第七十二話 地下遺跡探索 その3
リリは心を躍らせながら詠唱を開始した。
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
リリは天井付近まで上昇して行った。
「いくぞ!」
直哉は剣と盾、火炎瓶、冷凍瓶、防衛網をフルに操作しながら突撃して行った。
ゴーレムが周囲の武具に気を取られている間に、剣の間合いまで近づいて、
「四連撃! すべて急所攻撃!」
顔についていたセンサーの様な発行物質を破壊していった。
ゴーレムが直哉のほうに向き、攻撃を仕掛けようと両腕を振り上げたとき、
「ちぇっすっとーなの!」
リリが上空から一気に飛び込んできた。
「魔神稲妻拳!」
リリの速度に合わせてマリオネットを操作して、ゴーレムからの死角になるように武具を操作した。
正面ではゴーレムの両腕の攻撃を盾で受け止め、反撃を試みようとしていた直哉だったが、予想以上に重たい攻撃に、防戦一方に追い込まれた。
そこへ、
ドゴン!
リリの一撃が頭部に直撃してセンサー部分を大きく破壊した。
大きくセンサー部分を壊されたゴーレムは攻撃形態を変更し始めた。
リリは反動を上手く利用して、大きく飛翔していて、次に直弥がどういう手で出るのかを見つつ、魔力を練ろうとしていた。
直哉はゴーレムの目の前にいたため、身体の表面が変化していくところを、はっきり見ることが出来た。
(規則正しく無数の穴が開いたぞ。しかもこちらの攻撃が弾かれる様になった。防御力が増したということだよな。あの穴は、まさか毒ガス?)
直哉が驚愕の表情を浮かべた事は、上から見ていたリリには良くわかった。
(あの表情は危険な証、でも何だろう?)
その時、無数の穴から小さな物体が大量に放出されてきた。
(これは、破片?)
直哉はとっさに防御したが、盾で防げない部分には次々と破片が襲い掛かっていた。
「ぐぅぅ」
直哉が痛みに耐えていると、リリから援護魔法が飛んできた。
「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」
「バーストトルネード!」
ゴーレムを中心に嵐が吹き荒れる。
小さな物体は、嵐に阻まれ上空へ飛んで行った。
「ナイス! 助かった!」
直哉はリリに礼を言って、距離を取った。それを見ていたリリも上空で距離を取った。
「くっ」
身体に喰い込んだ物体を見ると、金属片であった。
(これをそのまま飛ばすのかよ)
直哉がゴーレムを見ると、ゴーレムの周りに小さな機械が動き回り修復を始めていた。
「お兄ちゃん! どんどん行かないと、倒せないの!」
「わかった! 爆発魔法行くよ!」
「はいなの!」
直哉は先ほど造った大きな盾を取り出して、
「エリザ、手伝ってくれ」
「わらわか? 何でも言うのじゃ!」
「俺が爆発魔法を撃つから、この盾を支えていてくれ」
「わかったのじゃ! つか、これは滅茶苦茶重いのじゃ。わらわも本気で行かないと駄目なのじゃ」
エリザが皆を守るための大盾を支えていることを確認すると。
「リリ、ゴ-レムがどうなるか見ておいてくれる?」
「わかったの」
直哉はフィリアを見て、フィリアが頷くのを確認してから、指輪を発動させた。
「喰らえ! エクスプロージョン ドライ!」
直哉は三つの爆発魔法を飛ばした。
ドゴーン! ゴガーン! ボボーン!
物凄い熱量がゴーレムを襲う。
「緊急事態発生! 緊急事態発生!」
ゴーレムが悲鳴をあげ始めた。周囲の機械人形の出入り口が動作しようとして不発に終わっていた。
「修繕に向かいます!」
壁の向こうから機械の音声が聞こえてきてはいるが、この部屋には入ってこられなかった。
「お兄ちゃん、もう一押し何か無いと倒せないの!」
リリは上空から見ていたのでゴーレムがこの熱量の中、自己修復している姿を確認していた。
「わかった。もう一発爆発させるから、リリはこれに隠れてくれる?」
直哉は四角推型の盾を取り出し、マリオネットでリリのところへ届けた。
「これ、前が見えないやつなの!」
そう言って見ると、
「あれ? 見えるようになっているの!」
リリは改良された盾に入り込んだ。
(よし! やるぞ)
直哉はアイテムボックスからミサイルを取り出して、数本のマリオネットで慎重にゴーレムの頭上まで飛ばして行った。
「リリ、行くよ?」
「ドンと来いなの!」
直哉は安全装置を解除してミサイルをゴーレムにぶつけた。
ドガーン!
