第七十一話 地下遺跡探索 その2
直哉はスキルを使ってミサイルをリサイクルしようとしたが、(必要アイテムが足りないため発動できません)と表示された。
(必要アイテム? 何の事だろう?)
ミサイルの使い道に困った直哉は、機械人形の方を鑑定してみた。
《壊れた機械人形》
(そのままですね)
直哉は修理スキルを使用して直そうとしたが、こちらもスキルが発動できなかった。
直哉ががっかりしていると、治療を終えたフィリアとマーリカがやって来た。
「お二人の治療が終わりました」
「お二方とも、身体に食い込んだ破片は全て除去出来ました」
二人の報告に、
「ありがとう。そういえば、フィリアは回復魔法を使える様になったんだね」
直哉はアイテムの鑑定が終わり、二人の様子を伺っていた。
「はい。今まで以上に厳しい状況に陥るかも知れないので、一通りの回復魔法を覚えました。私の身体に流れる忌々しいエルフの血は、回復魔法を覚えるのに最適なようです」
「忌々しいって。エルフ姿のフィリアか。今でも綺麗なフィリアがもっと綺麗になるのかな?」
「どうでしょうか? 今は心の中に封印していますので」
「その封印は、解いたり封をするのは簡単なの?」
「解くのは簡単ですが、私には解く気がありません。封をする方法は母様しか、知りません」
「そっか、わかった。言い難い事を話してくれてありがとうね」
直哉が礼を言って話を終わらせた。
「そういえば、リリは?」
「ベッドが出来たとたんに、眠りにつきました」
直哉がフィリアの視線を追うと、リリが気持ち良さそうに眠っていた。
「俺達も睡眠を取った方が良いな。始めは俺が見張っているから、二人は眠ってくれる?」
「わかりました」
二人が眠りにつくと、直哉は遺跡の攻略について考え始めた。
(まずは、あの警備ロボットを何とかしないといけないな。弱点は頭か。雷系の攻撃は一時的に行動不能にするだけだったな)
直哉はアイテムボックスを見ながら、
(それと、全てのロボットにこのミサイルが搭載されている可能性があるのか。正面突破だけじゃ厳しいぞ? 防具の強化を図らないと厳しいかな。忍者みたいに鎖帷子を着込んでみるか?)
直哉はみんなの防具にミサイルの破片が食い込まないように、中に着られる鎖帷子の様な防具を造り出したが、現在の防具の下に着るのは厳しかった。
(これは、厳しいな。せめてオーバーウエアみたいに上から着込むタイプにしないと、防具を造り直す事になるな)
次に上から着込む様に造ってみた。
(うーん、装備すると、ゴワゴワするな。これだと今までのような動きをするのは厳しいぞ? 他の方法を考えて見るか)
そこで、鋼鉄を分厚くした盾を造り出した。
ただし、重量がありすぎて、動かせないのが難点であった。
(これなら、正面に展開したら受け止められるだろうな。後は、飛ばされないように、天地左右にパイクが出て固定できるアタッチメントを追加してと)
直哉が新しい盾を造っていると、リリが、
「壁が寒いの」
と言いながら直哉にくっついてきた。
「あらら。それなら壁も造っちゃいますか」
火と風の魔法石で温度を調整した壁材を造り出した、現在の壁に隙間無く打ち付けた。
「これなら、大丈夫だよ」
リリは寝ぼけているのか、直哉にくっついたまま眠りに着いた。
「あら? 寝ちゃったか。まぁ、このままでも良いか」
リリが使っていた掛け布団をリリの上からくるまる様に巻き付けた。
(そういえば、リリの風の魔法を使えば、爆風を軽減できたのかな? でも、実戦でいきなり試すのはリスクが大きいよな。後はラリーナの武器だと長過ぎてその性能を出し切れて無いよな。普通の長さの剣を造っておこう)
直哉がミサイルの対応を考えていると、遺跡が揺れた。
(まさか、ミサイルの攻撃?)
