところもあったが、最終的に私と同調出来たので合格としよう」
直哉はホッとした。
直哉はリリを見ながら、
「精神統一を覚えて貰うか」
精神統一:MPを大量に消費したり、全て無くなっても暫くは動くことが出来る。活動時間はスキルレベルに依存する。
「むしろ、魔術師で覚えていないことに驚きだ」
グラチエイの言葉に、皆が頷いた。
「さて、リリは眠ったままだけど、家に帰って暖まりますか」
直哉達は、グラチエイに別れを告げ、ルグニアの屋敷へ帰還した。
◆ルグニア 直哉の屋敷
氷の神殿から帰ってきた直哉は、リリをベッドに寝かせるとその足で風呂へ向かって、冷え切った身体を暖める事にした。
「やっぱ、風呂は良いなぁ。身体の芯まで温まるよ」
直哉はのびのびと湯船に浸かっていた。
「さて、次は装備の強化だな。特に、リリ達の念道系装備の修理と強化をしたいよな」
直哉は、いつも通りスキルを発動させ、造れる物のカタログを眺めていた。
(強い力を持った武器には、聞いたことない素材が多いよな。取り敢えず、ランクの低い魔法の武具をどんどん造って、スキルのレベルを上げるしかないかな。スキルレベルが上がれば、使用する素材の数が減るから、造りやすくなるのだよな。それと、アイテムの充実を図らないとな。そして、精霊達との契約だよな。ルグニアにはもう一つの精霊がいるからな、今はその力が使えないにしても、契約しておけるのであれば、やっておきたいよな)
直哉は考えをまとめて風呂を出た。
食堂へ行くと、フィリア達は既に食べ始めていた。
「時間がかかっていた様ですが、どうしたのですか?」
心配していたフィリア達に、
「俺のパワーアップを考えていたら、長くなってしまったよ」
パワーアップの単語にラリーナが食いついた。
「ほう。何か思い付いたのか?」
「地道に、スキルレベルを上げるしかないという結果に落ち着いたよ」
「それが、一番の近道か。戦闘系なら手伝うぞ」
「そうだね。その時はお願いするよ」
そう言って、料理見ると野菜スープが目に入った。
「ん? 今日は汁物?」
「本日は、直哉伯爵様の鍋料理を再現してみました」
「なるほど、お皿に取り分けてくれるとスープの様になるのか」
直哉が食べようとすると、リリが降りてきた。
「おーなーかーが、すーいーたーのー!」
「身体は大丈夫かい?」
「お腹が空いて、駄目なの」
その言葉を聞いて、皆は大丈夫だと判断した。
「リリさんには、こちらのスペシャル肉丼です!」
ドラキニガルが前が見えないくらい大きな器に、大量の肉料理を入れて持ってきた。
「あれ? 丼ものって事は、ご飯も入っているの?」
「はい。ご飯は二人前ですが。残りは全て肉料理です」
「凄いな」
「リリさんのリクエスト通りの一品です」
「おーいーしーいーのー」
リリは大満足で丼を食べていった。
直哉達は鍋料理を堪能して、〆の雑炊までジックリと味わった。
「そうだ、リリ、精神統一というスキルを覚えていないのかい?」
「なぁにそれ?」
「魔術師の三大必需スキルのうちの一つなんだけど。精神統一、魔力吸収、ダメージ変化【魔力】の三つ」
ダメージ変化【魔力】:ダメージを体力ではなくMPで受ける事が出来る。
「全部、覚えて無いの!」
「そうだろうね。それなら、明日で良いから覚えてみようか?」
「はいなの!」
リリは笑顔で肉を頬張りながら返事をした。
「リリちゃんが覚えに行くなら、私も一緒に行きますわ」
フィリアが直哉に告げると、
「わーい! フィリアお姉ちゃんと一緒なの!」
リリは更に喜んだ。
「それなら、そっちは任せるとするか。俺は、鍛冶工房へ行ってくる」
「ならば、私は鍛練をやっておく」
「わらわも鍛練じゃの」
「私はご主人様のお側に」
「それじゃあ、明日の予定は決まったね。今日はゆっくりと身体を休めよう」
直哉達は早めに寝ることで、明日の英気を養うのであった。
◆次の日
直哉は朝の鍛練後、朝食を済ませてマーリカと共に鍛冶工房へやって来た。
「おぉ! 親方じゃないですか! ですが、残念ながらドームはまだです」
「だろうね。途中経過を見に来たよ」
「そうでしたか。こちらへどうぞ」
メントールの案内で、ドームの進捗状況を確認すると、全工程の三分の一が終了しており、これには直哉も驚いた。
「予想を遥に超える速さですね。これなら、数日の内に完成しそうですね」
