第八話 直哉たちの新居
◆直哉の家
家のベースは六階建てのマンションで、一番下とその次の階層をぶち抜き、窓は無く仕切りも少ない広い空間で、周りを衝撃吸収と魔法反射の素材で造った防御材を使用し激しい特訓でも大丈夫な空間を作り上げた。水道があり水浴びする事も可能になっている。このスペースは地下に埋め込み地上からは見えないようになっていた。
玄関のあるフロアはしたから三階層目で、入り口の扉を開けると酒場のような感じになっており、広いダイニングとカウンターそしてキッチンが完備されていた。
第四階層目は住居フロアで、現状では廊下を挟んで直哉とリリの部屋、奥に水洗トイレもどきを完備していた。
第五階層と第六階層は地下と同じくぶち抜きで、大浴場をイメージしたフロアになっているお風呂空間の半分の天井をガラス張りにして、その側面の六階層部分の壁もすべてガラス張りという、前代未聞の空間が広がっていて、さらに露天空間として天井部分を取り外し、外の空気を感じられるお風呂を実現、五階層部分は壁があるため、一応外からは見えないような配慮もしてあった。
まずは、各階層部分を別個に造り、徐々に積み上げていく方法を取り、MPを調節しながら造っていった。
地下フロアの建造に着手した直哉は、土地タブから家の予定地点をドラッグし大きさを設定し、
「リリは、危ないから俺の後ろにいて」
「はいなの」
直哉の後ろにしがみついてきた。
それを確認した直哉は、二階層分の縦穴を実行した。
「おー、大きな落とし穴が出来た!」
リリは興奮しながらしがみついていて、直哉は落とされないか冷や冷やしていた。
MP的にギリギリなため、MP回復薬を飲んでから、家の建造で下二つ分を選択し、壁や床などの素材を細かく選択し、魔法石の配置場所も指示し実行した。
「ぽちっとな」
ぼぼん。落とし穴だった部分にいきなり床が出来た。入り口に近いところに下りる階段があり、遠くの方にリフト用の空間があった。
MPを殆ど使ったため、休憩がてらリリと一緒に中の確認をしにいった。
階段を下りていくと自動的に風が起き照明がついた。
「うわー、ひろーい、ここなら思いっきり技が試せそうなの!」
リリは走り回りながら、覚えたての風の魔法を制御すべく使いまくっていた。
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
リリの拳から風の刃が飛び出し、前方へ飛んでいった。
「あう、飛んでいっちゃうよ」
リリは諦めず、何度も挑戦していた。
「リリ、このクツを使ってみて」
直哉は、この地下室の壁を造る時の素材を造っている時に、装備品にいくつか転用していたのである。
「このクツに魔法を放つと、クツが受け止めるから、あとは魔法に乗って飛んでみて」
直哉は頭の中で考えた事をリリに伝えた。リリはクツを履き替え魔法を唱えた。
「おぉ? うわっと! 上手く乗れないな」
魔法自体はクツにより受け止められるのだが、上手く乗ることが出来ず、あらぬ方向へ魔法が暴走していた。
直哉はMPを回復するために、少しの間眠っていたが、目を覚ますと横でリリも眠っていた。
(訓練でMP消費しすぎたんだな、クツもかなりダメージを受けているから、リリが目を覚ましたら修理しよう)
直哉は回復したMPを使って、入り口フロアと住居フロアを造り出した。確認しようと思ったがリリがくっついているため、もう一度MP回復に専念することにした。
直哉のMPがフル回復したころリリは目を覚ました。
「あり? うーん・・・」
寝ぼけているリリに、
「今日中に上の階を造って住めるようにするからもう少し頑張ろう!」
直哉が声を掛けるとリリは目をこすりながら、
「もう、お空は飛ばないの?」
寝ぼけていた。仕方がないのでリリを持ち上げながら最上階の建造に入った。
(全体を石造りにして水はけを良くし、お湯を溜める部分は肌触りを重要にして)
効率の良い換気システムを造り、明かりも程々に配置した。
(露天の方は明かりを少なめにし、お風呂場の方からの光も遮るように植物などを配置した)
シャワーのようにお湯と水が上から出る装置も配置して、温泉街の小さな宿にある大浴場を造り出した。
(後は、実際に使ってみて問題点を洗い出すとしますか)
すべてのフロアを完成させた直哉は、最後にリフト部分の製造に入った。この部分は一覧の中からエレベーターの様に扉や現在のフロア表示などが分かるようなプレート付いたリフトがあったので、それを取り付けた。最後に動力制御板に動力石をはめ込み起動させた。
(よし! これで、完成だ!)
