第七十話 地下遺跡探索 その1
地上へ戻ってきた直哉達は、直哉の造り出したコテージで休息を取り始めた。
直哉、リリ、ラリーナは治療をするため、風呂で身体を綺麗にしていた。
フィリアは食事の準備、エリザとマーリカは治療の準備をしていた。
直哉はリジェネで回復していく身体を見ながら考えていた。
(大量の敵は俺達の弱点の一つだよな。範囲系計魔法はリリの風、氷、水、雷、俺の爆裂、マーリカの忍術が不透明か)
直哉は窓から外を見て、
(俺のは一日一回だしリリは性格上前衛で殴りっぱなしだし、マーリカは戦闘以前の問題だからな。
やはり、装備の強化だけじゃ、何ともならんな)
直哉は今後の事を思い、新しいアイテムを考えていた。
(今は火炎瓶や冷凍瓶だけだけど、これを範囲系アイテムに出来ないかな? もしくはエリザの矢を強力に・・・・既に強力だよな)
新たなアイテムを考えていると、外から直哉を呼ぶ声が聞こえてきた。
「直哉様、いつも以上に長いようですが、大丈夫ですか?」
フィリアの声に、
「大丈夫! 今出るよ」
直哉は答えて、急いで風呂を後にした。
共有スペースに戻ると、治療を終えたラリーナが声をかけてきた。
「結構長かったけど、身体は大丈夫なのか?」
「うん。範囲系のアイテムを考えていたら長くなっちゃった」
「傷の具合は?」
直哉は自分の身体の回復が終わり、輝きが無くなっているのを確認して、
「ん? あぁ、リジェネの効果で治ったよ」
「便利なスキルだよな。戦士系のスキルだっけ?」
「うん。聖騎士のスキルだね」
直哉は戦士時代の事を思い出しながら答えていた。
「これから、どうしましょうか?」
フィリアはみんなの消耗率を見ながら聞いてきた。
「一度ルグニアに帰ってから準備を整えるか、このまま突入するか」
直哉はみんなを見て、
「みんなの意見を聞きたい、このまま行くか、一度戻って準備を整えるか」
「リリはもちろん行くの!」
「私も行くぞ!」
「わらわもじゃ!」
猪突猛進組みは、突撃を選択した。
「フィリアとマーリカは?」
「私は、直哉様に従います」
「私も、ご主人様に従います」
「よし、決まった! このまま突撃する。みんな準備を!」
「はい!」
直哉は回復薬等の消耗品を確認生産を始め、リリ達は自分の武具のチェックを始めた。
「お兄ちゃん、リリの防具も治して欲しいの」
「直哉、私のも頼む」
リリとラリーナは防具の修理を依頼した。
「思いっきりやられてるね」
直哉は、消耗品の生産と共に、防具の修理始めた。
「なぁ、直哉殿よ、わらわの武器もなんとかならんかの?」
「どういう事?」
エリザは、楊距離攻撃がメインな事に苛立っていた。
「矢で援護出来ないし、弓の直接攻撃も広いところじゃないと、効果的に攻撃出来ないのじゃ。歯痒いのじゃ!」
直哉は少し考えた後、
「エリザ、人には人それぞれの戦い方があるんだ。ラリーナは近接戦闘、リリは魔法を使いながらの近接、フィリアとマーリカは中衛にて前後の援護と周囲の警戒を、俺とエリザは後衛で全体の指揮と援護そして後方警戒を」
エリザは直哉の言葉を噛み締めた。
「わかったのじゃ」
直哉はそう言いながらも、何か良い方法が無いかを考えて、ラリーナを見ると、静かに首を横に振った。
一向は準備を整えて再調査のため、地下への道を降りて行った。
ワームの巣へ到着して、盾を片付けると遺跡への道が開けた。
「真っ暗なの」
明かりの石で造った照明は完全に流されてしまっていた。
「今、新しいものを造る。みんなは周囲の警戒を!」
リリ達が直哉の造った柵をチェックしながら周囲を警戒していた。
「これでよし! っと」
直哉は柵の中を中心に照らすように照明を照らした。
「見やすいの!」
「柵の向こう側は、見えづらいけどね」
直哉の言うとおり、柵の向こう側は薄暗く、何かが潜んでいてもわかりにくい状況だった。
「柵が破壊されなければ問題ないでしょう、そっちはルグニアの冒険者達に任せましょう」
フィリアの提案に直哉は頷いた。
「全て俺達がやる必要は無いよね。フィリアの提案で行こう」
直哉達はそのまま遺跡の中に入っていった。
遺跡の内部は廊下のようになっていて、明かりが灯っていた。
直哉はステータス画面を開き、マッピングを開始した。
「さて、通路の安全を確保するよ!」
リリ達は通路に入り左右を目視して、さらに感覚を鋭くして周囲の警戒を行っていた。
