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第六十八話 エバーズの奥義

エバーズは直哉からサングラスを受け取ると、装着してみた。

「おぉー」

近衛騎士達から感嘆の声が漏れた。

「悔しいけれど、物凄く似合ってます」

直哉は素直に負けを認めた。

「そうか? ありがとう。しかし、これは一気に暗くなるな」

エバーズは、サングラスをかけたり外したりしてみていた。


「それは、遮光率が高いサングラスなので、通常のものよりも暗く感じます」

直哉は通常のサングラスを創り出し、エバーズに渡した。

「こちらが、ただのアクセサリーのサングラスです」

エバーズがサングラスを装備すると、物凄く渋いオジサンが出来上がった。

「エバーズ様! 物凄くお似合いです!」

その姿にアンナが物凄く喰い付いた。


「さて直哉伯爵よ、今回の騒動は火山の影響だと思うか?」

「先ほどの地震は、ほぼ噴火の予兆です・・・?」

そこまで話して、直哉は気がついた。

「あれ? 何でこの話をご存知なのですか?」

「ん? アシュリー様に聞いたぞ、ダライアスキーと一緒に」

「そうだったのですね。では、話を戻します。地震に関しては噴火の予兆と見て問題ないでしょう。今回の魔物の襲来に関しては、まだわかりません。この魔物たちは、魔族が召喚したものではないような気がします」

直哉の疑問に、エバーズが答えた。

「この魔物は、普段からルグニア周辺に生息しているものだな」


「と、言うことは、自然現象が原因という可能性が高いということですね」

「そうなるだろうな」

と、二人で悩んでいると、

「回復完了なの!」

「すまん遅くなった」

リリと、フィリアを乗せたラリーナが到着した。

「フィリア、ラリーナ、お疲れさん」

リリを撫でて、フィリアとラリーナを抱き寄せた。


(マーリカ、そっちはどのような状況かな?)

(ご主人様。現在高いところを捜索しております。始めはお城へ向かったのですが、門前払いを受けまして、エリザ様が激怒なさいました。お諌めした後探しているのが現状でございます)

(なるほど、それじゃぁ、そのまま南門に集合してくれる?)

(よろしいのですか?)

(うん。お願いね)

(承知いたしました)


「さて、どうしますか? エバーズさん。このまま、南門に張り付いていても状況は変わりませんよ?」

「そうだよな。ダライアスキーは街の消火活動の指示で動けないし、冒険者ギルドは人手不足だし、自警団は弱体化したし。頼れるのは伯爵くらいだな」

エバーズの頼みに、

「わかりました。原因を探ってきます」

直哉は応えた。



エリザとマーリカが到着後、ご機嫌斜めのエリザをなだめながら、現状を話した。

「次はわらわも活躍するのじゃ」

エリザは息巻いた。

直哉達は原因を探す為の準備を始めた。

回復したMPを使ってもう一つ《魔蓄棺》を複製した。

出来上がったのは《魔蓄棺:複284/405》だった。

「あれ? また減ったぞ? まさか、最後に出来上がった物が基準になるのか?」

(と、言う事は、この使い方はそこまで有益ではないか。無いよりはマシ程度に止めておこう)




そこへ、

「魔物が来たぞ!」

近衛騎士達の緊迫した声が聞こえてきた。

南門の南を見ると、今度は大きな蛇の様な魔物がやって来ていた。

「あれは、スノーワーム! 巨大な悪食だ!」

直哉はエバーズ達の緊張を肌で感じていた。

「そんなに強いのですか?」

「強いだけでなく、奴が通り過ぎた後は土さえ残らないと言われている。ルグニアで最も厄介な魔物だよ」


直哉は、エバーズの邪魔をしないようにその場を離れ、エリザに聞いてみた。

「エリザ、スノーワームについて教えてくれる?」

「あの魔物は、巨大な口と、丈夫な歯、強力な顎を持ち、そして全てを消化出来る胃液を持ち合わせていて、スノーワームが通過した後は、建物はおろか、山ですら食べてしまい残るのは大量のフンだけという惨劇が待っています」

「うむむ。厄介な魔物ですね」


直哉は思い出そうとしていた。

(ゲームにそんな敵いたかな? ジャイアントラットは迷宮に良くいたけど、さっきの角ウサギや今回のスノーワームか。ルグニア固有の敵ならゲームで出会わなくても不思議ではないか)

