第六十七話 南門に現れた魔物達
城からの指示を待つ間に、直哉達は、周辺の被害状況を調べるため、三つのチームに分かれた。
まずは、フィリアとラリーナは西門から壁沿いに南門まで、エリザとマーリカは街の中心部を通って南門へ、直哉とリリは北側の壁沿いに東へ向かい、お城を見ながら南門へ、それぞれ向かった。
直哉はリリに、
「こちら側の壁には亀裂が見られないね」
「向こう側を見てこようか?」
「どうやって?」
リリは、
「こうやるの! 大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
風の魔法を使い、壁を上から見下ろしていた。
「うーん、パッと見て異常は無さそうなの」
リリはそう言いながら、風の魔法から飛び降りた。
「いーやっほぅ!」
リリは叫びながら落ちてきて、風の魔法を数発撃ちながら、落下の速度を落としていった。
リリは腕を回しながら、
「今の感じで落ちてきて、魔神拳を撃てば、ダメージが上がりそうなの!」
「いや、避けられるでしょう」
「それは、お兄ちゃんが何とかするの!」
直哉は呆れながら、
「それよりも、今は被害状況を確認しておかないと」
「むー」
リリはつまらなそうに、頬を膨らませた。
(ラリーナ、こちらの壁は被害が無さそうだけど、そちらはどうですか?)
(ん? 直哉か。こっちも壁には問題無いぞ。ただ、慌てた人が転倒したりして怪我をしているのを、フィリアが治療しながら移動しているので、時間がかかりそうだ)
(わかった。引き続きよろしく!)
(はいよ!)
ラリーナとの通信を終えた直哉は、マーリカに呼びかけた。
(マーリカ、こちらとラリーナの方は被害は小さそうだけど、そちらはどうですか?)
(ご主人様! こちらは、建物自体の被害は少なく、怪我人や小規模の火災が起こっています)
(火災? 消火活動は?)
(先ほど、城からの指示で、組織だった消火活動が開始されています)
(人手は足りてるの?)
(今のところは問題無いようです、ですが、南門の方で何か騒動があったようです)
(わかった。南門に直行してみるよ、そっちは引き続きよろしく!)
(承知いたしました)
「南門で何かあったらしい、南門まで急いでいくが、しっかりと調べて行こう」
「はいなの!」
リリは直哉にくっついたり、空を飛んだりと大忙しだった。
直哉達が見た限りでは、地震の直接の被害は少なく、壁や建物の倒壊は見られなかった。
ただ、慌てた時の転倒や、火災の被害が出ていた。
直哉が南門に到着すると、エバーズとアンナが近衛騎士達を引き連れて臨戦態勢を取っていた。
「エバーズさん。騒動があったと聞きましたが、何があったのですか?」
「ん? おぉ! 直哉伯爵ではないですか! 丁度良いところに来てくた」
地震の事かなと思っていると、
「お兄ちゃん! あっちから何か来るの!」
そう言って、南門を出て、山の方角を指さした。
「また来たか!」
「総員戦闘態勢に移行! 迎撃用意!」
近衛騎士達は盾を構えて前に出た。
直哉はリリの指さした方を見ると、地面に降り積もっていた雪が舞い上がっているのが見えた。
「何ですかアレは?」
「地下にいるジャイアントラット達だな。地震の後何故か大量に湧き出てくるようになったのだ」
「リリ!」
「殺っちゃうの!」
「任せる。フィリア達と合流次第、何が起こったのか確認しに行くよ!」
「はいなの!」
リリは、腕をグルグルと回して近衛騎士達の前に立った。
「今回見えてるのは、みんな吹き飛ばすの! そしたら後ろに下がるから、その後は任せるの!」
そう言いながら、魔力を練り始めた。
道一面に大きなネズミが軽く五十体はいるところに、リリの魔法が炸裂した。
「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力と共に立ちはだかる敵を吹き飛ばせ!」
「ストームブロウ! ツヴァイなの!」
リリの手から放たれた、二つの巨大な嵐が容赦なく叩き付けられた。
突如吹き荒れた嵐により、前面を埋め尽くしていたジャイアントラット達は、無残に引き千切られキラメキながら消滅していった。
近衛騎士達は恐慌をきたしていた。
「次は任せたの!」
直哉は、リリが魔法を唱えている間に、劣化複製を使用して魔蓄棺を造り出していた。
(よし! これが複数あれば、鬼に金棒だな。出来たのは《魔蓄棺:複315/450》だな。一割劣化するのか、でもコレが大量にあればって、複製するのにかなりのMPを持って行かれるな)
「マリオネット!」
(これで、もう一つ分のMPを確保するまで、リリの勇士でも見ているかな)
と、リリの方を見ると、近衛騎士達に恐れられているリリの姿であった。
リリは正面のラットを殲滅した後で、直哉の元へ帰って来た。
「お疲れさん」
直哉は優しくリリの頭を撫でた。
「ただいまなの! やっぱり、魔法は疲れるの」
そう言って、MP回復薬を飲み出した。
(そうだ、さっき造った《魔蓄棺:複》を装備してみよう)
直哉は《魔蓄棺:複》を装備しようとして、装備不可になっている事に気がついた。
(あれ? 何で不可なんだろう? ゲームでは何個でも装備出来たのに)