直哉は、リリを抱えたままリフトに乗り込み、最上階(3F)を押した。
扉が静かに閉まるとリフトが上がり始め、3Fで扉が開いた。
脱衣場の扉を開け、中に入ると少し寒いくらいの冷たい風が吹いていた。
「ふにゅにゅ」
リリが目を覚ますと、直哉からか下り辺りを見まわした。
「ここは、何処?」
「ここは、リラクゼーションフロアだよ。これから各部屋のチェックをしていくから、リリも手伝ってね」
直哉はリリと一緒にリラクゼーションフロアの点検に入った。
「お風呂のお湯出し良し。シャワーのお湯出し良し。明かり、空調良し。排水良し」
一つ一つ指さし確認している直哉の横をすり抜け、リリがシャワー部分に突撃した。
「わー、スゴいスゴい! 温かい水が溢れてくる! わーい」
リリは、ずぶ濡れになりながらはしゃいでいた。
次に露天部分に移動し明かりの量や、お湯等をチェックしていた。
「へくち」
振り返ると、リリが震えながら付いてきていた。
「お湯を浴びたら、ちゃんと乾かしてから服を着替えないとダメだよ」
そういって、さくっとバスタオルを作成しリリに渡した。
「脱衣所に戻って、これで身体を拭いてから着替えておいで」
「はーいなの」
リリはバスタオルを抱きしめながら脱衣所に向かった。
直哉はその間に、もう一つのお風呂をチェックし着替え終わったリリと脱衣所で落ち合った。
「濡れた服と、使ったタオルはこの中に入れてね」
各脱衣所に作って置いた、乾燥機能付き洗濯機のような水と風の石を使った家具の使い方を教えた。
「ここに入れて、フタを閉めて、スイッチオンで後は待つだけだよ」
「簡単なの!」
直哉はリリが一人でも使えるように、使用方法を出来るだけ簡単にした家具を造り出していた。
「これで、お風呂の使い方は完璧だね!」
「大丈夫なの」
リリはエッヘンと小さな胸を張った。
「イリーナさんが来た時は、リリが教えてあげるんだよ」
直哉はそう言って、リラクゼーションフロアを出て、階段を使って居住フロアへ行こうとしたら、
「リフトに乗ってみたい」
リリは眠っていたので乗り心地を試してみたくなっていた。
「じゃぁ、乗ってみるか。リリ、リフトを呼ぶにはこのボタンを押して」
直哉は使い方を教えていった。
「2Fとか3Fだけじゃ、わかりにくいの」
言われた通り2Fを押したリリがつぶやいた。
「あー、確かにそうだよね。横に小さい案内と後ろに大きな案内を足しておこう」
直哉はリリの指摘を受け、リフトに案内を追加することにした。
住居エリアに降り立った二人は、トイレチェックを行った。
トイレの流し方や、乾燥機能の使い方などを実際に作動させてみた。
このトイレはこちらの世界の標準装備らしく、リリは熟知していた。
その後、個人の部屋に家具を配置し、お互いに自分の部屋を構築していった。
足りない家具は、大体の物は直哉が造ってくれたので、豪華な部屋になった。
自分の部屋が終わったリリは直哉の部屋に突撃していた。
「お兄ちゃん! こっちは終わったの!」
「それじゃ、キッチンを綺麗にしてご飯にするか!」
直哉はリリを連れて入り口フロアへやってきた。
「ご飯、ご飯! お兄ちゃんのご飯!」
リリのセリフを聞いた時に直哉は気付いてしまった。
「俺、料理したことないや。リリは?」
リリは驚愕の眼差しを向けていた。