直哉はルグニア地方の事はあまりゲームで行かなかったため、記憶に無かった。


アディア(戦士)時代は、殆どの時間をバルグで過ごし、晩年は港町バラムドから新大陸へ渡り、そこで龍族の島や魔族の島へ行き、魔王を討伐した。

カソード(魔術師)時代は、バルグフルを拠点として、効率重視のレベル上げを実行して、一気に新大陸へ向かった。レベルが100を超えた辺りで、各地にある各系統の究極魔法を探して行き。全てを覚える頃には殆どの敵が弱く感じられるほどであった。この頃の直哉は、かなりの数の運営に要望メールを送り、最終的にはオリジナルの魔法を造ってもらえるほど成長した。

バザール(商人)時代は、始めはバルグフルで資本金を稼ぎ、西のソラティアにある小さな街に移住して店を開いたが、始めは従業員や生産者から毟り取れるだけ搾取したお陰で、在庫は大量、売り上げも上々であったが、アップデートで規制がかかり、その街での売買が出来なくなった。そこで、情報板に新しく乗っていた方法を試すべく、港町バラムドへ移動。沢山の商人が居る中で直哉は成功を収め、その方法を公開した。そのお陰で、バラムドは大いに発展した。



(こんな事なら、ルグニアをしっかりと攻略しておけば良かった)

直哉は後悔していたが、目の前の現実に目を向けた。

スノーワームまではまだ、だいぶ距離があり、スノーワーム自体もそこまで速くないため、作戦を練る時間はまだあった。

「スノーワームに襲撃された時は、どのように対応していたのですか?」

「前回はジャベリンと呼ばれる、投擲槍を大量に飛ばして撃退したのじゃ」

「それなら、エリザの大きな弓から飛ばせる槍を造るか」

エリザは目を大きく開けて、

「是非造って欲しいのじゃ! それでわらわがやっつけるのじゃ」


直哉はエリザのために、大きな弓から放つ事が出来る槍を二本造り出した。

「これが、槍?」

エリザは、不思議な形をした槍を弓に番えてみると、弓は待ってましたとばかりにうなりを上げた。

「うむ、矢のようにしっくりくるのじゃ。じゃが、この位置からじゃと障害物が多すぎるのじゃ」

エリザが南門を見上げると、そこには迎撃用の櫓があった。

「あそこに行くには、西門の方へ行く途中に詰め所があったから、そこからだな」

ラリーナが冷静に突っ込んだ。


「それでは、遅すぎるのじゃ。直哉殿。何か策はないのかえ」

エリザの無茶に直哉は少し考え、

「あまりお勧めはしませんが」

と前置きをしてから、腰の高さまでの柵を付けた足場に、リフトを付けて操作盤を足場に取り付けた。

「これで、簡易エレベーターが出来たので、乗ってください。簡易版なので一人から二人しか乗れません」

エリザは興奮しながら、

「これで、戦う事が出来るのじゃ!」

エリザは勇猛果敢に南門の上に上がっていった。



「あのまま上がっていくのに、怖くないんだな」

直哉は率直な言葉を呟いたが、誰の耳にも届かなかった。

エリザを見送った後、フィリアに先ほど造った《魔蓄棺》をプレゼントした。

「ありがとうございます。リリちゃんとお揃いなんですね」

「うん」

(性能は違うけどね)


フィリアがMPを《魔蓄棺》に吸い取られているなか、ラリーナが寄ってきた。

「私には何か無いのか?」

「うーん。《魔蓄棺》は意味ないだろうし、今のところは無いかな」

「そうか」

ラリーナはションボリしていた。

直哉は、ラリーナの頭を撫でながら、

「何か考えておくよ」

と、慰めた。


その時、


ドゴン!


エリザの放った槍がスノーワームに命中して、からだの半分くらいが吹き飛んだ。

(相変わらず出鱈目な強さだな)

直哉は感心しながらスノーワームの方を見ていると、同じ様だがさらに大きな生き物がさらにやってきていた。

「なんだあの大きさは?」

口の直径だけで二階建ての家がスッポリ収まるほどの大きさで、その全長は20mを超えていた。

直哉が惚けていると、


ザシュ!


エリザから放たれた槍が、ジャイアントスノーワームに突き刺さった。

だが、通常サイズの時のように、倒す事が出来なかった。

「何という大きさだ! 総員! 投擲開始!」

エバーズの命令に、近衛騎士達から数多くのジャベリンが飛んでいった。

サクサクサクサク!