「みんな起きて!」
直哉は思考を切り替え、戦闘に備えた。
「今の揺れは何ですか?」
「恐らく、バリケードを爆破した揺れだと思う」
直哉は更に、
「フィリアは加護を! リリも風と水の加護を! ラリーナはこの剣を使って! ミサイルは新しく造った盾で俺が受け止める。ミサイルさえ気を付ければ、倒せない相手ではない」
直哉はみんなの準備が終わった事を確認して通路に出た。
周囲を見渡すと、バリケード付近で残骸を撤去している機械人形の姿を見つけた。
「あっちに一体、他に姿は見えず。後方の警戒を厚くしながらあいつを倒すよ」
「わらわが、やるのじゃ!」
「うん。あれはエリザに任せる。残りはエリザのバックアップと後方の警戒!」
みんなが戦闘態勢に移行すると、力を貯めたエリザが、
「撃つのじゃ!」
掛け声と共に、矢を放った。それと同時に、直哉から普通の長さの剣を受け取ったラリーナが飛び出していった。
「ガガギ!」
機械人形は剣と盾を構えて迎撃してきたが、エリザの矢はその盾ごと腕を吹き飛ばした。
「ギギギ?」
そこへ、
「うらぁ!」
ラリーナの一撃が機械人形を襲った。
「ガガギ!?」
今度は剣で防御しようと動かしたが、ラリーナはその動きを見ながら攻撃していた。
「そこだ!」
ラリーナの一撃は、剣を持っていた手首に命中して、剣を持ったまま手首を切り落とした。
「ふほ・・・」
「遅い!」
慌てて警告音を出そうとした機械人形の頭に剣を突き刺した。
警告音が出る前に倒すと、周囲から機械人形が集まってくる事は無かった。
その後、何度か戦闘を繰り広げながら、少し大きな扉の前に辿り付いた。
直哉はマップを見ながら、
「かなり奥まで進んできたね。そろそろ上下の階段とかがあると思うけど」
そう言いながら、マーリカが扉を調べ終わるのを待っていた。
「鍵、罠の解除に成功しました。ですが、ドスンドスンと音がするので中に何か居るようです」
マーリカの報告に、
「わかった、リリ、フィリアは加護を。突っ込むよ?」
二人の加護がかかり、MPを回復させたのを確認してから、その扉を開けた。
中は広い空間になっていて、中央にはゴーレムが、奥に扉があり、その前に石像が二体左右に構えていた。
天井部分は10メートル程の吹き抜けになっていて、上の方にある窓からは光が差し込んでいた。
壁には垂れ幕や動物達の顔の剥製が張り付いていた。
(なんだここは?)
直哉が考えようとすると、ゴーレムがこちらに気が付き、言葉を発した。
【我問いに答えよ。この世を治めるのは誰か?】
(ん?どういう事だ?)
直哉がみんなに聞くために後ろを見ると、
【答えが無いという事は、賊という事。繰り返す我問いに答えよ。この世を治めるのは誰か?】
みんなは知らないと首をふるばかり。
(一か八かだ)
「システムだ!」
直哉がそう言った時、
【時間切れだ、以降は賊と見なし攻撃を開始する】
「なんだって?」
その場の全員は戦闘態勢に移行した。
「リリが行くの! ラリーナお姉ちゃん、お兄ちゃんを任せるの!」
「まず、わらわが射つのじゃ」
リリは風の魔法を唱え始めた。
「エリザさん。早く射つの!」
リリは待ちきれないとばかりに催促した。
「射つのじゃ!」
直哉は周囲の警戒をフィリアとラリーナ、マーリカに任せて敵の形状を観察していた。
(以前見た奴とは、明らかに違うものだな。以前の奴は石がメインだったけと、こちらは機械仕掛けの奴だ)
ガギン!