「肉を串に刺して焼く! そして食べる!」
直哉はこのままでは、食生活が危険だと思いながらも、
「よし、酒場に食べに行こう」
「えー、お兄ちゃんのご飯は?」
折角造ったキッチンが使用されないのは悲しいので、
「これから練習していこう。でも、今日は疲れたので酒場で食べよう」
リリは納得はしなかったが、直哉が乗り気ではないので仕方なくついて行った。
◆冒険者ギルドの酒場
「いらっしゃいませ!」
いつもは数パーティがいて賑わっているのだが、今日は閑古鳥が鳴いていた。
「あれ? 今日は静かですね?」
リリを連れた直哉は案内されたテーブルに着いた。
「なんか、お城の方から緊急クエストが来たみたいで、みんな出払っちゃったのよ」
店員さんがそう言いながら、注文を取りに来てくれた。
「俺は駆け出しだから、来ないのかもしれません、俺には晩ご飯セットをください」
「リリはモーモー肉とブーブー肉の合わせ炒め丼が食べたい!」
二人は食べたいものを注文した。
「サラダとドリンクは如何いたしますか?」
「大きめのサラダと、熱い飲み物を、リリは何を飲む?」
リリはメニューを見ながら、
「このピンクのやつ!」
「とりあえず、このピンクやつって、お酒が入っていないものありますか?」
リリが見事にお酒を引き当てたので、それのお酒が入っていないものを注文した。
直哉は45Cを渡して料理がくるのを待っていた。
そこへ、一人の冒険者が入ってきた。ぱっと見は戦士系でフルアーマーを装備しフルヘルメットまでしている重装備、武器はウォーハンマーで力もありそうな感じ。胸の部分が大きく強調され、女性であることがうかがえるが、顔を隠しているためによくわからなかった。
店員さんは、直哉たちのテーブルに飲み物とサラダを置いてから、新しい客の対応に入った。
「お客様、申し訳ありませんが、当店では頭部装備は外してからの入店が、義務づけられております」
「あっ、ごめんなさい。うっかりしておりました」
戦士風の人は、女性の声でそう言うと、フルフェイスを外しそのままフルアーマーも脱いだ。
いきなりラフな恰好になった女性は、カウンターへ向かった。
「お兄ちゃん、見過ぎなの」
リリからの容赦ない突っ込みにも負けずに、その女性を観察していった。
(装備品からして力はあると思う、ただ戦士のようにもおもえるが、装備してる武器がハンマーだし、武器を持つところに発動体が着いていたのが見えた、それらをふまえると、光魔法士っぽい気がするな)
「えいなの」
ばしっ! っと直哉の目に水平チョップがお見舞いされた。
「ぎゃー、目がー目がー」
思わぬ攻撃により、直哉はお姉さんを見る事が物理的に出来ない状態になった。
「お兄ちゃん、見過ぎなの」
「ぐぬぬ」
直哉はリリに実力行使で怒られ、ついに折れた。
「装備品が気になったけど、ご飯に集中するか」
その後、晩ご飯セットにあった肉類はリリの物欲しそうな視線に負けた直哉が、ほとんどあげてしまうのであった。
「リリ大満足!」
肉をがっつり食べたリリはご満悦で、直哉はおかずが足りず、追加で頼んだ焼き魚を頬張っていた。
「食べ終わったら、イリーナさんと鍛冶マスターの所に行こう」
「はいなの! 後で修行に付き合って欲しいの!」
直哉はリリに相槌を打ちながら、今後のことを考えていた。