「はい! 明後日には中心部分を設置して動作確認をする予定です」
メントールの言葉に直哉は、
「そうだったんだ。動作確認をするのであれば、問題はないかな?」
「それを見るための動作確認ですよ」
「そりゃそうだ」
そんな直哉の様子を見て、
「親方は来ていただけるのですか?」
「問題が起こってない限りは見に行くよ」
「是非ともお願いします」
メントールは頭を下げた。
「時間を取らせてしまって悪いね。俺の力は必要かい?」
「現段階では、作業スピードがアップするくらいなので、大丈夫です。それよりも、動作確認時に問題が起こったら、その時にお知恵を貸して頂けると幸いです」
「わかりました。それでは引き続きお願いします」
直哉達はメントールに別れを告げた。
メントールと分かれ歩き出した直哉にマーリカは、
「これから、どちらへ向かいますか?」
「まずはお城だね。情報を共有しておく必要があるからね」
「承知いたしました」
「それと、採掘場の通行証が欲しいし」
マーリカは採掘場に拘る直哉に、
「採掘場に何があるのですか?」
「ゲームの知識だと、土の究極魔法を覚える事が出来る」
「しかし、土の魔法は誰も覚えて無いと思うのですが?」
マーリカの疑問に直哉の考えをぶつけた。
「恐らくだけど、俺が覚える事が出来ると思う」
「御先祖様の血ですか?」
「そう。だから、覚えられたら儲けものって感じだけどね」
直哉の言葉に納得したマーリカは、
「そうですか。皆様を集めますか?」
「いや、採掘場の奥まで行く必要がないので俺だけで行くよ」
「それでは、私は着いていっても良いですか?」
「アシュリー様次第だけど、構わないよ」
「ありがとうございます」
直哉はマーリカと共にルグニア城へ向かった
◆ルグニア城
城に着いた直哉達は、アシュリーに取り次いでもらった。
謁見の間ではなく、会議室のような場所に通された。
(ふむ、今日は謁見の間ではなく、少人数用の会議室みたいなところだな)
直哉が部屋の中を見まわしていると、入り口の扉が開き、アシュリーが普段では見る事のない、身体のラインが強調した軽装で入ってきた。
「良く来てくれました。マーリカさんも顔を上げてください」
アシュリーが入ってきて中に居た二人は、直哉は降頭礼をマーリカは平伏していた。
マーリカが顔を上げるとアシュリーが、
「マーリカも元気そうですね。元気といえば、先ほどリリさんとフィリアさんがダライアスキーを尋ねてきていたな。ダライアスキーは忙しいため、街にある魔術師ギルドの方へ案内されていたぞ?」
直哉は視線を微妙にそらしながら、
「そうでしたか。時間があれば後で寄ってみます」
アシュリーは直哉ににじり寄りながら、
「と言う事は、情報の共有以外にも用事があるという事ですか?」
「はい。実は、採掘場に入るための通行証が欲しいのですが」
直哉の正面に回りこみ、
「何をするのですか?」
「土の究極魔法を扱う精霊に会いに行くためです」
「そうか、鉱石を取りに行く訳ではないのですね?」
「はい。それは、お約束します」
直哉の言葉に、
「行くのは直哉伯爵だけかな?」
「マーリカはどうする?」
「出来れば、ついて行きたいです」
「では、二人でお願いします」
「わかりました。今回は特別ですよ」
アシュリーは何故かションボリしながら通行証を用意してくれた。
◆南門
南門に到着した直哉達は兵士達が詰めている所を訪れた。
「おや? 勇者直哉様ではありませんか?」
アシュリーからの通行証を見せた。
「アシュリー様の許可を貰ってきました」
「おぉ! 流石ですね」
兵士は通行証を読んだ。
「フムフム。土の精霊様の所ですね。わかりました。一応伝えておきますが、鉱石の類いや素材となる物の採取は禁止です。採ってしまったり周囲が崩れたりして、採れてしまった、拾ってしまった場合は、帰りがけにそう言って、ここに持ってきて提出してください。場合によってはお渡しする事もありますので」
「わかりました」
直哉とマーリカは、採掘場まで案内してもらった。
「それでは、私はここで。帰ってきたら南門の私のところまで来てください」
「ありがとうございました」
直哉達は兵士と別れ、土の神殿へ向けて脇目も振らず突き進んだ。
直哉は迷うこと無く、土の神殿に通じる通路へたどり着いた。