通路で味わった爆風に見舞われ、エリザは大盾を抑えるのに必死であった。
一方の直哉は、
(やっぱり、通路で起こったのはこの爆発だったか! これを集めておけば俺の攻撃力が上がるから戦術の幅が広がるな)
そう思いながら、盾を押さえるのを手伝っていた。
しばらく爆風と金属片に見舞われながら、収まるのを待っていた。
「この盾は、どの位もつのじゃ?」
「さぁ? 今回が初めてだから、わからないよ」
「いきなり実践投入とは、なかなか大胆じゃの」
エリザは呆れながらも、爆風と、金属片からみんなを守るべく、必死で大盾を押さえていた。
リリは爆発の衝撃で吹き飛んでいた。
「あーれーなの!」
直哉はそのことに気がつき、
「リリ! こっちへ飛ぶんだ。俺が受け止める!」
「お願いなの!」
リリは直哉の声の方向へ風魔法を使い飛んだ。
「おっとっと」
爆風により、多少のずれはあったものの、直哉はしっかりとリリを受け止めた。
「フィリア、リリの治療を!」
「はい。リリちゃんおいで」
フィリアは、リリの治療も開始した。
全員の治療が終わり、真っ白な顔でフィリアがやって来た。
「ラリーナさんとリリちゃんの治療が終わりました」
直哉はフィリアを支えながら、
「ありがとう、助かったよ。ゆっくり休んで」
「申し訳ありません。少し眠りにつきます」
フィリアは、直哉の腕の中で疲労による眠りについた。
「ここまでだね。家に帰ろう」
みなは、フィリアの奮闘を見ていたため、素直に戻る提案を受け入れた。
直哉がフィリアをお姫様抱っこで運び、みんなが周囲を守りに入った。
「何も起こらない事を祈ろう。さっさと帰って報告を済ませて、ゆっくり休もうか」
「わーいなの!」
直哉の祈りが通じたのか、帰りは何事も無くルグニアに戻ることが出来た。
◆ルグニア
直哉はフィリアをベッドに寝かせ、
「これから、城へ報告へ行ってきます。リリとラリーナはフィリアを看ていて上げてください。エリザとマーリカは一緒にお願いします」
「つまらないの」
「ごめんよ。ラリーナ達と大人しく待っててね。ラリーナ悪いけど、フィリアとリリの事も頼む」
「わかった、任せろ」
拗ねてしまったリリをラリーナに任せて、エリザとマーリカを連れて城へ向かった。
「私でよろしかったのですか?」
先ほどのやり取りを見ていたマーリカが聞いて来た。
「ん? 構わないと言うか、今回はマーリカじゃないと困る。状況を正確にアシュリー様に伝えるからね。いつもならフィリアを指名するのだけど、疲労で倒れているからね」
「私がフィリア様の代わりですか? 光栄です」
直哉達が城門前に辿り着くと、場内が慌しい事がここまで伝わってくるようであった。
「何があったのじゃ?」
エリザが門番に聞くと、
「エ、エリザ様! 地下から遺跡が盛り上がってきました。その対応に城の者や冒険者ギルドの方が対抗に追われています」
「なるほどの、直哉殿の話した通りになっておるのじゃ。姉さんはおるかえ?」
「は、はい。謁見の間で色々な方達から情報を聞いております」
「そこへ行っても良いかの?」
「もちろんです。エリザ様と勇者様ですから」
門番が通してくれた。
謁見の間へ着いた三人は、呼び出しに取り次いでもらった。
しばらく待った後、三人は謁見の間へ通された。
「良くぞ来てくれた、礼を言う」
アシュリーは、直哉達が帰って来てくれた事を喜んだ。
「何があったのじゃ? 遺跡がどうのこうのと聞いたのじゃが」
エリザはズバッと切り込んだ。
「そうなのだ、南の鉱石を採るための施設の傍に、突然浮かび上がって来たのだ」
エリザの言葉にダライアスキーが続いた。
「文献には昔、同じように現れた遺跡には、数多くの宝が眠っていると記載されたいたのだ。現在冒険者ギルドが中心となって対応を進めているのだが、なにぶん初めての事で時間ばかりが掛かってしまっている。遺跡について何か情報は無いか?」
直哉達三人は先程まで居た遺跡の話をして、アイテムボックスから壊れた機械人形を取り出した。
「こ、これが先程の話にあった、ミサイルという武装を持った警備の機械ですか?」
ダライアスキーは興味深く機械人形を覗き込んだ。
