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第六十六話 噴火の予兆

直哉達が屋敷に戻ると、使用人達は大忙しで自分の部署に戻って行った。


直哉とラリーナは風呂の掃除を手伝いに向かい、フィリアは一階を、リリは地下を、エリザとマーリカは各部屋を手伝った。

「こっちは終わったの!」

「風呂も問題ない」

「各部屋の準備は出来たぞよ」

「食堂のチェックが終わりました」

「お疲れ様でした、それでは食堂でお茶でも飲みましょう」

全ての作業が終わってから、直哉達は一階の食堂へ降りてきた。

ドラキニガルは休憩用のお茶を入れ、サラサとイザベラがそれを手伝い、リリ達は一階でルグニアに来てからの話や、バルグフルでの話をネタに盛り上がっていた。

「フィリア、俺とジンゴロウさんはこの屋敷の鍛冶場に行ってくる」

「お供いたします」

「いや、使用人達と交流を深めておいてくれ」

「承知しました」


直哉とジンゴロウは、屋敷の近くに建てた鍛冶場に足を踏み入れ、設備のチェックを始めた。

(あれ? 今までは、鍛冶の道具を見てもピンと来なかったけど、今は良く解るぞ? この道具はあの金属用だし、こっちのは、冶金・精錬用だな。でも、何でいきなり解るようになったのだろう)

直哉はステータスを開くと、スキルが増えていた。


鍛冶の心得:基本的な鍛冶に関する理解が深まる。(出来上がった物のグレードが上昇する)

親方:弟子に鍛冶を教えることが出来る。(実践する事が出来るようになる、ただし時間は短縮されない)

劣化複製:造った事がある物を造り出す事が出来る。


(親方のスキルが発動したのか、きっと、弟子の面倒を見ると誓ったかたらかな? システム的に、弟子の欄が増えてるな。あの六人が登録してあって、鍛冶状況がチェックできるのか。それ以上に造るものの指示とか出来るぞ、後で試して見よう)


直哉は新しいスキルを見ながら考えていたため、ジンゴロウに不思議がられた。

「伯爵様如何なさいました?」

ジンゴロウの声に、

「あぁ、大丈夫です。軽く使ってみましょう」


直哉達は、炉に火を入れる準備をした。

(身体が動いてくれる、これなら、楽に準備出来るな)

