第七十四話 ラリーナの懸念と直哉の新しい計画
◆次の日
直哉が目を覚ますと、まだみんな眠っていた。
(今なら、俺の分身計画を進められそうだ)
イベントボックスから壊れた機械人形を取りだして、マリオネットで操りだした。
(少ない本数のままだと、動きが単調になり力もそこまで出せないけど、かなりの本数を費やせば俺と同じか、元の素材によっては俺よりも強い身体が出来るはずだよな)
そう思い、各部を実際に動かし、チェックをしていた。
「おはよう」
起きてきたラリーナに声を掛けられた。
「おはよう」
直哉は返事をして、ラリーナの方を見ると、
「直哉よ、今日は私と手合わせを頼む」
「了解。条件は?」
「全てありで」
「全てあり? どうかしたの?」
ラリーナは思い詰めた表情で、
「自分が銀狼に乗っ取られた場合、直哉がちゃんと止められるかどうかを試したい」
「そういう事か。わかったよ。とりあえず、みんなが起きてきてからで良い?」
「もちろん。それで構わん」
直哉も良い機会だと思っていた。
(これで、実戦に近い形でで検証出来るぞ)
二人が身体をほぐし終わる頃に、みんなが降りてきた。
「今日は、俺とラリーナとで、手合わせをする。みんなは見ていてくれ」
直哉の宣言に、
「あー、ズルいの! リリもお兄ちゃんとやりたい!」
「わらわもじゃ!」
二人が間髪置かずに参戦を希望した。
「わかった。とりあえず順番ね。フィリアとマーリカも順番ね」
その場の混沌を鎮めてラリーナと対峙した。
二人の準備が整い、
「本気で行く!」
ラリーナが物凄い殺気を放った。
直哉はそれを受け流しながら、剣と盾とマリオネットを準備した。
まずは、ラリーナが先制攻撃を仕掛けてきた。
「リズファー流、瞬迅殺!」
瞬迅殺:普段より数倍も速い速度で移動して、更に長巻で突き刺す技
(おぉ! 修得できたんだ)
直哉はそう思いながら、
「四連撃! そのうち二回を同じ方向から横斬り!」
ラリーナの剣は直哉の横斬りを二回当てられ、横に逸れていった。
しかし、衝撃波のようなエネルギーが直哉を襲いかかっていた。
「くぅ、なんだこれは? しかしここで、盾攻撃!」
直哉は苦痛に顔をゆがめながら、前にラリーナを仕留めた技を繰り出した。
「なんの!」
突進中に目標を反らされ、がら空きとなった顎に迫る盾を回避するために、無理に身体をひねり肩で盾を防いだ。
「最後に×の字斬り!」
勢いが完全に無くなり、肩に負傷を負ったラリーナに追い打ちをかけた。
「まずい!」
ラリーナは銀狼へ変身して大きさを変え、直哉の攻撃を回避した。
「さすが! でも、まだだよ」
直哉はニヤリと笑い、マリオネットで火炎瓶を乱打しながら、防衛網で進路を塞いだ。
「やはり直哉の攻撃は嫌らしい! だが、今の私なら! 貫ける!」
一度距離を取ったラリーナは、瞬迅殺を使い、火炎瓶をまともに食らいながらも一気に突進して、最短距離を進んできた。
(あの勢いだと、防衛網が破られるかもしれないな。それなら勢いを無くせばよいか。そして、俺は回り込む)
「マリオネット!」
直哉はマリオネットを操作して、視界を悪くすると共に、水の瓶を使い、水をばらまいた。
既に散らばって周囲を燃やしていた火炎瓶の炎を一気に消火し、蒸発していった。
辺りに水蒸気が充満したのを見て、冷凍瓶をばらまいて一気に周囲の温度を下げた。
「なんだと! 私ごと周囲が凍り付いて速度が落とされる。くっ、このままでは!」
ラリーナは吸い込んだ水蒸気を含め、身体の内側からも凍り付いていく感覚に、慌てて冷凍フィールドから外へ出た。
直哉はそのフィールドを回り込み、ラリーナが出てくるであろうポイントへ来ていた。
「ここに来ると思ったよ!」
ラリーナは驚愕した。
「なに! いつの間に!」
「ここだ!」
直哉は冷静に横斬りを放った。
「ぐぅ、だが! この距離なら!」
ラリーナは一撃を受けながら、
「リズファー流、月牙双輪!」
無数の攻撃を繰り出した。
ダメージを受けているとは思えない速度で迫り来る刃。
「これは、凄い! だけど、コレなら!」
直哉は、壊れた機械人形を取りだして、前面に出し、
「マリオネット!」
大量の糸で操作を始めて、剣と盾を装着し、ラリーナを押し出していった。
直哉の意志で動く機械人形。スキルこそ使えないが、マリオネットの糸が多く付く事で、細かい動きなのに力強く、ラリーナは圧倒され離されていった。
「くぅ。これは、無理だ!」
最終的にラリーナは吹き飛ばされ、負けを認めた。
「よし! これなら実戦で使えそうだ!」
直哉はラリーナの攻撃を凌げる事を確認すると共に、マリオネットの強化具合を確かめられた。
(これほど動かせるのであれば、あの計画を進める時が来たかな)
