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第六十九話 ワームの巣に居た赤い奴

「ご主人様、よろしいでしょうか?」

「どうしたの?」

ワームの通った穴を下りながら、マーリカは疑問をぶつけてみた。

「今回の探索に私を選んだのは何故ですか?」

「ん? どうして、そんな事が気になるの? 嫌だった?」

「嫌という事は決してありません。ですが、他の方々いらっしゃるのに、私が選ばれる理由が気になります。それをのばせれば、今まで以上に、ご主人様のお役に立てると思ったので」


「そっか、マーリカは真面目なんだね。マーリカを選んだ理由は、

一つは身体が小さい事、俺でも入れない所を見てきて貰えるように。

二つ目は勇猛果敢では無い事。今回は調べるために潜るのたから、出来る限り戦闘は回避する事の出来る人。

三つ目は、はぐれても連絡出来る事。不慮の事態で、離れ離れになってしまった時に、連絡が取れる人。この三つだね」


「そうでしたか。通信の忍術を修得しておいて正解でした」

「そうだね。情報は攻撃力が上がるだけでなく、防御やその他に使えるから、とても大切なんだよね」

マーリカは不思議な感覚に囚われていた。

(里の若者達は、私の通信の力を評価出来る人はいなかった。この方はそれを平然と行える。もっとこの方と共に居たい。もっと私の力を評価して欲しい)



「おっと、ここが、ワーム達の住みかだな」

緩やかな斜面が終わり、横穴というか、だだっ広い空間に出た。

周囲を確認すると、ワームが住んでいた跡(フンの道)を見つけた。

跡を辿ると、途中で急に狭くなり、建物の一部が姿を表した。

「マーリカは周囲を警戒しててくれる?殺気を感じたら危険だから、俺にくっつきながら気配を伺うだけで良いから」

「わかりました」


建物を調べる前にラリーナに連絡を入れた。

(ラリーナ、聞こえる?)

(直哉か?どうした?)

(今、ワームが元々いた場所まで降りてきた。だが、奥に見慣れぬ建物の一部が見えるから、その建物を調べるよ)

(二人だと危険なのでは?)

(中に入る予定は無いから大丈夫だと思うけど、一応連絡しておく)

(わかった。気を付けろよ)

(おう!)



直哉が建物の周囲を確認すると、穴が空いている場所があり、そこには二筋の道が出来ていた。一つは、地上への道、もう一つは、部屋の奥へ続いていた。

建物の穴に近付くと、足元に壁の一部が散乱していた。直哉は《鑑定のメガネ》を取り出してその一部を調べると、《切り出した石:遺跡や神殿の外壁に使われやすい》

(なるほど、地下遺跡が浮上してきたということだな)

直哉が遺跡の上を見ると、空間の天井に何かが押し潰された跡があった。

(あれは、ワームがこの建物に押し潰された跡かな? と言う事は、この下も危ないのかな?)


「マーリカ! この下に何かあるか確認出来る?」

「お任せください!」

マーリカは指で印を結んで忍術を発動した

「土遁! 透土眼!」

術を発動させ、土の内部を探索していくマーリカ。

「ここの真下には20メートル程は何も無いです。それ以上は今の私では探索出来ません」

「凄いな! その術は何が埋まっているのか判別出来るのかい?」

直哉は忍術に興味が沸いてきた。

「残念ながら、異物があるという程度です」

「ふむふむ。異物って? その異物を挟んだ場合、その先は見えるの?」

「異物とは、土・砂などの土に係わる物以外の事です。でも、石とか岩も異物となります」


「と、いう事は、この下20メートル程は、石も岩も無いって事?」

「そうなりますね」

「うーん。どういう事だ? 石も岩も無いとなるとワームのフンは砂とか土になるという事かな? それ以前にフンが土扱いなのかな?」

「恐らく土扱いなのでしょう。ただ、空洞も無かったのでワームの巣は無いのですが」

(ワームの生態が明らかになりそうだな。だが、今回はここまでだ)

「マーリカの忍術は、MPを消費するの?」

「はい。大きな術を行使すれば、消費量も増えていきます」


「そっか、それならコレを渡しておこう」

直哉は、MP回復薬を造り出し、マーリカに渡した。

「これは、MP回復薬! しかもこんなに沢山! こんな高価な代物は頂けませんよ」

「えっ? そんな事無いでしょ。サクサク造れるし」

「・・・・」

マーリカは言葉を失った。

(もの凄いお方だとは思っていましたが、ここまで凄いとは。本当に今までの殿方とは明らかに器が違う)