直哉のキビキビとした動きに、

「流石、上級鍛冶職人は違いますな。無駄な動きが無いです」

ジンゴロウは、 そう呟きながら手伝った。


火を入れる準備が終わり、一息ついたのは一時間後であった。

「やっと、この瞬間がきましたね」

「おいどんも、この瞬間が一番ワクワクします」

「それでは、火を入れます」

直哉が着火材で火を入れようとしたので、

「伯爵様! お待ちください、出来れば、伯爵様の炉から、火を分けて欲しいのですが、ダメでしょうか?」

ジンゴロウのお願いに、

「やってみますね」


直哉は自分のアイテムボックスから、炉を選択して詳細を表示すると、[火分け]の項目があったので、実行してみると小さなランタンが出来た。

「こちらが、伯爵様の火ですね?」

ジンゴロウはランタンを受け取ると、新しい炉に火を入れた


始めは小さかった火も、次第に大きくなり、炉に新しい命が生まれた。

「これで、こいつはジンゴロウさんが使わなくなるまで、その火を絶やすことは無いのですね」

「はい。伯爵様から頂いた新しい命を大事にいたします」


「よろしくお願いします」

ジンゴロウは炉に張り付いていたので、

「俺は戻りますが、ジンゴロウさんはどうしますか?」

「おいどんは、もう少し使いやすく整理しておきます」

「わかりました。こちらに力を入れすぎないように、お願いしますね」

直哉は忠告した後で、屋敷へ戻った。




屋敷へ戻ると、リリが泣きながら飛び付いてきた。

「うわーん」

「どうしたの?」

泣きながら、顔をお腹にスリスリしていた。

「サラサさんに聞きました。夫婦は一緒に寝るものだと」

直哉は驚いた。

「こっちの世界もそうだったんだ」

「と言う事は、元の世界でも一緒だったのか?」

ラリーナの質問に、

「そうだね。部屋が別という事はあまりなかったね」

「でしたら!」

「うん。こっちの世界での習慣がわからなかったと言うのは、俺の逃げだよな。ごめん」


「それなら、今日から一緒に寝るの!」


「じゃあ、今日は皆で寝る事にしますか!」

直哉は、部屋のベッドを大きく造り直した。

「今日はじゃないの! 今日からなの!」

「出来れば、私たちの過ごす部屋も直哉様の部屋に移りたいと思います」

直哉は驚きながら、

「リリとラリーナもそれで良いの?」

「もちろんだ」

「リリは、一緒が良いの!」

「そうだったんだ。俺も一緒が良かったけど、この関係が壊れてしまうのが怖くて言い出せなかったよ」

直哉が辛そうに言った。

「どのような事を言われても、直哉様の言葉であれば問題ありません」

「それに、嫌だったら、嫌と言うさ! だが、この関係が壊れるほど、やわな物ではないと思っていたのは、こちらだけだったのか?」

「みんなありがとう」



直哉は三人に感謝しつつ、自室へ向かった。

直哉はリリを身体に乗せ、両脇でフィリアとラリーナを抱きしめていた。

主導権争いは、初めのうちは直哉に軍配が上がっていたが、三人からの猛攻を受けて、一気に劣勢に陥った。




◆次の日


リリ達三人は、やけにつやつやした表情で降りてきて、その代わりに直哉は若干やつれた表情で食卓に着いた。

使用人達はニヤニヤしながら直哉達を見ていたが、食事が始まると、普段通りに戻った。

その様子をエリザは複雑な顔をして見ていた。

(わらわは一体・・・どうしてこれほど心の奥がモヤモヤするのじゃ?)


直哉は食事の後、軽く鍛練した後で弟子達の所へ向かった。

リリ達は、鍛練していたり、屋敷の雑用を手伝ったりしていた。



◆鍛冶場


「親方! お待ちしておりました!」

メントール達は直哉を出迎えた。

「ありがとう。では、それぞれの鍛冶場で面接を開始します」


メントールの鍛冶場へ着いた直哉は、

「さっそくですが、メントールさんはどのような鍛冶屋になりたいのですか?」

「おらは、親方のように強い武器を造りたい。それに必要なスキルを修得したいです」

メントールの力強い言葉に直哉は肯いて、

「わかりました。最後に実力を見てみたいと思います。この素材で石の剣を造ってみてください」


メントールは、危なげない手付きで石の剣を造り上げた。

「ふむ、これなら大丈夫ですね。近日中に見習いが解除されると思います。最後に、武器だけでなく色々な物が最低限造れるようになっておくと、便利ですよ」

「はい! ありがとうございます!」

メントールは頭を下げた。


「そうだ、話は変わるのだけど、これで俺からの依頼は受け取れるの?」

直哉は、弟子タブを操作して、メントールに鉄の剣の作成依頼を出した。

すると、メントールの鍛冶場に依頼書が届いた。

「こうやって、依頼が出せるのか」

直哉は、依頼の仕組みを覚えた。

「親方のお仕事は優先しますよ!」

メントールの言葉に、

「そうですね、始めのうちは個人で受注する時は、一報入れてくれる? 俺の方からの依頼をストップさせるから」

そう言って、メントールとの面接は終了した。


「そういえば、親方への料金の支払いは、どうするのですか?」

「支払いって?」

「仲介料の事です」

メントールは、仲介するたびにお金が入るように、直哉が仲介する物だと思っていた。

「いや、取らないよ。鍛冶場に来た依頼は基本的にそのままメントールさん達に渡す予定だよ」

「それでは、親方が損するのでは?」

「いや、鍛冶場全体のレベルが上がってくれれば、それに比例して俺の評価が上がるはずですから。気にしなくても大丈夫ですよ? どうしても、気に入らないのであれば、メントールさんが弟子を取った時に、同じように接してあげてください」

「親方! ありがとうございます。頑張ります」

メントールはしっかりと頭を下げた。


バーヴロヴナ、ミハイロヴィチ、ベドジフ、ダヴィット、オルドジフの五人も同じように面接をして、バーヴロヴナは手先が器用なのでアクセサリー職人に、ミハイロヴィチは回復薬などのアイテム職人に、ベドジフとダヴィットは大工に、オルドジフは鎧職人を目指すとの事で、力量を確かめた所、全員問題が無かったため、直哉はそのことをアシュリーに伝えるために、お城へ向かった。




◆ルグニア城


門番は顔パスで通してくれて、我が物顔で城を歩いていた直哉に、

「貴方は、直哉伯爵ではありませんか?」

と、声を掛けてくる人が居た。

直哉が声のした方向を見ると、ジルギスが立っていた。

「えっと、宿屋のご主人でしたよね? たしかジルギスさん?」

「おぉ! 名前を覚えていてくれてありがたい。今後も是非我が宿をご贔屓に!」

ジルギスは恭しく礼をして謁見の間方向へ去っていった。

(ありゃ、同じ方向だ・・・、まぁ、良いか)