エリザの放った矢はゴーレムが腕を下から上に動かす動作で弾き飛ばされた。
「まさか?渾身の一撃が!」
エリザはショックを受けてその場にへたりこんだ。
「リリに任せるの!」
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
いつも通り風の魔法に乗り、さらに魔力と闘気を溜めていた。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」
二の矢と化したリリがゴーレムへ飛んで行った。
エリザの矢の時と同じ様に、腕を下から上に動かして防ごうとしていたのを見て、リリは風の魔法を追加、方向変換して回り込んだ。
「ここなの! クールブリザード! 氷結魔神拳!」
ドゴン!
人間でいう脇腹に拳を叩き込んだリリは、
「かったいの!」
武器に内側への衝撃を緩和する効果を付けてはいるのだが、それを突き抜けてダメージを負った。
「リリ! 戻って回復を! 俺が行く!」
「ご主人様! お待ちください、私が援護しに行きますので、こちらで指示をお願いします」
直哉が走り出そうとした時に、マーリカがその動きを制して、ゴーレムに飛び掛かっていった。
リリが後ろに飛ぼうとした気配を察知したゴーレムが、口を開いた。
(あれは! まさか、ミサイル?)
見えていたのは、ミサイルの頭ではなく、筒状の物であった。
リリは咄嗟に動かす事の出来た左腕を顔の前に持って来た時、ゴーレムの口から激しい炎が吐き出された。
「やばいの!」
水と風の加護がかかっているとはいえ、直撃を受けると危険だと判断した。
その時、リリの左腕に搭載しておいた、扇形に広がる盾が作動した。
「これは? 昔、造って貰った装備?」
その盾で、顔への直撃を避けながら、待避した。
そこへ、マーリカが印を結びながら突撃してきた。
「土遁:防火土流!」
リリとゴーレムの前に土の壁が出来上がった。
「ありがとうなの!」
リリはマーリカに礼を言いながら、フィリアの方へ飛んでいった。
マーリカは、印を結び直し、次の忍術のためのMPを練り上げていった。
「直哉! こっちもやばいぞ! 周囲にあの機械人形みたいなのが周囲を取り囲んでいるぞ!」
ラリーナは長巻を構えて、周囲を威嚇しながら、エリザに。
「おい! エリザ! いつまで嘆いているんだ! 周りの機械人形を倒す為に力を貸しやがれ!」
エリザは、呆けていたが、ラリーナの渇によって正気を取り戻した。
「判っておるのじゃ! やってやるのじゃ!」
エリザが矢を番えて攻撃を開始した。
直哉も、
「マリオネット!」
周囲に防衛網を張り巡らせて、一気に来られないようにするのと、口周辺に置いておき、開いたら巻き付けようとしていた。
(こんなに開けた場所じゃ、さっき造った盾も意味ないよな)
がっかりしながら、剣と盾を構え直し、睨みを利かせていた。
「雷遁:稲妻走り!」
マーリカは、ゴーレムに雷系のスキルをぶつけていた。
ほんの少し、動きが止まったが、マーリカは振り払われていた。
「不味いか、ラリーナこっちは俺とエリザで食い止めるから、マーリカを援護して!」
「了解だ!」
リリと入れ違いにラリーナがゴーレムへ突撃して行った。
「やられちゃったの」
リリはそう言いながらフィリアの治療を受け始めた。
「結構やられたね、攻撃した腕は大丈夫?」
「滅茶苦茶痛いの。でも、この前みたいに全く動かない訳ではないの」
「良く頑張ったね」
直哉は頭を撫でていた。
「そこで、イチャついてないで、手伝ってくれるとありがたいのじゃが」
エリザが矢を乱射しながら訴えかけてきた。
「今行く。フィリア、リリを頼む」
「お任せください」
「リリは、回復したらマーリカと変わって、ラリーナとゴーレムに当たってくれる?」
「勿論なの! でも、リリの攻撃じゃ倒せないの」
「そうだね。でも、氷の魔法を溜めるのではなく、雷の魔法を溜めて、無限連続拳で攻撃すれば、動きを止められるかもしれない」
リリは顔をパァッと輝かせて、
「やってみるの!」
(マーリカそしてラリーナ、リリの回復が終わったらマーリカと変わって貰うから、もう少し頑張って! マーリカはこっちで回復を)
直哉の目から見ても二人の連携は鍛練不足で、ぎこちない攻撃になっていて、マーリカの身体には打撲や火傷が目立っていた。
(すまん。助かる)
(承知!)