命中してはいるものの、体して気にも留めずに突き進む速度は変わらなかった。


しばらく攻撃していた近衛騎士達に恐怖が芽生え始めていた。

(このままでは不味いな、あれを使うか)

直哉が指輪を使おうとした時に、後ろから警告の声が飛んできた。

「お兄ちゃん! 駄目なの! それに爆裂魔法は効かないの!」

「なんだって?」

直哉は慌ててリリの方を見た。

「間違いないの! 昔一度だけ一緒に戦ったお姉さんが言ってたの」

(と、言うことは俺では力不足だな)

直哉は困った顔でエバーズを見た。



エバーズは、

「近衛騎士達よ! お前達は良くやった、直哉伯爵達を連れて城門の中へ避難しなさい」

「しかし! エバーズ様は?」

「俺があいつを食い止める!」

エバーズの言葉にアンナは、

「まさか、奥義を使うおつもりですか?」

「このような時にだからこそ、使うべきであろう」

エバーズの意思は固く、

「わかりました。私もご一緒します」

アンナがそれに続いた。


直哉は怪訝に思い、

「何をするのですか?」

「ちょっと、威力の強すぎる奥義を使うだけさ。以前使ったときに、アシュリー様に使用禁止を言い渡されるほどの強さだ」

「それは、興味ありますね」

直哉の言葉にエバーズはニヤリと笑った。

「直哉伯爵の願いなら見せて差し上げないとな!」

エバーズはアンナと共に闘気を練り始めた。


「凄い力だ!」

直哉は二人が練り上げている闘気の大きさに圧倒されていた。

そして、それは二人の剣を通して放出された。


「奥義! 爆砕剣!」


物凄いエネルギーがジャイアントスノーワームに襲い掛かった。

「ぎょぴー」

流石のジャイアントスノーワームも、悲鳴をあげていた。

しばらくエネルギーが踊り狂い、その場の全てを破壊していった。


後に残ったのは巨大なクレーターだけであった。

「ふぅ」

エバーズとアンナは疲労のためその場に座り込んだ。

「流石に疲れたよ」

「凄い! 凄すぎる!」

直哉は興奮しながらエバーズ達の造ったクレーターを覗き込んでいた。


「しかし、スノーワームが移動してくるとしたら、地下に何かの異変が起こったという事ですかね?」

アンナはエバーズに聞いていた。

「恐らくは、そうであろうが、その辺は直哉伯爵が調べてきてくれるよ」

「それは、心強いですね」

エバーズとアンナは直哉に期待した。



直哉は二人に向かって、

「いやー、非常に良いものを見させていただきました。感謝します。それでは、俺たちは原因の調査に向かいますので、後はよろしくお願いします」

礼を述べた後、出発の挨拶をした。

「おう! 原因の調査は任せるぞ!」

エバーズ達に見送られ、直哉一行はクレーターを迂回して、スノーワームが造り出した道を辿って行った。



エバーズは直哉を見送りながらアンナに言った。

「これで、問題は解決できるよな」

「えぇ。直哉伯爵なら、何かを見つけてきてくれる事は間違いないと思います」

二人でのんびり休憩していると、

「エバーズ! アンナ! 話があります」

後ろを振り向くと、鬼の形相をしたアシュリーが立っていた。

「あ!」

エバーズとアンナは、

「直哉伯爵! 状況を説明してくれ!」

と叫んでいた。




直哉達は、ワームの道を辿り半日ほど進むと、大きな穴が二つほど空いていた。

「ここから出てきたようですね」

直哉が中を注意深く覗くと、

「マグマが流れているとかでは無さそうですが、異常に蒸し暑いですね」

むわっとする空気が溜まっていた。

「どうしますか?」

フィリアの質問に、

「俺とマーリカで少し進んでみる。後の者はコテージを出すから、周囲の警戒と食事や風呂の準備をしておいて」

直哉はフィリア達に後を任せ、マーリカと共に穴の中へ入っていった。



「暑かったら言ってね。涼しくするマントを出すから」

直哉の気遣いに、

「ご主人様は装備なさらないのですか?」

「俺は、何が起こるかわからないから温度の変化を肌で感じておくよ」

「それでしたら、私もそうします」

マーリカは直哉が我慢していると思い遠慮しようとした。

「いや、俺の安心の為にも付けてくれると助かるのだが。俺の装備品は、一応耐熱仕様でもあるから、多少は平気なんだよね」

「私の装備も、ご主人様に頂いたものですが?」

直哉は、

「あ、そうか」

説得は無理だと感じた。

「じゃぁ、二人で装備しますか」

直哉が二着取り出すと、マーリカは大人しく装備してくれた。


「よし! 気を取り直して近いところを探索しよう」

直哉は明かりの石を使って造った照明を、穴の内部に付けていった。

「この辺はただの穴だね。緩やかに下に向かっているよ。ただ、先は真っ暗で何も見えないや」

直哉とマーリカは暗い穴の中に、照明を設置したり、坂道を滑り落ちないような柵を造りながら下っていった。

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