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第七十七話 カソードの子孫

「はぁはぁ、リリちゃん」

森の奥から、フィリアが息を切らせながらやって来た。

「あ、フィリアお姉ちゃんと一緒だったんだ」

「どうしたの? 行きなり飛んでいったりして、って、直哉様?」

フィリアは、その場に直哉がいることに驚いた。

「お疲れ様」

「ごめんなさいなの! お兄ちゃんを近くに感じたので、嬉しくなって飛んでいっちゃったの!」

フィリアはプリプリしながらリリに苦言を呈した。

「飛んで行くのは構わないけど、一声かけて欲しいわ」

「ごめんなさいなの!」

リリは直哉にくっついたまま謝った。


「謝られている気はしませんが。まぁ、大したことではないので、良いでしょう」

フィリアは諦めの呟きを出した。

「リリは上手くいったみたいだけど、フィリアはどうだったの?」

「残念ながら、オリジナル魔法は作れませんでした。ですが、必ずやものにします」

「焦らずにね」

「はい!」

直哉の注意にフィリアは頷いた。


フィリアと話していると、くっ付いていたリリのお腹がなった。

「リリはお腹空いたの!」

「そういえば、朝食を食べてから、結構時間が経っているな。屋敷に戻って、ご飯にしますか?」

お腹の空いていたリリは、

「はいなの!」

ノータイムで返事をした。

「ラリーナはどうする?」

「もちろん食べるぞ!」

ラリーナも休憩がてら、付き合うことにした。


直哉はフィリアを見ると頷いたため、

「後はエリザか」

この場に居ないエリザを呼びに行こうと思った。

「ご主人様! 私が行ってまいります」

マーリカは気を使い、その場を離れた。

「なんか、気を使わせちゃったね」

「気にする事は無かったのに」

「みんなで、行けば良かったの!」


屋敷に戻った四人は、ドラキニガルに調理を任せて風呂で汗を流していた。

エリザとマーリカは途中で合流したようで、食卓へ集合した時にはみんなサッパリしていた。

食卓ではリリ達と、サラサが軽食をつまみながら話していた。

エリザとフィリアは、

「直哉殿と知り合ってから、風呂に入る機会がやたら増えたのじゃ」

「そういえば、そうですね」

続いてラリーナとエリザ、

「まず、この湯船に浸かる習慣が、無いからな」

「わらわは週に一度はあったぞ。じゃが、普段は身体を拭いてもらう程度じゃったの」

サラサとリリ、フィリアとエリザの順に、

「使用人である私が、奥方様と一緒にお風呂へ入れるなんて不思議でなりません」

「お兄ちゃんは、そういう事に五月蝿くないの。だから、一緒に居ても心地良いの」

「そうですね。私も最低限の礼法は習いましたが、直哉様の傍では披露する機会があまりありません」

その後、適当な話しが続き、


「そういえば、わらわも、しっかりと礼儀作法を身に付けたのじゃが、フィリアの話しじゃと披露する機会が無さそうじゃの」

「いや、エリザはわからんが、フィリアは直哉の世界に帰るのであろう? それなら、ご両親に挨拶をする時とか役に立つのでは?」

ラリーナの言葉にエリザが、

「元の世界に帰るじゃと? 帰り方がわかったのかえ?」

「現在、目下捜索中ですよ」

「ですが、何か情報を掴んだのですよね?」

フィリアは食卓でこちらの話を聞いていた直哉に話を振った。

「そうだね。恐らく《システム》と呼ばれる、この世界を管理している物がある」

「それか、答えを知っているという事ですか?」

「たぶん、だけどね」


フィリアは少し考えてから、

「直接聞き出せないのですか?」

「直接聞くには、何かが足りないらしい」

直哉の答えに、

「そうですか」

ションボリしたフィリアに、

「まぁ、世界を救えば話してくれるのではないかと考えてる」

「魔王を倒すということですか?」

「いや、それだけじゃないと思う。各地の問題点を解決して、繁栄をもたらすのが、救うという事ではないかと思う」

直哉は今までの情報をまとめていた。


「ふむむ」

「まぁ、今はやれる事をやっていこう。まずは、ルグニアで究極魔法の修得と、レッドムーンの対応。そして、噴火に対する対応だね」

直哉は現在の状況を整理して、

「レッドムーンと噴火は他の人に任せているから、俺達は究極魔法の修得に専念しよう」

そこで、リリが、

「地下遺跡を攻略したかったの!」

と、言い出した。

「どうしてだい?」

「サクラを完全に修復して欲しいの!」