「弱点は頭部ですが、口の奥にミサイルを搭載しています。それが爆発すると中級から上級の爆発魔法程の威力があります。無闇に爆発させないようにしたほうが良いです」
「わかりました。冒険者達に徹底させます」
「なかなか厳しそうですね。皆さんの傷の具合は如何ですか?」
アシュリーはみんなの具合を心配していた。
「ありがとうございます。現在はフィリアが眠っていますが、他は活動できるくらいには回復していますが、やはり今日は休みたいですね」
直哉は本音を語った。
「そうですか、わかりました。緊急の報告は以上ですか?」
「はい」
「それでは、本日はゆっくりと休んでください。明日また話を聞かせてください」
「わかりました。それでは、また明日」
直哉達は帰路についた。
途中でリリのためにモーモーキングの串を買って帰った。
屋敷に着くと、食事の準備が出来ていてフィリアとラリーナ以外は食事を始めていた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
使用人たちが一斉に立ち上がって挨拶し始めた。
「あぁ、食事をしていてくれて大丈夫ですよ。フィリアとラリーナは?」
「まだ、フィリアお姉ちゃんが眠っているの、ラリーナお姉ちゃんが看ていてくれてるの」
リリが珍しくわかる様に説明してくれた。
「わかった。エリザとマーリカは先に食事をしていてくれ。それと、リリにはこれを」
そう言いながら、人数分以上の串を取り出して、リリに渡した。
「ありがとうなの!」
リリは嬉しそうに頬張った。
直哉が自分の部屋に戻ると、大きいベッドにフィリアが眠っていた。
その横でラリーナがウトウトしていが、直哉が部屋に入ってくるとそれを出迎えた。
「帰ってきたか」
「あぁ、ただいま。それとお疲れさん」
直哉はラリーナの頭を撫でながら労った。
「さて、私は飯にしたいのだが、良いか?」
「うん。フィリアの様子は俺が看てるよ」
そう言って、ラリーナを送り出した。
直哉がフィリアの寝顔を確認すると、穏やかな顔で眠りについていた。
(よし、大丈夫そうだな。とにかく今日の出来事を確認しておこう)
直哉は今日の出来事をまとめていった。
(まずは地震が起きて、ルグニアの周りの魔物たちが逃げ出してきて、遺跡が出てきたか。これは、バルグフルでも起こっていたよな)
直哉が昔のことを考えていると、フィリアがうなされ始めた。
「ううぅ。お父様。何故ですか・・・」
直哉はフィリアの手を握りフィリアを励ました。
「直哉様・・・・」
直哉が手を握ると、フィリアは穏やかな顔になった。
(どうしたのだろう? お父様と言っていたな、昔の事でも夢に出て来たのかな?)
そう考えていると、フィリアが目を覚ました。
「フィリアおはよう」
「あ、あれ? あ、おはよう」
フィリアは寝ぼけながら答えた。
「こ、ここは・・・?」
フィリアが周囲を見渡すと、
「直哉様?」
フィリアは静かに涙を流し始めた。
「えっ? どうしたの?」
「申し訳ありません。嫌な夢を見てしまったので、少々落ち着くお時間をください」
「わかった」
直哉はフィリアを抱き寄せて、自分の胸にフィリアの顔を埋めさせた。
「しくしくしくしく」
直哉はフィリアの頭を優しく撫で続けていた。
フィリアが落ち着きを取り戻すと、
「お手間を取らせてしまい、申し訳・・・」
「いいよ。というか、普通に話してくれて良いよ。夫婦になったのに他人行儀みたいで悲しいよ」
フィリアは驚いた顔で直哉を見た。
「えっ?」
そんな様子を見ていた直哉は、笑いながら、
「そんなに驚かなくても、もっと感情が激しくて、活発な女の子なんでしょ?」
フィリアは大きく深呼吸をしながら、
「このような話し方のほうが、殿方は喜ぶと母様が言っていたのですが、直哉様はお喜びにならないのですか?」
「そうだね。確かに一歩下がった淑女を好む男性も居ると思うけど、俺は何でも言い合える様な間柄のほうが落ち着くよ」
「そうだったのですね。でも、どうしたら良いかわかりません」
フィリアが困惑していると、
「難しく考えるからだよ。フィリアはフィリアらしく、素のフィリアで居てくれればそれで良いよ」
「な、直哉さん」
フィリアは感激して直哉に抱きついた。