直哉は左側の通路に防衛網と盾を駆使したバリケードを設置して、左側の通路を封鎖後、右側の通路の調査に専念出来るようにした。
「さて、行ってみよう」
直哉はマップを見ながら先へ進んだ。
「直哉様、普通に進んでは危険では?」
「いや、通路にトラップの類は無いと思う。もしあったら、普通に遺跡内で活動する者達に不便でしょ」
直哉はそう考えて通路を進んでいった。
「左側に扉が見えた、先はまだ続いているぞ」
ラリーナは、扉の前に立ち内部の様子を伺っていた。
「リリはエリザと共に正面の通路を警戒して!」
「わかったの!」
「承知したのじゃ」
二人は正面の通路を警戒し始めた。
「このままではわからんな。突入するか?」
ラリーナは埒が明かないと判断して突入を打診した。
「いや、扉には注意しよう、マーリカわかる?」
「はっ! やって見ます」
マーリカは扉の周囲を確認し始めた。
「普通に開けると警報が鳴る仕組みですね。解除しておきました」
「ありがとう。よし開けてみよう」
中を確認すると、装飾品が何も無い殺風景な部屋で中央に箱が置いてあった。
「宝箱?」
「臭うな」
「だよね」
胡散臭い宝箱を見てみんな二の足を踏んだ。
「よし、みんな、入り口まで下がって、俺が入り口からマリオネットで確認する」
直哉は、みんなと共に入り口へ下がりマリオネットを展開した。
宝箱へマリオネットの糸を近づけていくと、箱に異変が起こった。
「うわっ、勝手に口が開いた」
動き出した宝箱は、糸を振り払うように動き出した。
「何だあれは?」
「気持ち悪いの」
「そっとしておこうか」
直哉達はあまりの不気味さに、そっと扉を閉めた。
「さて、扉に封もしたし先に進みますか」
その後、左側に三つの扉を見つけたが、罠がかかってない所や鍵だけの所があったが、部屋の中には何もなかった。
「拍子抜けだな」
直哉のつぶやきにフィリアが、
「このまま、何もないという事は考えられませんか?」
「まぁ、何も無ければ良いのは当然だけど、そんな事はあり得ないよ」
と言った時に、正面通路から機械人形が【不法侵入者を排除します!】という警告音を出しながらやって来た。
明らかに機械とわかる身体で、直方体の身体に顔と腕とが見えた。
頭の部分には丸で書いた目の様な光と口が見え、目の部分には色々な色を出すセンサーが付いていて、傍目から見ると目を見開いている様にも見えた。口は開閉出来るようになっている見たいで、中に何かが見えた。
細いフレームに剣と盾を構え、器用に振り回していて、
足の代わりに多数の車輪を付けてかなりの速度で接近してきた。
「来るよ!」
「喰らうのじゃ!」
直哉の警告よりも早くエリザが攻撃を開始した。
「やるな!」
それを見てからラリーナも動き出した。
「リリ、フィリアは援護を! マーリカは俺と一緒に周囲の警戒を!」
「了解!」
エリザの放った矢は機械人形の車輪に当たり、機械人形はつんのめるように前に倒れた。
そこへ、
「おりゃぁ!」
ラリーナの一撃が頭の部分へ炸裂する時、盾を持った手が器用に伸びてきてその攻撃を防いだだけでなく、反対の剣を持った手も人間ではあり得ない方向へ伸びてきてラリーナを攻撃してきた。
「むぅ。だが、この程度!」
ラリーナは変則的な剣の起動を躱しながら、剣を頭に突き刺した。
「ぐぎぎぎぎ、ふほぅ・・・・・」
機械人形は息を引き取るように壊れて動かなくなった。
「ふぅ。少し焦ったが、慣れてくれば何とかなるな」
ラリーナはそう言いながらエリザの方を向いた。
「そしてエリザよ、良い判断だった。あのお陰で楽に倒す事が出来た。次も頼むぞ」
そう言って、ニヤリと笑って直哉の元へ帰って行った。
直哉は壊れた機械人形を調べて素材を回収していると、口の中から金属で出来た、先の尖った円筒型の塊を見つけた。
「これは何だろう?」
直哉が鑑定のメガネを取り出そうとすると、
「まだまだなの!」
リリの警告の声があがった。
奥を見ると、正面通路の奥から二体の機械人形が警告音をまき散らしながらやってくるのが確認出来た。
直哉は機械人形をアイテムボックスにしまいながら、
「エリザ頼む!」
直哉からの要望に、何故か心の奥から喜びを感じて、
「任せるのじゃ!」
意気揚々に答えて、大型の弓を装備し直し矢を番えた。
「一気に決めるのじゃ!」
最大に引いた弓から放たれる矢は、寸分たがわず二体の機械人形へ向かいその中心に炸裂した様に見えた。
ドカーン!