そう言って、装備していたサクラを直哉に見せた。

直哉はサクラを触りながら、

「そっか。結構な数が消滅してしまったのだっけ?」

「そうなの」

リリの頭を撫でながら、

「まぁ、今の戦力じゃ地下遺跡は返り討ちだろうから、西のソラティアにある塔に居ることを祈ろう」

「残念なの」

それから、数日の間、鍛練とドームの製作に全力を注いだ。


ラリーナの前には、二つに割れた硬い岩が転がっていた。

「よし! これで第一奥義の大地割りを修得出来た」

フィリアの周囲に光の珠が数個浮遊していた。

「これが、光のオリジナル魔法ですね」

リリは、温度の違う無数の水の矢を転換した。

「水のオリジナル魔法なの!」

エリザは矢の制御を覚え、手ごたえを感じていた。

「ようやく完成したのじゃ」

直哉は、弟子たちと共にドームの基礎部分を完成させた。

「これを量産して組み立てれば、完成ですね」

それぞれがそれぞれの成果を出していた。



直哉は弟子達との建造に手応えを感じ、

「よし、俺の方の目処が立ったから、氷の究極魔法を修得しに行こう」

リリは喜んで、

「待ってましたなの!」

フィリアたちも、

「後学のため、私も行きます」

「二人が行くなら私も行くとするか」

「私はご主人様の護衛ですので、行きます」

「みんなが行くなら、わらわも行くぞえ」

結局全員で行くことになった。

直哉はアシュリーに氷の神殿に向かうことを告げ、馬車を出してもらった。



「これは! こたつ!」

エリザが大きく反応した。

そんなエリザを放って置いて、直哉はこれから行くところの説明をした。

「氷の神殿は、アシュリー様が迷いこんだ鍾乳洞よりも、さらに奥にある洞窟の最深部に建っているから、辿り着くまで結構苦労するよ」

そんな、直哉の言葉にリリは、

「ねえ、お兄ちゃん。試練って何をするの?」

「さあ?」


「さぁって。前の記憶では何をしたの?」

直哉はカソードの頃を思い出し、

「あの時は群がる敵を魔法で弾き飛ばしていたな」

「群がる敵?」

「うん。有象無象が代わる代わる襲いかかって来たけど、あの頃のカソードの相手は務まらなかったね」

リリはその光景を思い浮かべながら、

「むぅ。リリに出来るかな?」


「他の人は違う試練だったって言ってたから、人によって違うのではないのかな?」

直哉の答えに、

「それじゃあ、対策が立てられないよ」

「それが、目的なのだろう。どの様な事が起きても、対応出来るかどうかを見るのでは?」

「そういう事なら、何も考えずに行くことにするの!」

そういって、直哉に擦りよった。

既に両脇をフィリアとラリーナに取られていたため、仕方なく・・・・膝の上に乗ってお腹に抱き付いた。

「はふう。色々考えたら眠くなったの」

そう、宣言するとそのまま眠りについた。



フィリアはリリの頭を撫でながら、

「本当にリリちゃんは良く寝ますね」

そんな様子を見ていたラリーナが、

「寝る娘は育つと言うが身体に変化は無いな」

「でも、ものすごい速度で力を付けてきているよ。そろそろ、俺では搦め手を使っても勝てなくなるね」

そんな直哉の言葉にフィリアは、

「確かにそうですね。魔法の資質も殴り合いもリリちゃんには敵いません」

「フィリアは光の魔法士だから、問題ないよ。問題は俺だ、あれだけみんなを守る力を付けると豪語してきたのに、このままじゃ、口先男になっちゃうよ」

「だからこそ、鍛練を続けるのだろう?」

「そうだよね」

直哉とフィリア、ラリーナは笑いあった。


その時リリが目を覚ました。

「うにゅにゅ」

そんな様子を見ていたエリザは、

「これが、直哉殿達の強さの秘密なのじゃな」

エリザの答えが曖昧だったので、聞き返した。

「どういう事?」

「例えどれだけ強くなろうとも、己を律し更に上を目指す姿勢の事なのじゃ」

「普通でしょ。誰だって死にたくないし、俺はそれと同じくらいリリ達を守りたい。そう思うからね、だから強くなりたいのだよ」

直哉の言葉に、リリが続いた。

「リリだって、死にたくないし、お兄ちゃん達を守りたいの!」

直哉は、エリザとマーリカを見て、

「もちろん、エリザとマーリカも守りたい人だよ」

「なんと! わらわもかえ?」

「ありがたきお言葉」

二人は、直哉の言葉を素直に喜んだ。




しばらく馬車の移動が続き、目的地に近づいてくると、直哉達は自然と周囲の警戒を強めた。

「俺は何も感じないけど、みんなはどうだい?」

「動物達の気配しかありません」

「リリも何も感じないの!」