直哉は、《疑似四肢作成》で等身大の人形を造り出し、自分の分身として戦闘させようと考えていた。
(そして、可能であれば《疑似臓器作成》のスキルも試しておきたいな)
「やられた。更に強くなっていたな。これなら、任せられそうだ」
ラリーナはフィリアに治療されながらやって来た。
「何とか勝てたよ。ラリーナの攻撃方法は知っていたから、何とかなったよ。それよりも、怪我は平気?」
治療してもらっている体を見せながら、
「問題ない。しかし、最後に逃げた所で待ち構えられていたのは、脱帽だったぞ」
「あれも、ラリーナだったらあの包囲の時は、あそこに逃げると予測したからね」
「そうか、次の鍛練ではその辺も注意して戦うとするか」
直哉とラリーナが話していると、
「次はリリの番なの!」
リリは腕を回しながら名乗りを上げた。
「俺の治療が終わるまで待ってくれないか?」
直哉は、身体が黄金色に輝いているのを見せた。
「あれ? お兄ちゃん攻撃喰らってたっけ?」
「ラリーナの攻撃は、物理防御だけじゃ完全に防げないみたい。武器を逸らした時に、衝撃波の様なものが襲ってきて、身体が切り裂かれると思ったよ」
「それは、銀狼の力だな」
「なるほどね。その力で複数回の攻撃を繰り出せば、相当な攻撃回数になるよね」
「うむ。直哉には避けられたようだがな」
ラリーナの言葉に、
「気がついてからは、だいぶ避けるようにしたけど、なかなか避けきれ無かったよ」
「そうだったんだ。お兄ちゃんが完勝しているように見えたけど、ラリーナお姉ちゃんもやっぱり強かったの!」
リリは喜んでいた。
「一矢は報いられたと言うことかな」
「そうだね。実際最後の人形が意味を成さなかったら俺の負けだったし」
そう言って、人形を取り出した。
「そうそう、これだ! 昨日の機械人形だよな? そのわりに力強く人間に近い動きで、強敵だったぞ」
「マリオネットの糸の本数が増えたから、大雑把な動きだけでなく、細かい動きが出来ないか試していたけど、これが実際に使えるかは、不安だったよ」
直哉は自分の考えが上手くいった事に喜びを感じていた。
「後は、《疑似四肢作成》を使って身体を造っていけば、俺のダミーが完成するな」
直哉の考えに、
「直哉殿はもの凄い事を考えつくのじゃな」
エリザは呆れていた。
回復が終わった直哉はリリを見て、
「さて、闘いますか?」
「やるの!」
リリは、その言葉を待ってましたとばかりに、喜んだ。
「リリはどうするの? いつもの鍛練にする? 手合わせにする?」
「本気を出したいから、手合わせをするの!」
「それじゃぁ用意が出来たら始めよう」
直哉は剣と盾、マリオネットを再展開した。
「それじゃぁ、行くの!」
リリは一気に魔力を使い魔法を唱えた。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
リリが二つの魔法を詠唱した。
「同時詠唱!?」
以前ガナックが見せた同時詠唱に見えた魔法は、
「スライスエア!」
と、突っ込んでくるリリに、
(失敗したのか? だが、魔力は維持したままだな。とりあえず迎撃と、マリオネットで周囲に見えない罠と攻撃用の罠を仕掛けておこう)
直哉はそう思い、罠用のアイテムを飛ばしながら、突撃を防御すべく盾を当てに行った。
「そりゃ! 縦斬り!」
直哉がその突撃に合わせて、下から上へ斬り上げる攻撃を繰り出したところ、
「クールブリザード!」
そこへ、詠唱を省略した魔法が炸裂した。
「なんだって! 詠唱破棄!?」
直哉は一瞬の隙を突かれ、魔法の回避が遅くなった。
「くぅ」
直哉を中心に冷気が吹き荒れる。直哉は、快適なマントを装着し、受けるダメージを軽減していた。
「どんどん行くの!」
リリはMP回復薬を飲み、MPを回復させて、魔力を増大させていった。
「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」
「雷を司る精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵に裁きの雷を!」
直哉は冷気の嵐の中、リリの魔法を注意深く観察した。
(詠唱破棄をしている訳でも、二重詠唱している訳でもない。あとは、あれか? 魔法貯蓄。カソードのオリジナル究極魔法を造っている途中で発見したスキル。始めに詠唱を済ませ、魔力を使い発動寸前の状態で魔法を保留するスキル。カソードの時に十一の魔法をストックして究極魔法を造り上げた)
そんな風に考えていると、
「バーストトルネード!」
今度は突風が襲いかかった。
「ウムムム」
(ということは、さっきの詠唱から行くと、次は雷か。それなら!)