直哉は、オリジナルを外して複製した《魔蓄棺:複》を見ると、装備出来るようになっていた。
(同じアイテムは一つしか装備出来ないのかな? まぁ、いいか。これはリリにあげよう)
「リリ、これをプレゼントするよ」
直哉は《魔蓄棺:複》をリリにプレゼントした。
「ありがとうなの!」
早速装備すると、MPをガッツリと持っていかれたリリ。
「うーん。力が吸い取られるの」
「ありゃ、MPを最大にしてから渡せばよかったかな? でも、その感覚に慣れておかないと、そのアイテムは使えないよ」
「むー、せっかく回復したのに、また飲まなくちゃいけないの!」
リリは文句を言いつつも、嬉しそうに《魔蓄棺:複》を眺めていた。
「次が来たぞ!戦闘配置!」
近衛騎士達が整列していた。
(リリは動けないし、俺も出来る限りの援護はするけど、フィリア達が来てくれないと、最大限能力を活かせないぞ)
次は、リリの大きさ程度の角の生えた大きなウサギが十五匹程やって来た。
(でかいし、あまり見ない魔物だな)
近衛騎士達とぶつかる前に、角ウサギの角が光ったように見えたが、何の問題もなく倒している様に見えた。
(あれなら、俺の出番は無さそうだ)
直哉は油断していたが、エバーズは違った。
「まずいな、幻影に踊らされているな」
(えっ? 幻影?)
エバーズの呟きに、直哉は、幻影を打ち払うべく、意識を集中させた。
(くっ、駄目だ、俺では幻影を打ち払えないな)
その時、エバーズがスキルを発動させた。
「聞け! ルグニアの騎士達よ! 祖国を守るための戦いで命を落とす事は名誉な事であり、尊い物である! だからこそ、この様なまやかしに敗れる事は許されん! 皆の者! ・・・・・・」
(これは、聖騎士のスキル、鼓舞? いや、もっと効果が高い、聖戦? これなら、幻影を破る事が出来る)
エバーズの言葉が続く中、直哉に掛けられた、幻影魔法の効果が完全に消え去った。
近衛騎士達の大半は身体を囓られており、まともに戦える者がいなかった。
「くっ、マリオネット!」
直哉は回復薬を大量に飛ばして、近衛騎士達の回復を行った。
角ウサギ達は、幻影を打ち破ったエバーズに標的を定め、突撃してきた。
「エバーズ様! お下がりください!」
アンナが前に出て、剣と盾を構えた。
(不味いな。俺だけで何とかなるかな? いや、マーリカ! ラリーナ!)
(ご主人様! 南門で戦闘していらっしゃるのですか?)
(直哉! 今向かっている! 持たせられるか?)
(マーリカは、エリザと共に南門の見える高いところに登って援護をしてくれ!)
(ラリーナは、出来るだけ早く来てくれ、近衛騎士達が持たない)
(了解!)
二人に指示を出した後、
「リリは、回復に専念だね」
「ごめんなさいなの。この装備を外したけど、力の回復が間に合わないの」
「仕方ないさ」
直哉はリリの頭を撫でた後、マリオネットを操作しながら、剣と盾を装備して、アンナの援護に行った。
アンナはエバーズを護衛していたはずだったが、ほとんどの角ウサギはエバーズの方へ行ってしまった。
アンナを足止めしていたのは、一際大きな角ウサギ二匹と三匹の角ウサギだった。
「あぁ。この程度なら何とかなったけど、プラス幻影を使われると、わかってはいても、身体が、反応してしまう」
アンナは幻影にかかっては解除かかっては解除を繰り返し、幻影酔いにあっていた。
三匹が三方向から、襲いかかった。
一匹目は正面だったため、幻影酔いでも切り払えたが、二匹目は右後方から腕に噛みつかれ、三匹目の左後方からは、脚に噛みつかれた。
「きゃー」
エバーズはスキル《鼓舞》を使いながら、戦況を確認していた。
近衛騎士達は、全ての者が噛みつかれ、戦闘の続行は不可能であった。
エバーズを援護しに来たアンナも、悲鳴を上げていた。
(鼓舞を使いながらの戦闘だと、指示を出せないのが欠点だな。しかし、このままでは不味い、もっと戦力が欲しい。せめてダライアスキーの魔術師部隊が来てくれたら、少しは楽になるのだが)
そう考えながら戦っていたが、だいぶ息が上がってきていて、
(このままでは、鼓舞を続けることが困難だ。だが、戦っているのは直哉伯爵だけなら、何とかしてくれる事を期待しよう)
直哉は走りながらエバーズの方を見ると、群がる角ウサギの攻撃をかわしながら、スキルを発動させ続けた。
(あれなら、アンナさんよりも持ってくれるよな)
そう思い、アンナに噛みついている角ウサギ達に、斬りかかった。
「四連撃! 全て急所攻撃!」
二回ずつの斬激が角ウサギの角に集中した。
バキン
かなり固い角だったが、叩き折る事に成功した。
「キュー」
角を折られた角ウサギは、キラメキながら消えていった。
「まず二つ!」
直哉は、回復の終えた騎士達をその場に放置して、アンナの治療と火炎瓶と防衛網を取り出して、大きな二体と対峙した。
(さて、どうやって戦おうか、アンナさんの戦闘の様子を見るに、幻影は防ぐのではなく、解除するみたいだな。だとすると、気持ち悪くなるよな。とりあえず、いつも通り絡め取りますか)
直哉は魔物と対峙していたが、アンナを見ながら考えていた時に辺りが光ったように感じた。
(不味い! 幻影か?)