直哉は指示を出し終わると、
「エリザの援護に行ってくる」
「お気をつけて」
「頑張ってなの!」
二人に見送られエリザの援護に到着した直哉は、
「良くここまで壊したね」
エリザ自身、身体中に細かな傷を付けてはいるものの、前方には頭から矢を生やした機械人形が転がっていて、遠くの機械人形は、直哉の張った防衛網にミサイルを阻まれ自爆していた。
「俺の援護いらなくね?」
「そうでもないのじゃ、こいつらが出てくる所を破壊しないと永遠に闘う事になるのじゃ」
そう言われて、その出てくる所を確認すると、数カ所あった。
「それじゃぁ、埋めに行ってくる」
「任せたのじゃ!」
直哉は剣と盾を構え、さらにマリオネットで自分の周りに盾を集めて突撃した。
「うぉぉぉぉぉ」
突撃してきた直哉に群がろうとする機械人形に、
「直哉殿には指一本触れさせないのじゃ!」
エリザの矢が襲いかかった。今までの戦いで、動きを止める部分を射貫く技術が身についていた。
「うりゃぁ!」
機械人形が湧き出てくるポイントに剣を突き立てると、
ボゴッ!
と鈍い音がしてその部分が壁と同じ色に変わった。
「これで、塞いだのかな?」
直哉は他のポイントを順番に潰していった。
あらかたポイントを潰すと、
(直哉! ゴーレムの様子がおかしい!)
ラリーナの警告に、そちらを見ると、マーリカに代わり治療を終えたリリが雷属性の拳で動きを止めつつ、ラリーナの攻撃でダメージを蓄積させているところであったが、表面の装甲に変化が見られ、リリの攻撃で動きを止めなくなってきていた。
(不味いな、二人とも一旦下がって! 援護する)
「マリオネット!」
直哉は援護用の剣と盾を大量に飛ばして、ゴーレムの攻撃を二人から放す事に成功し、全員と合流した。
「機械人形は倒し終わったのじゃ」
「こっちはだいぶやられた」
「リリはMPが少なくなってきたの」
直哉はゴーレムに気を配りながら、皆の様子をうかがった。
フィリア以外は小さな傷から火傷まで大小ダメージを負っていた。
「みなさんの治療を開始します」
フィリアは魔蓄棺を装備し、MP回復薬を飲みながら、魔力を高めていった。
「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に周囲の者を癒したまえ!」
「サークルリカバリー!」
フィリアを中心にして広範囲に傷を回復させるサークルが現れた。
直哉とリリ、エリザの軽傷組みは、あっという間に回復した。
(範囲系回復魔法?無理しすぎだよ。早めに勝負を決めないとフィリアが参っちゃうな)
直哉は仲間のダメージ具合を確認して、
「ラリーナとマーリカ、のまま治療を! エリザは弓で援護を!」
直哉は新しく槍型の矢を数本造りエリザに渡した。
「任せるのじゃ!」
そして、リリを見て、
「リリ、久しぶりに行こうか?」
「はいなの!」
リリは嬉しさを隠しきれずに喜んだ。
「俺は正面突破と全方位から陽動を、リリは上空から攻撃を! エリザの矢を突撃の合図として突撃するよ! エリザ! 頼む!」
「喰らうのじゃ!」
エリザが槍を放つのを見て、直哉とリリはゴーレムへ突撃した。