遺跡内にもの凄い衝撃が走り、立っているのも難しいくらいになった。
「おぉう」
「揺さぶられて、凄く気持ち悪いの!」
リリとマーリカがとっさに直哉に掴まった。
直哉は壁に剣を突き刺し衝撃を堪えていた。
「前から破片が飛んで来る!」
ラリーナの警告に直哉は盾を取り出して、マリオットで前衛を護ろうとしたが、圧倒的な衝撃波の前に思うように飛ばせなかった。
「まずい、盾を飛ばせない!」
直哉の叫びに、前にいたラリーナは盾の内側へ飛び込んで来た。
「エリザ!」
直哉は前にいるエリザを護るため、衝撃波に向かって進み始めた。
エリザは壁に掴まって衝撃波を堪えていたが、前から破片が飛んで来たため、衝撃に乗る形で直哉の元へ飛び込んで来た。
ラリーナもエリザも重傷で、直哉達も軽傷をおった。
(この衝撃波は、エリザの攻撃だけでは無いな、恐らく何らかの爆発だな)
直哉がそう考えていると煙の奥から先程の二体が現れた。
「なんじゃと?」
倒したと思っていたエリザは困惑した。
(という事は自爆ではないか。何だろう?)
直哉は注意深く機械人形を調べていると、口の部分が開きっぱなしになっている事に気が付いた。
(まさか! 口から爆発魔法を使うのか? いや、それだと破片の説明がつかないな)
直哉はリリとマーリカをしがみつかせたまま、ラリーナを担ぎ上げた。
「フィリア。エリザを頼む。一時撤退する。先に逃げて! 俺が何とかする」
「かしこまりました」
フィリアは力を込めて顔を赤くしながら、エリザを持ち上げて元の道を帰っていった。
リリは衝撃波が収まり直哉から離脱して、戦闘態勢を取った。
マーリカも殺気を感じないため、リリの横に立って印を結び始めた。
「二人とも、雷系の攻撃を!」
「わかったの!」
「承知!」
「雷を司る精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵に裁きの雷を!」
リリの周囲に魔力が満ち始める。
「雷遁:稲妻走り」
「サンダーボルト!」
二人の雷系の攻撃は相乗効果で、正面から来る機械人形を捉えた。
バチッ!
(今度は完全に当たったな)
その言葉通り、機械人形の前進は止まり、警告音も止まった。
「今だ!頭部に攻撃を!」
と言う相手が居なかったため、ラリーナをその場に下ろして突撃した。
直哉が肉薄すると再起動が始まっていて、今にも動き出しそうであった。
「四連撃! 全て×の字斬り!」
一体に二回ずつ攻撃して、完全に壊すことに成功した。
「ふぅ、何とかなったかな?」
直哉は一息ついた。
その時奥から、
「不法侵入者を排除します!」
と、警告音が聞こえてきた。
「これは、危険だ!」
直哉はその場にバリケードを築き行く手を塞ぎ、ラリーナを担ぎなおして元の道を引き返していった。
直哉達はバリケードから少し離れた所にある、鍵も罠も掛かっていなかった何も無い部屋へ退避して、回復に専念した。
「内側から鍵も造って付けたし、一安心だな」
直哉は担いでいたラリーナをそっと下ろした。
「ここで、ゆっくりと休憩は難しいですね」
フィリアは、床や壁が硬い石で出来ている事や、殺風景な部屋を見てウンザリしていた。
「何も無いのであれば、造ればよいさ」
直哉は、回復用の珠を五つ取り出して、全てと疑似部位連携で接続した。
直哉と全ての珠が金と銀色、交互に輝きだした。
「これで、体力とMPの確保が出来たから、内装を始めますか」
まずは、床部分に木の板を敷き詰めてフローリングを造り、その上にベッドを四つ(空間的にこれ以上置くとベッドで部屋が埋まってしまう)設置し、入り口付近には、装備のまま入れるコタツを用意した。
さらに、奥に給湯スペースを確保して、簡単な調理も出来るようにした。
流石に風呂のスペースは確保出来なかった。
「これなら大丈夫でしょう。落ち着いて傷の治療をしましょう」
ラリーナとエリザの治療を開始した。
直哉はフィリアとマーリカに治療を任せ、先ほど拾った、壊れた機械人形を取り出した。
(さて、さっきは途中で止められたけど、今度はゆっくり見るぞ)
鑑定のメガネで確認すると、《非誘導式ミサイル》となっていた。
「えー」
直哉は驚いていた。
「さっきの衝撃波はミサイルの爆発だったのか! よく生きていたな」
フィリアは尋常ではない直哉の驚きに、
「何か、わかったのですか?」
と、聞いていた。
「さっきの衝撃波は恐らくコレが爆発したものだね」
そういって、ミサイルを取り出した。
「ここにあって大丈夫なのですか?」
「たぶんね。安全装置が効いているから、今のところは大丈夫だよ」
フィリアは怯えながら、
「直哉様を信じます」
そう言って、治療に戻った。
(さて、あいつらをどうやって倒せば良いのかな? このまま永遠に増援を呼ばれたら面倒だよな)
直哉は地下遺跡攻略の糸口さえ見つけられないまま、時間が過ぎていった。