直哉はジルギスの後を付けるように、謁見の間へ向かっていた。



謁見の間に到着すると、ジルギスは既に呼ばれていたらしく入り口にはいなかった。

しばらく待っていると、

「これはこれは直哉伯爵、また、お会いしましたね」

「こんにちはです。行き先が同じだったようです」

「その様ですね。それでは、私は用事がありますので、お先に失礼しますね」

ジルギスは礼をしてその場を去った。

直哉が謁見の間に通されると、近衛騎士達や文官達から注目された。


(うぅ。居心地が悪い)

直哉が心の中で気持ち悪がっていると、

「どの様な要件ですか?」

アシュリーの威厳に満ちた声が謁見の間に響き渡った。

「俺の弟子達の件です。六名共に見習いを卒業しても大丈夫だと判断いたしました」

直哉の返事に、

「ダライアスキー! 例の物を直哉伯爵へ貸出しなさい」

ダライアスキーは後ろに控えていた文官達に、ランクアップ作業をする機械を持って来るように、指示を出した。

「直哉伯爵はこちらにおいでください」

ダライアスキーに呼ばれた直哉は、アシュリーに一礼してから、ダライアスキーの方へ向かった。


「こちらの窪みに、直哉伯爵のプレートを置いてください」

直哉は、言われた通りにプレートを置くと、機械のスキャンが開始された。

「おぉ! 本当に動いた!」

文官達から聞いてはいけない呟きがあったが、聞こえないフリをした。


ダライアスキーは結果を見ていた。

「俺も見て良いですか?」

直哉は、新しいものを見ようとする好奇心を抑えきれずに聞いていた。

「もちろんですよ」

直哉が見てみると、弟子の六名の名前があり、全員ランクアップ完了と表示していた。

「これで、終わりですか?」

直哉の質問に、

「恐らく終了です。鍛冶場の弟子達の様子を見に行きましょう」


そう言って、結果の確認をするために、直哉に同行してくれるようだった。

ダライアスキーがアシュリーに、

「アシュリー様! 直哉伯爵と共に、動作確認をして参ります」

アシュリーはダライアスキーに向かって、

「よろしく頼む」

と、許可を出した。

直哉は、ダライアスキーとお供の文官と一緒に鍛冶場に向かった。




◆鍛冶場


直哉達が鍛冶場に到着すると、メントール達が出迎えてくれた。

「親方! お帰りなさい。おらたち見習いから、ランクアップ出来ました! ありがとうございます!」

「おぉ! 無事にランクアップ出来たのですね」

弟子達が喜んでいるのを見て、ダライアスキーは、

「大丈夫そうですね、これで、他の鍛冶職人たちをランクアップすることが出来ますね」

そう言って立ち去ろうとしたとき、ルグニアを地震が襲い掛かった。



(ん? かすかな揺れを感じるな)

と、思った瞬間足元から突き上げるような揺れが来た。

「なんだ!」

「何処かからの攻撃か?」

「ぎゃー」

時間にして五秒ほどであったが、街は大混乱に陥っていた。

(これは不味いな)

「ダライアスキーさん! 貴方たちは城へ戻りアシュリー様と合流して、指示を受け取ってください。こんな時は組織で動かないと、収拾がつかなくなります」


「直哉伯爵はどうするおつもりですか?」

「俺は、俺の周りを落ち着かせてから、周囲の被害状況の把握に努めます」

ダライアスキーは直哉の言葉を聞いて、文官達に被害状況を調べるように指示を出しながら、城への道を急いだ。


「親方! 今のは何ですか?」

メントール達が心配そうに集まってきた。

「何だか解らないが、現状の把握を最優先に! 破損箇所や、火の確認を!」

「了解です!」

メントール達や、ドワーフ軍団達が販売スペースや住居スペース、鍛冶場の状況を確認して行った。


さらに、西門前の冒険者ギルドを確認しに行くと、

「とりあえず、火を消すんだ! 宿に泊まっているお客を避難させる事を最優先で!」

消火活動と共に客の避難をしていた。

直哉はさりげなく消火活動を手伝った後で、自分の屋敷へ戻って行った。




◆直哉の屋敷


屋敷では、フィリアを中心に各部屋のチェックを行っていた。

(内部はフィリア達に任せて、俺は建物自体に問題が無いか調べておこう)

直哉は土地タブから建物をチェックしようとして、クエストタブが点滅していることに気がついた。

(何だこれ?)

クリックして見ると、《噴火まで残り90日です》と表示されていた。

(もしかして、今回の地震は、噴火の予兆だったのかな?)


直哉はフィリアたちと合流し、屋敷にダメージが無いことを確認して城からの指示を待っていた。

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