直哉は、咄嗟に絶縁体で造った盾を装着した。
そこへ、
「サンダーボルト!」
リリの魔法が落ちてきた。
「ぐぅぅ」
大きなエネルギーが直哉を襲う。
(このまま、意識を飛ばすのは不味い。それに、もう少しでチェックメイトだ)
「うぉぉぉぉ」
直哉は雄叫びを上げ、マリオネットでリリに見えるように火炎瓶と冷凍瓶を飛ばしまくった。
「そんな苦し紛れの攻撃は効かないの!」
リリが得意そうな顔で回避していると、
「まさか、これは罠なの?」
周囲にいつの間にか見えにくい防衛網が張り巡らされていた。
直哉は、
「ようやく発動ポイントへ誘導出来た」
そう言って、マリオネットで盾をリリにぶつけようとした。
「そのスピードなら平気なの!」
と、回避しようとした時、その場所に行く途中に透明なブロックがある事に気が付いた。
「これは?」
その隙に直哉の盾は、リリをその透明なブロックで造った檻の中に押し込んだ。
「でも、まだまだなの!」
その場で詠唱しようとしたリリに、
「これで、最後!」
直哉は、防衛網用のネバネバな糸を大量に檻の中へ流し込んだ。
「うにゅぅ」
リリは身動き出来なくなり、戦闘不能となった。
「ふぅ。やばかった。本当にやばかった」
直哉は緊張を解き、リリを解放した。
「やられたの。あのまま押し込めると思ったのに。残念なの」
リリは残念そうに、フィリアの治療を受けていた。
「やっぱり、俺は遠距離魔法の連打に弱いな。あのままじゃ、押し切られるところだったよ」
「むー。でも、お兄ちゃんの攻撃は全然判らなかったの。どうやったの?」
リリには突然周囲に罠が仕掛けられた気がして、驚いていた。
「あの罠は、手合わせ開始と同時に仕掛けた物だよ。時間が経つと意識から無くなっていって、最後には突然出た様に感じるという仕組みだよ」
「またまた、卑怯な手じゃのう」
エリザが呟いた。
「いや、相手の得意なフィールドで闘っている以上、何か策を考えないと、どうやったって勝てないよ」
「考えるだけじゃなくて、それを実行出来る力も必要だしね」
直哉の反論に、ラリーナも乗ってきた。
「ラリーナ殿は、卑怯だとは思わないのかえ?」
「戦いに卑怯も何も無いよ。あるのは相手を倒す力だよ」
「これが、鍛練であれば話しは別だけどね。今回は手合わせだったから自分の持てる力を出し切らないと、相手に失礼だよ」
「うむむ」
「エリザの時は、どうする? 卑怯なのが嫌なら鍛練にする? こっちなら、相手に併せて反撃するから、真っ向勝負になるよ」
「そうじゃのう。わらわの力量じゃ手合わせは厳しいからの」
「わかった。鍛練なら、すぐにでも始められるよ?」
「お願いするのじゃ」
エリザは遠くに離れ、矢を番えた弓を向けた。
「行くのじゃ!」
エリザの放った矢は正確に直哉の額に飛んで来た。
「正確な攻撃だね!」
直哉は飛んで来た矢を、刃を潰した剣で叩き落とした。
「次!」
次の攻撃は二本同時射ちで、一本は直哉の喉を狙っていて、もう一本は鳩尾を狙っていた。
「何か嫌な予感がするよ」
直哉の見てる位置からは一本しか見えなかったが、直哉は持っていた盾を身体の正面に持ってきた。
二本とも盾に防がれた。
「なるほど、二本射ちか。何本まで同時に射てるのか楽しみだよ」
その後、色々な射ち方を試したが、直哉には一本も通らなかった。
「何故じゃ! わらわの弓はルグニア一のはずじゃ。それなのに、一本も当てられんとは、情けないのじゃ」
直哉は、
「いや、正確だからこそ、弾きやすいんだよ。それに、剣や盾で弾いているだけで的には当たっているよ」
「ムゥ。弓矢では勝てぬと言うことか」
エリザは沈んでいた。
「一対一で弓兵が歩兵に勝つには、一定距離を保ちつつ、射線を悟られないことだよ」
「不意打ちということか?」
「その通り。気配を消して、一撃必殺の矢を放つ。これが戦い方じゃないかな? むしろ、名乗りあって射ち始めることはまず無いと思うよ?」
エリザは自分の中の弓に対する思いと、現実との差に愕然としていた。
次にフィリアを見て、
「さて、フィリアはどうする?」
しかし、フィリアは首を横に振って、
「私はご遠慮いたします。お二人の傷を癒したので、少々疲れました」
「そっか、気づかなくてごめんよ」
直哉はそう言って、マーリカを見ると、意識を失っていた。
「あれ? マーリカ?」
「マーリカなら、私が殺気を出した時にもろに喰らったらしく、そのまま倒れたらしいぞ」
と、ラリーナが申し訳無さそうに言ってきた。
「フム。それじゃぁ、後は通常の鍛練をやりますか」
直哉達はそれぞれの鍛練を始めて、朝の鍛練に勤しんでいた。