「ここだな」
直哉が神殿への入り口を動かすと、脳裏に声が響いてきた。
【何者だ? ここはディテラの神殿だ。用の無い者は立ち去れ】
直哉は、
「俺は直哉! 土の究極魔法を教えて貰いに来た!」
【ほほぅ。その言葉久しぶりに聞いたぞ】
そう言うと、その姿を現した。
◆土の精霊ディテラ
【その力を見せてみよ】
直哉はカソードの腕輪を見せた。
【ほほぅ、それはあのカソード様の物か。という事は、お主は彼の子孫と言うわけか】
ディテラは直哉の潜在能力を見ていた。
「どうですか?」
【ふむ。現在は全く使えないのに、この能力か。面白い、究極魔法を使えるようにしておこう】
直哉はガッツポーズを取って、
「今すぐ使えますか? 確か、カソードの時覚えていたのは、ミラーオブアースでしたよね」
【残念だが、現状では使えないな】
「そうですか。残念です」
直哉はがっかりしたが、それほど落ち込んでは居なかった。
「それでは、ありがとうございました」
直哉は礼を言って、土の神殿を後にした。
マーリカは直哉を気遣って、
「おめでとうございます? 残念でした? どちらを言えば良いのかわかりません」
「ありがとう。使えないのは、氷の究極魔法を覚えた時にわかっていたので、そこまで気にしてないよ」
「そうでしたか、では、覚えられておめでとうございます」
マーリカは、言い直した。
「ありがとうね」
直哉は礼を言って南門の方へ歩き出した。
「この後は、リリさんの所に行きますか?」
「そうだね、予想以上に早く習得できたので、あの二人の状況を見ておこう」
直哉とマーリカは南門の兵士に終わったことを告げて、魔術師ギルドへ向かった。
◆魔術師ギルド
魔術師ギルドの入り口には、一般人用に回復薬などを売る店が構えていて、それなりに賑わっていた。
「へぇ、もっとヒッソリトやっているのかと思ったけど、結構賑わっているのだね」
直哉がそんな感想をつぶやくと、辺りの喧騒はさらに酷くなった。
「何事?」
直哉はマーリカを見て、怯えていないことを確認して、
「こちらに向けられた殺気では無いようだね」
「はい。私には向けられていないようです」
直哉が周囲を見渡すと、
「ごの、ドチビが! 杖も持たない癖に生意気だぞ!」
「これが、目に入らないの? ちゃんと杖を持っているの!」
と、リリの声が聞こえてきた。
「んー、リリがこの騒動の原因かな? とりあえず、行って見よう」
直哉とマーリカが人垣を掻き分け、最前列に到着すると、いかにも魔術師という様な格好の若い男と、リリがいがみ合っていた。
「お兄ちゃんの事を悪く言う人は許さないの!」
「はっ! 本当の事だろうが、実力も無いくせに勇者だ伯爵だって、みんな騙されているんだ。きっと詐欺しかペテン師なんだろうよ」
直哉は唖然としていた。
「そんな風に思う人が居るんだな」
「ご主人様の強さを、風の噂でしか聞かないと、こうなってしまうのは当然の事だと思います」
直哉はどうするか考えていたが、
男とリリが詠唱を開始したので飛び出した。
「双方そこまでだ!」
急に出てきた直哉に、
「あー、お兄ちゃんだ!」
リリは喜び、
「何者だ!」
男は困惑していた。
「俺は直哉! 勇者として、伯爵としてこのルグニアに滞在している者だ!」
直哉が自己紹介をすると、
「ちっ、本人が出てきたか、これは分が悪いな」
男はそう言って、懐から何かを取り出し、地面にたたきつけた。
(あれは、レッドムーンが使っていた煙球。もしや、こいつは、レッドムーンの関係者?)
「リリ! 捕まえられる?」
「無理なの。あちこちに気配が散らばってるの」
リリは悲しそうに直哉の元にやって来た。
「仕方ないさ。しかし、また活動を再開したのかな?」
直哉の言葉に、
「もしかしたら、何か情報が入ったのかも知れませんね」
マーリカが答えた。
「それなら、城へ行きますか」
「リリも行くの!」
「私も、ご一緒いたします」
リリとフィリアが同行してきた。
「あれ? 二人はスキルを覚えることが出来たのかい?」
直哉の疑問に二人は答えた。
「勿論なの!」
「私も、習得できました」
二人の力強い返事に、
「そっか、それなら次からの戦いが少し楽になるね」
直哉は安堵した。
「それでは、アシュリー様の所へ行こう」
そう言って、直哉達はルグニア城へ向かった。