「さて、突入口はあの食べられた所で良いとして、一度上に戻りますか」

「承知」

二人で上への道を上り始めた時、マーリカが殺気を感じて、身動きが取れなくなっていた。

「ご主人様。申し訳ありません」

直哉はマーリカを背負い、持って来ていたマントでくくり付けた。

「これで、落ちないよね?」

「はい。大丈夫です。ですが、かなり近いです」

直哉は、登っている穴の大きさを測りながら、

「この大きさの盾を造り出す!」

直哉はスキルを発動して、大きさを正確に入力して、穴に合った大きさの盾を造り後ろに設置した。

盾は、穴を塞ぐようにそびえ立ち、直哉達が充分に離れた時、何かがぶつかる音が聞こえて来た。

「何かは判らないけど、ワームでは無かったみたいだね」

直哉は、ホッとしたマーリカをそのまま背負い、地上への道を急いだ。




「何か問題が有りましたか?」

出迎えてくれたフィリアが聞いてきた。

「戻る時に、殺気を放つ者に追われただけだよ」

「倒したのですか?」

「いや、塞いできた」

と、穴を指差した。



「そうですか。マーリカさん、動けますか?」

フィリアが声をかけたとき、ぐっすりと眠るマーリカの姿が目に入った。

「あら、まるでリリちゃんみたいですね。直哉様の背中は、余程安心できるのですね」

直哉は、

「マーリカを頼む」

と、マーリカをおろしてフィリアに任せた。


コテージに入ると、リリ、ラリーナ、エリザと並んで座っていて、簡易的な料理を楽しんでいた。


「どうだった?」

ラリーナの問いかけに、

「恐らく、バルグフルで起きた現象と同じだね」

「バルグフルと同じ?」

「そう。遺跡が地下から競り上がって来てる」

直哉の考えに、

「という事は、噴火が起こるまで上昇し続けると?」

「そして、噴火と共に沈んで行くと思う」



その時、エリザから質問が飛んだ。

「噴火とは何の事なのじゃ?」

「あれ? エリザに言って無かったっけ?」

「聞いてないのじゃ」


直哉は、バルグフルから来た目的を話した。

「なんじゃと! その様な大切な事、話してくれないとは、わらわはのけ者なのか?」

すっかりいじけてしまった。

「ごめんよ。エバーズも知っていたし、聞いていると思っていたよ」

「ううう。みんな酷いのじゃ」



「さて、原因が判った所で、帰って報告するのだが、マーリカが感じた殺気の正体を確かめておこうと思うのだけど、どうかな?」

「腕がなるの!」

「やりましょう!」

「中を見てみたいのじゃ」

みんながやる気だったので、

「じゃぁ、準備して行こう!」

マーリカが起きるまで、戦闘の準備をしていた。



「も、申し訳ございません。ご主人様。探索の最中に居眠りをしてしまうとは」

マーリカは申し訳なさそうにうつむいていた。

「大丈夫なの! お兄ちゃんの背中は気持ちよいの! リリも大好きなの」

「あら? リリさん譲ってあげるの?」

「それは無理なの! お兄ちゃんの背中はリリの特等席なの! でもリリが使ってない時なら他の人が使っていても問題無いの!」

「俺の意志は無いのかい?」

「むー。お兄ちゃんなら許してくれるの!」

リリの宣言に一同は苦笑していた。


「さて、行こう!」

直哉の号令に一同はコテージを出発した。

直哉はコテージを解体して穴の入り口に目印を造り降りていった。

先頭はリリとラリーナで中盤にフィリアとマーリカ、最後方に直哉とエリザが続き坂を下っていった。


「これが、フタだな?」

「そう。マーリカ、殺気を感じられる?」

「いいえ、この場所では殺気を感じておりません」

直哉は、明かりの石を取りだして、

「俺が盾を収納したら、リリとラリーナはワームの巣に入って周囲の警戒を! 俺が周囲に灯りを設置していくから、フィリアは全体の援護を!エリザとマーリカは俺の護衛にまわってくれ」