直哉達は周囲の警戒をしながら、氷の神殿がある洞窟へ到着した。

「レッドムーンが待ち伏せしてるかと思ったけど、アシュリー様を倒す刺客はエリザだけだったのかな?」

「今のところはその通りだが、中はどうなっているかわからんぞ? いつも以上に注意しながら進もう」

「そうだね。念には念を入れてだね」

直哉達はゆっくりと氷の神殿を目指して洞窟を下って行った。


直哉のマリオネットによって、周囲に照明がフワフワと浮かびながら周囲を照らしていた。

「奥に何か居るの!」

直哉が、奥の光源を確保して確認すると、

「あれは、角ウサギが二体? それにしては随分と半透明だな」

直哉が首をかしげていると、リリとラリーナが敵へ突撃した。


「ちぇっすとー」

「せいやぁ!」


二人の掛け声が洞窟の中に響き渡った。

二人は空中で頷きあい、正面の角ウサギではなく、左右に分かれていった。

「きゅーきゅー」

その動きに角ウサギ? 達は警戒の声を上げていた。

その瞬間、目の前に現れていた角ウサギは、リリの拳によって吹き飛ばされていた。

「あれ? リリが半透明? あっ、消えた」

もう一体の角ウサギには、ラリーナの長巻が斬りつけた。

「こっちは、ラリーナの長巻の剣先だけが飛び出して、ってそういう事か!」

直哉はからくりに気が付いた。


「正面は囮か。と、いう事は身動きを封じる罠があるという事か。マーリカ、罠の捜索と解除を!」

「承知いたしました」

マーリカが正面付近へ警戒しながら近づいていった。

入れ替わるように二人が帰ってきた。

「二人ともお疲れ。良く気が付いたね」


「敵の気配を感じていたのでね」

「こっちも、気配を頼りに突撃していたの!」

「それが出来るなんて、やっぱり凄いよ」

直哉が感心していると、

「ご主人様、罠の特定と解除を完了しました」

マーリカが帰って来た。

「お疲れさん。ありがとうね」

「罠は、単純な落とし穴でした」

「まぁ、角ウサギだとそれが精一杯か」


その後、色々と擬態したり、変形したり、消えたりする魔物どもを、蹴散らしながら進むとようやく神殿の入り口にたどり着いた。




◆氷の神殿


洞窟の奥に巨大な空洞が出来て、その中に大きな神殿がその姿を現した。

その神殿は、様々な氷の塊で造られていて、ガラスのように透明な氷や、石材のような氷で構成されていた。さらに、要所要所には光源となる光を放つ氷が配置されていて、照明が無くても充分に光量を確保していた。


「流石に、少し肌寒いかな?」

直哉はそうつぶやきながら、中に入ろうとした。

「あら? この門、開かないぞ?」

直哉の背丈の三倍はありそうな門は、直哉の力ではビクともしなかった。

「むぅ。俺の力じゃ開かないな。でも、こんなイベントだったかな?」

そう思っていると、直哉達の頭の中に声が響いてきた。


【汝らに問う、我が名を答えよ!】

(これだ! 確か氷の精霊グラチエイだったな)

リリ達は頭にハテナマークを並べていたが、直哉が、

「グラチエイ!」

と、答えた。

【ほほぅ、この私の名を知っているとは、矮小なる者にしては関心だな】

そう聞こえると、直哉達の前に、氷で出来た美女が姿を現した。


「お前がこの私を呼び出し者か?」

「そうですが、魔法を覚えたいのはこの娘です」

そう言って、リリを前に押し出した。

「ふむ。確かにこの娘なら、その資格がありそうだ。奥で試練を受けなさい。他には・・・・居なさそうだ」

グラチエイは直哉達を見渡して確認した。

そして、直哉の腕輪を見て目が留まった。

「そ、それは! あの偉大なる魔道師カソードの腕輪?」

直哉は腕輪を掲げて見せた。



「やはり、それはカソードの腕輪。ということは、貴方はあのカソード様のご子孫様ですか?」

「ご子孫って。一応そういう事になるのかな?」

グラチエイは直哉に近寄って、忠誠を誓った。

「ご子孫様には、この腕輪が開放状態になったら氷の究極魔法が使えるようにしておきます」

「今は、使えないのね」

「申し訳ありません。そういう規則になっていますので」

直哉はがっかりしていたが、気持ちを切り替えて、

「そっか。わかったよ。そういえば、リリは?」

「先程の娘なら、中で私の分身が試練を与えています」


「頑張れ! リリ!」

直哉達は、中で頑張っているであろうリリを力の限り応援していた。

そんなリリは、氷の試練の前に追い詰められていた。

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