直哉は幻影に惑わされないようにしながら、解除されるのを待った。
(ん? 何も変わらないぞ? どういう事だ?)
直哉は不思議に思いながらも攻撃を開始した。
「せぃ! 四連撃! 全てを×の字斬り!」
近い方の角ウサギに全て当てるつもりで放ったが、攻撃の最中に後ろにいた角ウサギの光を見てしまい、回避されてしまった。
(今度は幻影にかかってたぞ。先程との違いは何だ? 角から出た光を直視したかどうかかな?)
直哉が考えていると、大角ウサギは連携して直哉に迫ってきた。
「やばい!」
直哉はとっさに、自分の身体ほどの大きな盾を取り出して、身を隠すように防御した。
(これなら、光を直視する事は無いのだが、問題は敵の姿が完全に見えなくなる事なんだよな)
周囲が光り、大角ウサギの攻撃をやり過ごした後で、大角ウサギの位置を確認した。
(一体は真正面から突撃をかけてきていて、もう一体は姿が見えないぞ?何処に行ったんだ?)
直哉が周囲を確認している間に、正面の大角ウサギね角が光り始めた。
(不味い!光りの攻撃が来る!)
持っていた盾を構え直し防御体制を取った時に気がついた。
(上から何か来る!)
直哉が上を見た瞬間、ジャンプしていた大角ウサギが角からの光を放った。
「しまった!」
直哉は、とっさに後ろへ大きくジャンプした。
ドーン!
さっきまで直哉がいたところに、大角ウサギが顔から突っ込んだ。
「うきゅー」
情けない声を上げながら、のた打ち回っていた。
「うぐっ」
直哉もまた、後ろに飛んだ勢いで、受身も取れずに倒れこんでいた。
直哉は倒れこみながら、アクセサリ作成を発動させて、遮光率の高いサングラスを造り出した。
もう一匹の大角ウサギは、直哉が立ち上がらないのを良いことに、止めを指すべく、さらに角の光を発動させていた。
その時、エバーズが限界に達した。
エバーズのスキルが無くなるのと、大角ウサギの光が放たれるのと、直哉がサングラスをかけるのは同時であった。
大角ウサギは勝利を確信して、直哉に踊りかかった。
「やはり、これなら問題無さそうだな」
直哉は、冷静にマリオネットで防衛網を操作して大角ウサギの進行方向を遮った。
大角ウサギは慌てて進路変更しようとしたが、その方向からは火炎瓶が近づいてきていて、動きが止まってしまった。
「きゅー」
一際大きな声で鳴いたウサギは、直哉の安全網に絡め取られた。
「よし!」
直哉は起き上がると、後ろでのた打ち回っている大角ウサギに止めを刺して、防衛網に絡め取ったウサギも止めを刺した。
「ふぅ、危なかった」
直哉は一息ついて、エバーズの方を見た。
エバーズを取り囲んでいたウサギ達は、エバーズが鼓舞している間は優位に戦闘を進められていたため、鼓舞のスキルが終わった後も、勇猛果敢に攻め立てていた。
「おらおらおらおら!」
エバーズはスキルを止めたおかげで、戦闘に専念することが出来、群がっていた十匹のウサギは一刀一殺の勢いで倒していった。
「次! 次! 次!」
まるで、倒されるのを順番待ちしているかのように見えるほど、一定のリズムで倒していた。
「きゅ?」
ウサギはやばいと思ったようだったが、そう思ったときには、エバーズの刃がその身体を貫いていた。
「終わったな」
エバーズの言葉で直哉は周囲を見渡すと、近衛騎士達はだいぶ目を覚ましていて、エバーズの方へ集まっていた。エリザはまだ動けないようで、直哉のマリオネットから回復薬を受け取って飲んでいた。
直哉もエバーズの元へ行き、
「幻影解除のスキルをありがとうございます。あれは、聖戦ですか? 鼓舞ですか?」
「ほぅ、聖戦の事まで知っているのか、だが、今回のは鼓舞だな」
直哉の質問に驚きながらも答えてくれた。
直哉はサングラスを外して、
「これからの戦いでは、こういったバッドステータスに対する装備品も、造っていかないと駄目ですね」
「そうそう、これだ! なかなか面白い格好だったぞ!」
エバーズが笑い出し、その場に居た近衛騎士達も笑っていた。