直哉の指示に全員が対応した。

「それじゃあ、開けるよ?」

皆が頷くのを確認してから、穴を塞いでいた盾をし舞い込んだ。

穴からは、先程設置した明かりが漏れてきて、薄暗く巣の内部を照らしていた。



「何かがこっちを見てるの!」

「数が多いな」

リリとラリーナが何かを感じて、警戒を強めた。

「今のうちに、灯りを設置する」

直哉は、リリ達の警戒している場所を避けるように移動しながら、照明の照らす範囲を広げていった。

そして、それは居た。

リリと同じくらいの大きさの真っ赤な蟻が、大量に。

「うわっ」

直哉は、思わず距離を取った。


「お兄ちゃん!来るよ!」


リリの叫びと共に、蟻達が一斉に襲いかかって来た。

「まずい!数が多すぎる!みんな、上に行く穴へ退避!エリザ、マーリカを先頭に、降りてきた逆順に登っていって!急いで!」


直哉の指示にエリザ、マーリカ、フィリアが退避して、リリとラリーナが穴の入り口を死守していた。

「直哉!急げ!」

「お兄ちゃん!早く!」

二人の奮戦に入り口は何とか確保していたが、徐々に押されていった。


(このままでは、みんなが殺られてしまう)

「リリとラリーナも穴へ退避して!」

「お兄ちゃんを置いては行けないよ!」

「何をバカなことを!」

直哉の提案にリリとラリーナは拒否を示した。



「俺に考えがあるから、二人は穴へ!一度、盾で塞ぐから、反撃の準備を!」

直哉は、二人に指示を出しながら、石と強化ガラスのみで造った三角錐型の小さなセーフルームを造り出し、中へ逃げ込むと共に、穴の入り口に盾を、セーフルームの周りに防衛網を設置して、直接攻撃されるのを、何とかしのいでいた。

(うわー。灯りが見えないくらい蟻が居るな。気持ち悪いぜ)

直哉が設置した防衛網に、絡み取られる蟻を別の蟻が乗り越えて更に絡み取られる。

これを繰り返しながら、徐々に防衛網を突破し始めた。


直哉はとりあえず時間が出来たので、退避したラリーナ達を呼び出した。

(さて、マーリカ、ラリーナ聞こえる?)

(はい。聞こえます。無事ですか?)

(この状況を無事と言って良いものか悩む所だけど。それよりもリリとフィリアにやってもらいたい事がある)

(それは何だ?)

直哉は、森での戦いを思い返して、ここならもっと効率よく行けると考えた。

(フィリアの魔力アップをかけた状態で、リリの水魔法で全てを押し流して欲しい)

(直哉は流されないのか?)

(やってみなければ、わからないというのが現状だね。ただ、早く流してくれないと、どんどん危険度が上がっていくよ)

そう言っている間に、セーフルームまで取り付いた蟻たちが、外側をかじり始めた。

(まずいな、蟻の攻撃が速いな、セーフルームの中に更に強度を上げた小さなセーフルームを造りその中に籠るか。外側のセーフルームに辛い成分のジェルでも満たしておくか。それと、杭を打ち込んで少しでも流されない様にしておかなくては)

直哉は狭い中で次々と生き残るためのアイテムを造り出した。

(まだ、MP消費の反動は無いな、これなら何とかなるか?)



(ご主人様! こちらの準備が終わりました。合図を待ちます)

マーリカから、連絡が入り直哉は意を決して合図を出した。

(今だ!)

直哉の合図と共に、盾の蓋が弾けとび、穴から溢れんばかりの水が流れ込んできた。

周囲を埋め尽くさんとひしめき合っていた蟻達は、大量の水によって押し流されていた。

ある蟻は真っ二つになりながら、またある蟻は押しつぶされていた。

「うわぁ。こっち側で見るとエグイな」

直哉は、目の前の惨劇から目をそらした時、遺跡の方にも水が流れ込んで行くのが見えた。

(あっ! 遺跡に流れ込んでるけど、防ぎようがないか)

物凄い数の蟻が流されていく。直哉の造ったセーフルームにしがみついて流されない様にしている蟻も、流されてきた蟻とぶつかり流されていった。


しばらく水が続いた後、辺りは綺麗になり、水も引いていった。

(ふぅ。助かった)

直哉は、周囲に蟻も水も無くなったのを確認すると、セーフルームから這い出てきた。

「おにぃーちゃーん」

そこへ、直哉を心配していたリリ達がやって来た。

リリとラリーナ、そして直哉は身体のあちこちを噛まれ、防具が血まみれのボロボロの状態であった。


「予想以上にボロボロだな。一旦地上へ戻って作戦を練り直そう」

「ここはどうするの?」

直哉はワームの巣になっている部分を分断するように柵を造り、地上から神殿までの安全なルートを築き上げた。

「これで、何処まで防げるかわからないけど、無いよりましでしょう」

さらに、地上への穴部分を盾で封鎖して、二重の構えを構築した。

地上へ戻る途中でエリザが、

「わらわも活躍したいぞ」

と、悲しそうにつぶやいていた。

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